1 最強に可愛い三人の素性
私、三条 藍は、TS転生者である。
それに気づいたのは生まれてすぐ。最初は知らないはずのことを知っているくらいだったけど、五歳くらいになると、どこかで、男子高校生として過ごした記憶を思い出せるようになっていた。
今、私は高校二年生だが前世の記憶の様なものは高校より先からは思い出すことはできなかった。
前世の私は高校生の間に死んでしまったのだろうか。
記憶を手に入れてからというもの、私は少し男子高校生の様な趣味嗜好になっていった。
それ自体は悪い事ではないと私は思う。
この記憶がなければ触れもしなかったであろう、スポーツや漫画などたくさんの面白いことがある。
しかしながら、問題もあるのだ……………女子更衣室やお風呂で気まずいのです……ハイ。
最近の女子高生は発育がよろしいのだ。目の前で着替えられたりしたらガン見しちゃうのです……。
それはそうとして、私は制服に手を通す。
今日も今日とて学校なのである。私の学校の制服は深い青を基調とした前ボタンのセーラー服。
「今日も私はかなりかわいいね」
毎日自分の部屋にある全身が見えるほどの大きな鏡で、服に乱れがないかをしっかりと確認することが日課だ。
私は、前世の記憶から自分自身の姿がそれなりに可愛いということがわかっている。
ナルシストなわけじゃないんだからね!!
「藍姉ちゃん、早く学校行かないと遅刻しちゃうよー」
きれいな声が私の部屋まで響いてくる。
玄関の前で私の可愛い妹……じゃなかった弟が私のことを呼んでいるっぽい。
私の愛する弟を待たせないためにも急いで玄関に向かう。
「おまたせ。じゃあ学校に行こうではないか~」
私の弟の名前は黄。可愛らしくて女の子にしか見えない。
いわゆる男の娘ってやつだ。黄の姉である私ですらたまに妹ではないかと勘違いしてしまうほどだ。学校では男女構わず告白を受けているらしい。
変な虫が寄ってこないようにしっかりと監視しなくては…
前世でも自分より年下の家族はいなかったのでとても甘やかしてしまう。
おやつにクッキーを作ってあげた時の、にぱーっとした笑顔など世界の宝といっても過言ではない。
この間は、女子高生の間で有名なファッション雑誌のモデルにスカウトされたらしい。
いつもの如く女の子に間違えられたってぷくーっと頬を膨らませていた。かわいいかった。
本人は男の娘であることを少し気にしているらしいが、こんなに可愛く生まれてくるなんて黄の姉で本当に良かったと思える。
「うん。そうだね!紅紫兄ちゃんは先に学校に行って勉強するって。受験生って大変みたいだね。僕も再来年だから大丈夫かなあ?今から頑張らないとね」
黄が言った紅紫兄ちゃんというのは私、藍、黄二人の兄である。
スポーツ万能、勉強もそこそこできる、イケメンというなかなかにハイスペックな兄なのだ。
しかも妹である私たちのことをいつも気にかけてくれるという性格も持ち合わせている。
困ったときには頼りになる兄だ。
「そうだね。もう紅紫兄も受験学年か~。せっかく黄が同じ高校に入ってきたというのに受験学年とは運命もこざかしいことをするなぁ。これじゃああんまり遊べないじゃないか」
「仕方ないよ。紅紫兄ちゃんも忙しくて女装する暇がないではないかぁ!!って言ってたし」
私の兄はハイスペックでイケメン。ここまで言えば、あぁただのラブコメ主人公じゃねえか。と思われるだろう。しかし、紅紫兄は恐るべき秘密を持っている。
女装癖があるのだ。
それもモデルと間違われるほどのレベルで変わる。きれいなお姉さんになる。
紅紫兄は中学生のころから、母がそそのかしたことがきっかけで女装をするようになった。
最初は母に言われるがままにしていたのだが途中からは自分から積極的にするようになっていた。
本人曰く、みんなに自分の女装姿を見られることが気持ちいいらしい。
誰かの視線が自分に突き刺さるのがぞくぞくして、やめられなくなっている。とも言っていた。
ただの変態さんじゃないか!!
