勇者パーティーVS俺
斬りかかった国王の剣を俺は巨大な刀で受け止めた。
何となく作ってみた超巨大な刀は、佐々木小次郎の持つ物干し竿と言われる刀をイメージして作った刀だ。
現状名前は考えていないが……そのまんま物干しざおじゃカッコ悪いから色々思考中。
別腹から取り出して受け止めたこの刀は、ついこの間まで俺の鎧として使っていた純度の高い魔石をそのまま変質で形を整えた刀であり、めっちゃ長い。
何となく鎧を使わなくなったらもったいないし、このまま作り変えてみるかと思ったからだ。
刀身から銘の部分まで全て漆黒の刀。柄の部分はなく、むき出しの斬れる鉄を握っている様な感じだ。
黒すぎて夜に振るうと、どこが刀身なのか分かり辛いのか難点と言える。
100%魔石製の武器は相当な性能と聞いているが……納得である。
受けたはずの俺の刀が国王の剣を何の力も必要とせず、空気でも切ったかのような軽さだったからだ。
これに驚いたのは当然国王の方。折れるではなく斬れると言う形で武器を失ったのは初めてだろう。
国王は跳んで下がりながら斬られた剣を見る。
「……武器までもが異常か!」
「いや~俺も初めて使う訳だけど、マジで魔石100%って本当に凄いのな」
俺は刀とは言えないのではないかと思いながらも見る。
これほどの切れ味であればどっちかって言うと武器と言うより兵器である。ライトセ〇バーも目ではない。
「ルフェイさん!合わせて下さい!!」
「分かってる!!」
そう言って人魚姫に合わせてルフェイが魔法を放つ。
物理攻撃がダメならっと言うのはよく分かるが、俺はトヨヒメの電撃を利用して水を電気分解して見せた。それにより小規模の水蒸気爆発が起こったように見えたが気にしない。
あっさりと魔法を分解した後はジャンヌさんが槍を持って俺に突きを出して来る。
だが俺の刀ではリーチの有効性を発揮しきれない。刀そのものが槍のように長いのだから当然である。
しかも普通なら武器の方に振り回されてしまうかも知れないが、俺の筋力などでそんな事が起きはずもない。
俺は槍をみじん切りにした後掌底をジャンヌさんの鳩尾に決める。
これでジャンヌさんはアウトっと。
「はぁ!!」
そして残っているジョージさんはジャックと戦闘中。
ジャックは身軽にジョージさんの剣を避けながら、隙を見て攻撃をするヒットアンドアウェイを繰り返す。
ただ殺すなと言っているからかやり難そうだ。
「タツキー!!」
そして最後に向かって来たのはユウガ。
聖剣を俺の刀で受け止めてみたが、聖剣が刀にぶった切られる事はなかった。
ようやくまともな勝負ができると思い、俺は真面目に戦う。
ユウガの剣の技は俺と比べてはるかに上だ。
マコトから勇者らしいスキル一式をもらったようだし、その中にはおそらく剣に関するスキルを持っていると考えておいた方が良いだろう。
王道な強さを求めるユウガはとにかくやり辛い。
バランスに特化したタイプと言えばいいのか、隙があまりなく攻め辛い。
そしてルフェイの付与系魔法と人魚姫の水弾がユウガに当たらない絶妙な位置から狙ってくるので中々の連携だ。
復活したジャンヌさんはユウガに合わせる様に予備の槍を使って攻撃してくる。
王様は俺とユウガたちの戦いを見て指示を出す。
何と言うか……王様はそうしてる方が王様らしいよ。結構的確な指示だからちょっとやり辛さが上がったし。
「タツキ!もう真祖の解放なんて止めるんだ!他にも強くなる方法はいくらだってあるだろ!」
「残念だけどなユウガ。俺はこの進化に不満はないし、俺が望んで行なった事だ。今さら他の方法なんて選ぶ気はない!」
でも所詮は人間と化け物の戦いだ。ポテンシャルが違い過ぎる。
恐らくユウガたちは既にスキルや魔法をすべて投入して戦っているのだろうが、俺はスキルを使ってなければ魔法も使っていない。
つまりまだまだ余裕があると言う事だ。
現状でほぼ互角の様に感じているかもしれないが、俺はほんの少しだけ力を使う。
今回使うのは真祖、アセナの力だけ。しかもその一端のみ使用する。
それはただの身体強化のように感じるし、見た目では全く分からない変化だ。
俺はアセナの機動力だけでほんろうし、つたない剣捌きだけで圧倒する事が出来る。
もう既にユウガは俺の動きについて来れていないし、目で追っているつもりだろうが追い付けていない。
全員から離れた所で止まって聞く。
「お前らは俺を殺して万々歳かも知れねぇが、俺は別にお前らを殺す理由がねぇんだよ。いい加減この結界解いてくんない?」
俺の声に反応してユウガたちは慌てて俺に振り向く。
これじゃ一生俺には勝てそうにないな。肉体の機能が違い過ぎて全くついて来れていないじゃないか。
ユウガは聖剣を俺に向けながら言う。
「そう言う訳にはいかない!せめて、せめてこれ以上真祖が解放される事だけは阻止しないといけないんだよ!」
「そりゃ魔物が人類にとって天敵なのは理解してる。でも俺と似た様な戦闘経験しかないお前が俺に勝てるのか?とっくに人間を辞めている俺に。そして俺はまだ真祖の本当の力を発揮してないぞ」
「それじゃ逆に聞くけど、何で僕達を殺さない。殺せるんだろ?」
「そりゃ心情的な問題さ。ジョージさんやジャンヌさんは1度助けた相手を自分で殺すのはなんか嫌だし、人魚姫もそれに含まれる。ユウガとルフェイは……まぁまだ友達だからって事で」
最後の方は曖昧な感じだが嘘ではない。
元々身内には甘い俺なのだから、多少友達宣言した奴に甘くしてもおかしくはないだろう。
ユウガは少し驚いた表情をしているが、それでも剣を下ろす事はない。
「まだ友達って思っててくれてたんだ」
「まぁ別にお前とつるむのは嫌じゃなかったし?同郷のよしみって事でどうよ?」
「それなら僕は全力を出さないと、友達を止めるために」
そんな熱い展開でもないと思うのですが?
