ホワイトフォレストへ
俺達は今ホワイトシーの連絡船に乗り込んでしばらくのんびりしている。
まだまだこの辺りは寒く、潮風もあるせいか余計に寒い。
雪遊びをした時の様な暖かいコートを着ている。他の客を見ると毛皮のコートなどを着ているのでちょっと珍しい格好になっている。
まぁ異世界ファッションだし仕方ないか。
「タツキ。スノーはどこにいる?」
「ん?俺の服の中に居るぞ」
「そうじゃない。本体」
「あ~そっちはドワーフの国同様にお城の中みたいだ。ただ場所はお前の時とは違って特殊な部屋の中にしまっている訳じゃなさそうだから楽な方かな?」
より正確に言うと城の中心にスノーの本体は置かれているらしい。
置いてあると言う所も気になるがまずは行ってみないと分からない。マップ機能などではどうしても限界があるからな。
「そう。後今度私もタツキの中に入りたい」
「それはまた今度。ここで狼の姿になったらパニックになるかも知れないだろ。それよりも心配なのはアスクレピオスだな」
アスクレピオスは案の定寒さに滅茶苦茶弱かった。
現在は魔法やらカイロやらで着ぶくれしている。寒いと言われたので町で追加のコートを買ったのだがそれでもまだ寒いらしい。
部屋の中でヤタとジャックにくっ付いて人肌で温まっている。
まるで遭難した登山家のような状態だ。
なんて思っていると見知った1人の青年が声をかけてくる。
「本日はご乗船ありがとうございます。タツキさん」
「よう青年。元気してたか?」
彼は巨大タコから助けた時の青年君である。
「はい。あの時は本当にデビルフィッシュの脅威から助けていただきありがとうございました」
「いいよいいよ、俺もあの足1本で結構もうけさせてもらったし」
「ですので今日は安全で快適な移動になる様努めさせていただきます!」
「あんまり気を張り過ぎて空回りするなよ?」
「そのような事はいたしません。それでは」
敬礼して去って行く青年君を見送ってから俺は海を見る。
何もない海だが所々氷が浮いていた。流石に氷山ではないだろうがそれだけでこの辺りの寒さが分かる。
その氷の上にはウミネコの様な鳥の魔物もいるし、意外とそんなに離れている訳ではないのかも知れない。
「所でアセナは寒くないか?」
「大丈夫。でもくっ付いてる」
そう言って俺の腕に身体を密着させるアセナにぬくもりよりも幸せの方が大きく感じる。
身を寄せ合って一緒にただ海を見ているのは何とも言えない良い雰囲気だ。
『……ねぇ。姉がイチャイチャしている所を見せつけられている妹の気持ちを少しは考えてくれない?』
なんて思っていたのに俺の服の中に居たスノーが邪魔をしてきた。
「…………スノー邪魔」
『邪魔って。こんな甘ったるい雰囲気の中でよく今まで我慢できたものだって自分でも感心するぐらいよ。タツキはタツキでこう言うのはもうちょっと我慢しなさいよ』
「惚れた女と良い雰囲気になって我慢できる程俺は我慢強くねぇぞ」
『はぁ。こうなるんならヤタの所に居るんだった』
ため息をつくスノーだが出て行く事はない。
甘ったるい空気よりも寒い方が嫌なんだろう。
俺の懐で丸くなっているのだから本当に嫌なのならとっくに出て行っている。
「確か船で2時間ぐらいだったか?もうすぐ着くだろうからもうちょっと待ってな」
『本体を復活させる時はちゃんしてくれるなら良いわよ』
そう言ってまたもぞもぞと動いて暖かい所を探る。
そんな自由なスノーに俺とアセナは苦笑い。結局2人っきりになる事はできなさそうだ。
海を眺めながらしばらく進むとようやくホワイトフォレストに到着した。
ホワイトフォレスト。
それはこの大陸の名前であり、この大陸唯一の国の名前でもある。
大きさは大体北海道ぐらいの大きさなのだが、どこもかしこも雪が積もり静かで幻想的な姿を見せる。
どうしてこの大陸に国が1つしかないかと言うと、それはスノーが原因だ。
元々は俺が知っている北海道の様に季節があったらしいのだが、この地に住んでいたスノーを討伐、もしくはスノーを封印するために動いたそうだがどちらも中途半端な終わりを迎えた。
猫の真祖なので弱点は当然冬。この冬で弱っている間にスノーを封じようと当時の人達は考えた。
スノーの捕縛、封印には成功したがその時スノーが本気でキレる。それによりスノーの固有能力である停止を周囲一帯に呪いの様にまき散らしたのだ。
それによりこの大陸は停止させられ、永遠に春の来ない冬の島となったとか。
それにより原住民の人達はこの大陸を離れて他の大陸に移り住んだのがほとんどであり、1部の残った原住民がこの大陸唯一の国を築き上げて現在に続く。
それにしてもその力が今現在まで続いていると言う事実がとても驚異的だ。
どの国でも真祖を恐怖の対象として見ているのは知っているが、それを現在進行形で見せつけられるのは初めてだ。
「ホワイトフォレストは現在も国を中心に吹雪が止まる事はありません。本当に行くんですか?」
船員の青年は俺達に向かって言う。
「当然。そこに欲しい者があるんだ、そのためにここに来たんだよ」
「ほとんどの方はこの海岸付近での観光がメインなのでフォレストに行く方は本当に珍しいのですが……気を付けてください。この地には真祖の加護が宿った魔物が多く存在すると聞いています。大変な旅になりますよ」
「大丈夫大丈夫。俺だけじゃなくてみんなもかなり強いから、ただの魔物ならどうとでもなる」
「……気を付けてください。魔物だけではなく吹雪で方向感覚を失えばそのまま遭難します。準備は十分に」
「心配ありがとな。そんじゃ行って来る」
俺は笑いながら青年に向かって言った。
青年は敬礼をした後仕事に戻った。それじゃ俺も仕事と行きますか。
コンパスよりも確かな道しるべ役が俺の懐の中に居る。
『大丈夫よ。行きは本体との繋がりを利用すれば迷わず行けるし、帰りだってこの結界を解除すればもう年中寒い冬でもなくなるわよ』
「冬がなくなればこの大陸の人も喜ぶだろうしな。意外と感謝されてりして?」
「スノー姉さん。復活したらすぐにこの結界解除して。凍え死ぬ」
アスクレピオスがガチトーンで言う。
やっぱ留守番させといたほうがよかったかな……
「深海とはまた違った寒さだけど大丈夫」
「私はちょっと寒いかな~。冬場に歩くのも慣れてないし」
トヨヒメは大丈夫、ジャックは微妙か。
「ふわふわの雪~!森の雪夜もふわふわ!」
「ヤタ。冷えるから転がらない」
はしゃぐヤタに止めるアセナ。本当にいつも通りだ。
これなら何も問題なさそうだ、アスクレピオスの寒さ対策以外。
「この辺にも魔物は普通に居るようだし、途中で温かそうなのでも狩っておくか。毛皮を現地調達しよう。肉は素直に食うとするか」
「この人数分の獲物を見付けるのは大変そう」
「いい感じで群れで生息してるといいな。そうすりゃ食料だけじゃなく向こうに着いた時に換金する手段も得られるし。それじゃスノー、道案内よろしく」
『はいはい。それじゃあっちよ』
スノーは何故か俺の懐の中から指示を出して先を案内する。
俺はちょっと苦笑いをしながらも指示に従い、ホワイトフォレストを目指して進むのだった。




