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11 メガネってかわいいよねって話

「これなんかどうだ」


紅紫兄——————今は紅ちゃんの恰好で、伊達メガネをかけている。

ここはメガネ屋さんだ。

紅紫兄の付き添いで私は伊達メガネを買うことに付き合わされている。

伊達メガネって初めは私自身どこで買えばいいのかわからなかったけど、普通にメガネ屋さんに売ってあるんだね。

紅紫兄に聞いた話では、普通にディスカウントストアとかにも安くで売ってあるらしいんだけど、メガネ屋さんの伊達メガネは高いけど掛けやすくて快適だしおしゃれなのが多いからいいんだと。

おしゃれするためには何個も必要だから、どちらのほうがいいのか紅紫兄も悩んでた。

私はそんなにいるのかなぁ。とひそかに思ってたりする。可愛くてほしくなることは間違いないけどね。


「んー、それより、こっちのほうがいいんじゃない?」


私は丸い渕のメガネをお勧めする。

私、丸ぶちメガネってかわいいと思うんだよね。


「あー、それか。俺……私もいいと思ってたんだ」


「よろしい」


紅紫兄は女性らしく会話をする練習をしている。

まずは主語を変えて話し続けられるようにしようというのが今日の課題だ。

気を抜いてしまうとすぐに戻ってしまうのでしっかりと監視しておかないとね。


「なかなかだな」


「すごい可愛いんだけど。これが男だなんて思いたくないね」


「しかしそれが事実」


「現実は非常だね」


沢山の種類があっていいのを選ぶのにはかなりの時間がかかる。

私たちがいろいろと試していると店員さんが近づいてきた。


「何かお探しでしょうか?」


「ちょっと私の姉が伊達メガネを欲しいと言っていたので探しに来たんです。何かお勧めとかありますか?」


紅紫兄を紅ちゃんとして店員さんに紹介をする。

紅紫兄にちょっとしたいたずらだ。


「……おまえなぁ」


「そっちのほうが練習になっていいでしょ。それに恰好だけだったら姉妹にしか見えないし。逆に兄ですって言ったほうがよかったかな?」


「そうですかい。言い訳を考える技術はどんどん成長していってるよな」


「失礼な。これも立派なトークスキルだよ」


そんなことを話していると、店員さんがおすすめのものを持って来てくれた。


「この商品はいかがでしょうか」


「ありがとうございます」


紅紫兄が店員さんからメガネを受け取る。


「この商品は、通常のものより少しだけサイズが大きくなっており、小顔効果が期待できる女性に人気が高いものとなっております」


「へー。よさそうですね」


「早くかけてみてよ。紅お姉ちゃん」


紅紫兄が私の方をジト目で見てくる。

しかし今は紅ちゃんの姿なのであまりいやな気がしないのが恐ろしい。

紅紫兄は私から目を離し、例のメガネをかけて全身が移るほどの大きな鏡の前に立ってどんな様子かを確認する。


「いいですね」


「とても似合っております」


「これにしようかな」


紅紫兄は、そのままお勧めされたメガネを買うことにしたようだ。

店員さんからチョロいと思われてるんじゃないかなと私は勝手に思う。


「なにか藍は買わないのか?メガネってかわいくて、いくつも集めたくなるんだよな」


「そこまでは思わないけど、メガネがとてもかわいいのには激しく同意しとく」


「そうだよなぁ。眼鏡をはずしたときは、付けていた時との違いも楽しめるから一石二鳥みたいな感じだよな」


「……は?いやいや、メガネをはずすという行為は邪道でしょ。外した時のギャップがいいからといって安易にメガネを取るようなキャラはあまりよろしくないよ」


「……は?メガネを取ることによって、表情が鮮明に映るとともに、我々が直接見ることができなかった顔を見ることができるという現象自体に価値がある」


むむむむむ…………紅紫兄とメガネについて解釈違いを起こしてしまったようだ。


「これは家に帰ったら戦争(クリーク)だね」


「もちろんそのつもりだ。真のメガネの良さというものをきっちりと教え込んでやろう」


「それはこっちのセリフだよ」


私と紅紫兄の間でバチバチと火花を散らしていたら、店員さんが近づいてきた。

紅紫兄の会計とかが済んだのかな。


「お買い上げありがとうございます」


「ええ、いい買い物ができました。ありがとう」


「こちらこそ。……失礼に当たるかもしれないのですが一つ質問してもよろしいでしょうか」


「かまいませんが」


「お客様って、コスプレイヤーの【紅】さんですよね」


「そうですよ。それにしてもよくわかりましたね」


「はい!私、ファンなんです。毎日SNSとかブログとか見てます!あ、握手してもらってもいいですか?」


「オッケーですよ」


紅紫兄と店員さんが握手をしている。

店員さんはとっても嬉しそうだ。

わたしは紅紫兄がファンサービスをしているところを初めて見た気がする。

喜んでもらえてて、紅紫兄はすごいなと思う。


「藍、そろそろ行こうか」


紅紫兄が店員さんから解放されたみたいだ。


「紅ちゃんは人気だねぇ」


「ファンもたくさん増えてくださってて、私にとってはうれしい限りだ」


紅紫兄は紅ちゃんとして自分の大切なことで、活動しほかの人に元気を与えている。

それが私にとって少しだけ羨ましく感じてしまった。


「やっぱり、すごいね紅紫兄は」


「ん?これくらいなら、藍だってできるさ。何かに挑戦するための少しの勇気があればな」


大切なのは何かに挑戦するための一歩目を出そうとする勇気か。

私は自分がとてつもなくしたいと思えるようなことがない。

何かをかけてでもしたいと言えるような何かが私の中には存在しない。

好きなことも、最悪できなくても構わないなと思えてしまう。

紅紫兄みたいに熱中することもないし、黄みたいに新しく先に進むこともない。

七みたいに積極的にいろんな場所に行って趣味をすることもなく、千秋さんみたいに自分自身がフレンドリーだとも思えない。

そんな私でも今を変えることはできるのかな。過去の意識にとらわれた私は前に進むことができるのかな。

私は少し考える。

だけど、その答えは出るはずもない。

その答えは前に進まないと、得ることはできないから。


「そうなのかな。…………うん、そうかもね。少し頑張ってみようかな」


「おお、その調子だ。俺も応援してるぞ」


「あ—————!紅紫兄、紅ちゃんは自分のことを俺なんて言わないよ」


「あっ……。ここまで来てやらかした——————!!」


「まだまだ修行が足りませんな」


「くっそ、今度こそ成功させてやるからな。次は絶対言わないから」


このあと、家でメガネのあるべき姿についての戦争(クリーク)が行われた。

決着はつかずじまいだった。くやしい。





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