素材製作中
こうして俺の案に乗った国家事業。いや~我ながら頭の悪い事を言った気がするな~っという感じだったのだが、どういう訳かとんとん拍子で進み、かなり現実的な事になってしまった。
これ絶対に失敗は許されないって奴じゃん。働く大人のドラマで何度か見た事あるよ。
と言っても今さらやらない訳にもいかず、俺は外の良質な雪をひたすら氷のブロックに変えていた。
今作っているのは縦10センチ、横15センチの長方形のブロック。
まぁ他にも色々と1センチ単位で大きさを変えたブロックを製作中。どれがトンネルを作るのに最適なのか調べるために色々頑張ってます。
「はいこれ、またジャック達に持って行っておいて」
「分かりました」
そう言って持って行ってくれるのは国の魔術師研究員さん。
彼らも氷の耐久性実験を手伝ってくれてたり、量産するにはどれがいいのかなどを手伝ってくれている。
それに話によると、国王の名により外国に氷を売るために作っている業者に連絡を入れているそうだが、かなりの数が揃っているそうだ。
自分達が作った氷が国の事業に使えるのであればと積極的に協力してくれている。
とりあえず今日の分の氷は作り終えたのだが……次は何をするべきか。
スノーと国王により誰がどの仕事をするのかきちんと振り分けられているし、俺が急にどこかの部署で手伝ったりしたら逆に迷惑になるのではないだろうか?
なんて考えながら雪原の上で寝っ転がる。
「タツキ、結局君は一体何がしたいんだい?」
ふと俺の顔を覗き込みながら勇者が現れた。
ユウガは俺の監視と言う名目があるので基本的に俺と行動を共にしている。アナザも俺の側にいるのだが……基本的にスライム状態だ。
俺が頼みをした時、アセナ達の誰かに協力を頼まれた時などはメイドになるが……基本的に俺の言う事しか聞かない。
アナザがアセナ達のお願いを聞くのは俺がそう頼んでいたからだ。まぁアセナの場合は俺の妻と言うポジションだからっと言う理由もあるらしいけど。
ちなみに現在のアナザはスライム状態で俺の枕になっている。
低反発枕と言うべきか、大きくて柔らかい水枕とでも言うべきか、とにかくとも気持ちいい枕である。
「何がしたいと言われてもな……スノーの無茶振りに必死に答えようとしているだけだが?」
「……君は確かに言った。真祖の力を手に入れる事だと。そのための手段は選んでいないのになぜ人助けをするんだ?あの炎の悪魔の時も」
「ん?炎の悪魔って……あ~ユーラニアの時の事か?あれは俺だってあんな事が起きるとは思ってなかったぞ。それに人助けと言うが俺が助けようとしたのは子供達と一緒に居た教師だけ、あとは全部おまけだ」
「……おまけの方が人数が多い気がするけど。結果的に見れば君は国1つを既に救っている様な物なのに」
「そりゃおまけだからな、不特定多数になるのは当然。ただ誰を助けたかったかって聞かれたら、ほんの4人だけだよ」
と言うかそんな風に評価されてたのか俺?
全く知らなかった。
「君は……タツキは僕よりも大きな力を持っている。その力を世界のために使ってみようって思ったりしないの?」
「世界のためってこれまた壮大な。俺はそんな世界規模の事を考えられるほど頭良くねぇよ。出来るのは精々目の前の好きだって恥ずかしげもなく言える連中を守るだけだ。それ以上は手が届かないし、守り切れる自信もない」
「それでも僕よりは手が届くはずだ!僕より……強いんだから」
自信なさげにユウガは言う。
俺は起き上がってアナザを抱きながらユウガと顔を合わせて言う。
「別に力に拘らなくてもいいんじゃないか?まぁ確かに力がある方が守れるってのは否定しないけど」
「拘らない?力がないと守れないのは否定しないのに?」
「だって俺の力はありとあらゆる魔物の力を集めて出来たキメラみたいなもんだぞ。お前の人間としての力とはかなり違う。ジャンルが根っこから違うんだよ、大間違いだ」
「そこまで違う?力なのに」
「全然違う。俺のは魔物としての力、ユウガのは人間としての力だろ?人間やめたら勇者って言えなくなるんじゃねぇの?」
仮にユウガが俺と同じ力を持っていたら、勇者として慕ってもらえる事はなかったんじゃないか。
人間が憧れる力は人間のまま得る事の出来る力だと俺は思う。
「前にも言ったが俺の力は魔物の力を奪うと言う形で努力だなんだって所をすっ飛ばして得た力だ。その代わりに俺は人間と素直に言える物ではなくなった。でもユウガは人間が力を手に入れられるやり方、努力で力を得たんだろ?ならその方がずっといい」
「……人間が力を手に入れられるやり方…………」
