ヒノ先生とアラドメレク
悪魔と交渉して夜10時、子供達はとっくに寝ているはずだ。
その隙にヒノ先生の魂を俺が新しく作った肉体の中に移さなければならない。
アスクレピオスにはこっそり出てきてもらうよう言ってあるが……寝てないよな?多分俺1人でも出来るだろうけど万全の態勢で挑みたい。
そして現在ヒノ先生と共にアスクレピオスを待っていた。
「あの、本当にできるんですか?私の魂を別な身体に移すと言うのは」
「出来ますよ。と言っても机上の空論って奴で実際にした事はありませんが」
そんな必要のない状態だったし、あくまでも知識として出来る事が分かっていると言う感じだ。
だがアスクレピオスは教会の実験で魂に関して色々と調べていたようなので扱いは問題ないと言う。
問題は俺の用意した肉体の方だそうだ。
魂が乗り移りにくい肉体であった場合の調整とか、乗り移った後ちゃんと動けるかどうか、すぐに朽ち果てないかどうかなどの方が重要らしい。
そちらに関しては入念に確認しておいたので問題ない。
だが見た目などに関してはまだヒノ先生に確認してもらっていないので、今のうちに確認してもらおう。
「とりあえずこれが用意した肉体ですが、どうですかね?」
そう言いながら別腹から新しい肉体を取り出す。
驚いた様な表情を作ってからヒノ先生は言う。
「何で服を着させてないんですか」
「え?あ。忘れてた。す、すみません!この方が色々と確認し易いと思ったので!」
「そう言う物でしょうか……それにしても驚きました。ここまで私の見た目そっくりにできるんですね」
「体型や顔つきに関しては頂いていた唾液から情報を得ていたので、そっくりそのまま作っただけなので大丈夫です。それから筋肉や魔力回路に関しては言われた通りに強化してあります。これの確認はこちらの肉体に移った後に改めてっと言う事でお願いします」
「そうですか。それでアラドメレクの方は……」
「それはヒノ先生の魂が上手く移った後に。アスクレピオスが来たようです」
そう言った後アスクレピオスはそっと部屋に入ってきた。
「すみません。抜け出すのに時間がかかりました」
「時間はまだ大丈夫なんだよな?」
「大丈夫です。すぐに行ないますので肉体を指定の位置に」
言われた通りに新しい肉体をヒノ先生のすぐ隣に置く。
そして俺はスマホで最高位の結界を準備して使用する。
滅多に使わない辞書アプリがこんな形で使う事になるとは思ってもみなかった。
使う理由はヒノ先生の魂を移動させるのにかなりの集中力と魔力を使うからだ。
上位精霊強制召喚の時同様に俺の魔力を渡す。
こうすればエネルギー問題は大丈夫らしい。
さて、ここで肝心な話になるがどうやって魂を移すのか。
口で言うのであれば簡単だ。
ステップ1、魂がどこかに行ったり消えない様に結界を張ります。そうしないと消えたりどっか行ったりします。
ステップ2、殺します。殺すと言っても外傷はなく、魂を肉体から放すのでどうしても元の肉体は死んでしまうのだ。
ステップ3、魂を新しい肉体に移す。全く関係のない他人の肉体だと、さっき言った調整とか色々必要なるが今回はヒノ先生のDNAから作ったクローンとほぼ同じ。軽く調べてもらったら調整はあまり必要なさそうとの事だ。
これらの作業を完ぺきにこなせたら後はヒノ先生次第。
新しい肉体は俺がかなり魔改造しておいたので扱い切れるかどうか不明だ。
五感も今までとは違くなってしまっているし、必要な事とは言えこれからは大変だろう。
俺の魔力を9割ほど取られた辺りで作業が終わった。
アスクレピオスは緊張からか肩で荒く息をしていた。
そんな彼女を受け止めて「大丈夫か?」っと聞く。
「大丈夫、です。術式は上手くいきました」
疲れたはいるがぐっと手をしたので大丈夫そうだ。
では次にヒノ先生の方だが……新しく用意した身体の方が起き上がった。
そして辺りを見渡したり、手を耳に当てたりする。
「あの……ヒノ先生?大丈夫ですよね?」
流石にここまで確かめる様にされると、どこか肉体に不備があったのではないかと思ってしまう。
それを心配して言ったのだがヒノ先生は困ったように言う。
「すみません。今まで以上に音がよく聞こえたり、よく見える様になっていたので驚いていただけです」
