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交渉

 超重要依頼、ヒノ先生の新しい肉体製作が加わった。

 アスクレピオスの診断によるとタイムリミット今日の夜12時。

 なんで夜中の12時なんだよ、そう言うのはハッピーエンド系の童話のお約束だろ。

 だが今日中に終わらせないとヒノ先生は普通に死んでその魂はどこかに行ってしまう。

 その前に完成させておかなければならない。


 今現在のヒノ先生はベッドの上で休んでいる。

 子供達もお見舞いに来ていて、今日死んでしまうかも知れない雰囲気を一切出していない。

 不安にさせないためとは言えやはり芯は強い。

 ヒノ先生をこんな所で死なせてはいけないと強く思う。


 現在の製作では大雑把に見た目だけは現在と全く変わらない器は完成している。

 だが問題は性能の方だ。

 これから作るヒノ先生の身体は俺の調整1つでいくらでも強くなれるし弱くもなる。

 弱くするのだけなら簡単だ。普通の人間と全く変わらないように作ればいいだけ、特に加える必要はない。


 だがヒノ先生のお願い、つまり製作の要望はこれらだ。

 1つは今と見た目が変わらない事。これはヒノ先生の唾液からDNA情報を得ているのでそっくりそのまま作れば問題ない。

 2つ目は子供達を守れるような身体になりたい。これに関しては人間の身体より筋肉や魔力回路を強化するだけで良いと言われたのであまり多くいじる必要がない。

 問題は3つ目だ。

 それは悪魔アラドメレクを再び憑依させても問題が起きないようにすると言う内容である。


 この憑依させても問題ないと言う点がとても厄介だ。

 俺はてっきり二度と悪魔に憑依されない様にして欲しいと言われると思っていたが、その逆を要望に出されるとは思ってもみなかった。

 理由に関しては話してくれなかったので全く分からない。

 でもこればっかりはな……


 恐らく問題と言うのはまた悪魔に身体を乗っ取られない様にする事だろう。

 子供達の近くに居るのに、自身が子供達を傷付けるかもしれない存在にならないためだ。

 だが耐性を付ける事は簡単でも、それを程よく混ぜると言うのは難しい。

 程よくの加減が分からないし、俺にとってはこれぐらいでいいだろうと思っていても、ヒノ先生的にはもうちょっとみたいな感じになってほしくはない。


 この線引きが難しいんだよな……

 ともあれ今は創れる分は創る様にしよう。


 まずは基礎的なヒノ先生のクローンを作る。

 これは前に言った通りソニックドラゴン達を創ったのと同じ要領で作るので問題なし。

 その次に改造、肉体の変化や体内の魔力回路を俺の『変質』で強化する。


 といってもほとんどシンプルな作りにするのであまり改造しなくていい。筋肉がより密になったのでその分脂肪を変化させて浮力を得られるようにするぐらいか?

 どれだけファンタジーと言っても物理法則は存在するし、俺達はそれに従っている。

 なので筋肉量が増えて脂肪の浮力より筋肉が重たいと浮かばずに沈む。

 体脂肪率の低い人の泳ぎが下手なのはそれが理由。天然の浮き輪に空気が入っていないんだから浮かなくて泳ぎにくいのは当然だ。


 魔力回路に関しては体内にある血管の様な物をイメージしてくれればいい。

 具体的に言うと魔力は心臓に溜められ、そこから血液と同様に身体中を駆け巡り、自身の意思で魔力をそのまま放出したり魔法として使用する事が出来るのだ。


 なので肉体が強くなるだけでも十分強化できるが、ここはアスクレピオスの協力を得てさらに強化する。

 確か冒険者時代はソロで活動していたからゲームで例えるとバランス型に近い印象を得たな。

 いざという時の決め技と言うか必殺技と言うか、そう言う時は悪魔の力を借りて瞬間的に火力を上げていたそうだ。


 なのでその魔力回路を強化するだけでも相当強くなれるだろう。

 あの悪魔結構強かったからな。

 あの悪魔と同じぐらいの火力を放出するには相当肉体を強化する必要があるだろう。

 恐らく訓練だとか鍛えるとかそう言うレベルの話ではない。今俺がしている様な、文字通りの改造を施す必要がある。

 悪魔は肉体がないからおそらく反動とかそう言うものに気に捉われる事なく使用できたと仮定している。

 そうでないとあの火力を防御魔法なしでマシンガンみたいにぶっ放されてたまるか。


 そう思いながら肉体と魔力回路を限界まで強化する。

 肉体を強化させるのは問題ないが……五感に関してはどうしようか?

