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罠と真実

 2日後、俺達は全ての準備を終えたので今日は普通に街を散策している。

 後は今夜こっそりと動くだけなのだが、その前に街の様子を見て確認したいと思ったからだ。

 確認と言っても何か目的がある訳ではない。ただどんな風にこの国の人が過ごしているのか再確認したかっただけの話である。


 俺が持ってきた牛の肉を食ったからか、街の人達の生気は大分回復している様に感じる。

 今日は子供達と一緒に遊ぶ親御さんの姿も見れたので多分持ち直しているのだろう。国の城門からは港で獲れたアザラシの魔物や輸入したであろう野菜などが運び込まれているので輸出入も回復しつつあるように感じた。


 恐らく本来この国の姿はこういう感じなのだろう。

 厳しい冬を乗り越えたからこそ今がある。

 でも冬の間は本当にギリギリなのだろう。

 でなければあそこまで生気のない町など生まれるとは思えない。


 そしてこの国をゆっくり見て回って気が付いたのだが、この街の細工技術はかなり高レベルだと思う。

 ドワーフの国では芸術的と言うよりは実用的とでも言えばいいのだろうか?使いやすさを重視している様で、細工などをメインにしているのは少なく感じた。

 それでもあの宝石店の様な店はちゃんと細工をしていたが。


 だがこの国は宝石の類がよく取れるからか、芸術的な細工の方がメインを張っている。

 小さな宝石などを惜しげもなく使ってティアラ、ネックレス、指輪。細かな細工により多くの宝石が使われていても、決して他の宝石の輝きが邪魔し合う事はない。

 金属製の細工も目立ち、木材の物もあるにはあったがかなり高価だ。おそらくこの辺では木材を手に入れるのはとても難しいからだろう。


 そんな街の風景を見てから俺は客室の戻った。

 客室にはいつもの様に全員集合していた。


『それで今夜私の本体を取り戻すのよね?』

「おう。予定通り行う。まぁいつもとはちょっと違うけどな」


 今まではこそこそと俺が行ったとバレない様にしてきたが、もうとっくにバレていると考える方が自然だろう。

 なので堂々と行う。堂々と解放した後この大陸を出る。

 海に出た後はトヨヒメに頼むつもりだし、家に真っ直ぐ帰るだけだ。


 王様には明日この国をでる事を伝えてあるし、明日帰るのは確定事項だ。

 お土産とかは買ってないが、まぁこの光景がお土産と考えればいいだろう。

 今日は珍しく晴れており、綺麗な夜空が広がっている。オーロラとかはないのかな~っと思ったが運がよければこの国で見れるとか。


 そして今日は王様と一緒に飯を食い、みんなが寝静まった後に行動を開始する。

 その事を確認し終えた俺達にタイミングよくメイドさんから声がかかった。

 食堂へ移動し、王様と一緒に飯を食うと言う一生に1度経験するかどうか分からない事を経験する。


「君達のブリザードバイソンには感謝している。この国の民の生気が戻った」

「偶然ですよ。俺達はたまたまあのバイソンと遭遇しただけなんですから。それを狩って食べているだけです」

「それでもとても助かったのだよ。今夜少し話さないか?タツキ殿だけではなくジャック殿にも話を聞きたい」

「お兄さんだけじゃなくて私も?ですか」


 ジャックは驚きながら王様に聞く。

 王様は頷いてから言う。


「この国の民、いやこの国に住む人間のほとんどが軽い出血などが危険と言っていただろう。他国の人間よりも血が止まるのが遅いとか。そう言った健康に関する話もしたいのだよ。どうかね?」

