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10 夜の秘密行動

あーテステス、こちら食べ物確保部隊。順調に台所に接近しています。

太陽が沈んでからどんどんと時間が過ぎていき、今は物音ひとつない静かな深夜である。

そんな普段私は寝ているような時間にいったい何をしているのかというと、誰にもバレてはならない秘密の行動だ。


私は今二階にある私の部屋からゆっくりと階段を下りているところ。

今回のミッションは台所にあるおやつの奪取。

私が部屋に持って帰ってこっそりと食べるために今、頑張っているのだ。

どうしてこっそりと行動しているかというと、私のお母さんは私が夜遅くに何かを食べる事をあまりよく思っていないのが原因である。

お母さんは主に私の体のことを心配してくれている。

肌が荒れるとか、太ってしまうとかは、女の子の一生の悩みだから、そうならない世に気を使って毎日の食事とかを管理してくれている。

とってもありがたいことで、そのおかげでここまで、さほど美容や体形を気にすることなく過ごしてきた。


「よし、今のところはオッケー」


だけど、夜に何か食べるという行為はわくわくに満ちている。

そこまで悪いことをしているわけでもないのに、してはいけないことをしているような気分になりちょっとだけ冒険をしているような気がする。

ごめんお母さん男(元)は、そんなことが大好きって相場が決まっているんだよ。

心の中でお母さんに謝っておいて、秘密の行動を続ける。

階段を下りて台所のすぐそばまで行くと、コトッ、という音が聞こえてきた。

何かを置いた音のように聞こえる。


「だれ?」


私は静かに台所を覗く。不審者かもしれないと思って少し怖い。

もしそうだったらどうしよう。大声をあげればいいのかな。

一気に不安に駆り立たれ、体から変な汗が出ているような感じがする。


台所には暗くてよく見えないけど、人型のシルエットが見える。

ますます怖くなってきた。


「……藍か?」


「ひっ!」


シルエットが話しかけてきた。

しかも私の名前を知っているなんて!!もしかして超能力者なの!?

くぅっ、このままだと勝ち目がないじゃん!

早く逃げないと……


私が逃げようと台所に背を向けたところで私の肩にやつが手をのせてきた。

やばい!このままだと口封じされる。

私はとっさにシルエットに殴りかかろうとする。

しかし、影の中からにゅるるっと現れたもう一本の手に止められる。


「……おいおい、俺だよ俺」


えっ!今度はオレオレ詐欺!?

最近の怪しいシルエットは、詐欺までも嗜んでるの!?

あ、そういえばオレオレ詐欺って母さん助けて詐欺に名称変更されたんだっけ?

