17 体育祭②
生存確認……ヨシッ!
私はもう自分の競技はなくなってしまったので、体が軽い。
後者についている時計を見ると、針は十二時くらいを指している。
つまり、お弁当の時間ということだ。
体育祭のお昼の時間は、この学校では持ってきたお弁当を家族とかで、食べてもいいことになっている。
最近は、親が来れない子がかわいそう、とかいう理由で普通に給食がある学校も出てきたとどこかで聞いた気がする。
だけど私は、体育祭のお昼の時間が大好きなのでよかったなぁと思う。
今日は体育館が解放されて、そこで食べることができるらしいので早めに行くことにする。
場所取りの必要がありそうだと思ったからだ。
ちょっと遅れていくと、満員になっていて手遅れになりそうな気がするんだよね。
黄や紅紫兄とかを早く探さなきゃ。
手始めにグラウンドの周りをまわってみることにする。
グラウンドに出れば、すぐに見つかるということは分かり切っている。
なぜなら……
「おっ、見つけた。多分あれだな」
沢山の人だかりができているところ。だいたいそこにいるのだ。
二人とも人気者だからね。
私にはできないのかって?
そーなんだよね。できないんだよね。
黄はともかく、紅紫兄に人気で負けるのは悔しい。
どこで失敗したのかなぁ。私に近づいてくるのはほとんどいないのだ。
大勢が取り囲んでて話しかけにくいけど強引に突破することにする。
この人たちは……黄の近くにいつもいる人たちかな。
毎回こんなことをしているから、取り囲んでいる人の顔を覚えちゃったよ。
「黄―—!おねーちゃんが来たぞー」
群衆が私の方に注目をする。
一斉にみられて少しだけゾクッとする。
「藍さんだぞ」
「マジかよ、近くで見るとめっちゃ可愛いな」
「ああ、俺と同じ空間の中にいらっしゃるということに感謝を」
「写真ほしいんだけど」
がやがやと、さっきもうるさかったのに、今は拍車がかかっている。
その中で、ひときわ目立つ声をあげる人がいた。
「皆の衆、道を開けよ!姉君がおいでであるぞ!」
きたわ……やべー奴。
この人の名前は知らないけど、黄の周りにいつもいる人だ。
セリフがもう時代劇なんだよなぁ、と毎回思わされる。
私の中でのコイツの呼び名は侍だ。初めて会った時に決めた。
侍の一言が発せられた瞬間、周りの人たちが私と黄の間に道を作る。
洗練された動きは、軍隊といっても間違いではないんじゃないかな、というレベルだ。
変な奴だけどカリスマがある。
私には無いカリスマがある……。羨ましい……。
「ささっ、拙者たちのことは気にせず」
「あはは……いつもありがとう」
これまでも何度かこのやり取りをしてきたが、ここでなんと返事をすればいいのかわからなくてぎこちない笑みを浮かべる。
そろそろ、侍の捌き方を覚えなくちゃな……。
道を開けてもらったので黄のところに駆けよる。
「藍姉ちゃん、さっきはお疲れ。一位だったでしょ」
「そうだよ!よく見てたね」
「当然でしょ、藍姉ちゃんの活躍の場は全部チェックしてるからね」
「私って黄にいつも見守られてるの!?うれしいけど、みっともないところ見られてるのかもしれないってことだよね」
「そうだよ。この間、学校の裏庭で猫に引っかかれてたところもしっかり見てるからね」
「ヴェ!?」
あれ見られてたの……?めっちゃ恥ずかしい。
裏庭に野良猫が迷い込んできてて、逃がしてあげようと温情を与えあげたら引っ掻かれたんだよ。
あの猫め!私の醜態を黄に目撃させるなんて、今度会ったらどうしてやろうか……
「今、決して女子高生が出しちゃいけないような声が聞こえたんだけど」
「き、気のせいだよ。あっ、それよりもさ一緒にご飯食べようよ」
「話題を雑に切り返された気がしたんだけど……」
「そんなことはいいの!早くいくよ」
私は黄の右手を引っ張って歩き出す。
このままでは、お姉ちゃんとしての威厳が大衆の前で地に落ちてしまう。
それだけは何としても避けなければ……。
「それにしてもなんでこんなに急いでるの?あ!そっか、お昼ごはんの時間だね。早めに行かないと席を取られちゃうってことか」
自問自答みたいな形で疑問を解き明かしたみたいだ。
たまにこういうことあるよね。
何かわからなくて質問しようとしたら、質問してる最中で答えが思い浮かんでくること。
「その通り。よくわかったね、えらいぞ~」
「さっきご飯を食べることができる体育館とかは人が集まって、ものすごく混雑するって、明智君から聞いたんだ」
「へ~聞いてたんだ。それにしても黄と話をしたら定期的に聞く明智君ってどの人?さっきの集まりの中にいる?」
「えーっとね、侍みたいな話し方をするの」
「あー、完全理解しました」
あの侍、苗字は明智なんだ……。武士っぽい所はそこから来てるのかな。
明智かぁ~。明智って苗字ってめっちゃかっこよくない?
信長をコロコロした光秀もそうだけど、江戸川乱歩の小説に出てくる明智小五郎と一緒だよ!
もし私の苗字が明智だったら、最初に作る友達は間違いなく小林君だろうね。
明智小五郎っていろんな作品で名前をなぞったキャラクターが沢山出てるから、その分だけいろんな遊びができそうだなぁ。
自称IQ1300だったり、イヤミな警視だったりね。
そう考えると、侍の明智君のことが羨ましく思えてきた。
「いつも困っていたら、現れてくれて助けてくれるんだ」
「おぉう……それって大丈夫なの?つけられてるんじゃない?」
明智君ってもしかしなくてもストーカなんじゃないかな?かなかな?
おねーちゃんとして、奴をシバかなければならないかもしれないぞ!はぁと
「うん、大丈夫だよ。くぎを刺してはあるから」
明智君もうすでにくぎ刺されてたんだ……
黄って我が弟ながらに行動が早くて素晴らしいと思うんだよね。
けど、黄の身の安全を私の目でしっかりと確認しておきたいから、今度こっそり見守ってあげようかな。
「今何か変なこと考えてたでしょ」
「……なぜバレたし」
「そういう顔してたもん。藍姉ちゃんって考えてることがよく顔に出やすいんだよ」
「ホントでござるかぁ?」
「絶対、明智君と同じようなことを考えてたでしょ」
「反省してまーす」
「絶対に反省してないよね!?」