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19 体育祭④


全体的にはおいしかったけど危なそうなものもいくつかみられる料理を食べ終わったので、三人と別れて応援席に戻ってきた。

もうすぐお昼休みが終了なので戻ってきた人もちらほら見受けられる。


空いているスペースに座り、持ってきた水稲の中に入っている麦茶を飲んだ。

私は喉が渇いた時には麦茶が一番だと思っている。

ものすごく疲れている時とか、暑いときに一気に飲み干すと人生でトップレベルの幸せが味わえるよね。

ちなみに私はコーヒーとかは飲めるけど、紅茶は飲めないタイプの人である。

あぁ、でもフルーツティーとかなら飲めるよ。

だから高校入ったころくらいに、流行ったタピオカミルクティーとやらは飲めなかったのだ。


突然トンッと背中が小突かれた。

不意のことだったので私の肩が少し上がる。


「さっきは目立ってたね~」


後ろを見ると昼を終えてきたらしい七が立っていた。


「んー、いつもよりは見られてた気はするかも」


「そうだよ。とりあえず藍ちゃんでしょ~それに黄君と紅紫さん。そしてなんといってもめったにお目にかかることができないお母さまがいるんだから、そうならないほうがおかしいと思うけどね~」


「とりあえずって、ビールみたいに私をカウントするんじゃありません。まぁ、それはともかく生徒本人はともかく、保護者の人って学校で過ごしてても会えないからね」


「高校って授業参観とかないし、殆どの人が藍ちゃんのお母さん見たことなかったんだよ~。私は藍ちゃんの家に入り浸っているから結構な頻度で会ってるけどね」


七は誇らしげに胸を張ってこちらにアピールをしてきている。

かわいい。


「今の七めっちゃ、どやぁって感じだったよ」


「それはそうですとも。どや~」


七は腰に手を当てて、かわいい模範的なドヤを披露しているところで、雷管の音が鳴った。

午後の競技の始まりの合図だ。


「おっ、ついに始まったみたいだね~」


「午後の部って言っても特に何かあるわけじゃないでしょ」


私たちの学校の体育祭はほとんど午前で終了みたいな感じだ。

会場のかたずけとかをその日のうちに済ませてしまうからだ。


「私たちが出る競技とかはないけど、一大イベントのリレーとかあるでしょ~。紅紫さんとか出るんじゃないの?」


そう。私と黄は特別運動ができるほうじゃないけど、紅紫兄はめっちゃスポーツができるタイプの人だ。

足は速いしアクロバット的なこともできるし、たまにいろんな球技の助っ人とかにも行ってる。

私は紅紫兄が対抗リレーみたいなやつに出場していないことも見たことがない。

今年もリレーのアンカーでもするんだろうなと思う。


「どうせ出るだろうし、見に行こっか」


リレーはもうすぐ始まる。どうせなら見やすい所で応援したい。

後ろの方で見えなかったなんてことがあったら、くやしいからね。


「それじゃあ、早速行ってみよ~」



『さぁ、やってまいりました最終種目。紅白対抗といいたいところですが、私たちの学校の体育祭は赤青黄で分かれております。信号の色対抗リレーとでもいえばよいでしょうか。しかしながらお手元のパンフレットには対抗リレーと味気なく書かれているようなので、しがないこの高校の一生徒である私はその味気ない名前で読むしかありません。実況は私、三年の水無月でお送りいたします』


ゆっくりと二人で歩いていると、癖の強い放送が聞こえてきた。

これまでは別段平和な放送だったのに、いきなり豹変したみたいだ。


「ん?あ~水無月先輩でしょ。いつもはじけた感じのマイクパフォーマンスがしたいらしいんだけど、ダメだしされるからあふれる気持ちを抑えながら放送をしている人で有名なんだよ~」


私が困惑していると、七が解説をしてくれた。

そうか……この人有名なのか。納得できる感じだなぁ。


「ちなみに、紅紫さんとかと一緒のグループだよ」


「なんでそこまで知ってるの……」


「グループの情勢をチェックするのは楽しいんだよ~」


「国の情勢チェックみたいに言うなぁ」


腹黒みたいな七の発言で少しだけ怖くなる。

だがちょっと待てよと、ゆるふわでほわほわな見た目で腹黒かつあざとい感じって完成されてない?

されてるよね?



