16 体育祭①
パン!と雷管の破裂音が学校のグラウンドに響き渡る。
クラスのお調子者は、その音に合わせて倒れたりして笑いを誘っている。
燦燦と私たちを照らす太陽は、熱中症になってしまうかもと思わせるくらい。
「頑張れー!七ぁーーー!」
そう、今日はみんなが待ちに待った……私は待ってないけど、体育祭である。
もうそんな時期かーと思いながら、100メートルを走っている七を応援する。
6月も下旬に入り、雨も多くなってきた時期だ。
せっかくなら、今日が大雨だったらな。と思う人も多いでしょう。
ボケーっとそんなことを考えていると、100メートルが終わった七が私たち紅組のテントに戻ってきた。
因みに、私たちの高校の体育祭は赤、青、黄の三つの組に分けられる。
群馬とかだと赤城団、榛名団、妙義団とかって分けたりするんだってね。
紅紫兄が言ってた。……どうしてそんなことを知ってるの。
「つかれたー。藍~休ませてよ」
七がもう戻ってきたみたいだ。
七は肩で息をして、私の背中にかぶさってきた。柔らかい二つの何かが私にあたり、ちょっとドキッてする。
女の子していると、たまにこういうのがあるけど、全くなれる気がしないんだよね。
毎回心臓が跳ね上がる思いをする。悪いことをしてる気分にもなるんだよ。
「おつかれー。ちゃんと見てたよ」
「見ないでよ~恥ずかしい」
「でも、頑張ってたじゃん」
七は3位くらいだった気がする。3位って、「おっ、頑張ってんじゃん」みたいになる順位だよね。
「陸上部とかホントに早いんだよね~勝てる気がしないよ」
「部活に入ってない七が、陸上部より早かったらいろんな人たちがかわいそうになってくる」
「運動なんて少しもしてないからね~」
「それでも3位取れるのもおかしいと思うんだけど」
「それはまぁ……七の才能?」
うーん、ありうるな……
七はかなりハイスペックに入る部類だ。球技とかでも点決めてるところとか、かなり見るし。
「無いとは言えないのが悔しい」
「それよりも藍ちゃん、出番そろそろでしょ」
「あぁ、そうだった」
私は、障害物競走に出る予定なのだ。
100とか200とかよりも、ワンチャンがあっていい。
頑張れば1位を狙えるから、いつもこればかり選んでしまう。
「ん~、今1位取れるって思ったでしょ」
「……なんで分かったの」
心を読まれてる!?もしかして表情に出てたかな。
「これもまぁ、七の才能?」
「心が読めるってどんな才能なの……才能というより異能って感じがするんだけど」
「まあまあ~それは置いといて、藍ちゃんは障害物競走に自身がある様子なので、1位を取れなかったら、今度の課題提出を手伝ってもらいまーす」
「何時も手伝ってる気がするんだけど。じゃあ、もし私が1位を取ったら七は何をしてくれるのかな?」
「そうだね~じゃあ、私と温泉旅行に行こう」
とんでもない情報が耳の中に飛び込んできた気がする。
七と温泉旅行?なんだそれは……それは素晴らしすぎないか?
ちなみに私は、家族以外と温泉旅行に行ったことなんてもちろんない。
これは景品が豪華すぎるよ。女子高生と温泉旅行。ふふ……楽しみになってきた。
「旅行はどこに行くの?」
「近場だよ。ここから一時間くらいのとこにあるやつ。新しくできたスーパー銭湯の割引チケット貰ったんだ~」
「あー、あれね」
日帰りかー、と心の中で思ったりするけど押さえる。心を読まれちゃうからね。
「スーパー銭湯、行ったことないから行ってみたかったんだ~。一人で行くのはちょっと寂しいでしょ」
「把握」
「ほらほら、もう時間やばいでしょ。早くいかないと順位すらつかなくなっちゃうよ」
「うわ、ほんとだ。1位とって来るから、絶対行こうね」
「頑張れ~」
私は障害物競走の招集場所に急ぐ。
招集漏れして失格とかが、フライングの一発退場の次くらいにきついから、早くいかないと。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ちょうどぴったりの時間に招集場所に集まり、遅れて失格なんてことはなかった。
グラウンドに行進をしていき、スタート地点に着く。
そしてそのまま、スタートラインに進む。
残念なことに、私は一番最初の組なのだ。緊張するよね。
心を落ち着ける暇もない。
「位置について」
誰かは知らないけど、係の人が声をかける。
ラインに手を合わせクラウチングの姿勢を取る。障害物にクラウチングっているんですかね……
「よーい」
パァン!!
雷管の音が響き渡り、一斉にスタートする。
目の前には、網が置いてある。下をくぐらないといけない。
やっぱりクラウチングいらなかったよね……
私は網を上にあげ、頭から侵入していく。
はいはいをするよう見進んでいくのが一番早いというのが私の持論。
なかなかのスピードで進み、網を難なく抜け出す。
今のところは横並びで大した差はない。
ちょっと走ると、また次の障害だ。
跳び箱が四個くらい連続で置いてある。高さは4段くらい。
大型のやつで、80センチくらいの高さ。
勢いをつけて飛んでいく。
勢いゲーだよね、こういうタイプのやつって。
何事もなくこれも突破。
さて、差はどれくらいかなと周りを一瞬だけ見ると、かなりの差ができてしまったみたい。
私の近くには運動できる系の人たちばっかだ。
そんな人たちが何で障害物競走出てるのさぁ。
三つめは平均台。上をまっすぐ歩かないといけない。
これも問題はなし。
とんとん、といくと数歩で端までたどり着く。
ここは差があまりつかないところだろうな。
次の障害が、このレースのターニングポイントになる!
四つ目であり最後の障害が見えてきた。
目の前に見えたのは真っ黒いタイヤにロープがつけられているもの。
これを引っ張ってゴールまで行かないといけない。
手にロープを雑に巻き付け、引いていく。
「ちょっ……以外と重い」
野球部とか陸上部とかが引っ張って練習したりしてるから、重いんだろうなぁとは思ってたけどまさかこれほどとは……
私じゃなかったときに引っ張ってた気がするんだけどな。その時はもっと軽かったはず。
「ふぅぅっ!」
腰を低く落として、地面からの反発をもらえるように足にしっかりと意識を持って行く。
体の中の空気を吐き出して、おなかに力を入れて一気に決めに行く。
それを引いていたころの私より、今の私の方が圧倒的に筋肉量が違う。
だって今、女の子だもん。
だから、体の使い方を意識して最後まで持ってく!
ずるずると引きずっていき、さいごは勢いをつけてゴールテープを切る。
「やったぁ!!」
ゴールテープが私の1位を伝えてくれた。
これで七と日帰り温泉旅行だぁ!こんなに喜んだのは久しぶりな気がする。
小躍りでもしたくなっているところに、係の人が誘導してくれた。
危ない危ない。ゴールで奇行をさらしてしまう所だったよ。
「1位おめでと~」
七が近くに来て結果をたたえてくれた。
「ほら、ちゃんと1位とったでしょ。景品のことは忘れてないよね」
「私がそんなうそつきだと思う~?」
「よーし、それはよかった。今から楽しみになってきた―」
「今週の週末とかはどう?」
案外早いときに決まった。今週の週末だから、もう目と鼻の先じゃん!
「おっけー」
「この体育祭を乗り切れば、楽しみが待ってるから頑張らないとね~」
ご褒美のおかげでやる気がわいてきたよ。
「もう私出る種目終わったから、応援頑張りますかー」
「お~」