日本人なら無双できるかもしれない
スノーと共に連絡船でホワイトシーの戻ってくると、とりあえず乗員の無事に港の人達は喜んだ。
俺は確認していなかったが、船員が言うには乗客船員に被害者はいないとの事。ただバッグや持っていた物が一部海に投げ出されてしまったという感じはあったが、命があったのだからまぁいいかっと言う雰囲気だ。
そして俺の元にアセナとヤタが駆け寄ってきた。
「タツキ。無茶しない」
「そうだよお兄ちゃん!服濡れてるから海に入っちゃったんでしょ?」
「あはは……そうしないとあのタコ追い払えなかったからな。そうしたら乗員は誰も助からなかっただろうから見逃してくれ」
「たこ?」
「足が8本ある海の生物だ。骨のない軟体生物って奴で結構面倒だった。生け捕りにしたけど」
最後の言葉だけはアセナとヤタの耳にしか聞こえない声量で言う。
アセナは俺の言葉に首を傾げる。
「生け捕り?食べれるの?」
「食える食える。俺の地元じゃ色々料理があったはずだが……まぁちゃんと美味いから期待しとけ」
「ん」
「ヤタもタコ食べてみたい!」
「そんじゃさっさと帰るか」
「あの、申し訳ありませんが少々お話を伺ってもよろしいでしょうか」
そう聞いて来たのはアヴァロンの職員の様だ。
俺は何だろうと思って聞き返す。
「はい?なんでしょうか?」
「あなたが先行して連絡船を助けに行った冒険者の方、でよろしいでしょうか?」
「はい。俺であってます」
「でしたら情報の提供をお願いできませんでしょうか?素早く追い払っていただいたのは大変喜ばしい事なのですが、今回どのような魔物が連絡船を襲ったのか教えていただかないと今後の対策が出来ませんので。なのでアヴァロンホワイトシー支部に来ては頂けないでしょうか」
そう言われては仕方がない。
今後の安全のためには確かに俺の情報は必須だろう。
それにどうせ今度、スノーの本体を取り返すのにこの連絡船を利用するかもしれないのだから、次来るときはできるだけ安全な方がいい。
ではアセナ達に相談だ。
「アセナ、ヤタ。もうちょっとだけ時間もらってもいいか?」
「ん。北の大陸に行けなくなるのは困る」
「ヤタもいいよ~」
『何でもいいから温かいんでしょうね』
了承は得たので職員と共にこの港のアヴァロンに寄った。
この辺りの潮風に負けないためか、全て石造りの支部と言うのも珍しい。レンガ作りだったり、木で出来ていたりと国によって特徴が違うのも面白い。
そんなホワイトシー支部で出されたホットミルクをちびちびと飲みながらごっつい人が出てきた。
「待たせて済まねぇな。俺がこのホワイトシー支部のギルドマスターだ。漁師上がりでチョイと違和感があるかも知れねぇが、気にしないでくれ」
そう言うごっつい人は日焼けした黒い肌が眩しい海の男だった。
俺は座りながら言う。
「俺はタツキ。あっちこっち旅をしながら冒険家業をしてる。冬の前に魚を買いに来たんだが……運がよかったな」
「本当に助かったよ。あんたが言うようにこれから本格的に冬になる。だから船も流されないように縛っていたもんでな、縄を解くのだけでも時間を食っちまったから、あれでも早く行ったんだが……タツキが追い返してくれてよかったよ」
「偶然だから別にいい」
「そうか。それじゃ早速で悪いがどんな魔物だった。大抵の海の魔物なら知ってるぞ」
海の男が言うのだから多分大丈夫だろう。
俺は出会ったタコの事を言う。
「相手はバカデカいタコだ。船を簡単に握りつぶしちまいそうなぐらいデカいタコ」
「たこ?あ~悪いがこの辺じゃ聞かないな。特徴は?」
「え?それじゃ~触手みたいな足が8本あって、その足全部に吸盤が付いてる。頭は丸くて墨を出す」
「そりゃキングデビルじゃねぇか!?よく追い払えたな!!」
キングデビル?そういやタコって外国じゃデビルフィッシュって言うらしいな。
そっか、この世界じゃ悪魔か。
「ただのデビルフィッシュならともかく、キングとなると最低でも50人の手練れが必要なはずなんだがな……」
「なんなら証拠見せるか?解体場は当然あるんだろ」
「そりゃあるが……具体的に証拠ってのは?」
「足を数本切った。今は俺の空間収納内に――」
「ぜひ売ってくれねぇか!あいつの吸盤はかなり良い盾になるんだよ!」
その言葉に驚いたのはむしろ俺である。
タコの吸盤が盾になるってどういう事?吸い付いてろくに使えないんじゃないの?
