ドラゴンの調停者
開かれた門を歩き、これまた青いカーペットの上を歩くとそこには2体のドラゴンが居た。姿形は人間の姿をしているが、この気配は確かにドラゴンの物だ。
片方の男性型のドラゴンは赤い髪に緑の瞳。どれぐらい生きているのかは分からないが、圧倒的な存在感と筋肉質の身体は戦士と言う方が正しい気がする。
もう片方は女性型のドラゴンで白い髪に青い瞳。こちらは逆に凍っているかのような静かな雰囲気を纏っており、あの門の絵で描かれていたような気性の荒いような感じはしない。
「この度はこのような形になってしまい申し訳ない。私はウェールズ。このドラゴンの国の王をしている。こちらは妻のアルビーだ」
そう赤いドラゴンが言った。
この人がドラゴンの王様であるのであればこの人に色々聞くべきだろう。
問題は誰が聞くのかだが……俺?
アセナとアスクレピオスは一歩引いていつの間にか俺が代表の様になっていた。
こうなったら俺が聞くしかないだろう。
「えっと、お招きありがとうございます。ウェールズ様。それでこのような形とは?」
「元々我々には戦意がなかったと言う事お伝えしたい。この度は娘が先走った行動をとってしまったのでその謝罪をしたい」
娘?あ、あのピンクちゃんか。
女の子っぽい色だとは思ったけど本当に雌だったんだな。
「いえ、こちらもいきなり迎撃したのでこちらにも非はあります。みなさんご無事でしょうか?」
「あの程度で死ぬような者は居ない。それでも目がチカチカするや、少し痺れていると言う報告はあるが命に別状はない。死なない様加減していただいただけでも助かる。彼らはまだ若く、落ち着きがないのだ」
へ~あれ全部若いドラゴン達だったんだ。
道理で簡単に落とせたと思った。
「それでは本題に入らせてもらう。今回君に会いに来たのは真祖の解放を行っているからだ。私達は創造神様より世界のパワーバランスを維持するよう命令されている。そのため君は真祖を集めてその後どうするのか確かめる必要があった。最初は対話にて心理を聞こうと思っていたのだが……娘の突撃に気分を悪くしていないだろうか?」
「いえ、どうせ冬は暇だったので特に何も。住処が無事なら家族も無事だったので俺は何も思っていませんよ」
「それは良かった。では改めて聞こう。真祖を集めて何がしたい」
さてと、真祖を集める理由だが……今と昔じゃ大分変ったよな……
昔はただ強い魔物を食う事で強くなる事を知っただけで真祖を食ってより強くなると思ってただけだし、でも今じゃその真祖の1体と夫婦になって、その姉妹とも家族として接している。
ただ捕食する対象から家族になったのだから大きく変わったように感じる。
そして今真祖を集めて何がしたいと言われたが……よく考えてみると全ての真祖を解放した後の事など漠然としか考えた事がない。
残りのスノーの本体と狐の真祖を解放した後俺が考えていたのは……平穏に暮らす事だけ。
また今度みんなで旅行に行きたいとか、また子供達にあって遊んでみようかと考えたりする程度。
別に……誰かに言う様な大それた事しようとは全く思わない。
俺は今十分に満たされているのだから今後の事はその時にならないとさっぱり分からない。
なのでこう答えるしかない。
「特に何もありません」
「何もない?何もないのに真祖を解放するのか?」
「真祖を解放する理由、それはアセナの姉妹であり、俺の家族でもあるからです。家族が捕まっているのであれば開放したい。そのぐらいの気持ちです」
「解放した後はどうする。今のようにみなで暮らすだけでいいのか」
「今の所は。全員が揃った後どうするのかは……全く想像すらしてません。ただ漠然と一緒に暮らして平和に生きる事が出来ればそれでいいとしか思っていません」
そう堂々と言うと、確かアルビーさんだったか?笑いを堪えられなくなったのか大笑いをし始めた。
腹を抱えての大爆笑。涙も出ているぐらいだしそんなに変な回答だったか?
