ネタバレ
久しぶりの三連投稿は大変だった。
それは昨日の夜の事である。
俺はスノーに頼んでこの国で最も人目の付かない場所に案内してもらった。
そこは人気がないのは確かだが、妙にしっかりしている。俺はてっきり人の来ない国外の森とかに行くものだと思っていたのだが、ここは氷でできた洞窟の様になっており、この城の隠し通路から先の思っていた以上に立派な所だった。
「ここは一体どこだよ?絶対国に関係する場所だよな?」
『ここは歴代国王のお墓よ、それからその家族ね。これから行くのはその家族の1つで特に大きな場所だからそこならバレないと思う』
「特にって……それって国父とか言う様なスゲー人じゃねぇの?」
『まぁこの国を支えたって意味では近いけど……その子は女の子だから問題ないわよ』
性別の問題ではないと思うのだが……
そう思いながらも進むと1番奥は2つの道に分かれていた。スノーは迷いなく左側の道を選び、俺も続く。
巨大な氷でできた扉をスノーが触れると自然と開いた。どうやら元々スノーには個々の開け閉めが出来た様だ。
その中にあるのは確かに墓と言うのが相応しい。全て氷でできた部屋っと言う点に関しては謎過ぎるが、確かにここは誰かのために作った墓室であり、氷でできた棺も女性の絵が描かれている場所の下にある。
しかも氷でできているだけではなく、魔法なのか常に日が当たって輝く様に明るい。
他の石造りの墓室と違ってとても綺麗な墓室である。
スノーはその棺の上に飛び乗り、俺に聞く。
『それで人目を避けて何をする気なの?』
「なにって悪魔の召喚だよ。正直墓室でする事になるとは思ってなかったけど」
『悪魔って……まさかずっとタツキにくっ付いてるそれ?』
「そうそう、この悪魔。今もくっ付いてるんだよな?」
『それは……確かにくっ付いてるけど……』
スノーは渋るように言う。
そりゃ墓室で悪魔を呼び出すと言うのは悪役としてはピッタリかも知れないけど、スノーがこの墓室を開け締めできた事から察するに、何らかの関係があったと見るべきだろう。
そこで悪魔を召喚すると言うのは当然嫌だろう。
「やっぱ別な場所でするか?スノーにとってもここは汚されたくないだろうし、何ならどっか適当な墓室で――」
『それは駄目。なんだかんだ言って王族の墓よここ。当然墓泥棒に入られないように厳重な魔法が張り巡らされている。この墓室以外でやったら確実にバレるからダメ』
「でも……いいのか?その女性はスノーとなんか関係が……」
『あるけど気にしなくていい。とっくに死体は朽ちてるし、魂だってとっくに輪廻の輪に入ってる。ここにあるのはただの思い出、誰にも汚せないし犯せないわ』
「……それじゃするぞ?」
確認を取るとスノーは頷いた。
一応許可は貰ったと言う事でこの部屋の中心で召喚を行う。まぁ今回の場合、召喚と言うよりは俺に憑りついている悪魔に肉体を与えると言う方が正しいのだが、まぁ契約を結ぶのだからそう大差はないか。
そう思いながら俺は墓室の中心で準備を始める。
以前調べた悪魔の召喚方法はとても簡単である。
最も手っ取り早いのは円を描いてその中心にその悪魔の肉体となる贄と魔力を消費するだけだ。
今回俺に憑りついている悪魔と契約するのでこの簡易版でいいだろう。どんな悪魔を召喚したいかなど選ぶ必要はない。
想像と違ったらまた別な悪魔でもちゃちゃっと召喚しよう。
今回の贄は俺自身っと言う訳ではなく、ソニックドラゴンを召喚した時の様に俺のクローンもどきを使って悪魔の肉体として使用してもらう。
魔力は普通に消費するだけだし……後は悪魔ご本人が気に入ってくれるかどうかと言う所か。
「スノー。俺に憑りついてる悪魔は興味を持ってるか?」
『ものすんごく興味を引いてる。と言うか悪魔としてはこれ以上ないぐらいの肉体じゃない?形状も自由、そこら辺の魔物よりも優秀。と言うかアセナ姉やアスクレピオス達の力は入ってるの?』
「そこは……ちょっと怖いから止めといた。でも俺が今まで手に入れてきた魔物の力だけは引き継がせてる。ないのは真祖の力だけだ」
『はぁ……魔王を超える悪魔が誕生する瞬間に立ち会っちゃってるかも私』
ため息をつきながら言うスノーに対して苦笑いを浮かべる俺。どれだけ格の高い悪魔だか分からないが召喚すればわかるだろ。
なので俺は自分の血を使って円を描き、その中心に俺のクローンを投げ入れた。
これで準備完了。他にも悲鳴だとか負の感情など必要と聞くが、まぁ別にいいか。
「そんじゃ命令だ悪魔、俺の魔力と肉体をやる。だから俺と契約しろ!」
そう言った瞬間だった。
俺のクローンが浮き、心臓に向かって丸くなっていくかのように……いや、引き込まれるように手足が不自然に動く。そして俺の血で描いた円も引き込まれ、ぐちゃぐちゃと音をたてながら丸くなっていく。
最終的に浮かんでいるのは……漆黒のスライムである。
………………スライム、だよな?