そう思っていてもユウガのテンションはマックスになったようで強くルフェイと人魚姫に指示を出す。
「ここから先は僕が1人でやる!出来る限りの付与魔法を僕に!!」
「わ、分かりました!!」
「……」
ユウガの身体は様々なバフ効果を乗っけたからか輝きだした。
そして俺に向かって言う。
「これが僕の全力だ!!『限界突破』!!」
その動きは確かに人間の身体能力を凌駕していた。
この時俺は素早く本気を出す。変質による肉体的な変化だけではなく身体強化のスキルも使う。
恐らく武器の質は同等、ならばあとはどちらがうまく使いこなせているかだ。
俺とユウガの剣と刀による斬り合いが始まった。
俺はリーチの長さを生かした中距離による槍に似た戦法、だが決まった型はなくがむしゃらと言っていい。ユウガは型の決まった綺麗な騎士の剣技で俺に距離を詰めて懐から斬ろうとする。
だが俺のは長いだけで刀なのだ。近距離だろうと自由に振るえる。
お互いに得意な距離を奪い合い、謁見の間が切り傷によってボロボロになっていく。
俺が振るった事による飛ぶ斬撃の余波、ユウガが出すおそらく魔法と剣技を融合させた光の斬撃の様な物も飛び出し、もう距離とか関係なくない?っと思う。
だがこの刀の価値、いや、武器の価値はこれからだ。俺は刀の形状を変えて鎌の様にしてユウガの首を狙う。
ユウガは武器の形状が変わった事に驚きながらも避けて体勢を直す。
だが崩れたのを見逃す俺ではない。また形状を変えて今度は右手に籠手のような形状にして死なない程度に殴った。
流石にユウガも体勢が崩れている状態では避け様がなく、壁までぶっ飛んだ。
が、空中で体勢を立て直し、壁を蹴ってそのまま俺に斬りかかって来る。
俺は今度は腕に装着する盾の様に形状を変えて剣を防いだ。
「コロコロ武器の形状が変わるってどういう事だよ!それ本当に武器か!?」
「元々俺が身に付けてた鎧を形状変化させただけだ!武器系スキルは持ってないからこの武器が1番って事はないから良いだろ別に!」
元々素手で戦ってたから武器とか必要なかったし、と言うか周りに武器を使う人も居ないしで覚える機会など全くない。
だから今まで鎧を着てぶん殴ると言う防具として間違っている使い方をし続けていたのだ。
カッコいい武器をカッコよく使えるのであれば当然その方が良いに決まっている。
でも残念ながらそのようなスキルは選ばなかった。
ならばもう好き勝手に手数で押してもいいんじゃない?っと開き直った訳だ。
俺は盾で剣を受け止めたままユウガを押し返す。
ユウガの体力はもう限界の様だ。肩で荒く息をし、身体を覆っていたオーラは薄くなったり濃くなったりと繰り返している。
それに比べて俺はまだまだ体力はある。
持久戦ならアセナの身体能力を無理に使う必要はないし、元々使うまでもなかった相手だ。
「ここまでだな。俺の勝ちだ」
「でもまだ終わってない」
「まぁ確かに。でも俺はこれ以上戦う理由はもうないんだよ。もういいぞ」
そう言うとジャックはジョージさんとの戦いを止めて俺の元に来た。
その後結界は砕け、出入り可能となった。
「くっ!真祖を解放させる訳には!」
「だからもう遅いんだよ。とっくにな」
扉が開いて現れたのはアセナ達真祖4名とジャックである。
「お兄さん!作戦完了だよ!!」
現れたもう1人のジャックにユウガたちはとても驚いていた。
俺の側にいるジャックと、扉の外からアセナ達を連れて現れたジャック。双子、いやそれ以上にそっくりな2人の登場に驚いている。
「時間稼ぎしてたのはお互い様って事だよ。人類。もう元に戻っていいぞ、アナザ」
そう言って俺の近くにいたジャックは姿を変え、1人のメイドの姿となる。
その姿はほぼ日本人。違うのは地味でフリルだとかそう言うメイド風コスプレの様な物ではなく、一切の装飾がないまさに作業着と言う感じのメイド服をしている事だろうか。
後の見た目は完全に日本人。作業のために髪をポニーテールにしているだけでどこをどう見ても日本人である。
「誰……だ?君の仲間にメイドなんていないはず……」
「ネタバレはこれから話すさ」
俺は悪戯が成功したような笑みを浮かべながら説明するのだった。
説明のために明日も投稿します。
思っていたよりも長くなったので。