「そう言う事でしたらご相談に乗ります。と言っても難しいと思いますが」

「では今夜話そうではないか。そうだな……風呂上がりを見計らって遣いを出そう」


 そう言ってにこやかに会話をする。

 こうして今夜王様と話をしてから活動を行う事になった。


 ――


 風呂上り後、ゆっくりとしていると軽いノックが聞こえた。

 やって来たのはこの国の近衛兵の人が1人現れて言った。


「陛下よりお話をしたいとの仰せです。ご準備はよろしいでしょうか?」

「はい。ジャック、行くぞ」

「う~ん。分かった~」


 ちょっと眠たげなジャックの手を引いて俺達は王様が居る部屋へと向かう。

 近衛兵さんの後ろを歩いてたどり着いたのは……謁見の間である。多くの兵士や重鎮たちが揃っても狭くないように造られているのか、とても広い。

 そして玉座には王様が鎧を着て剣を鞘に納めていた。

 完全武装とはこの事だろう。


「王様?お話と言うには随分と険しい雰囲気ですが?」

「もうそのような事はよそう。黒騎士」


 王様が言った直後に近衛兵の人が扉を閉めた。

 それと同時に魔法が発動する気配がした。恐らく結界系で閉じ込められたのだろう。

 ジャックは険しい表情でナイフを取り出した。

 俺は手でジャックを制止してから王様に言う。


「最初っからバレてたって事でいいんですよね?」

「その通りだ。最初から私は君達の正体に気が付いていた。その少女は教会が捕縛した罪人であるし、君に関しては海王、ドン王から情報を提供されていた。鮫の真祖を奪った黒騎士で間違いないと」


 あ、やっぱりセフィロの王様にもバレてたか。

 となると他の国の重鎮達、いや世界の重鎮達にバレていると見た方が確実か。

 国王は俺を見ながら言う。


「純魔銀の鎖は真祖であろうとも解く事はできないし、破壊する事も不可能。つまり君達人間がここに閉じ込められた事で獅子の真祖を復活させる事は不可能となった訳だ」

「でも国王が俺を倒せるとも思えない。倒してここを出ればそれで済む話だろ?」

「そうだな。だが私達人類にも希望と言う物はあるのだよ」


 そう言って光が付いた謁見の間には王様の他に5名の人間が俺に向かって剣や杖を向けていた。


「なるほど、これが人類の希望か。嘘でも誇張でも何でもないわな」


 俺に剣を向けているのはユウガ、杖を向けているのはルフェイと人魚姫、そして槍を持った聖騎士の鎧を着た女性に、先程の近衛兵の服を脱ぎ捨てた同じく聖騎士の男性が剣を向けていた。

 聖騎士2人の顔を見ると俺は流石に驚いた。


「ジャンヌさんにジョージさん……」

「お久しぶりです。そしてこのような形で再会したくありませんでした」

「自分もこのような形で恩人に剣を向ける事などしたくはありませんでした」


 どうやら2人も勇者パーティーの一員として行動を共にしていたらしい。

 そして国王も剣を抜きながら言う。


「我々も全力と言う事だよ。君たち2人を倒せばとりあえず真祖の解放だけはここで阻止できる訳だ。ここで死んでもらう」


 そう言って剣を向ける国王に俺はため息をつきながら言った。


「確かに全力って言うのはその通りだろうな。でも王様が前に出ちゃいけないでしょ。ここで死んだらどうするの?この国の今後はどうする?本で読んだ事あるぞ、王様が戦場に出ている時点でその国は負けていると」

「黙れ。貴様がここに来なければこのような事をする必要はなかったのだ。それに引き継ぎも済ませてある。全力で戦おうか」


 剣を向ける王様は俺達に向かって戦う気満々だ。

 それをいさめながら俺は言う。


「おいおい。確かに俺は真祖を解放してはいるが、別に人類に喧嘩売る気はないぞ。実際俺が真祖を使って何かしたか?してないだろ」

「それでも人類の天敵を解放して回っているのは事実。仮に本当に人類への敵対行動をする気がないと言うのであれば大人しくこの場で捕まって下さい」

「それはそれで無理。俺は全ての真祖を解放するのが目的だし、諦める気もない」

「その目的って何だよ。人類の天敵を解放する目的って」


 ジャンヌさんの問いかけと、ユウガからの問いかけに俺は答える。


「まず初めにだが、ユウガ。お前はその力をどうやって手に入れた?」

「なんだよいきなり。そんな事を聞いて」

「いいから。話してくれ」

「……当然努力したに決まってるじゃないか。このスキルに関しては確かにこの世界の神様からもらった。でも使いこなすには努力するしかなかった」

「そうだな。そして俺のスキルに関しては話してなかったよな。俺のスキルは言ってしまえば、進化だ」

「進化?」


 ユウガが不思議そうに言うので俺は頷いて肯定する。

 他のこの世界の人類である他のメンバーは分かっていない様なので説明する。


「そう、進化。この世界のありとあらゆる生物達は進化を積み重ねて現在の形に落ち着いた。まぁそれでも俺達生物は進化の途中段階であるのは間違いないが、それでも現状では俺達はこの姿が生き残りやすいと判断したからこの姿形になった。教会じゃ違ったりする?」

