港町の買い物
「やっぱ北の方は寒いな~。しかも港だし、潮風が寒い」
「ん。アスクレピオスを連れて来なくて良かった」
「トヨちゃんも危ないんじゃない?多分海の中の方が温かいって言いそう」
次の日の朝8時ごろ、俺達はホワイトシーっと言う港に来ていた。
ここには漁師町っと言うか鮮魚を中心に売っている朝市の様な商店街があるかなり大きな漁港だ。
セフィロにも鮮魚はあったがこの街の方が特化している印象を受ける。
観光地だからかあっちは肉関係の方が多かった気がする。
恐らく鮮魚を食べる習慣があまりないからだろう。
そして今回来たのは俺とアセナ、ヤタの恒温動物3人組である。
アスクレピオスは寒いのは苦手と言っていたし、トヨヒメは海に行って泳げないのならいいと言われた。
ヴィゾーヴニルはいつも通り家を守る方が性に合っているそうで来ようとはしなかった。
「スノーが来るのはざっと9時ごろって話だったし、買い物していくか」
「何買うの?」
「もちろん魚だな。トヨヒメも最近は肉じゃなくて魚が食べたいって言ってたし、やっぱり1番口に合うのは魚なんだろう。特に海の物な」
「そうだよね~。トヨちゃんが1番好物から遠い場所に居るからね、私は森の木の実とかが好きだから問題ないけど。それでも冬を越すまでは我慢だもんね~」
ヤタもそう言う。
それから俺達はこの場にあった服装のためにもこもこしたコートを着ている。
俺はフードのない紺色のコート、アセナはフード付きで縁の所になんかの動物の毛を加えている。
そして我らのファッションリーダーことヤタはピンクのコートに所々冬の花の刺繍がされたコートを着ている。
流石ファッションリーダー、コートにも全力か。
でも個人的な事を言わせてもらえば漁港でそこまで気合い入れなくてもいいのでは?
そう言うのは街中でするものじゃないの?
魚臭くなるぞ。
「っと言う訳でどっかで店やってるの?ってノリで魚を買いまくるぞ」
「そう言えばタツキも魚好き。海出身?」
「そう言う訳じゃないが……俺が居た世界は流通も鮮度を保つための技術も凄かったからな。ある程度内陸でも鮮魚は食えたな。刺身だって食ってたし」
「へ~。それって本当に凄いんじゃない?私みたいに空でも飛んでたの?」
「流石にヤタみたいに生身で空を飛ぶ事はできねぇよ。でも飛べるように研究してる人達は多いって聞く。それより一般的だったのは断然車だな。地上を馬よりも速く走って機械だから壊れないように使ってれば一々メンテしなくても済んだし」
そう思うと確かに元の世界も結構凄いと思う。
24時間営業のコンビニとか、温めるだけで食べれる弁当、海の魚を数時間で運ぶ速さにいつまでも保存できる冷蔵、冷凍技術。
これらが魔法と言う不思議パワーではなく、科学技術で行なっているのだからよくここまで発展したものだと思う。
「くるまって何?」
「簡単に言うと人間が作った馬の要らない馬車みたいな感じ?エンジン、つまり車輪が回るようにできてるから馬に引っ張らせる必要がないんだよ」
「どのぐらい速い?」
「普通自動車でも120キロのメーターはあるからな……」
「120って凄そうだね」
「実際凄いぞヤタ。人間には一生かかっても勝てないだろうな」
アセナ達ならそれぞれの方法で簡単に勝てそうな気がするけど。
「詳しい話はアスクレピオスにしてあげて欲しい。あの子は新しい知識が好き」
「了解。それじゃ今度話してみるよ」
そんな俺が元居た世界の話をしながら魚を見て回る。
それにしても流石異世界と言うか何と言うか、時々サイズがおかしくないか?っと思うものが多い。
例えばサンマ、普通は30cmぐらいなのにこの市場に居るのは1メートルぐらいある。
鮭に関しては3メートルもある超巨大魚だ。
