精霊召喚 ヒカルとトキの場合
正直に言えばこのままお祝いをしてもいい程の雰囲気なのだが、あと2人残っているのだから全員無事に成功するまではお預けだ。
それにしても普段使っていない魔力をごっそり半分も持って行かれる感覚は正直厳しいな。
疲労とかではなく感覚的に体内から自分の意志とは違う形でエネルギーを奪われる感覚に慣れていない。
自分で譲渡したり、食べさせる感覚はそれなりに慣れていたつもりだが乾電池代わりになるのは意外とキツイ。
なので俺は帰ったら飯をたらふく食って素直に寝た。
少しでも魔力を回復させないといけないのでこうするのが1番効率的だったりする。
そんな調子で2日目。
今日はヒカルが契約に挑戦する。
ちょっと緊張気味ではあるがやる気には満ちているのでジャンジャン行こう。
アスクレピオスが準備をし、俺が乾電池の代わりになっていると、今回はやけに魔力を消費せずに精霊を召喚する事が出来た。
ヒカルに現れたのは……ランプの魔人?
絵本で出て来る様なコミカルで小さな魔人の様な精霊だ。
そんな精霊が出てきた所で俺達よりも精霊女王が先に声を上げる。
「あー!あんたなんでここに出てきてるのよ!!」
「何でって自分で教えに来たじゃないか。誰か子供の面倒を見てくれって。だから様子を見てたら丁度僕と相性が良さそうな子が居たからね、だから来ちゃった」
つまり……ヒカルは自力で上位精霊を召喚する事に成功したと言う事か?
いや~こんな事もあるんだな。
本当はこう言うのが正しいんだろうけど。
「おい!結局お前はヒカルの魔力を制御してくれるのか?」
俺が声をかけると精霊は頷いた。
「そう言う事情は聞いてるよ。当然それだって引き受けるさ。それじゃ僕はヒカル君の相棒として一緒に行動させてもらうからね。じゃ!」
そう言って精霊はあっさりとヒカルの中に入り込んでいった。
どうやら契約は成立したらしい。
ヒカル自身もとんとん拍子で進み過ぎたせいかいまいち実感が持てていないように感じる。
だがまぁいいだろ。
俺達の補助があったかなかったかの違いでしかない。
俺の魔力量に問題はないので今日中に方を付ける事が出来る。
俺はトキに聞いてみた。
「トキ。俺の魔力はまだまだあるから召喚出来そうだがどうする?」
「私もする!私も精霊と会いたい!」
2人とも成功したからか、トキにはあまり恐怖心はなさそうだ。
これなら順調に行けるかもしれないと思い再び準備する。
だが相変わらずヒノ先生はどこか不安げだ。
確かにこれで失敗した場合、他の方法を1から探さなくてはならないがおそらく成功するだろう。
そう思いながら俺達は魔方陣を起動させる。
流石に2回連続で選ばれるとは思っていないので魔力を奪われる感覚に身構える。
だが俺の魔力は一気に奪われた。
奪われた魔力量はおよそ9割、以前よりも多過ぎる!!
そしてアスクレピオスから焦る声が聞こえる。
「嘘でしょ!?まさか、そんな!」
「何が起こってる!!」
「介入です!何者からか術式の書き換えを受けています!!しかもこの術式って!!」
想定外の事が起きたと言うのだけは分かる。
トキだけは祈りを捧げる様にしているが、他の者達も俺達の様子から察して慌てている。
俺は9割の魔力を一気に奪われたからかこれ以上奪われる事はないらしい。
ならばトキをこれから現れる何かから守るために俺は祭儀場に飛び込もうとした瞬間、動きが止まった。
それはとても奇妙な感覚だ。
毒でもない、魔法でもない、物理的なものでもない。
まるでそうである事が辺りまであるかのように動けない。
精神的なものでもないように感じるが一体これはどういう事だ。これではトキが!!
