悪魔アラドメレク
アドラメレクと名乗った悪魔は敵意はないように感じる。
ただ気になる事をいくつか言っていたのでそれを聞く。
「ヒノ先生とどんな契約を交わしてた」
「あの女らしい契約よ。子供達を救うまで力を貸してほしいと言う内容だったわ。年のせいか私の力を制御できなくなりつつあったからおそらくそのせいでしょう。お陰でこうして肉体を手に入れる事が出来たんだけど」
悪魔は嬉しそうに言う。
一応スマホで調べた際に悪魔と言う種族は精神生命体と言うものらしく、肉体を持って生まれる訳ではないらしい。
肉体がないのにそれ生きてんの?っと言うツッコミは野暮なんだろうか?
肉体を持って生まれるのが普通な生物にとってあまりにもよく分からない生まれ方だ。
なので悪魔と言う種は肉体を得る事を悲願としている者達も少なくないそうだ。
俺達にとって当たり前の事が出来ず、悪魔達にとって当たり前の事が出来ない。
世の中いい具合にバランスが取れていると言うべきだろうか?
「それで、ヒノ先生の身体を持ってどこかに行く気ですか?」
「当然でしょ。私は魔王様の元に帰り、仕える事が喜びなの。だからこのまま魔王様の元に帰らせてもらうわ」
「それは困る。俺だってヒノ先生の事を助けたいと思ってるんだ。そのまま連れていかれる訳にはいかないんだよ」
俺は拳を構えると悪魔は嗤う。
「人間ごときが悪魔に勝てると思ってるの?」
「思ってるんじゃない。勝たなきゃならないんだよ」
そう言うと悪魔は余裕の笑みを浮かべる。
余裕ぶってるんならその隙の間にヒノ先生を助けさせてもらう。
といっても先程の召喚で魔力の9割を持っていかれた。
不利な状況で万全と言い難いが、それでも俺はやり遂げないといけない。
超久しぶりに『変質』をフルで使う。
ヤタの力だけではない、トヨヒメの力も使って短期戦に持ち込んでやる!!
高速で動き出した俺に悪魔は少しだけ驚きながら武器を構えた。
そしてすれ違うように剣を俺に当てるが斬られてはいない。
だが鎧には一筋の線が出来ている。
あの剣はまさか斬るではなく溶かしてるのか?
超高温で温められた剣を振り回して戦うのがこいつのスタイルか?
俺は接近戦を仕掛けようとしているが悪魔はそうはさせまいと細かい転移を連続で行う。
飛距離は大した事ないが一々消えるのは正直面倒臭い。
移動ではなく点から点に現れるのでどうしてもその間移動する俺の方が不利になってしまう。
だが俺だって黙っちゃいない。
逆に言ってしまえば途中で行先を変える事が出来ないと言う事だ。
ならば次の転移先を予測してそこに攻撃を仕掛けるのが手っ取り早い。
ただ問題はそのタイミングがぴったりと合うかどうか。合わなければ遅れて意味がないし、早過ぎても空ぶるだけだ。
だが俺は野生の勘で戦う男。
素直に俺が正しいと思う場所に向かって拳を突き出す。
すると勘が的中して悪魔の顔面に拳を突き出すところだった。
悪魔は慌てて両手の剣を重ねて防御を取る。
有効打とはならないが、それでももう少し工夫すれば攻撃は当たりそうだ。
「驚いた。まさか悪魔である私にそんな肉弾戦だけで立ち向かってくる生物がいるとは思わなかった」
「残念ながら俺にとって1番の武器は肉弾戦なんでね、お前みたいな強敵相手に小手先の技が聞くとも思えねぇんだよ」
「それに関しては正解。でも私に有効打は一生届かないわよ。鎧のおかげでダメージはない様だけど、その鎧もう既にボロボロよ」
確かに。
たった今の攻撃だけで俺の鎧のあちこちが溶かされてしまった。
本来なら変質で直しながら戦いたいところだが、そんな魔力は残されちゃいない。
圧倒的に不利過ぎる戦闘に流石の俺も参った。
そして悪魔は右手の剣先を俺に向ける。
「そして私は悪魔だから接近戦よりも、魔法戦の方が得意なの」
そう言って炎の塊を撃ちだした。
素直に避けると後方にあった森のどこかに着弾したのか、大きな爆発を引き起こしていた。
俺は舌打ちをしながら悪魔を睨む。
「悪魔と言ったらやっぱり魔法ですか」
「当然でしょ。それじゃ今度はこちらの番ね」
そう言って悪魔は両手の剣先を俺に向けてマシンガンの様に先程と同等、もしくはそれ以上の威力を持った炎を撃ちだし続ける。
避けても避けても消えない炎。
時々掠るがそれだけで鎧が溶ける。
爆発するのは中心部に触れた時だけの様だが……この威力なら関係ないか。
炎には水!っと言いたいところだが残念ながら俺はそんな器用ではない。
だって俺基本的に『変質』と『捕食』でしか戦って……
『捕食』?
ちょっと思い付いた事があるんだが……出来るか?
俺は掌に捕食の効果を付けて炎の塊に触れる。
すると炎塊は爆発する事なく俺に捕食された。
おお!これで長距離攻撃無効化出来るじゃん!しかもめっちゃ美味い!!
例えるなら熱々のスープを飲んでいる様な感じ。味はじっくりと煮込んだ鶏がらスープっぽい。
魔力も回復できてるし、こりゃいいわ!