丸っこくて、雫の様に綺麗な球体で……目や口があるようには見えない。
色はヤタの羽よりも黒く、光る事がなければ全ての光を吸収しているかのように真っ黒だ。凹凸があるのかすら分からない。
…………………………
「あれ?俺もしかして失敗した?間違えてスライム召喚しちゃった?」
『えっと……珍しいけどそれは確かに悪魔よ。自らその形になったみたい』
「自らって手も足もない、コミュニケーションすら難しいスライムに?俺が頼みたい事出来るのかな?」
何て不安がよぎっていたのだが、突然スライムはぐにょぐにょと形を変えたと思うと、そこには思いっ切り日本人顔の女性がメイドの姿になった。
フリルだとかリボンだとか、そう言う男に媚びる様な可愛いファッションではなく、むしろ地味でいかにも作業服ですっとでも言いたげなメイド服である。
悪魔は俺に向かって膝を付けたまま口を開いた。
「初めまして召喚主。私は悪魔、特に名はございませんのでご自由にお呼びください」
「お、おう。そうか。所で……女性なのか?」
「一応はそのように分類していただいて結構です。悪魔に性別はありませんが……精神的な部分では女性に近いのでこのような形を取らせていただきました。男性の姿がいいと仰るのでしたらそのように変えます」
「いや、容姿は好きにしてくれて構わない。その前に……何でスライムの形してたの?まずそこ聞かせて」
最初っからこの姿だったら召喚に失敗したとか思わなかったのに……
「もとより我々悪魔は形のない魂だけの存在でございます。ですのでまずは形のないスライムの形状をし、その後マスターの好みに合わせた姿になった次第です」
あ、それ俺の好みだったのね。俺がメイド好きだとは思ってなかった。
「それは従者としての示しでございます。何なりとご命令ください」
思っていた以上に従順だ。
俺はスノーに向かって聞く。
「なぁスノー。俺の中の悪魔のイメージって、こう、隙あらば召喚者を殺すとか、契約の穴を使って好き勝手に暴れ始めるイメージがあったんだが、何でこうも従順なの?彼女がこういう性格なの?」
『細かい所は性格でしょうけど……十分な対価を悪魔に差し出したからだと思うわよ。そのイメージは間違っていないけど、ほとんどの場合が契約の内容に対価が不十分な場合が多いし、対価を十分にもらえているのであれば大人しい個体は大人しいわよ』
「私はその類です。何よりこの肉体とマスターの魔力は極上の品と味。何なりとお申し付けください。大抵の事は完遂して見せましょう」
つまり俺があげた俺のクローンの身体と魔力は対価に十分だったと言う事か。
それじゃ遠慮なく依頼しよう。
「俺達はこれから真祖の解放を行う。この地で眠る獅子の真祖だ。その解放の手伝いをしてもらいたい」
「純性の魔銀の破壊がお望みでしょうか?」
「それはジャック、もう1人の人間に頼むから問題ない。問題はそのジャックに成りすましてほしいと言う所だ」
「姿を真似ればよろしいでしょうか」
「人間にバレない様にしてくれればいい。恐らく国王は俺とジャックをどこかに閉じ込める事で真祖の解放を防いでくるだろう。だから俺とジャックを捕まえに来た際に、ジャックの代わりに俺と一緒に捕まって時間稼ぎをしてもらいたい。所でこの依頼に対して対価は十分か?」
そう聞くと彼女は困った顔をする。
