なんだかんだで穏やか
頑丈な氷を製作しながら早1週間、意外と早く頑丈な氷の製作が安定してきた。
元々氷を製作している人達だったからか、本当に十八番だったからなのかは不明だが、とりあえず厳しい基準を潜り抜けて建築材料として使える物だけがトンネルの材料になる。
そして俺が最も危惧していた事、太陽の熱と光は大丈夫なのか?っと言う部分だが、これも意外とどうにかなりそう。
熱に関してはこの大陸が元々年中寒いのでその辺は大丈夫。
光に関してはヤタがトンネルが出来た時に反射する様に魔法をかけてくれるそうなので大丈夫だそうだ。
維持の方は大丈夫なのか気になったが、1度覚えれば誰にでも使える簡単な反射魔法らしいので教えれば後は国の魔術師さんがきちんと管理すると言う。
1度かければ1週間は持続する魔法らしいので定期的にメンテする事が大事だろう。
氷だから融けてきたら大変だし。
俺達がこうして氷を製作している間にもスノーや王様たちによってどの町にトンネルを作るのかも決められた。
繋げるのは俺達がやって来たホワイトシーだそうだ。
あそこは物流でかなり輸入品が入ってくる場所でもあるし、輸出するためにもまずはホワイトシーと繋げた方が良いと判断したようだ。
と言う訳で記念すべきトンネル第1号はホワイトシーまでの13キロのトンネルを作る事となる。
予定されている氷の量は……やはりとんでもない量だ。この氷の大陸から雪がなくなるのではないかとちょっと危惧した俺なのだが、スノーと王様は笑ってそれはないと言われた。
魔法で氷を作る事だって出来るし、いざとなったらスノーが本気出すと言った。
スノーの本気はちょっと気になるが、今はその本気を見ずに済んでいるのが平和の象徴なのだろう。
所々細かい問題が出てはいるがそれでも何とかうまい事やっている。
建設の際には俺や勇者パーティーでトンネルを作る人達の護衛をするので後半は忙しくなると言われた。
それでもやりがいはあるし、並の魔物なら敵じゃないので油断しなければどうにかなるだろう。
そして現在の俺は勇者ユウガと試合をしていた。
「はぁ!!」
相変わらずユウガの剣は型の決まった綺麗な太刀筋だ。
ただ何と言うか、綺麗過ぎて次の攻撃がどうなるのかおおよそが付く。上段からの斬り下ろしから突き、細かいフェイントからの横一線などちょっと型にはまり過ぎているんじゃないだろうか?
ちなみに俺の魔石100%の刀の名は無銘にした。
ハッキリ言おう。カッコいい名前が思いつきませんでした!
そして俺の剣筋は……でたらめ殺法。
直感と戦闘経験から相手の攻撃を予測して剣を振るっているだけ。綺麗な感じは一切しない、生き残るための剣っとでも言うべきか。
型なんて一切なく、ただ防いでただ斬るだけだ。
適当な事言わずに武器系スキル取っておくべきだったかな……
「その直感であっさりと僕の剣を受け止めないでよ!ずっと努力してきたものを勘の一言で全部防がれるって結構心に響くものがあるんだけど!」
縦に横に、ユウガの剣筋が線を引いた様に俺の目に映る。
人間にしては中々のスピードだがスパーキングレオに比べれば遅い遅い。それにあいつ電撃系スキル持ちだからたまに電撃で目くらましとか平然としてくるからな。ユウガは素直過ぎる。
魔法やスキルで身体を強化しているだろうが速いだけじゃ俺には勝てない。
俺はわざと雪に深く足を突っ込み、蹴り上げた。
俺の靴の先に乗っかっていた雪はユウガにかかり、ユウガはほんの一瞬動きが止まった。俺はユウガの後ろに回り、ユウガを押し倒す。
ユウガは頭から雪に突っ込み、俺は後ろにいるのでじたばたと暴れるしかない。
「これで俺の勝ちっと」
このままだと窒息するだろうからすぐに頭から手を放した。
ユウガは勢いよく起き上がり、ゼーゼー言いながら俺に顔を向ける。
「なんだよあれ!あんなのあり!?」
「ありに決まってるだろ。地形を利用した殺し合いなんてよくある事だ。勝ちたきゃなんでも使え、そこら辺の石ころ拾って投げるだけでも攻撃になるんだからよ」