「ちょ!いきなり何なのその防ぎ方!私の魔力を食べた!?」
「ふう。ごちそうさん。そういや……しばらく忘れてたな」
俺から不穏な空気を感じたのか悪魔は全力で構える。
まるで戦いが始まる前と真逆だ。
俺は舌なめずりをしながら言う。
「野生の戦い。つまり食うための戦いの事をすっかり忘れてたわ」
俺が強くなった原点。それは『捕食』し、『変質』で自身を進化させる事。
バカンスだったり人の世界で生きている間に忘れていた様だ。
今俺の前に居るのは俺が食べた事がない悪魔と言う種であり、しかも今の魔力を感じる限りかなり美味そうだ。
「な、何この感情?手が……震えて……まさかこれが恐怖?私が恐怖を感じてるの?人間ごときに!?」
小さく震える悪魔の剣先を見て、俺は手を合わせた。
つまり合掌。
「いただきます」
それから始まったのは狩りという言葉が相応しいだろう。
鎧を着た飢えた人間が悪魔に襲い掛かる。他者から見ればそんな風に見えただろう。
そして俺の思考は一気に食らう事しか考えられなくなる。
確実に食らうために少しずつ獲物を弱らせる。
それは肉体的、精神的両方から攻める必要がある。
動けるのであれば逃げられる。心が折れてなければ抗おうとする。
それでは確実に食う事が出来ない。
なので俺は弱い攻撃をしながら1つ1つ追い詰めるやり方を選択した。
悪魔が距離をとって炎を放てばそれを飲み込み、近付いて斬ろうとすれば避けて軽く殴る。
美味い肉が傷付かないように少しずつ弱らせる。
強者が弱者をいたぶっている様に見えるがこれだって狩りだ。
確実に獲物を得るための方法の1つでしかない。
それに悪魔の中にはヒノ先生が居る。
彼女を傷付ける事はしたくない。
そうしている間に悪魔を空中から叩き落し、背中から地面に叩き付けた。
悪魔は痛そうにうめくがこれで終わりにしよう。
俺は四つん這いになって悪魔の手足を抑える。
今悪魔はヒノ先生の肉体を得ていると言うのであれば、このように肉体を抑えてしまえば動けないはずだ。
「そ、そんな。私が、悪魔が人間に食われると言うの?そんな無様な負け方は許されない!」
「許す許されないなんて問題じゃないだろ。これはただの現実。弱者に選択肢なんてない」
「例えそうだとしてもこうすればいいでしょ!!」
悪魔は俺達を中心に魔方陣を展開し、炎のドームを創りあげた。
その中で俺達は炎に包まれる。
「私は悪魔で炎には絶対の耐性がある!!でも鎧に包まれていてもあなたは人間!!炎の中で焼き死ね!!」
確かに息がし辛いし、とても熱い。
このままでは焼け死ぬか酸欠で死んでしまうだろう。
もしくは一酸化炭素中毒とか?
そうなっては困るので俺は魔方陣ごと『捕食』した。
それにより炎のドームは消失。
鮮やかな空が見える。
「………………は?ちょっと、どういう事よ!何で手は塞がれているのに何で能力が発動するのよ!!」
「いやお前が勝手に勘違いしてただけだろ?別に掌からしか捕食できないなんて決まってない」
掌で食っていたのは単にそうし易いからという理由だけだ。
やろうと思えば足だろうが背中だろうが触れれば関係ない。
「さて、万策尽きたって事でいいかな?」
「まだ、まだよ!まだ終わってない!私は魔王様の元に戻らないと――」
「もう終わりだよ。強者である俺が決めた。だからここまでだ」
ヒノ先生を傷付けないように悪魔だけを捕食する。
ただ食うのももったいないから核となる部分だけは別腹に送っておいてやろう。
後は毎日食べれるものとし俺の中で飼い殺しにしてやる。
抑え込む俺に抵抗して逃げ出そうとする悪魔だが俺はそれを許さない。
そして一言ヒノ先生に謝っておこう。
「ヒノ先生、すみません。そしていただきます」
「待ちな――!!」
俺は悪魔の唇を奪った。
そこからは口を伝って悪魔の魔力を食べ、飲み込む。
舌で悪魔の魔力をすくい、俺の腹の中に収める。
時々悪魔は苦しそうに声を漏らすが、軽く唇同士が離れるだけできちんとした呼吸にはならない。
「ま、待って!もう止め――」
「止めない。俺の中に来るまで食い続ける」
まだまだ元気な様なので、俺はより激しく蹂躙する。
辺りには咀嚼する音と飲み込む音が響く。
それでも必死に抵抗しようとしていた悪魔の手足から力が弱まり、もはやただ食われるだけになっていく。
大人しくなった悪魔に褒美として先程よりも優しく食べる。
飴玉を舌先で転がすように、より味わうために優しく噛む。
そうして悪魔の魔力をほとんど食べつくすと悪魔は息を切らしていた。
少し長く味わい過ぎただろうか?
久々の美味い飯に夢中になり過ぎたかもしれない。
「はぁはぁはぁ……」
「ヒノ先生からいい加減離れるか?」
「はにゃれる。はにゃれるから許ひて……これ以上食べられひゃら……おかひくなる」
悪魔の呂律もおかしくなっている。
それではと思いそっと最後に悪魔を丸のみにした。
これによりヒノ先生から悪魔は完全に離れた。
それにより悪魔の肉体からヒノ先生本来の身体に戻り、俺はそっとお姫様抱っこの状態で連れて帰るのだった。




