真祖封印は訳ありだったらしい
「――っと言う事でこの場で仲間を増やしていた俺なのでした。まる」
思っていたよりも長い回想をユウガたちに説明したのである。
その表情は悔しさや驚きなどが混じった面白い表情となっていた。まるでそんな可能性を想像していなかったとでも言えばいいのか、とにかくただただ驚くばかりである。
そして俺は本命を待っていた。
アセナ達の奥から歩いて来るのは、白銀の髪にトヨヒメのような深い青ではなく爽やかな空の青の瞳をした美女。スタイルは黄金比と言えばいいのだろうか、豊か過ぎる訳でなければ貧相と言う訳でもない。髪も肩まで伸ばし、邪魔にならない様にしている。
真っ白な石で彫刻をするのであれば、誰もが望むのはこういう女性だろうと分かる。
そしてその頭には特徴的な猫耳と、綺麗な細い尻尾がドレスから現れていた。
「思っていた以上に美人じゃないか、スノー」
「ふん。当然でしょ。私が真祖の中で1番綺麗なんだから」
自信満々に言うスノーの肉声は心地いい。今までは念話だったので直接耳に入るスノーの言葉は新鮮だ。
この姿であれば傲慢な態度も頷ける。
「それで結界の方はどうなったんだ?」
「もう止めたに決まってるでしょ。力の無駄遣いでしかないんだから」
もう既にこの国の結界は解いてしまったらしい。
その結果に驚いていたのは何故だか国王だ。その表情は既に青ざめており、唇まで青紫になっている。
国王はユウガや俺に気にする事なくスノーに向かって土下座をした。
「女神様!どうか、どうか結界を再びこの地に張り直していただけないでしょうか!!」
………………あれ?この国の人達ってスノーの結界のせいで苦しんできたんじゃないの?
俺どころかユウガたちも理解しきれていない事情があるようだ。
国王に対してスノーはその横を通り過ぎ、玉座に座って足を組んだ。その姿はまるで最初からそのためにあるかのようにしっくりくる。
国王は慌ててスノーに向きなおす。
「何故そんな事を願うの?これからこの島は本来の形に戻ると言うのに」
「本来の姿など我々には分かりません。ですが、我々にとってはこの雪の大地こそが本来の姿なのです!しかし女神様が結界を解除してしまえばまた国を一からやり直す必要がございます!その苦労は代々王族に、国民たちに伝わっております。どうかご慈悲を、我々にとってはこの島の今こそが本来の姿なのです!!」
どうやら国王はユウガの様にただ開放してはならないと思っていた訳ではないらしい。そう言えばこの国の成り立ちを聞いた時に行ってたな、平穏を望むって。
それは国を変えないと言う意味ではなく、現状を維持したままこの国を続けていく事だったらしい。
「真祖様がこの地を離れてしまえば再び我が国に宝石狙いの他国の者が侵略しに来るでしょう。それを防ぐには真祖様の結界が必要なのです!あの厳しい吹雪が必要なのです!残念ながら他国に比べてこの国の武力は乏しい、ですがあの雪の中を利用した戦術であれば他国に負ける事はありません!なのでどうか、今一度結界を張っていただけないでしょうか!」
なるほど。あの吹雪があったからこそ戦争が起きないか。
なんだかんだで本当に、良い事と悪い事と言うのは重なっている様に感じる問題だ。
良い事はこの国を攻め込むにはあの吹雪を突破する必要がある。しかし突破する力がないから攻め込めないっと言う良い事。
悪い事はこの吹雪の中で生きていくことが難しい事。春から夏までは今のような比較的落ち着いている方だろうが、再び冬が来ればまた食糧難に陥りやすい事っと言う悪い事。
中々考えさせられる問題だ。
厳しい代わりに戦争のない世を選ぶか、優しい代わりに戦争が起きるかもしれない世を選ぶか。どっちかしか選べなかったと言う事か。
それを聞いたスノーは女王の様に言う。
「この国の現状は猫の姿で見続けて来た。とても厳しいものだと感じたがそれを望むと?」
「はい。我々には戦力がありません。今楽になっても必ず戦争と言う名の脅威に立ち向かわざる負えなくなるでしょう」