「あっ!みっけ」


そんなことを思っていると紅紫兄がおそらくバトンをもらうであろう場所に集まっているのが見えた。

適当に手を振ると、笑顔とともにグッドサインが返ってきた。

やる気は十分見たいだ。いい結果が期待できそう。


するとパァンと音が響いた。

リレーがスタートしたみたいだ。

紅紫兄の頭には赤色のハチマキが巻いてあり、更に他の人たちと違いビブスも着ている。

すぐにアンカーだなと分かった。

既に始まっていたレースに動きが出たのか実況の声が聞こえてくる。


『第一走者、抜け出したのは青組の藤堂。陸上部に所属する彼の俊足にかなうものはいるのか?!それを追うのは黄組、帰宅部の片山。毎日早く帰ってゲームをする為に鍛えられたパワーは伊達ではない!!後ろから狙っているのは赤組のハンドボール部の岩田!ここが正念場だ-!』


「おー!やっぱりレベル高いんだなぁ」


「選抜選手だからね~。私もあんな風に走ってみたいな~」


「こういうのって毎日の練習が大事なんだよね」


スポーツは少しだけと軽い気持ちで練習をさぼったりすると痛い目を見ることがよくある。

この人たちがここまで早いってことはそれだけ頑張ってきたことを表しているのだ。

私は怠け者なので、とっても尊敬する。


『レースは第二走者に移ります順位は書道と変わらず青、黄、赤となっています!今、先頭のバトンが渡ったー!コースを走るのは上位からサッカー部の東、卓球部の三井、更にサッカー部の朝霧だ!レースは拮抗して、順位は変わりそうにない!おお、いけるぞ我らが同志の三井!あのイケメン野郎をぶっつぶせ!!』


ものすごく熱の入った実況が聞こえてくる。

先頭の二人が並んだみたいだ。歓声が大きくなる。


「めっちゃ私情が入ってるじゃん……」


「東先輩って人気高いんだよ~。ほらあそこ見てよ」


七が指をさした方向を見ると、かなりの数の女子がときめいていた。

東先輩とやらをお上にしているみたいだ。


「ああー、そういう事ね」


「そういうこと~」


放送の水無月先輩や三井先輩はイケメンに何としても活躍させまいと頑張っているみたいだ。

もしかしたら女子へのアピールも兼ねているのかもしれない。


『きたきたきたきたぁ!三井が抜いたぁぁぁあ!しゃぁあ!順位は変わって黄、青、赤でレースが進みバトンが第三走者にわたったぁー!リレーも後半戦に移っていくぞ。上から順に、野球部の佐藤、テニス部の峯、ソフト部の山田だぁ!』


「……水無月先輩、嬉しそうだね。」


「そろそろ紅紫さんの出番が来そうじゃない?」


「そうだね。応援の準備しとかなきゃ」


『特に進展のないいまま終盤に突入しそうだ!あまり距離はないとはいえ、さすがに実況しづらいから進展を見せてくれぇ!もうすぐ第四走者、アンカーにバトンが渡るぞ!』


もうちょっとだけ前に出てよく見えるような位置を確保する。

もうバトンが渡される直前だ。


『さぁ!バトンがアンカーに渡って、走り始める選手は、トップから陸上部の石橋、同じく陸上部の向江、そして帰宅部の三条だ!!』


「「ファイト―!!紅紫兄!!!」さん!!」


七と声を合わせて声を出すと紅紫兄はこちらを見て招集所で見かけたように手を挙げた。


「任せろやぁぁぁ!!」


そんな大声とともに紅紫兄はものすごい勢いで加速していきぐんぐんと縮まる。

異常なまでの速さでグラウンドを駆けている。


『おい!紅紫ぃ———!!美少女二人に応援してもらうだと!?!?くそが————!!滅びろぉぉ!!早すぎんだろぉ……お前ホントに帰宅部かよぉ……こんの主人公やろうがぁ!あほみたいな勢いで前の二人をとらえたぁ!まだスピードは落ちない。速い速い!破竹の勢いだぁ。そして今ゴールイン!後ろに俺の放送を聞いて飛んできた教育指導の上田が待っているので最後に言わせてもらう。イケメンはァ爆発しろおおぉぉ!!!』


バン!とテープを紅紫兄が切ったのと同時に雷管が鳴る。

お遊びが過ぎたのか放送席を見ると水無月先輩が教育指導の先生に引っ張られているところが見える。


「すごかったね~。陸上部を追い抜かすなんてやっぱりすごいな~」


「紅紫兄はこう、いろいろとおかしいからね……」


「これで全部の種目が終わったね~」


「そうだね。今年の体育祭は楽しかったなぁ」


「いつもより密度が高い感じがしたからねぇ」


「あ!七、例の温泉の件忘れてないよね?」


「もちろんですとも~」





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