「その場合私が頂いた対価に対して大きく下回っております。魔力だけでも十分な願いです。他の願いはありませんか?」
「え?他?今の所は……ないな。ないよね?」
『タツキが召喚した悪魔なんだから好きにしなさいよ。それに今回の作戦じゃそれで十分だし』
スノーはそう言うが……好きにしろと言われてもな……
ん~願い……願いか……
「やっぱり特にないな」
「そんな……私は高位の悪魔なのです。このまま対価に対して不十分な働きでは私の方が嗤われてしまいます。受肉し、十分な魔力もある今でしたら世界を滅ぼす事も可能です」
「そんなの望んでないから」
「失礼しました。ですが他に望みを言っていただけないと……」
な、なんて生真面目な。こんな悪魔俺知らない。
となるとそうだな……
「それじゃ……メイド!メイドさんとして俺に仕えて欲しい!」
「マスターに仕えるですか?それは当然の事なのですが」
「その対価の見合うだけの時間俺に仕えて欲しい。もしくはスライム状態でペットにする!!」
『悪魔をペットって。それ屈辱じゃない?』
「え?ダメ?スライムのペットって異世界ファンタジーじゃよくある事だと思ってたんだけど……」
『だからそれは本物のスライムじゃなくて悪魔だって言ってるでしょ!』
だって他に言葉が見付からないんだもん!
俺には既にアセナが居るから嫁は要らんし、アセナの姉妹を解放してるから家族もいっぱい、となると残ってるのはペット枠なんだよ!
それにヴィゾーヴニルが聞いたら怒りそうだしな……勝手に使用人増やしたとかで。
そう思っていると悪魔はとても満足げな表情で頷いた。
俺の足に付きそうなぐらい近付いて言う。
「ではマスターが寿命を終えるまで永遠の忠誠を誓います。その証として是非マスターの足の甲に忠誠のキスを――」
「そんな事しなくていいから!汚いでしょ!」
「も、申し訳ございません!ですが受肉したばかりの私の口は常に魔法で洗浄を――」
「そうじゃなくて靴の方が!」
「でしたらぜひ私の口で洗わせて――」
「しなくていい!他の形で忠誠を誓ってもらうから!!」
な、何で俺の周りはこうもキャラが濃いんだ?しかも出て来たばっかりの悪魔まで……
俺はちょっとため息をついてから悪魔は正座して大人しく待っている。
何と言うかやっぱりペット感覚が強い気がするんだが?なと言うか、忠犬がお座りして尻尾振りながら待っている様に見えるんだが?
「アナザ。お前の名前はこれからアナザだ。この名前を名乗る事こそが俺への忠誠の証としろ。これでいいか?」
そう言うと悪魔は一瞬呆けた後。
綺麗な顔に涙を流しながらうっとりとしたように言う。
「アナザ。私の名前……ああ、我がマスター。何と甘美な名を頂戴いたします。アナザ、アナザ……」
あれ?ここって泣く所?
まるで好きな人に名前を呼んでもらえたヒロインを軽く超える表情でうっとりとし続けながら涙を流す。
どう言う事だろうとスノーに聞こうと思ったら、先にスノーが言った。
『あの子の事、一生面倒見ないとダメよ』
「え?そりゃ面倒は見るけど……何で念を押すように言うんだよ?」
『悪魔って言うのは自分が認めた主に名をもらう事が至上の喜びらしいわよ。タツキは軽い気持ちかも知れないけど、あのアナザにとってはとても重要な事だから先に言っといただけ』
………………名付け親って言葉があるけれど、そこまで重要とは思ってなかったな……




