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緊急事態

 ヴィゾーヴニルの警戒を促す鳴き声はとてもよく響く。

 パトカーや救急車のサイレンとは比較にならない程に大きな音であり、何かに夢中になっていても必ず耳に入る音。おそらくこの鳴き声は森の外にまで響いているだろう。

 周囲の国がこの森にヴィゾーヴニルが居る事に気が付くかもしれないが、ヴィゾーヴニルが警戒すると言う事態の方が滅多にない危険性を持っている。


 正直に言うとヴィゾーヴニルはかなり強い。

 普段の家庭的な面だけを見ているとそうは思えないが、ヤタの執事であると言うだけでその実力はかなりのものだ。

 以前軽く組み手をしてもらった事があったのだが、戦闘経験による差と言うものを見せつけられた。

 身体能力だけで言うと俺の方が上なのだが、全ての攻撃が受け流されたり、最小限の動きだけずらされてしまったりと、明らかに俺の戦闘経験の少なさを利用して戦っていたように感じる。


 この世界はゲームではない。

 いくら強い相手を倒したからと言っても一気にレベルアップする事はできないし、俺のように身体を改造しても戦闘経験値だけは地道に稼いでいくほかない。

 それはアセナ達真祖にも言える事だが、だからこそ俺とジャックはこの中で下から数えた方が早いほど弱い。


 俺達はヴィゾーヴニルの鳴き声に反応して周囲を警戒する。

 そして1番最初に気が付いたのはヤタだ。


「お姉ちゃん達。意外なのが来た」

「誰」

「トカゲ達だよ。寒がりなトカゲ達がやって来た」


 ヤタの言葉を聞いたのはアセナ。

 それを聞いたアセナは怪訝そうな表情をするが……この気配って確か。


「この気配ってドラゴンの気配だよな?」


 ヴァロンランドで食ったソニックドラゴンに近い気配を感じる。

 っと言っても数は膨大だし、強そうな連中の気配もする。

 特にヤバそうなのは2体いるな。今の俺では勝てるかどうか分からない様な強者の気配。

 随分と上空から気配を感じるが飛んで来たのか?

 と言うかそれ以前にドラゴンをトカゲ扱いですか。


「ん。でもかなり変」

「変って言うと?」

「普段はもっと暑い所に居る。一年中夏の様な所で過ごしてる。だから冬に来るのはとても珍しい」


 やっぱりドラゴンって変温動物なのか?年中夏の場所と聞くと……赤道付近?確かに暑そうな場所だな。

 それが真逆の季節と言っていい冬に俺達の前に現れるとか確かに変だな。

 それに寒いのが苦手なのに飛んで来るとはずいぶんと急な用事の様だ。


 眼を変質して人間では分からないほど遠くのものを見えるようにしたが……あれは何だ?

 まだまだ遠いからか豆粒にしか見えないがドラゴンの形ではない。

 丸っこい……石?そんな感じの物が飛んできてる?


「巣ごとやって来たみたいだね。あれ凄く久しぶりに見た」

「なぁヤタ?俺にはさっぱり見えないんだが……巣って?」

「ドラゴンの巣はね、空飛ぶ人間の城みたいな感じなの。国1つが地面ごと飛んでる様な感じって言えばいいのかな?分かる?」

「大体のイメージはできた」


 つまりドラゴンはラピ〇タに住んでいると。

 流石ファンタジーっと言いたいところだが、まだ俺の目では全容はつかめない。

 にしてもしろ単体ではなく国1つが飛んでいるってどっからそのエネルギーを確保してるんだ?超古代エネルギーとかだったらどうなってんだろ?