洗面所とか風呂の吸盤にするならギリギリ分からなくはないけど。
「1本でいいなら……」
「なら早速解体だ!!下の解体連中に知らせて来い!」
秘書の様な感じで立っていたギルド職員に言う。
職員は慌てて支部長室を後にして走っていく。
「そんじゃ付いて来な。キングサイズとなれば解体場でしか収まらないだろうからな」
「分かりました。それじゃアセナ、ヤタ、スノーはここで待ってな」
「ん」
『ミルクを飲んで待ってるわね』
「あ、ヤタもその足見てみたい!」
アセナとスノーは残り、ヤタは付いて来た。危険はないので大丈夫だろう。
だが支部長は顔をしかめる。
「おいおい。こんなちっこい嬢ちゃんにあの足を見せるのか?あんまり見せない方がいいじゃねぇか?」
「え?別に問題ないと思うけど?」
「マジか。よくあんなグロテスクな物を娘に見せようと思うな。とりあえずほれ、紙袋渡しておく」
………………え?そんなにグロイか?タコの足が?
俺が思い付くタコの足は別にグロイと言う程ではない。
だって軟体生物だし、地上の生物の腹の中に比べれば内臓なんてほとんどないようなものだ。あるとすれば墨袋?
いや、それでも今回はタコの足1本だけ。そんなグロイかな……
なんて思いながら解体場に到着。
そこには海の男達が決死の覚悟を持ったように解体用のナイフやら何やらを持っている。
え?何でそんなに覚悟決めてんの?そんなにタコが怖いか?
「これが俺達の精鋭だ。デビルフィッシュの本体を見ても気絶しない程の猛者たちだ」
「なぁ素で聞いていいか?俺が追い払ったキングデビルと俺の知ってるタコって別種か?気絶って何」
「何って単に見た目が気持ち悪くて気絶する奴らがそれなりに居るんだよ。気絶せずに見れたら一人前、解体できる様になれば超人だぞ」
「つまりスキルとかではなく、単に見た目が嫌なだけ?」
「あんな見た目の魔物を見て正気でいられる奴の方が少ねぇぞ?だから1人で戦いを挑んだお前さんには最大の敬意を払ってるんだぜ?」
やっべこの海でなら日本人全員英雄になれるんじゃね?
だって日本人からすればただの食糧じゃん。
美味しくいただいている海の生物じゃん。
これが文化の違いか?
「さぁ……いつでも出しな。俺達の覚悟はできたぜ」
本当にヤベー雰囲気なんだけど。
どう見ても戦場に行く前の一般人の顔に見えるんですけど!
ヤタはタコが見た事ないからか首を傾げている。
そんなに怖いかな……とりあえず俺はタコの足を出した。
出したタコの足は、何とめっちゃ元気だった。
俺の魔力を浴びたせいか、ぶった切った時よりも元気に動き回っている。
「うわー!!これが嫌なんだよこの触手!!」
「く、来るじゃねぇー!!」
「な、何でデカさだ。足1本でこのデカさとは、とんでねぇ大物だ。野郎ども!気合い入れてけよ!!」
「「「「「おう!!」」」」」
そして漁師たちはタコの足に向かって決死の特攻を仕掛けに行った。
足1本だから大丈夫と高をくくっていたのだが、彼らにとっては本当に強敵だったらしい。
まだ若い漁師は顔を青くしながら必死に吸盤を引き剥がそうとし、熟練の漁師たちは雷系の魔法を使いながら一撃で吸盤を切り落とす。
それで怯え越しと言うか、腰が引けている漁師たちが吸盤に捕らわれたり、先の方に居た者は普通に巻き付かれて捕まったりっとまるで巨大な魔物を相手にしている様な気迫を感じる。
ちなみにギルド長は周囲に指示を出しながら捕まった者の救出をしたり、吸盤を切り落とす。
それを見て俺は思った。
「大げさ過ぎじゃね?え、これがこの世界の基準なの?」
確かに巨大なタコ足ではあるが、あそこまでの気迫いるか?
まさか大袈裟にやってる?久々のレア素材で興奮してるだけ?それともマジでこうやって素材回収してるの?
とりあえず隣にいるヤタに聞いてみる。
「ヤタ。あの足怖いか?」
「怖くはないけど……気持ち悪いかな」
「マジか。俺普通に食料としか見てないんだけど?」
「お兄ちゃん……あれ、本当に美味しいの?」
「俺が食ったのは美味しかったんだけどな……流石にあそこまでデカくはなかったけど」
とりあえずヤタも大袈裟と感じているだけいいか。
やっぱここまで必死にならないよな?タコの足に。
結果だけ言うとタコの足で使うのは吸盤と皮?だけらしい。
吸盤はさっき聞いた様に盾として加工し、皮は鎧にするのだとか。
ただし性能はいいが人気はあまり良くはないとの事。買ってくれるのはタコの事をよく知らない人達だけだとか。
何はともあれこれにより大金貨10枚の価値になった。
それから個人的な話になるが、吸盤のあるタコ足よりも吸盤のないタコ足の方がキモい。
仮にタコ1匹だった場合はどうなるか聞いてみたが、誰も解体できないし、捕まえられる者は居ないだろうと返された。
理由は結構現実的。
まず必然的に水中で戦う事になるがそれに付いて行けるはずがない。
海に引きずり込まれたらそれだけで死亡確定。
タコの墨には麻痺があるのでそれを食らったら泳げなくなって死亡とかなり現実的な話だったからだ。
つまりそのタコを生け捕りにした俺は最低でもそれ以上の怪物と言う訳だ。
そういやタコの締め方ってどうだったっけな?
そう思いながら俺達はスノーを連れて帰るのだった。