だけどあまり聞かないよね。世間に浸透してない感じがするよ。

あれ?振り込め詐欺とか、劇場型詐欺とか、特殊詐欺とか、いろいろ言い方があってよくわからなくなってきたや。

こういうのって名前を一つに絞ってほしいものだね。


「いま、何か全く関係のないこと思ってただろ」


「あれ……?ばれた?」


シルエットは私の心を読んでいるみたいだ。

やっぱり超能力者じゃないか。


「また、心の中で変なことを思ってるだろ」


「変なこととは何さ、あなたがそんなことするからでしょ」


私は、ちょっとシルエットと打ち解けた気がする。

もしかしてコイツ友好的なUMAなのかな。


「はぁ……俺だよ、藍のお兄ちゃんだぞ」


「え……紅紫兄?」


「誰だと思ってんだよ。それにしてもこんな時間に何してんだ」


電気を私がつけると、これまで真っ暗で見えなかったものがだんだんと見えてくる。

そして目の前には、なかなかにかっこいい青年がいた。すらっとしていて、肌につやを感じ、魅惑的な青年だ。

なぞのシルエットは紅紫兄のものだった。


「それはこっちのセリフよ。私は計画的に秘密の行動の一部として、食料を取りに来ただけ」


「そうか。でもそれを言ったら秘密の行動じゃなくなるな」


「はっ!気づかなかった。さすが紅紫兄。今度から気を付けることにするよ」


「藍、お前知能指数が明らかに下がってるな。深夜テンションか」


「そうともいうかもしれない」


私は紅紫兄の適切なツッコミでちょっとだけまともになる。


「それはそうとして、紅紫兄は一体ここで何をしているのかな?」


「ん?ああ、コーヒー飲みに来たんだ。お前も飲むか?」


「この時間にコーヒー?寝れなくなるんじゃないの」


「この程度じゃ、俺は眠くならないの」


「それって飲みすぎて効き目が薄くなった的な?」


「まぁ、そんなもんだよ」


「へー。紅紫兄ってコーヒー好きだもんね」


「そうだな。飲まないのか?たしかココアもあるぞ」


「じゃー、コーヒー淹れてよ」


「ココアじゃないんだな」


「私が甘いのあんまり得意じゃないの知ってるでしょ」


「確かにな。藍ってかわいいのにちょっと女子っぽくないんだよな」


「まあね、自分が女っぽくないことは知ってるから」


なんせ心は男なんですし。


「かわいいってことはスルーなんだな……」


「それも完全理解してるから」


「自信があってよろしいことで」


カチッと電気ケトルから音がした。熱いお湯ができたみたい。

袋から取り出した粉末をマグカップに入れお湯を注ぐ。

あっという間においしいコーヒーの出来上がりだ。

そのまま一口飲む。ちょっと熱いけどそれくらいがちょうどいい感じ。


「それにしてもこんな時間に台所にいるなんて、眠れなかったの?」


「勉強してたんだよ」


「ホントに?こんな時間までしてたら効率落ちるんじゃないの」


途中で眠くなっちゃって結局あまり成果は挙がらないんだよね。

私は夜に勉強しようとするとすぐに寝落ちするから無理。


「俺は夜にならないとやる気が出ないからいいだよ」


「お肌にはよくないよね。女装の敵なんじゃない」


「お互い様だ。それに藍は女子なんだから、いつもきれいでいないといけないだろ」


おっ!これは私のことを可愛いと認めたな。

だけどこういきなり言われると少し恥ずかしい気持ちになっちゃう。

……これで数多の女を落としてきたのか。

残念ながら私はそうはいかない。


「へぇー。私っていつも綺麗?かわいい?」


「あーうんうん、かわいいよ」


「なんか適当」


「ほめすぎると藍は調子に乗るからな」


「よくわかってるね。尊敬しちゃうよ」


「俺は藍の偉大なお兄ちゃんだぞ。藍のことで分からないことなんてそんなにない」


「それはちょっと気持ち悪いかな」


身内にこんな変態がいるなんて……。

恐ろしくて毎日8時間しか眠れないよ。


「直接言われると来るものがあるな……」


「このままいくと、キモイ奴が私の家族の中にいることになるから、早めに止めとかないとなって思った偉大な妹の慈悲だよ」


「感謝しとくわ」


私は残ったコーヒーを一気に飲み干して、クッキーの箱を手に取る。


「感謝を受け取っとく。じゃ―私は寝るから、紅紫兄も早めに寝るんだよ」


足早に台所を出ようとすると、またもや紅紫兄の手が私の肩に置かれた。

捕まってしまったみたいだ。


「夜更かしは肌に悪いって自分で言っただろ。それに夜中にお菓子食べるとか、その肌に追撃してるようなもんだろ」


「くっ!でも、私はこの欲望にあらがうことはできないの」


「だめだ。我慢しとけ」


「あー、私の戦利品がー」


紅紫兄が私の物資を取り上げる。

せっかくここまで来たというのに、思わぬ敵がいたよ。

これは初見殺しの伏兵だ。まんまと引っかかちゃった。


「ほらほら、寝るんだろ」


紅紫兄が私を部屋に戻るように急かしてくる。


「次こそはミッションを成功させて見せるから」


「そんなミッションはしなくてもよろしい」


こうして私のおやつ奪取の秘密の行動は無事失敗に終わったとさ。


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