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動き出す者達

『それじゃいい加減行くわよ!私の本体を取り返しに!』


 結局何もなかった冬の出来事は全て割愛。

 あった事とすれば例の医療施設で暴走した2人が何かを爆発させたとか、日本人なら誰でも知っているこたつが出来たらスノーがこもって出てこなくなったとか、ヤタが冬の間外に出れなくて癇癪かんしゃくを起したとか、トヨヒメのプールの排水が凍って水浸しになったとか、アセナが暇だからと言って毎日襲われたとか、そんな平凡な事ばかりである。


 冬の間に子供を産んで育て終えた弱い魔物達はどこかに姿を消し、それと交代する様に俺がよく知る強い魔物達がそれぞれのねぐらから姿を見せ始めた。

 雪が溶けるとその下から草や花が背伸びをするように一気に成長する。

 そしてそれを食べる強いくせして草食な魔物、それを狙う肉食の魔物達も活発になり、いつの間にか俺がよく知る森へと戻っていた。


 そして結局スノーの本体を先に開放すると言う事で決まったので冬が終わった途端、スノーがそう叫んだのである。


「そう言ったってな……まだ船が出るのもうちょい先だぞ。ホワイトシーからの連絡船は1週間後かららしい」

『ならその船に乗りましょうよ。むしろ余裕を持って行けるじゃない』

「行くのは構わないし、当然行く気だが……本当に全員で行く気か?」


 そう。今回のスノーの本体を解放するのに行くのは真祖全員と俺、そしてジャックである。

 ヴィゾーヴニルは家を守っているからと言う事で自主的に外れた。

 それでも合計人数7人の大所帯である。向こうで宿取るのも大変そうだ。


 なんだかんだでみんな冬場に引きこもっていたのがストレスになっていたのか、まさかの全員参加の戦力過剰状態である。

 確かに真祖が集まるだけで危機感を覚えるのは仕方がない事かも知れない。

 でも俺の場合その真祖をまとめないといけないと言う高難易度ミッションがあるんだよな……普段は大人しいから問題らしい問題はないんだけど。


「ん。前みたいに何ヶ月も家を守るのは嫌。一緒に行く」

『私は当然行くし、行かないと解放もできないわよ』

「純粋に新薬の実験がしたいです」

「お外で思いっきり遊びたい!!」

「その……わたくし1人でお留守番は……寂しいです」

「アスクレピオスが行くなら私も一緒に行く」


 絶対誰も引く気はないな。

 全員連れて行くの当然問題ないのだが、これ明らかに過剰戦力だよな。

 それに俺を含めて7人って宿を取るだけでも大変そうだな。

 具体的な作戦はいつものようにこっそり行ってこっそり奪取していく方向で行きたいのだが……多分みんなで取り返しに行くって言いだすよねきっと。

 そうなると派手に強行作戦でもするか?いや、過剰戦力なのにそんな事したら確実に無駄な被害も出てきそうだしな……


「ま、なる様になるか。そんじゃ1週間後の連絡船に乗るから全員準備しとけよ~特にジャック」

「え?何で特にって言葉が入るの?」

「そりゃお前がこの中では1番普通の人間だし。俺は変質の影響であんまり関係ないし」


 他のみんなは自分の体毛などを服の様にしているだけなので衣類ははっきり言って必要ない。

 オシャレなヤタだって自分の羽毛を服にしているので実は衣装持ちと言う訳ではないのだ。なので必然的に最も服などの防寒設備が必要なのは普通の人間であるジャックなのである。


「あ~そうだね。その辺しっかりしておかないとダメか」

「スマホで調べたらろくに日は差さないし、今の時期でも普通に吹雪は起きる。と言うか安全を考えるのであればもっと夏まで待つ方が本当は安全なんだからな」

「うえ~。でもお兄さんだって一応人間なんだから――」

「さっき言ったように変質でどうとでもなるし、それに誠に作ってもらった服って常に一定の気温を保つようにもなってたから、あれ1着あれば実は問題なかったりする。まぁそれでも着替えは必要だけど」

「1人だけズルいよ!!」


 ジャックは抗議するが俺としてはもっと気になる人物がいる。


「それよりもジャック、カイロとかって余分に作れるか?」

「え?カイロなら性能悪くてもいいんならお手製の作れるけど?チートな人に必要?」

「それじゃなくてアスクレピオスにだ。正直言ってあいつが1番不安だ」


 変温動物である蛇の真祖であり、冬場はなんだかんだで適温である医療設備にばかり籠っていた人に、いきなり寒い所に行って大丈夫なのかどうか不安な所がある。

 その事を感じたのかジャックは素直に頷いた。


「うん。使い捨てカイロにするから余分に作っておくね」

「頼む」


 こうしてスノーの本体を取り返す準備を整えるのだった。


 ――


「ユウガ様。お爺様からご出立のお話が参りました。行先はホワイトフォレスト。真祖の手によって氷の大地に変えられた氷結地獄です」

「話には聞いてたけど、まさか本当に1体の生物が大陸を氷漬けにするなんて元の世界じゃありえないや」


 話を持ってきた聖女ヒジリに対して勇者ユウガは答える。


「しかしこの世界ではそれが常識です。しかも話によればいまだに真祖を完全に封じる事が出来なかった事で吹雪が起こっていると聞きます。あの地は魔物の強さだけではなく、その過酷な自然環境こそが最大の敵と言って間違いないでしょう。準備は万全でないといけません」