 なんて考えているとジャックがワクワクした表情で城がある方向に視線を向けている。


「ドラゴンはファンタジーでは定番。でも解体した事はないから楽しみだな~。襲ってきたら解体してもいいよね~」


 ……マッドだ。解体ジャンキーがここに居る。

 な~んで俺の周りにはこうキャラの濃い連中しかいないんだろ?もうちょい普通の人がいてもいいんじゃないだろうか。

 この中で1番まともなのは……ヴィゾーヴニルの様な気がする。


 とにかく相手がどんな行動に出るのか分からない以上、下手に刺激するのは良くないと思ったのだが……国から何十体ものドラゴンが飛来してきた。

 ソニックドラゴンよりは遅そうだが、体格的にタフそうなドラゴンばかりだ。ある意味ドラゴンらしい腹してる。

 そしてこちらに向けられているのは敵対心。どっかの国がドラゴンに依頼した……は、流石に考え過ぎか。

 何らかの理由で攻めてきたのは間違いないし、迎撃しても問題ないだろう。


「あれソニックドラゴンとは別の種族っぽいけどどうする?ぶっ殺していいのか?」

「あんまりよくない。あんなのでも調停者の眷属だから」


 あ、ドラゴンも調停者の1人だったっけ?っと言うか魔王の腹心を1人思いっ切りぶん殴ったのは大丈夫なのか?

 なんて考えている間にもドラゴン達はわらわらと出て来る。

 俺はその光景を見ながらぼんやりと言う。


「殺さない程度に迎撃できる人、手を上げて」


 スノー以外の全員が手を上げた。

 空気を読まないスノーを俺はジト目で見る。


『し、仕方ないじゃない。まだ私完全に開放されてないのよ』

「それじゃ手伝え」

『はいはい。防御限定でいいならね』


 そう言ってスノーは俺の肩にジャンプして乗った。

 俺はスノーの顎の下を撫でながら全員に聞く。


「とりあえずあの数を殺さずに1番減らす自信があるのは?」

「それなら私がやるね。トヨちゃんもお願い」

「分かりました。ヤタお姉さま」


 初手はヤタとトヨヒメのコンビで行くつもりらしい。

 ヤタはいつもの子供らしい笑みではなく、大人っぽく感じる真剣な表情でドラゴン達の中心部分に魔力を集める。

 トヨヒメの魔力も混じっているので完全に合体魔法攻撃の様だ。結構魔力を集めている様に感じるが、ほとんどが2つの魔力を混ぜるために使用している様なので多分大丈夫だろう。


「お兄ちゃんに教えてもらった光と音の衝撃で気絶させる。一応ドラゴンってタフだから、そこにトヨちゃんの電撃で麻痺させるから目をつぶっててね」


 つまりスタングレネードか。

 この2人が同時に行うと思うと結構な威力になりそうなのだが大丈夫だろうか?

 そう思っていると俺達周辺に防御用の結界が構築された。初めて見るものだが誰がしたんだ?やっぱりアスクレピオスか?


『私よ。衝撃と音、光は普通にしていても問題ぐらいにしておくから目や耳を抑える必要はないわよ』

「え、この結界スノーが張ったのか?」

『私は元々防御に特化した真祖なの。完全に開放されていない状態だけど、攻撃系の魔法じゃなければ簡単に防げるわよ』


 ………………思っていた以上に優秀なようだ。

 防御特化の猫の真祖の力をこの際確かめてみるのもいいのかも知れない。俺はスノーを信じて目と耳を塞ぐのを止めた。

 じっとヤタとトヨヒメが行っている事を見守っていると、準備が整ったようだ。

 ドラゴン達も魔法の邪魔をしようとしているが流石に真祖には勝てないだろう。


「いくよ!!」


 そして起こった大爆発!結界のおかげで目や耳は無事ではあるが、結界の外ではドラゴン達が力なく落ちていく。

 おそらく今ので気絶したのだろう。森に落ちていくのが冬で良かったな、夏場だったらそのまま魔物達の餌になっていたかもしれない。

 冬場の動物達も大慌てで逃げていくしっと言うか滅茶苦茶派手な魔法だな。まぁしかたがない事ではあるんだろうけど。


 でもお陰で飛んでいる途中のドラゴン達は全部落ちた。

 これで撤退してくれるのなら嬉しいのだが……その考えは甘かったらしい。

 国から高速でこちらに向かって飛んで来るドラゴンが1体現れた。

 その気配は明らかに怒っており、戦うしか道はなさそうだ。

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