15 ガールズトークみたいな
「お邪魔しまーす」
七が私の部屋に入ってきた。ついこの間のテスト勉強以来だ。
もう私の部屋は整理されているから、何を見られても大丈夫。
片付けやっといてよかったなぁ。と心から思う。
「それで七、今日は何をしに来たの」
「え~、何もなかったら来ちゃダメなの~?」
「……そういうわけじゃないけど」
「ふふーん。藍ちゃんは私に心を許しているということに他ならないね~」
「それはおいといて、七がここに来るからには何か用意してきたんでしょ」
七は私の家に来るときは必ずといってもいいほど、ゲームなり課題なり、私の部屋で使うものを持ってくるのだ。
それに七は今日、手提げかばんを持って来ていた。
それなりにサイズがあるやつだったから、何か持って来ているに違いない。
「ばれちゃあ、しょうがないね。今日持ってきたのは~こちら」
七は手提げカバンから、自由帳と筆箱を取り出した。
「それでなにをするの?お絵描き?」
「せっかちだな~。もちろん、今日するのは漫画を描いてみよ~だよ」
「漫画を描いてみる?言葉の通りでいいの?」
「そうだよ。それ以外にどういうことをすると思ったの」
マンガを描く、か。
小学生の時にちょっと流行って私もやったきりかな。
「ふーんそれは分かったけど、ストーリーとかは考えてるの?」
「考えてなーい。それを藍ちゃんと一緒に考えるんでしょ」
「そういうことね。完全理解」
「じゃあ、早速始めよ~」
まず漫画を描くときに何を描くかを考える。
バトルマンガ?それは七と一緒に描くのはつらいかも。ギャグマンガ?同じ理由で却下。
人々の物語が交差するヒューマンドラマ系かな。……前二つよりかはましだけど、時間が足りなくなりそう。
推理もの?だめだな。私たちがトリックなんか考えることはできない。それにマンガとなったら、絵が持たなそうだし。
「やっぱり、定番は恋愛ものだよね~」
はっ!恋愛ものか!盲点を突かれた気がするぞ。
「藍ちゃんが驚いた顔してる~。そんなこと思いもつかなかったって顔」
「バレてる!?」
「藍ちゃんって、そういうの読まないでしょ~。本棚見ればわかるもん」
七が私の本棚を見る。見事に恋愛ものは抜けている。
少女漫画とかは、殆どこの部屋には存在しない。
「うーん。そういうのって、あんまりよくわかんないんだよね」
「やっぱりか~。そうだと思った。じゃあ、恋愛のイロハを藍ちゃんに教えてあげよう」
「……マンガから、恋愛の話に変わってるけどそれはいいんですか。七先生」
「問題はな~い。これを教えなければ前には進めないの」
「七は誰かに恋をしたことはあるの?」
「む。私の王子さまは有給休暇を取って、ずっと夏休み中だからいないの」
「ということは、したことがないと」
「そんなことはいいの。藍ちゃんは恋愛に対する乙女の心構えができてないから、それを教えるの」
「さいですか」
「そうだよ。藍ちゃんは男勝りな感じだからね~」
実際その通りだから仕方ない。
私もそろそろ、そういうのを学ばないといけない時期なのかなぁ。
「それで、恋愛に対する心構えとは何ぞや」
ちょうどいい機会なので聞いてみることにする。
聞くだけならタダだしいいよね。努力しなければならないことがあったら逃げようと、ひそかに思いながら聞くことにする。
「ふっふっふっ~。それはね本能を研ぎ澄ませておくべきだーってことだよ」
「本能?欲望のままに動くってこと?」
「そういうわけじゃないよ。そもそも、もし藍ちゃんが男の子だったとして、欲望だらけの女の子を恋人にしたいと思う?」
私はちょっとだけビクッと心の中で動揺する。
「……そうだね。したくない」
「そうでしょ、そうでしょ。つまりね~この人なら私のことを幸せにしてもらえるって、本能が訴えかけてくるようにするために、研ぎ澄ませておく。ということだよ」
「本能でそれを選ぶの?それだったら、変な男に引っかかったりするんじゃないの?」
「分かってないなぁ~。女性の本能っていうのはすごいんだよ。生きるための力なんだから。自分に適した相手を教えてくれるんだよ~」
「へー。生きるための力だからか」
納得できるような、できないような。そんなものなのかな。
「それさえできれば、バッチリ」
「……それだけでいいの?恋愛のイロハでしょ。それじゃあ、全然足りなくない?」
「ん~大丈夫じゃないかな。藍ちゃんがその気になればだれでも落とせるだろうし」
「……え!?何それ」
私がサキュバスみたいに言われた気がするんだけど。
「藍ちゃんはかわいいんだから、無敵なんだよ」
「えー……」
可愛いのは無敵なのかぁ。それは分かるけど、私が無敵といわれてもあまり実感が持てない。
「はぁ~だめだなぁ。もっと自分のことを理解してないと」
「私より七の方が……こう、女の子っぽくてかわいいと思うんだけどなー」
「……藍ちゃんは女たらしの方がうまいかもね」
七がちょっと顔を赤くしている。照れてるのか!
「ふふっ、野郎どもより七の方が圧倒的に本能が訴えかけてくるからね」
「なんだかな~」
この後はお勧めの漫画を紹介しあったりした。