「うっくそう……」
無銘を肩に担いで言うとユウガは反論できなかった。
何と言うか、確かにユウガは強い。でもそれはルールの中と言うか、スポーツみたいな感じと言うか、剣だけで戦っている感じがする。
俺はあの森の中で生き残るために何でも使った。
それは罠とも言えない物だったり、そこら辺に落っこちている木の棒や石、挙句の果てに逃げるためにわざと他の動物にぶつかる様にしてから逃げた事もある。
必死さが足りないと言うべきか、命の危機感が薄いと言うべきか、とにかく何でも使って勝とうとする事があまりない。
だから俺は平然とそこら辺の物を使ってでも勝とうとするし、どんな汚い手を使ってでも生き残る。
それがあの森で学んだ事だ。
「勇者様。法王様からご連絡です」
「分かった、今行く!それじゃまた今度手合わせ頼む」
「お~いつでも来い」
そうしている間にジャンヌさんからユウガに連絡があったようだ。
俺の監視という名目もある訳だし、定期連絡の様な物とは違うのだろうか。
そう思っているとジャンヌさんは俺にも声をかけてきた。
「……意外と変わらないのですね。初めて会った時と比べて」
「そりゃ1年経ったか経たないぐらいですからね、人間そうそう変わりませんよ」
何て言うとジャンヌさんは俺の隣に座って言う。
「マルダから手紙などであなたと会った事は知っていました。ですがまさか黒騎士と同一人物とは思いもよりませんでした」
「あはは……出会った時はまだ目標なんてなくって、どんな目標を立てながら旅をするか考えてたところだったんですけどね。俺自身こうして真祖と仲良く暮らすとは思ってなかったですよ」
そう思っているとアナザが温かい紅茶を用意してくれた。
ティーカップは2つあり、俺の分とジャンヌさんの分とどっちも用意してくれていた。
「ありがと。そして自由に暮らしてみたいと思って飛び出したら、世界の敵になってました」
「飛び出したら世界の敵になっていたと言うのもおかしな話ですね。しかしあの謁見の間で言っていた事が真実ならむしろ世界の英雄になっていた可能性が高いのでは?」
「まぁその時は……とっくにアセナの事を気に入ってたから食う気はありませんでした。でも何も知らなかった俺は何となく仲間にした狼が真祖の1人とは思いもよらなかったです」
最初に出会った感想はちぐはぐな感じのする狼。それが今では嫁になっているんだから世の中どうなるか分からない。
そしてマコトの依頼から始まってアセナの妹達、トヨタマヒメ、ヤタガラス、アスクレピオス、そしてスノーの4人までは開放する事が出来た。
あと1人開放すれば一応一段落だ。
「……知った後恐ろしくはありませんでしたか?相手は人類がどれほどの犠牲を払っても勝てないと言われた真祖の魔物。私達の先祖は封印と言う形で勝利を収めたと言いますが、こうして現在も生きています。彼女らを恐ろしいと思った事はありませんか?」
そう言われてアセナ達の事を考えてみると……
「特に何も。恐いって感じたことはありませんね」
「1度も感じた事がないのですか?本当に?」
「そう言えばありませんね。確かに初めてアセナの本当の姿を見た時は驚きましたが……恐いと感じたことはありません。むしろ神々しいと感じました」
初めてアセナの真祖としての姿を見た時、俺は見惚れていた。
その美しさに、その神々しさに、その……誇り高さに。
アセナと出会った時の事はいつでも思い出せる。あれ程衝撃を受けたことはない。
アセナの姉妹であるトヨヒメ達も美人なのだがアセナほどの衝撃はない。恐らくアセナ以外にこんな気持ちになる事は二度とないだろう。
「……本当に彼女の事を愛しているんですね」
「好きじゃなきゃ一緒に居ませんよ。さて、そろそろ城に戻りますか」
尻に着いた雪を払ってから俺は立ち上がる。
ジャンヌさんも立ち上がって共に城に戻るのだった。