「俺はもう二度と人間に戻れないが後悔はない。俺が惚れた相手は人じゃないし、アセナも人間じゃなくて俺個人を好きって言ってくれるわけだしな」
何て言って笑わせようと思ったが……そんな雰囲気じゃないな。
何か真剣に考えて、ユウガは何か確信したように頷いた後言った。
「確かに僕が人間やめる訳にはいかないよね。僕は人間の勇者なんだから」
「それでいいんじゃないか。それで」
「そしていつか必ずタツキの事を人間の力で超えるよ。いつだって最後に勝つのは人類なんだから」
そう強く言うユウガに俺はつい笑った。
大笑いだ。
「そ、そうか。物語じゃそうだもんな、そりゃそうだ」
「と言う訳で暇ならちょっと勝負しようよ。少しでもタツキに追い付けるようにしないと」
そう言って聖剣を抜くユウガに俺も立ち上がった。
「この間コテンパンにされたのに懲りてねぇのか。ならばこの化物の力を勇者に見せつけ――」
「タツキさーん!ちょっと氷の事で相談がー!!」
なんだか楽しそうな喧嘩になりそうな雰囲気だったのに、アスクレピオスに止められてしまった。
俺達は渋々拳と聖剣を収めてから聞いた。
「どうしたアスクレピオス。やっぱり強度足りなかったか?」
「いえ、想定以上ですよ!!この強固な氷の作り方を製造班が聞きたがっているんです!今すぐ来てください!」
「分かった分かった!とりあえず手を引っ張るな」
俺の手から降りたアナザもメイドの姿になって静かに追いかける。
ユウガも当然俺と一緒に行動する。
アスクレピオスに案内されたのは氷の耐久実験をしている場所。職員らしい魔法使い達に混じって屈強そうな冒険者と思われる人が混じっているのは何でだろう?
「それで何か問題が起こったのか?」
「問題と言うか何と言うか、この氷の耐久性は十分に壁として使用できそうなんですが、他の魔法使いの方が上手く再現できなくて……なのでどのように作ったのか1度拝見したいそうです」
「あ、そう言う事」
ただ俺の作った氷の再現に苦労していたと言うだけの話か。
まずはどのように作っているのか魔法使いの人に見せてもらおう。
「それでみなさんはどのように作っているんですか?」
「わたくし共はこのようにまず水の魔法で水球を生み出し、その後魔法で形を整えながら凍らせているのです」
「あ、俺とはだいぶ違うな。俺は最初から雪の状態から作ったからな……それじゃ俺の作り方を教えるな」
と言っても俺の場合はスキルを使用してなのでどこまで参考になるかは分からないが、一応手本としてやって見せよう。
「今回は水の状態で作るけど、簡単に言うと水の中にある空気を抜きながら氷を作るって言えば分かりやすいかな?空気は水の中にも混じってる」
「空気が水の中にあるのですか?」
「君達が作った氷の方が分かりやすいかな。その白くなっている部分が氷の中の空気だ。氷の中に無数の小さな空洞が開いているから脆くて壊れやすい。俺が作っている氷はその空気を100%に近い空気を抜いて作っているから頑丈になるんだ」
「この白い物が水中の空気だったのですか!確かにタツキ様の作る氷には白い部分がありません」
「ちゃんとした鉱物とかだったから空洞になっていても問題ないだろうが、これは氷だからな……まぁ一応だ。後はゆっくり凍らせるのも手段の1つだ。俺の場合はスキル頼みだから簡単にできているけど、魔法だとまた手順も微妙に変わるだろうからな。しっかり確実に行こう」
「「「「「はい!」」」」」
研究者魔法使い組はこれで良さそうだが……後ろの屈強そうな冒険者たちは何してんだ?
「所でアスクレピオス。あっちの魔法使いっぽくない人達は?」
「あっちはジャックさんが雇った氷を外国に売っている人達ですよ。あの人達は氷を作るんじゃなくて耐久性を確かめるために雇ったそうです。経験不足を補うためって言ってました」
「なるほど。それでヤタは?あいつはどこ行った?」
「ヤタちゃんは作った氷に太陽の光に近い光を当てて、どれぐらいで溶けるか確かめてもらっています。ちょっと飽きちゃってますけど……」
「急ぎの用事なのは分かるけど無理のない範囲でな。溶けるのじっと見るだけって根気要るだろ」
「ヤタちゃんは動き回るのが大好きですから。たまに遊んであげてください」
「だな。アスクレピオスもジャックも普段から研究してるから問題ないかも知れないが、休む時は休めよ」
「分かりました。他の研究者チームにもそう言っておきます」
「よろしく頼む」
どうせ秋までに完成させるという大掛かりな事業なのだから焦り過ぎるのもダメだろう。焦って脆い物を作っては元も子もないからな。
適度な速度で頑張っていきたいと思う俺であった。