しかしながらその完成度がものすごく高いせいで、変態とは大声では言えない。
むしろ、いつも女装をしていろ!!と私が言いたくなるほどだ。
「それにしても、高校って楽しいね!沢山お友達ができたよ。最初は緊張して不安だったけど、今じゃ毎日が楽しみだよ」
「おぉ———。それはよかった。お姉ちゃんもうれしい限りです」
黄の頭をなでなでする。
「恥ずかしいよ……」
めっちゃ照れている。これが可愛くてやめられないんだ。
そんなことをしているうちに、学校の前についてしまった。
私たちの家から学校は目と鼻の先と行ってしまっていいほど近いのだ。
「藍姉ちゃん。じゃあ、また放課後。今日はパンケーキ食べに行かない?」
「オッケー。じゃあ放課後ね」
学校の中に入ってしまえば、わたしたち3人が合うことはあまりない。
私たちが通う学校は市内でも有数のマンモス校なのだ。
そしてこの学校は2階が紅紫兄たち3年生、3階が私の2年生、4階が黄たち1年生となっている。階数が違う。ちょっと寂しい……。
だけどその代わりに、校内も広くて、生徒も多い。友達もたくさんできる。
私にも友達はたくさんいるのだ!
「おはよー」
いつもどおり私があいさつをしながら教室に入っていくと、みんながおはよーって返してくれる。
私は自分の机に就きボケーッとしながらスマホを眺める。
まだ授業までにはずいぶん時間がある。クラスメイトたちはおしゃべりをしてたり課題をしていたりしている。
私はいつも情報を集めるために時間を使ってる。
……つまりSNSをしているということだ。
…………ぼっちなわけではない。……はず。
画面をスクロールしながら、次々とみていくと、とある記事が目の中に飛び込んでくる。
あっ、と私は見つけた記事をクリックする。
コスプレの記事だ。今おすすめのコスプレイヤー3選と銘打って書かれている。
数枚の写真がその記事には添付されていて、どれも完成度の高いものだとわかる。
その中でも私の目を引くコスプレイヤーが一人いた。
名前は【紅】というらしい。短いセーラー服におへそをだして、金髪のヴィッグ、腕には砲塔を付けている。
あざとい笑顔が特徴的だ。
…………これ、紅紫兄でしょ……受験で忙しいんじゃなかったんかい!
すぐさま、スマホのチャットアプリを使い、紅紫兄に記事のURLを送り付ける。
すると、ものすごい速さで返信が返ってきた、
『てへぺろ(^_^)/』
センスのない顔文字とともに帰ってきた。
『受験勉強は忙しくなかったんですかねぇ?』
『まぁ、合格圏内には入っているからさ……息抜きもたまには大事でしょ……ユルシテ』
『これっていつとったの?』
『……先週のイベントです』
『あー、友達と勉強してくるって言ってた日かぁーそっかーお母さんに言っちゃおっかなー』
『……何がお望みかな?わが愛すべき妹よ』
『ちょっと口調がきもいんだけど……。放課後パンケーキおごって。黄と一緒に行くつもりだったの。もちろん来るよね。コスプレイヤー【紅】ちゃん!!』
『おおぅ……。了解いたしました』
『【紅】ちゃんの恰好でいこうね!』
『もちろんそのつもり』
もちろんそのつもりって、最初っから女装してくるつもりだったのかよ!
平日も女装するつもりだったとは思いもよらなかった。
昔は休日だけしていたのに、今は何時でもお構いなしになっていたとは……。
我が兄はどこまで行くのやら。
時計を見るともうすぐ授業が始まる時間だ。
スマホをカバンの中に直して教科書を取り出す。
今日の朝はちょっと面白かったな。と思いながら先生が来るのを待つ。
今日の放課後は久しぶりに三人そろって遊べるなと思う。
早く放課後にならないかなぁ—————!