帰り道
とある日の夕方。退社後の帰り道。
民家は少なく、外灯の灯りもまばら。
けれども、日は延びてきたなあとしみじみ。
少し前まで、この時間帯は薄闇世界だったのに。
橙の色合いがきれいだな、と。
空を見上げることも増えた。
雲のかたち。影になった紫の色合いも好きだ。
きらと光ったのは一番星だろうか。
と、それが動いた気がしてきゅっとなった。
凝視。じいと。
動いている気がするだけ。いや、動いている。
え。短な吐息がもれて、ちょっと気持ちが跳ねた。
まさか、UFO……?
しばし見つめ、はっと息を吐き出す。
「んなわけないか」
自分に呆れ。
あれは飛行機だ。飛行機雲ものびてるし。
ぱちと瞬き、意味もなくそれを見上げる。
あの飛行機はどこに向かっているのかなあ。
と、見つめていたら。
その傍にきらと光るひとつの点。
あ、今度こそ一番星だ。
だが、少し離れたところにもうひとつの光る点。
他にも探せば、ぽつと増えていくそれ。
気づかなかっただけで、空にはもう幾つも星は瞬いていて。
なあんだ、なんて思う。
それに、先程まで橙の色合いだった空に。
ぽとり、藍色も仄かに落とされていた。
ああ。電線くらいの高さにあった太陽も、今は屋根に乗りかかっている。
これが暮れか。当たり前のことを思う。
でも、なんでかな。それを意識した途端に、急激に寂しく感じる。
足音ひとつ。息つがいもひとつ。
ひとつ分の音。
遠くで車が行き交う音が、何だか寂しさを加速させる。
ぽつりと自分だけ世界から切り離された感覚。
それに何か寒い。ちょっと冷えてきたかな。
空を見上げて。暮れて行く空を見上げて。
ちょっと気持ちがセンチメンタル。
どうして自分はここに居るのかな。
どうして自分はここに在るのかな。
ちょっと哲学。
答えはでないけれども。
解ることはひとつ。
「……ああ、お腹空いた」
気持ちはセンチメンタル。
お腹はきゅう。
早く帰ろう。と。足を早めた。