ココア
冬。休日の朝。
家族の寝息が響く二階から静かに降りる。
しぃん。静寂が詰まったリビング。
靴下を履いても足裏から伝わる冷たさに冬だなと感じながら。
その部屋に音を足していく。
テレビ。部屋に色が灯った気がした。
ファンヒーター。ゔゔん、と低く唸り、だんまりを始める。
その間にキッチンへ。食器棚からお気に入りのマグカップを手にする。
好きな作品の好きなキャラクターのマグカップ。
ちょっと気持ちがふわりと浮き立つ。
ふふんと少し弾む気持ちで水を注いで電子レンジへ。
時間を設定したら、ゔーんと電子レンジが唸りながら動き出す。
その頃になると、ぶぅん、とファンヒーターが一鳴き。
そして部屋に温度も足していく。
ファンヒーターの吐き出す熱と。
足元に熱も欲しいなとホットカーペット。
しばしテレビを眺めてから、ちんっと電子レンジが呼ぶ。
うむ、と。
マグカップに触れて程よい温度だと確認。
棚に手を伸ばして手にしたのはココアスティック。
マグカップにだばとぶち込みながら毎回思うのは。
「何かてきとーだよなー」
そんな自分に苦笑。
まあ、いいか。と。
いつもの文句に、スプーンへ手を伸ばす。
これまた適当に掻き混ぜて、お湯に粉末状のココアを溶かす。
きぃんきんきぃぃん。ぃぃぃん。
何だか文字に起こしにくい、陶器と金属が擦れる高い音。
けれども、自分はこの音がわりと好きだったりする。
ココアをお湯に溶かせば。
あとはキッチンに積まれたパンを適当に手にしてテーブルに。
その頃には。
ホットカーペットも、ファンヒーターも程よい熱をくれる頃合いで。
テーブルに腰を落ち着けたら、休日の朝にいつも観る番組に変えるだけ。
再度マグカップを掻き混ぜて一口。
舌に広がる甘さと、その余韻の苦さ。
それから目立つのは。
「うえ、だまだ……」
ざらりとした舌触り。
どうやら溶かし切れていなかったようで。
でもまあ。そう。まあ、いいか。
別にココアのだまも嫌いではない。
一瞬だけ濃く感じるココア。
嫌いではない。いや、むしろ好きな方だ。
うん、いいなあ。
それからパンをかじって、番組を楽しむ。
それからしばらく。
ようやく家族が起き始める。
とある休日の朝。
いつもよりのんびりと始まる、いつもの休日の始まり。