「……毎年冬には力のない者から倒れて凍ていくのがよいと?」
「そのような事は思った事はございません!しかし戦争となればそれ以上の命が散る事になるでしょう。それは避けられる脅威かと」
「……その現状を回復させる手立てはあるのか?腹を空かせてなく子らが、食い扶ちを減らすために自ら去る老人が、減る努力はしてきたか?」
「……申し訳ありません。どれも失敗に終わりました」
どうやらすでに国王はいろいろと試していたらしい。
いや、この国の歴史単位での話か。氷に閉ざされた直後から続けてきた努力なのかも知れない。
俺達は黙ってスノーと国王の会話に任せるしかなかった。
どう考えても邪魔はできない。
「タツキ。あなたならこの危機を回避する方法を知らない」
突然話を振られた。
俺そんな国の危険を回避するアイデアなんてないんだけどな……
「スノー。いくら俺でも出来る事とできない事がある。国1つ救い出すアイデアなんてすぐ思いつかないぞ」
「タツキは異世界人でしょ?何かないからしら」
「現状の問題すら知らない俺に何が出来ると?と言うかスノーはどうしてそこまでこの国に肩入れする?俺はてっきり本体を取りかえしたら家に帰る物だとばっかり思ってたぞ」
そう聞くとスノーはどこか遠くを見ながら言った。
俺の顔に向いているが、見てはいないと言う不思議な感じだ。
「ちょっとね。昔約束しちゃったのよ、無邪気な女の子にね」
そんな事を言った。
これはこの国の現状をちょっとでもよくしないと帰る気はなさそうだ。
「はぁ、分かったよ。協力はするけど期待はすんなよ。所詮素人の浅知恵なんだからな」
そう言うとスノーは心から嬉しそうに笑った。
その笑みはアセナが始めて安心して笑った表情によく似ている。
「ありがとう。国王、今すぐ問題点を集めなさい。明日から問題を全て洗い直すわ。大臣や貴族達も呼びなさい」
「は!……しかしその、女神様」
「なに」
「結界の点はどのようになさるのでしょうか」
あ、忘れてた。
スノーが居なくなって吹雪がやんで他国から攻め込まれるんじゃないかと言う点が1番恐れていたんだったな。
するとスノーはため息をつきながら言う。
「最初に言ったでしょ、無駄だって」
「それはどのような意味でしょう」
「この大陸は私が温かくして暮らしていた頃よりだいぶ北に移動したわ。だから私が結界を張る必要がないぐらい北の方に移動してしまったの。だから私の結界がなくても吹雪は毎年来るわ」
あ、もしかして地殻変動か。
この大陸は本来もっと南にあったのに、地殻変動によって北の方に動いてしまったのか。
って地殻変動ではっきりと北に移動したってどんだけ生きてるの?そりゃ神様扱いされるわな。
と言うか何で女神様?
「ではこれからも吹雪が」
「来るわよ。タイムリミットは来年の秋まで、急ぎなさい」
「は!!」
「ってツッコミ入れさせてくれ。そこで呆けてる勇者達はどうするんだよ?」
俺はユウガを指差しながら言う。
いつの間にか国王よりもスノーが偉くなってしまったようでスノーが判決を言う。
「邪魔をするなら追放、手伝うのであれば滞在を許可する。どうする負けっぱなしの勇者」
スノーがユウガをからかうように言うとユウガは迷っている。
「わ、悪いが現状について行けない。返答はもう少し待ってくれ」
「そう。でも忙しくなるから判断は早めにお願い。私やタツキたちの邪魔をするのであれば永遠に封じさせてもらうわ」
スノーは本気で言う。
それにビビったユウガは何度も頷き、ここでは暴れずに大人しく下がった。
そう言えばユウガの奴どう上の人に連絡するんだろう?真祖復活に失敗しました、その真祖がホワイトフォレストの支配者になりました?
……大目玉食らうな。
「タツキ、アセナ姉も早く寝るわよ。これだけは私、本気だから」
有無を言わせない態度に俺達も頷く事しか出来ないのだった。
また2日ごとの投稿に戻ります。
ご了承ください。