「そうですか、それは良かったです。ただ本当に五感だけではなく身体能力なども大分強化していあるので力加減などは気を付けてくださいね」
「分かりました。気を付けます」
そう言ってヒノ先生は先程まで確かにその身体で生きていた本体にそっと触れた。
慈しむ様に、感慨深そうに、感謝をささげる様に。
「今まで無茶ばっかりさせてごめんね。今日からこの身体で生きる事を許してちょうだい、私はまだ死ねないの。分かってほしいな」
そう言いながら何度も頬を撫でる。
今までお世話になった身体なのだから当然だと思う。
だが重要な事がまだ1つある。
それを果たさないといけない。
「ヒノ先生。次で終わりです。アラドメレクを召喚します」
「お願いします」
確認した後俺は悪魔を解放した。と言ってもただ開放した訳じゃない。
前にアセナの本体を封じ込めていた銀を再び鎖にして悪魔を鎖につないでいる。
どうやらこの鎖封魔の力があるようで悪魔にも効果があった。
具体的に言うと精神生命体である物理攻撃無効みたいなのが意味をなさなくなっている。
あらゆる物理攻撃を受け付けないと言うか、物理に触れられないはずの存在なのにこの鎖には捕まっているんだから不思議なもんだ。
まぁ捕まってると言っても手首だけなんだが。
「……私とまた契約したいって本気?」
「ええ本気です。あの子達を守るにはあなたの協力が必要ですから」
「そう。それじゃどんな対価を払えるの?価値のない物で契約する気はないわ」
「それらなら逆に聞きますが貴女の欲しい物は何ですか」
そう聞くと悪魔は指を指した。
「それをちょうだい。もう必要ないんでしょ?」
「………………」
悪魔が欲しいと言ったのはヒノ先生の本体だ。
確かに必要のない物と言ってしまえばその通りだろう。
だがその身体は文字通り生まれてからずっと使い続けてきた身体だ。
そうあっさりと――
「構いません」
「え!?いいんですか!」
俺てっきり嫌がると思ってたよ。
一応俺もアラドメレク好みの肉体を用意しようかと、いざという時のために考えていたのだ。
アラドメレクもノリ気の様に感じていたし、そうすればそんな……
そう思っている俺だがヒノ先生は強く言う。
「本当に構いませんよ。むしろ彼女が使ってくれるのは色々と助かります」
「助かると言うと……」
「この本体を埋葬するのも気が引けてましたから、彼女が使ってくれると言うのであればそう言った事も必要なくなるでしょう」
確かにこの本体を埋葬する手間はなくなる。
どこに埋葬するのかも決めていないし、ヒノ先生は生きているのに身体だけ埋葬すると言うのも酷な事だろう。
どうするか悩んでいたが……確かに使ってくれる方が色々と助かるかも知れない。
「それじゃ契約成立ね。タツキ、この鎖いい加減解きなさい。あの身体もらうから」
「分かったよ」
言われて渋々鎖を解くと、この間の様に炎を出しながらヒノ先生の身体はアラドメレクの肉体に変化した。
「これで契約完了。それじゃこれから側にいさせてもらうけどいいわよね?」
「そう言う契約ですから」
そう言って一緒に居る2人は何と言うか……しっくりくる。
敵対と言うか身体を狙われていた者と狙っていた者のはずなのにどうしてかしっくりくる。
どうしてだろう?
「とりあえずヒノ先生は不調があったらすぐに言ってくださいね。すぐに対応します」
「お願いします今日はもう寝ますね」
「あ、私もこの部屋で寝るからよろしく」
「……あまりスペースを取らないで下さいよ」
「これだけ広いんだから問題ないでしょ?それにしてもこれがベッドか~。ふわふわしてるのね」
そんな2人がベッドで横になるのを見てから俺とアスクレピオスは部屋を出た。
アスクレピオスはまだお疲れの様なので背負っている。
「あの2人、いい雰囲気でしたね」
「アスクレピオスにもそう見えたか。俺にもそう見えた。なんでだろうな?」
「あれも友情と言うものなんでしょうか?」
「そうだったとしても腐れ縁とかそんな感じの様な気がするな。付き合いも長いだろうし、あの2人だけの距離感ってのがあるんだろう」
俺に分かるのはそこまでだ。
アスクレピオスを部屋の前まで運び、自室に戻った後に寝た。
そういや明日子供達に悪魔の事なんて言おう?