「当然だ。神は我々に最初からこの姿で創造されたと教義には記載されている」

「なら大昔の生物の骨を見たことはあるか?その動物達の先祖から形を変えたり大きさを変えたりする事で俺達の現在につながる。俺達人間だって元々は猿の親戚だぞ?」

「そんな事実は確認されてない!確かに地下深くから大昔の魔物の骨が発見される事はたまにあるらしいけど、あれはあの魔物と言う事で完結してる!そこから姿形が変わる事なんて――」

「あるんだよ。最低でも俺達の世界ではそうだった。ありとあらゆる生物は次世代に子孫を残すためにその環境に適した進化を促してきた。そしてそれは現在進行形で進んでいる。突然見た事もない生物が現れるのはまさに進化だ」


 ジョージさんとルフェイの言葉を否定して進む。

 俺の言葉に混乱する者が多い中、当然ユウガだけは付いて来られる。

 元の世界じゃこれが常識だったからだ。


「それは分かった。でも真祖開放の理由とどう言う関係がある」

「それはこれから説明する。つまり俺達は常に進化の途中であり、生き残るために生きていると言える。そして俺のスキルは『捕食』と『変質』。俺は食った魔物の特徴などを進化と言う形で俺は手に入れる事が出来るんだよ」


 そう言うと俺とジャック以外の全員が固まった。

 ルフェイは恐る恐ると言う感じで俺に聞く。


「つ、つまりあなたは。魔物の力を取り込み続けていると?」

「そうだ。俺の異常な戦闘能力の向上はそういった今まで食らってきた魔物の力を手に入れ続けて来たからだ」

「………………あまり考えたくありませんが、もしかして、真祖を解放している理由は……」

「多分ルフェイが想像している通りだよ。――俺は真祖の力を取り込むために真祖を解放している」


 これを聞いた俺とジャック以外全員が凍り付いた。

 俺は真剣な表情のまま言う。


「多分お前達人類は俺が真祖の使って好き勝手に世界を乱すんじゃないかと考えていた事だろう。だが残念。俺は真祖を解放してその力を手に入れる事が目的だから、既に4つは目的を達成している。残り2つの力、獅子の真祖と狐の真祖の力を俺は手に入れる。その後の事は……まだ考えてない」


 この事を聞いた勇者達と国王は動けない。

 人間として人間をあっさりと止めている事に嫌悪感を抱いているのか、はたまた化物として見ているだけなのかは定かではない。

 そんな中ユウガは唇を震わせながら言う。


「タ、タツキは、もう。人間を辞めてるのか?」

「さぁな。この世界じゃDNA検査なんて出来ないし、何を持って人類と名乗るべきなのかも分からない」

「僕と出会った時にはもう?」

「そりゃ当然。俺はあの森で生き残るためには魔物の力を手に入れなければ生き残る事は不可能だった。生き残るために俺はあっさりと人間を辞めた。この進化と言う言葉も言い訳かもな、人間を辞めたと言わないための方便でしかない」


 彼らには俺の事がどう見えているのだろう。

 化け物か、怪物か、はたまた名状しがたい生物か。

 そんな中、国王は剣を強く握りながら言う。


「貴様は……危険だ!!」

「当然だな。俺は既に手当たり次第の強い魔物を食ってその特徴を得ているし、その中で最強と名高い真祖の力も4つ手に入れている。お前達は遅すぎたんだよ。俺は――」

「黙れ!!」


 国王はそう言って俺に向かって斬りかかった。


「俺は解放した後に目的がある訳じゃなかったんだから」

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