「分かった。そんなにも厳しい場所なら僕もより頑張らないと」


 そう言ってユウガは気合いを入れ直した。

 勇者としての活動では当然危険性の高い物が多い。危険な魔物の討伐がほとんどで命の危険を感じたことは何度もあったが、転移の際に貰った力のおかげで文字通りチート無双だった。

 しかしあのセフィロで出会った黒騎士、タツキには文字通り手も足も出ない。


 それに関してはとても悔しいと言う思いは確かにあったし、その時はそれ以上に生きている安心感が上回っていた。

 でもそれは黒騎士の正体がタツキだと知る前の事。

 知った後は悔しさが込み上げてきて、自分と戦った癖に何事もなかったかのように振る舞うタツキに苛立ちも覚えた。


 しかし別の日、ヒジリの魔法でユーラニアに行った日に自分とタツキとの力の差を思い知った。

 炎の悪魔と戦いはしばらくタツキの方が劣勢だったが、途中で持ち直し悪魔を一方的に倒した姿を見れば自分の方が弱いと納得せざる負えない。

 自分では勝てない相手に勝利した。それだけが事実。


 その時ユウガは目標を決めた。

 世界を救うと言うぼんやりした目標から、タツキに勝って世界を救うと言うハッキリとした目標に。

 その後勇者としての活動に力が入り、より力を付けたのは言うまでもない。


「……ユウガ様。勇者としての成長はもちろん嬉しいのですが、自分の身を案じる事も忘れないで下さい。文字通りユウガ様は人類の希望、そんな方がいなくなってしまうのは世界的損失と言えます。それに、個人的にも居なくなっては欲しくありません……」

「もちろん死ぬ気なんてないよ。でもここでどれぐらい強くなったのか、追い付けたのか確認しておかないと」


 強く言うユウガにヒジリは頼もしさと同時に不安も抱えてしまう。

 この事を言うべきかどうか悩んでいる間にノックがされた。


「どうぞ」

「失礼します。ヒジリ様はこちらにいらっしゃいますでしょうか」


 そう言って扉を開けたのは人魚姫ハルルである。

 彼女は水の魔法を使う。回復、攻撃だけではなく様々な応用技も持っている事でよりパーティーはより強固となった。

 賢者ルフェイと共に戦う者達の支援も得意としている。


「ヒジリならそこにいるよ」

「その様ですね。ヒジリ様に問いたい事がございましたので参上いたしました」

「問いたい事とは何でしょう」

「黒騎士はかの地に居るのでしょうか」


 人魚姫ハルルが勇者パーティーに参加した理由は広く知れ渡っている。

 一般的には国を襲撃した黒騎士を自ら成敗するためと言われているが、実際はただもう1度会いたいだけである。

 会ってなぜ自分と母を殺さなかったのか、その事を無理に着飾ったあの言葉ではなく、本来の言葉で聞きたいと思っているからだ。


 そして聖女は頷いた。


「はい。確かに私の“予知”ではかの地に現れます。私の予知は限りなく運命に近い未来を映し出します。最低でもかの地に居るのは間違いないでしょう」


 聖女ヒカリが最も得意としている魔法は予知である。

 長い集中力と大量の魔力を消費するこの魔法は戦闘では一切使えない。だが未来で起きる可能性の高い幻影を見せると言う効果は、今後の行動を決めるうえで重要な魔法でもあった。

 実際ヒジリが見る予知のおかげで何度も人々は救われている。

 ヒジリが見た未来を勇者に伝えてその悲劇が起こった際に即座に動けるようにしているのだ。


「分かりました。彼と対峙した際には全力で彼を倒す協力をお約束します。それではまた」


 言葉短くハルルはそう言って去った。

 これからホワイトフォレストに向かう準備をするのだろう。

 ユウガはヒジリを抱きしめて安心させてから言う。


「僕は決して死なない。それに新しい仲間も2人も出来た。一矢報いるぐらいはできるさ」

「それでも心配です。どうか、ご無事で」

「うん。必ず帰る」


 そう言った後ユウガは準備のために部屋を出た。

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