プロローグ:大学生になる前のタケル
こんにちは。僕はタケル、千葉猛。
今年から大学生になった、どこにでもいる平凡なやつです。
頭や顔は並といったところでしょうか。あくまで自己評価なので、他の人に聞いてみたら違う意見が返ってくるかもしれません。
まぁ、時間があったら聞いてみてください。僕も少しは気になりますし。
退屈な高校生活もようやく終わり、これからワクワクの大学生活です。
思えば僕は、自由な時間などほとんどない人生でした。
なぜかというと、常に1つのことに打ち込んでしまい、他のことをしてこなかったんですよねぇ。
僕が打ち込んできたのは、将棋。
子どもの頃から高校生まで、真剣に打ち込んできました。
小学生3年の時に父親に教えられ、見事にハマりました。
友達と遊ぶこともほとんど無くなり、家でひたすら将棋の本を見ながら勉強してましたねぇ。
学校へ行くのも面倒になり、仮病を何度も使って家で将棋の勉強をしていたら、ある日母親に見つかって大変なことになりました。
あの時父親が母親を宥めてくれなかったら、きっと僕の将棋の本は全部ブック・オフに一冊10円ほどで売られていたでしょう。
買い戻すためにはその何倍ものお金が必要になりますよねぇ。
当時小学生の僕には当然そんなお金もないから、将棋をやめていたかもしれません。
「君には才能がある!頑張ればプロになれる」
東京の千駄ヶ谷にある将棋会館で、対局したオジさんにそう言われました。
子どもにとって大人って、すごい影響力あると思いませんか?僕、あの時バカ正直に信じました。
「プロになったら木造一軒家に住んで、静かな空間で将棋を研究するんだ!」
なんて考えたりして。
あのオジサン、自分の発言には責任を持って欲しいものです。
少し紳士っぽい身なりだったから、なおさら説得力があったんですよねぇ。
それから毎日将棋の勉強に明け暮れましたよ。
え?結果?それは見ての通り、平凡な大学生にこれからなろうとしているところです。
うん……才能がありませんでした。
努力は人一倍したと思いますが、大会では優勝した経験がありません。
なぜか必ず僕より少し強い人がいて、一番にはなれないんですよね。
もしかしたらこれが僕の人生を表しているのかなぁと思ったら、ゾッとしました。
プロになるには奨励会という登竜門があるんですが、どこかの大会で優勝してからじゃないと行かない、と親に宣言していたんです。
その内に優勝できるだろうと思ってたら、いつの間にか高校二年生になってまして。
あ、もう間に合わないな、そう思い、バッサリ将棋はやめました。
将棋の本は全部ブック・オフに売りました。
えぇ、もちろん一冊10円程度でしたよ。
垢がつくほど読んでましたからね。
中には値のつかない本もありましたが、それも構わず引き取ってもらいました。
中途半端に残ってたら、なにかの弾みでまた将棋熱がつくかもしれませんからね。
軌道修正は早い内にしないと、僅かなズレが大きなズレになっちゃいますからね。
高校二年で将棋をやめて、何をしたのかって?大学受験です。
もう他のことをするにも、遅すぎましたからね。
将棋部では副部長だったんですが、顧問の先生に退部届を出して、辞めました。
部活仲間はあっけにとられてましたねぇ、なんでこのタイミングで?って何度も聞かれました。
文系の部活なので、殴ってでも止めようとする人もいなく、結構あっさりと辞められました。
大学受験は将棋に費やしていた時間を転換しただけなので、そんなに苦痛ではなかったです。
結果は第一志望の国立に落ち、第二志望の私立大学に行くことになりました。
ここでも一番になれなかったんですけど、気にしてもしょうがないと割りきりました。
親にはお金をかけて申し訳ない気持ち、ありましたね。
僕、実は三男坊なんですよ。
兄2人はまだ大学生だから、家計が大変だろうなぁと思いました。
アルバイト、やったことはありませんでしたが、週5日も働けば家賃ぐらい稼げるだろうと考えていました。
人と話すことが苦手だから、接客業は嫌ですけどね。
ーーちょっと自己紹介が長くなってしまいましたが、そんな三男坊の僕タケルが、これから大学生活を送ります。
皆さんひとつよろしくお願いしますね。