23 昼休み
ある日の昼休み、私は自分の教室で一人お昼寝をしていた。
既に持ってきたお弁当はいつもの屋上で食べきってあり、次の授業が始まるまでかなりの時間がある。
七はどうしたのかって?
今日は何か先生の頼まれごとをしているらしく昼休みは留守なのだ。
なので今日はすることがないし、ぽかぽかと温かい……いや、暑い日差しが入ってきているのでカーテンを閉めてお昼寝もとい、ふて寝をする。
ここ最近はドラゴンなクエストをしてばかりで寝不足だ。
やっぱりゲームは一度始めると元の生活には簡単に戻ることができない。
授業中も舟をこいでる。
とんとん、と私の頭が叩かれた。
「誰でござるか~?」
私は軽い調子で聞き返す。
「誰でしょうねぇ。ほらほら、せっかくの昼休みなんだから顔上げてよ。聞きたいことがあるの!」
「うにゃむにゃ」
私は声をかけてきた主の方を見る。
そこには、女の子が立っている。
「ほいほい、はやくおきてー」
「おきたー」
二人の女子高生だ。
私が2年生になってから仲良くしてる感じの二人。
1年生のころから付き合いはあったんだけど2人とも別のクラスで話す機会が少なかった。
だけど学年が上がってからは3人とも同じクラスになったので一緒に遊びに行ったりしている。
「被告人、今回の件について何か弁明することはあるかね?」
裁判官ロールをしているのは長尾美海ちゃん。
キラキラしてる理想の女子高生って感じのイメージ。
ポニーテールがゆらゆらしててかわいい。
陸上部でかなり早いとのこと。かっこいいも両立してるってずるいぞ!
「弁護人から、よろしいでしょうか裁判官」
こっちの弁護人ロールしてるのは猫野佳奈ちゃん。
名は体を表すという言葉がぴったり当てはまっていて猫みたい。
そして人懐っこくて人気があるらしい。この属性のセットって最強じゃないですか?
「よろしいですよ」
「では、こほん。弁護人としては被告人を弁護する必要はないと考えます」
「分かりました。では被告人言い残すことは?」
なんかよくわからないけど弁護人が裏切った……だと?
このままじゃ有罪になっちゃう。
「七によろしく伝えておいてください……ヨヨヨ」
こんな状況になったら泣き寝入りするしかないよね。
ん?もしや私が弁護士バッチを持っていたらどうなるんだ?
自分が犯罪したときに自分で弁護できるのかな?
「被告人がやったことはとても許されることがない行為であり、私たちの心に動揺を与えてしまったので死刑です」
美海ちゃん!?一発死刑って重くない?
殺人罪でも死刑または無期もしくは5年以上の有期懲役で執行されることが多いのは十五年以下の懲役なんだぞ。殺人した人がこんなに早く出てこれるなんて怖いね。
それよりも私は何をしたんだ?外観誘致罪かな?
「くすぐりの刑を執行します。弁護人と一緒に行います」
「おー!」
二人とも私の体を抑えて手をわなわなさせている。
これ逃れられない奴だ……
「うわっ!ちょっ、ふふっあははっははっははっちょっやめっあはは」
「どうだ?悔い改めたか?」
くすぐり攻撃はすぐに止んだので私はお話を聞くことにした。
「ふぅ、裁判官と弁護人。私の罪状を教えてください」
「ふふーん。それは分かっているでしょう」
佳奈ちゃんが人差し指を顔の横で立ててメトロノームみたいにチッチッと動かしている。
「佳奈の言う通りだぞ。証拠は挙がってんだ早くはけ」
おっ……今度は取調室かな?
「刑事さん証拠を見せてもらってもいいでしょうか?」
「これだよー」
佳奈がスマホの画面を見せてくれる。
するとそこにはつい先日の写真が載っていた。
イケメンモードの時の千秋さんとの写真だ。
「これは間違いないな」
「間違いないね」
二人はぴったり息をを合わせる。
「「彼氏だな」」
「ちが————————————う!!!」
「またまたー。照れちゃって」
「イケメンの彼氏に可愛い彼女ベストマッチ過ぎて何も言えないんだよね。それにしてもいっつも男子のこと振ってたけどこれが理由か」
「ちょっまってホントに彼氏じゃないの。お兄ちゃんの知り合いだから」
慌てて弁明をしようと試みる。
私が私の弁護人だ!
「紅紫さんとのつながりで……なるほどなるほど。どう思いますか?佳奈」
「あり得そうだねー。知り合い多そうだし」
弁護になってない!?むしろ傷跡広げてる気するんだけど。
逆転する裁判だったら後ろに吹っ飛ばされてるだろうなー
「出会いは何時?」
「それは、紅紫兄と黄と三人でパンケーキを食べに行ったあの日のこと」
「ほーそれで初めて家に連れ込んだのは何時?」
「うーん、それはねコスプレ的な衣装を作るときに手伝ってもらう時かな」
「マジで家に連れ込んじゃってるの!?」
「関係はどこまで!?どこまで!?」
やばいやばい勘違いを加速させちゃった。
早く収束させなきゃ。
「服を一緒に作っただけだよ」
「ふぅー。まだそこまでは進んでないみたいだね」
「よかったよかった。ほんと驚いたよ」
勘違いを解き切っていないから早く弁明したいところだけど、千秋さんの話ってどこまでしていいのかな?
その話は聞いていなかった。
せっかくだし今聞こうかな。
「ちょっとまって。連絡してみるから」
そういうと二人は無言のうちにそろって親指を上にしてグッドマークを突き出してきた。
ホントに息が合ってる。
テキストメッセージを送ると爆速で「私のことは話してもおっけー」と返ってきた。
「よし!許可貰ったし言うぞー」
私がそう宣言すると、美海ちゃんがぱちぱちと手を叩いて声をかける。
「まってましたー」
「実は……」
「「実は?」」
「千秋さんは女性です!」
「「えええっ!?」」
二人は同時に驚く。
この顔は私が聞いた時と同じくらい驚いてる。
「ホントに女の人?信じられないんだけど」
美海ちゃんはさっき私に見せてくれたあの日の写真を見てる。
まぁ信じられないよね。紅紫兄が紅ちゃんしてるって聞かされるくらいびっくりする。
「男装してないときの写真とかってなかったりしないのー?」
佳奈が千秋さんの写真の提出を求めてきた。
千秋さんと遊ぶ機会ってそんなに多くないからなぁ。
「うーん、あったかな?」
写真のアルバムをスクロールしていくと、数枚の千秋さんと一緒に撮った写真が出てくる。
「ん。これ」
「うわー、美人だ」
「ん?この千秋さんって人、紅紫さんと知り合いって言ってたよね」
「そうだね。よくいろんなイベントとかに一緒に行ってるらしいよ」
すると美海ちゃんが新たな説を提唱してきた。
「それってもしかして、千秋さんと紅紫さんがカップリング成立ってこと?」
「そうそう」
「あ———そうかも。あり得るのでは?いや、あり得るな」
ここにまた新たなトリビアが生まれた。




