仲間が出来ました
ドワーフの国を目指して早4日、今はイングリットの城下町で調べものをしている。
マルダとジャンヌと出会った町はイングリットの端の方だったらしく、田舎町とでも言うべき場所だった様だ。
イングリットの城下町は流石城下町、とでもう言うべき大きさと広さでジャンヌ達と出会った町とは大きく違った。
服や武器などの専門店と言える店の数がとても多いし、人の数だって向こうに比べれば随分と多い。
それに公共浴場がある。
この世界での風呂は公共浴場を使うのが一般的らしく、家に風呂があるのは金持ちだけのようだ。
銭湯的な感じで情緒あふれると表現しておこう。
この街に来るまでに遭遇した魔物を狩ってこの街のアヴァロンに売りつけた。
俺がまだ持っているあの森の魔物はまだ売っていない。旅の途中で見つけた魔物のみを売ったので大した金にはなってない。
というか大金はまだ使っていないので手元に残ってる。
頑張って金を稼ぐ理由はないだろう。
そしてこの城下町には図書館が存在した。
貸し出しは行っていない様だが、読むだけは身分を証明する物さえあれば問題ないようなので冒険者カードを見せたら簡単に入れさせてくれた。
ではついでに真祖と言う存在について調べてみようと思い、今図書館で真祖に関する本を読んでいる。
真祖に関する本について司書に聞いてみると幅広く存在していた。
理由は真祖とは物語りに出てくる伝説の魔物であり、伝説の英雄に関する本を読んでいれば自然と出てくる事が多いらしい。
特定の真祖についてではなく、真祖全体でっと言うと司書はその本がある大体のスペースを教えてくれた。
ちなみに大体と言う理由は、絵本などを除いた論文的な本だったからである。
今読んでいる本では真祖とは本当に存在するものかどうか、という事を調べた論文だ。
本によれば、ほとんどの者が真祖は物語り上に出てくる化物として空想上の生物だと思われている。
だがしかし、長命な種族であるエルフ、ドワーフを中心に強固な封印場所が存在しているらしい。
何の封印なのかは教えてもらえなかったらしいが、論文を書いた者が見る限り禁呪級、伝説級の封印が何重にも施されているのは間違いないと書かれている。
現在ハッキリと判明している真祖が封印されていると思われる場所はこのエルフとドワーフの2国だけ、残りは不明。ただし真祖と思われる魔物に関しては7種存在すると書かれている。
この論文を読み終えて、俺は面白いと感じた。
最低でも2体、最高で7体近くの強化が見込めるという事だからだ。
どんな姿、そんな能力を持っているのかとても興味があるし、とても強く欲しいと思う。
真祖と呼ばれる魔物がどれほどの知能を有しているのかは不明だが、食ってみたいという衝動が抑えきれない。
どうせドワーフの国に行くのだからドワーフの国の真祖について調べてみるとしよう。
新たな旅の目的が出来た事にとても嬉しく思う。
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城下町から再びドワーフの国を目指して3日、俺の身体能力ならそろそろ着いてもおかしくないころ合いのはずだがまだドワーフの国には到着しない。
途中商人から道を聞いているのだから迷ってはいないはずだが……
もう既に夜なので今日はここで野営をする。
街で買った調理器具を別腹から取り出して使い、肉を焼く。
森で仕留めておいた牛の肉を焼いていく。
正直言ってこの世界の一般的な野菜や肉は美味くない。
元の世界でどれだけ食材にこだわり、美味い野菜や肉の品種改良がおこなわれていたのかよく分かる。
この世界の野菜はほぼクズ野菜と言える形も悪い野菜ばかりだし、鶏肉や牛肉は年老いた硬い肉ばかり。
おそらく畑仕事に使えなくなった牛や、卵を産まなくなった鶏を肉として売っているんだろう。
そのためか牛肉や鶏肉より魔物の肉の方が広く出回っている。
一般的にはミノタウロス、オーク、ヴィゾーと呼ばれる魔物が一般的な牛肉、豚肉、鶏肉とされている。
どれも中級の冒険者が狩る魔物らしく味はそれなり、スーパーで普通に売っている肉って感じだ。
高級食材と言われる魔物は恐らくあの森の中心部に出てくる魔物の類が美味いんだろう。
な~ぜか美味いんだよな、あいつら。
ライオンは普通に良い肉だったし、熊に関しては獣臭さなんて気にならない。いや、熊に関しては納豆とかチーズとか臭いけど美味いって感じか?
あと食ったのはバカデカい蛇によく分かんない鳥……あの森に住んでた魔物はみんな美味かったな。
いつの間にか結構いい肉食ってたんだろうな~という自覚を持ちながら飯の準備をしていると、何かが近付いて来る。
おそらく肉の匂い誘われて来たんだろう。
数は1。特別速くはないがそれなりに強そうだ。
そいつが来た方に視線を動かすと、犬……いや大きさから察して狼か?
この暗闇の中では目立たない真っ黒な毛をした狼が俺の焼いている肉に目を付けている様だ。
涎を垂らしながら唸り声をあげる。
俺は狼を睨みつけた。
動物同士の喧嘩はガンの飛ばし合いから。これはこの世界に来てから知った。
恐らく強いというのは何となく分かる。
何というか、あの森の中位個体ぐらいの力はありそうだからだ。
ただ俺に立ち向かう雰囲気だけはスパーキングレオ以上の風格を感じる。
このちぐはぐさが俺に疑問を投げかけた。
これは本当にただの魔物か?森の中心部分以上の実力を持っている雰囲気を持つ狼が、なぜこんなにも弱いオーラを纏っている?
気になった俺は狼から目を逸らした。
その瞬間狼は俺の首に噛み付いて来る。
その突進とも言える攻撃に俺は大の字で押し倒された。
やはりこの痛みは中位程度の攻撃力しかない。俺の手足を食い千切る程ではなく、だからと言って無傷でいられるほど弱い攻撃ではない。
だが俺はその攻撃を無視しながら俺の首を噛む狼に話しかけてみる。
「おいお前、俺と契約してみないか?」
そう言うと狼はピクリと耳を動かした。
やはりこいつは知能が高い。
森の魔物だって人の言葉を理解するような知能はない。
狩りに関しては俺も驚くような攻撃をされた事は何度もあったが、俺の言葉に反応したと言うよりは俺が出す音に反応したと言った方が正しいと思う。
だがこいつは確かに俺の言葉に反応した。
これは大きな違いだ。
飼われている動物ならともかく、野生の動物が人間の事を分かるようになったからと言って何の得もないはずだからだ。
「俺と行動を共にするのなら飯ぐらいは賄ってやる。その代わり真祖開放に協力しろ」
さらに耳が動いた。
狼はそっと俺の首から口を放して俺の上に乗ったままじっと俺の事を見る。
見定めている様な、確かめている様な、そんな表情に見えた。
俺は狼の顎の下を撫でながら言う。
「真祖に興味がある。解放された事で世界にどんな影響を与えるのか、魔物達はどんな行動を起こすのか、とても興味深い。だから協力しろ。力よりもお前の様な知恵のある存在の方が俺にとっては助かる。だからどうよ?」
ただ無感情に撫でられているだけの狼は俺の身体の上からどき、俺の隣に座った。
どうやら行動を共にするつもりのようだ。
それならと思い俺はもう少し多めに肉を焼く事にした。
この狼の飯は俺が食わせてやろう。
そう思って肉を2キロ分焼いて与えたのだった。