そう思っているとトキの目の前に何かが現れようとしていた。
この身体が動かない状態をどうにか打破できないかと考えを巡らせるがピクリとも動かない。
そして何かは現れた。
それは美しい女性だった。
銀髪を真っ直ぐに伸ばし、黄金比で作られた様な身体。服装はギリシャ神話に出て来る様な真っ白なマントと服が一体になった様な物を着ている。
その女性は現れるとまずトキに向かってほほ笑んだ。
その後何かを探すように顔を動かすと俺と目が合った。
女性はトキに向けた微笑みとは違った笑みを浮かべて近付いて来る。
敵意はない様だが正体がさっぱり分からない。
その前にこの動けない身体をどうにかしなければどうする事も出来ない。
俺は謎の女に睨みつけながら、その子に何かしたらぶっ殺すと強く目で訴える。
だと言うのに女性は足掻く俺の事を知ってか知らずか、微笑んだまま俺の頬にそっと触れた。
それがどんな意味なのかは分からない。
だが分かるのはこの女性は敵意はないけれど、とてつもなく大きな力を持っていると言う事だけだ。
女性は俺の頬を撫でる様に触った後、何故だか満足したように去る。
再びトキの元に行ったかと思うと他の精霊と同様にトキの中に消える様に入り込んだ。
完全に消えると俺の身体はきちんと動く様になった。
俺はトキに駆け寄り異常がないか確かめる。
「トキ。身体に違和感はないか?気持ち悪かったり変な感じはないか?」
「……?何もないよ?精霊さん来てくれたの?」
「………………覚えてない、いや見てなかったのか?」
「何も見てないよ。目をつむって精霊さん来てくださいってずっと思ってたから」
不慣れだが俺なりにトキの身体を調べるが異常はない。
むしろ魔力の方が安定しており目的は達成していると言える。
結局あれは精霊だったのか、それとも違う存在なのかさっぱり分からない。
とりあえず今は喜べばいいんだろうか?
「アスクレピオス、トキの身体を調べてみてくれ。俺には分からなかったものが分かるかも知れないだろ」
「はい。やってみます」
そう言って確認するアスクレピオスだが、特に異常らしい異常は見つからないらしい。
結局あの女性は誰だったのか、それどころか精霊だったのかすら分からない。
ヒノ先生とヒカル、カエルも駆け寄ってトキの無事を確認する。
「タツキ先生!トキは大丈夫なんですか!?」
「大丈夫です。上手くいきましたよ」
「そうなんですか……それは、とても良かった」
「急にタツキ先生が走り出すから何事かと思ったぜ。何ともないんだよな?」
「本当に何の問題もないんですよね?」
「調べてみたが何の問題もない。魔力も安定してちゃんと大人になれる。てことで今度から勉強真面目に頑張らないと今後大変な目に遭うぞ?」
「「「え~」」」
不満そうに言う子供達だが表情は明るい。
これでやっとスタートラインだ。
この子達の人生が始まるスタートラインに。
とりあえず今日ぐらい多めに見てやろうと思っていると、ヒノ先生がどこか苦し気に胸を抑え始めた。
「ヒノ先生!どうしました!?先生!!」
「あっぐ!逃げて、ぐだざい!!子供だぢをずれで!!」
口調すらままならない程に鬼気迫る表情に俺は驚いた。
「先生!ヒノ先生!!」
「どうしたんですか!?ヒノ先生!!」
「タツキ先生!!ヒノ先生が!!」
「分かってる!でも原因が分からない以上処置のしようが!」
「うぅ!はっやぐ!!抑え、きれな!!」
ちきしょう!!一体何だってんだよ!!ヒノ先生の身に何が起きたってんだ!!これでハッピーエンドでいいだろうが!!
そう思っているとアスクレピオスは慌てて俺に言う。
「タツキ様!!彼女から悪魔が飛び出そうになっています!それが原因かと!」
悪魔?ヒノ先生の中からか?
原因は分かったがどうするのがいいのかさっぱり分からない。
なのでとりあえず安全策を取る事にした。
「ヒノ先生、すみません!!」
そう言って俺はヒノ先生の手を掴んで思いっ切り投げ飛ばした。
その後素早くジャックとアスクレピオスに言う。
「子供達の事は任せた!!」
そう言った後俺も投げ飛ばした先生の後を追って跳ぶ。
空中で鎧に着替えてヒノ先生を見つけた。
コントロールは問題なかったようで以前みんなとバーベキューをした場所だ。
その中心にヒノ先生は立っている。
「ヒノ先生、大丈夫ですか」
「は……やく、ごろじて。おねが……」
「殺したくなんかありませんよ。ちゃんと助けます。子供達を救ったように」
そう言うとヒノ先生は抑えきれなくなったのか、少しずつ燃え盛る炎に飲み込まれた。
飲み込んだ炎はその内人に近い姿に変化する。
それは妖艶な美女と言うの言うのが相応しいだろう。
まるで下着の様なエジプトの踊り子のような服装、太陽の光で輝く銀髪、色気を放つ日焼けした肌、服の端々に付けられたきらめく宝石。
だがその宝石は本当にただの飾りとしか機能していない。彼女より美しい物はない。
そして両手に持っているのは随分と湾曲した剣。刀身に魔法の文字が書かれている魔法の武器だと言う事は一目で分かる。
そんな彼女は妖艶に笑った。
「やっと表に出る事が出来たわ。ありがとう人間さん。あなたのおかげで契約が早く終わったわ」
「そりゃどうも。ならお礼にあなたの名前を教えていただけませんか?」
恭しく言うと彼女は上機嫌で名乗った。
「私は偉大なる調停者の1人である魔王様の腹心が1人、名をアドラメレク」