ただ問題はアセナの機嫌が悪くなっている事。俺が笑われて不機嫌になってしまったようだ。
その気配を感じたのか、ウェールズさんが代わりに謝罪する。
「すまない。妻は普段このように笑う事はないのだが……おいアルビー、いい加減止めないか」
「で、ですがあなた。この人間は全ての真祖を集めてただ平穏に暮らすと言ったのですよ!まさか開放するだけで既に目的を達成していると地上の者達はどう思うでしょう!今まさに真祖を再封印、もしくは倒す算段を無駄に考えていると言うのに!!」
あ、やっぱりそう言うの考えてるんだ。
とりあえずアルビーさんが笑い終えるのを待つと、息を落ち着かせながらアルビーさんは俺に向かって言う。
「貴方はちゃんと理解できていますか?彼女らはただの愛玩動物などではない。正真正銘人類の敵として最初から創られた魔物の頂点。彼女たち1体でどれだけの人間を殺せると思いますか?どれだけの国を終わらせる事が出来ると思いますか?彼女達を使えばこの世界の人間を根絶やしにする事も、恐怖で支配する事だって可能。もっと言えば戦闘に特化した神々に対してだって戦えるでしょう。それだけの戦力はあなたは得ようとしているのです。その事をきちんと理解できていますか?」
そんな風に言われると……自信はない。
俺は彼女達と出会ってまだ1年も経っていないし、ついこの間であったばかりの者もいれば、まだ出会っていない者もいる。
そんな彼女達の価値を知っているかと聞かれると、知らないだろう。
だが――
「ではお聞きしますが普段彼女達が何をしているか知っていますか」
「はい?」
「普段の彼女達、アセナ達はとても生き生きとしています。俺は元々異世界から来た人間なので常識とか色々違う点はありますが、アセナ達は理性のないただの獣ではありません。ただ神の命令に従うだけのペットでもありません。アセナ達にはアセナ達の価値観があり、それぞれ好き嫌いがあります。その事を貴女は知らないでしょう。でも俺は知っています。アセナ達はただ人類を滅ぼすだけの存在じゃない。だから俺はまず平穏に生きてみる。その後ゆっくりと決めます」
そう言い返すとアルビーさんから冷たい冷気の様なオーラが漏れ出した。
それを慌てて止めようとする前にアルビーさんは俺の目の前に一瞬で現れ俺の目を見て言う。
「仮にそこにいる真祖達に手を出す人間が居たらどうします」
「ぶっ殺します。アセナは俺の妻だ」
「地上の者達は決して諦めないし、どんな手を使ってでも真祖達を狙い続けるでしょう」
「その時は支配などと言う甘ったるい事はせず俺の気にいらない連中だけを滅ぼす。仮に慈悲があるとすれば苦しまずに殺すぐらいの事だけだ」
「そんな事をすれば私達調停者たちが動かざる負えなくなる。それだけじゃなく神々も滅ぼしに来るのは確実。それでも拳を握れますか?」
「その時は俺が身体を張ってみんなの守って邪魔する奴は全て殺します。どれだけ強かろうとも」
ガンの飛ばし合いの様に睨み合う俺とアルビーさんだったが、アルビーさんの方が先に目を逸らした。
そしてアルビーさんはウェールズさんに言う。
「彼は私達の方から攻撃しなければ何もしないわ。とても保守的で利己的、世界を滅ぼしかねないけれど、何もしなければ何もしないわ」
「その様だな。では君の名は……」
「タツキです」
「ではタツキ。我々ドラゴンは君と敵対しない事をここで誓おう。その代わりに君もこちらに手を出さないようにしてもらう」
「そんな事でいいのならそれで構いません」
こうして俺とドラゴン達の間にケンカはなしないと言う約束を付けたのだった。