秋の旬なのは分かるがデッカイな……今度冷凍庫とかも作らないとな。スーパーとかあんな感じのデッカイ冷蔵庫。
まぁ一応俺の別腹内なら最高の状態で保存できるから問題ないんだけど、それではヴィゾーヴニルが食材を取り出しにくい。
これは急務だな。
ただ商店にある物では量的に大丈夫なのか不安なので、業務用スーパー的な感じな場所はないかと聞いたら卸業者用の店を教えてもらえた。
そこは本当に引き上げたばかりの巨大な魚やライカなんかが大量にあり、これなら全員の腹を膨らませる事が出来ると自信を持って言える。
「食いたいのあるか?」
「ん~?海の魚はよく分かんない」
「タツキに任せる」
「そっか。それじゃ色々適当に買っていこうか」
何てノリで大量に買い込んでいく。
サンマに鮭、エビにカニなどとりあえず美味そうなものを片っ端から買っていく。
ちなみに判断基準は主に匂い。匂いからどのぐらい熟しているのかどうか、大雑把に察して大量買いを始めたのである。
「あの~すみません。このぐらいにしてもらえませんかね?」
「え?」
「このままだと他のお客様にお売りする事が難しくなってしまいますので……」
どうやら買い過ぎてしまったらしい。
俺は周りの人からちょっと非難する視線を向けられたので笑ってごまかす。
「どうしたの?お金なくなっちゃった?」
「そうじゃない。ちょっとはしゃぎ過ぎただけだ」
ヤタは首をかしげるがヤタ達に人間社会の事を上手く伝えられる気がしない。
上手く伝える事は出来たとしても、お金があるんだから大丈夫じゃないの?って言われそうだ。
でも大した意味もなく騒ぎになる様な事はしたくない。
俺は大人しく会計を済ませる。
ちなみに大量の食材はすでに俺の別腹内に収納済みである。
そしてそろそろスノーが乗った船が現れると思ったのだが……来る気配がない。
時間間違えてないよな?っと思っていると放送が聞こえた。
『みな様申し訳ございません。現在ホワイトシーと北大陸の連絡船が魔物の襲撃により遅れております。ですのでもうしばらくお待ちください。繰り返します――』
「おいおい。その船って丁度スノーが乗ってる船じゃねぇか?」
「確かに。ちょっと危険」
「スノーお姉ちゃん水苦手だし、泳げないよね?ど、どうしよう」
俺達の様にその船に家族や知り合いが居る連中から不安の声が上がった。
中には過激な者も居たようで、すぐに大声で怒鳴っている者も居る。
『ただいまアヴァロンに連絡を取り魔物へ出撃する準備を整えておりますのでお待ちください』
何て放送が聞こえるがこうしちゃいられない。
その魔物がどんな魔物か知らないが助けに行った方がいいだろう。
「アセナ、ちょっとスノーを助けに行って来る」
「船ない。泳いだら死んじゃう」
「でも飛んだら大変だよね?」
「大丈夫だ。走っていくから。だからアセナはヤタの事頼むな」
そう言ってから俺は海に向かって飛び出した。
そして海の上を常に素早く動かす事で足が水の中に入る前に脚を上げれば走れるのだ。
海に飛び出した俺に驚いてか、アセナとヤタが港近くに来て俺の事を上から覗き込んだ。
「そんじゃ行って来る!」
そう言って俺はスノーが居る場所を魔力で探しながら海の上を走りだしたのだった。
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「……大丈夫かな?」
「それは分かんないけど……結局目立っちゃってるよね」
「ん」
ヤタの言葉にアセナは頷いた。
急に海に飛び出した事もそうだし、そして海の上を走っていく姿も見られたので周囲は驚きの声で溢れ返っている。
その間もアヴァロンは船を用意して必死に救助の準備を整えるのだった。




