3話 愛情の裏側に
番外編のようですが、前話のつづきです。
僕の名前は工藤卓弥。現在28歳。
二流大学を卒業後、二流企業に就いた。
毎日毎日、夜の10時まで残業し、朝は8時に出勤している超頑張り屋さんだ。
まさに働きマン。
しかし残念なことに5年勤続していても、出世するメドは一向に立たずほとほと疲れ果ててしまい精神は病んでいく一方だった。
そんな僕をいつも励ましてくれた同僚の女性がいた。
彼女の名前は「長谷川静香。」
時の成り行きでいつのまにか付き合う関係になり、デートも日々積み重ねた。
「ずっと幸せにしてあげるからね。」
そう彼女に告げ、付き合って1年後 早くも結婚にありつけた。
ただ、なんでだろう…。結婚し一緒に同棲しているにも関わらず、彼女は僕のことを完璧に信頼していないようだった。
愛すれば愛するほど、彼女は離れていくような感じだ。
僕の何がダメなんだろう。
もっと束縛して欲しかったりするのだろうか。
過去のデートでは君が喜ぶことばかりしてきた。
休日は映画を観に行った ボーリングにも連れて行った。
夜には食事にも連れて行った。
そして、海外旅行にも連れて行った。
お金は僕がいつも出していた。彼女は嫌がったが僕は君に喜ぶことをするのが楽しみであり生きがいでもあったのだ。
付き合ってからずっと 君ばかり見てきた。
しかし君は僕がなにをしても、定員が客に対して使うありきたりな礼儀正しい言葉使いばかりだ。
そんなことじゃ刺激がとても足りない。まさに他人と接している気分だ。
もっと俺を怒ってくれ なんでもいい。
仕事から遅れてきたら理由を問いただしたり
嬉しそうにメールをうっていたら 女性だと疑って聞いてみたり
いじわるしてみたり
からかってみたり
なんでもいい。
俺は…
彼女を手放したくない。
もっと俺を見てほしい。
愛してほしい。
言葉なんかじゃわからない。
態度で示して 抱きしめて 奉仕をしてほしい。
もっと もっと もっと
僕は君を唯一理解している人なんだ。
もう少し日が経てば、君は変わってくれるだろうか。
変わってくれなかったら… 僕は一体どういう行動に出るだろうか…。
ある日、静香は僕に相談することもなく、突然仕事を辞めていた。
そして僕は静香に理由を問いただした。
「疲れた ゆっくり休ませて」
そう彼女は告げた。僕は深く問いつめるのをやめた。
静香を傷付けてしまう恐れがあるかもしれない。
嫌われたくないが故に何も問わなかった。
「そうか、ゆっくり休んだ方がいい」
静香が仕事を辞めてから一ヶ月が経っても社会に復帰する傾向は一切ないままだ。
そしてある日、静香はリストカットしているところを偶然目撃した。
僕は気が狂いそうだった。なんでそんなことをするのか。
当然怒った。が、「あなたには関係ないでしょ」だけ言い残し すぐに家を飛び出してしまったのだ。
焦った僕は懸命ながら説得し、家に戻ってきてくれたものの、現状はさして変わらない。
またある日、どうしていいか分からず突然自暴自棄になり 彼女を思いっきり殴った。
殴った。 殴った。 殴った。
最初は愛情の鞭という感覚で殴っていたが、脳の裏に潜んでいた悪魔が目覚めてしまった。
不思議なことに殴っている間は 意外にも快感に近い、スッキリとした感情になれてしまったのだ。
彼女を殴ることに快楽を得てしまった。
そしてこの日から妻への強烈な束縛をついに実行に移した。
普段はちゃんと人間らしく、夫らしく妻と接し
彼女がリストカットしたり、僕の指示に従わなかったり、罵倒を口にしたら容赦なく殴りつけた。
最悪なことに暴力癖は改善されず、日が経つにつれて暴力は徐々にエスカレートしていった。
彼女が僕のことをどう思っているなんてもはや関係ない。
簡単に説明すると僕の暴力は麻薬をうって一時的な快楽状態になっているような感じだ。
どうせ僕のことなんてなんとも思ってないし、どうせ愛情の欠片もない。結婚する前の静香は消え失せた。
ただ人生のイベントの1つとして結婚し一緒に側にいてやってやる。感謝しろ。
始めからきっとそう思っていたに違いない。
そしていつのまにか僕が最も嫌っていた、してはならない暴力夫になってしまった。
静香は僕が怒り狂って殴っているときに これだけは大声でこう言っていた。
「ごめんなさい」