 俺は自己改造しまくって人間よりも五感は鋭いがそれをヒノ先生にもしていいのだろうか?

 といっても最低限この肉体を使用できるようにするための五感の強化は必須だ。

 でも五感を強化し過ぎると、今の五感とその差が広過ぎて慣れるのに時間がかかりそうなんだよな……


 まぁ仕方ないか。

 安全性を得るためには仕方がない事だし、受け入れてもらわざる負えない。

 俺の『変質』みたいに通常状態と戦闘状態に切り替える事が出来るようにできればいいのだが……これに関しては変質で行なっているから身体の機能として付けるのは出来ないんだよな。

 これは今後の課題だな。


 さて、ここまでは順調だが最後のは……どうするべきかな?

 悪魔との再契約に関しては好きにしろ、と簡単に言っていいのだろうか?

 彼女自身を苦しめた悪魔ともう1度契約を結ぶと言うのはどうも変な感じだ。

 それに都合よく悪魔の力だけを手に入れる方法などない。

 魔力だけなら俺が分ければいいが……そういう感じではなかったように思う。

 分からない事は素直に聞いてみよう。


『という訳で答えろアラドメレク』

『ずっと聞いてはいたけど……あの子正気?私ともう1度契約を結びたいって』

『聞いてたんじゃないのか?』

『それでもよ。今までずっと私の力を抑え込んで生きてきた癖に、急に私と再契約したいだなんて』


 悪魔にもヒノ先生の意思はよく分かっていない様だ。

 それで俺は考えながら言う。


『ところでお前は何で肉体が欲しかったんだ?』

『何でって当然でしょ?自分にない物を欲するのは?』

『それでも理由はあるだろ。肉体を得て何がしたかった』


 そう聞くとアラドメレクは黙った。

 人には言えない様な事でもしようとしていたのだろうか?

 少し間が空くと悪魔は言う。


『どうせ人間からすれば下らない事よ』

『それは聞いてから決める』

『…………服』

『服?』

『服を着たり、アクセサリーを身に付けて着飾ってみたかった』


 …………………………


「それ肉体無くても出来そうじゃねぇか?悪魔なんだからそう言うの真似て出来るんじゃねぇの?」


 つい声に出てしまった。

 まさか悪魔の目的がオシャレとは……


『仕方ないでしょ!!私はどういう訳かそう言うものに興味を持っちゃったんだから!!それに魔力で作った物はみんな偽者、精巧なパチモンよ』

『パチモンってそれ俺の世界の言葉じゃねぇの?』

『貴方の表層記憶を軽く調べて分かりやすい言葉を調べたの。とにかくあなたと戦った時来てた服も宝石もみんな偽者、物体にはなっていたけど本物じゃない。本物は粗悪だろうと何だろうと全て物体だから、肉体のない私達悪魔には、触れる事すら出来ない。それが……悔しかった』


 悔しいね。

 よく分からない話だ。

 オシャレそのものだって男である俺には縁遠い話だし、あまりなじみがない。


『でも何で悔しいなんだ?羨ましいなら分かるけど』

『妬ましいでもあるわよ。悪魔(私達)より弱くて肉体があるだけの存在が私達のしたい事をしてるんだから、当然私達だってしたいと思うわよ』

『マジで嫉妬じゃん。しかも逆恨みに近くね?』

『だってあの子ったら冒険者だからって言って全く服とか買わないし、スタイル良いくせに全く着飾らない。それにあの子女である自覚ないんじゃないの?冒険者だからって服は同じような物を3着使いまわしてたし、もうどうしようもないって本気で思ったし』


 そう言う事情は聞きたくなかったな~。

 まぁ俺も基本的にマコトに改造してもらった服ばっかり着てるから強く言えないんだよな~。

 他の冒険者達ってどうしてんだろ?特に女性。

 装備はともかくとして普通の衣類ってどうなってるんだ?


 そう考えている間にちょっとひらめいた。

 俺は悪魔に言う。


『それって普通の人間の身体でもいいよな?何の特徴もない肉体やつで』

『言ってしまえばそうだけど、私女性の肉体の方がいいんだけど?』

『それなら交渉を始めようか』

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