次はどこに行こうか?
「よいしょっと。これがスパーキングレオの代金だよ」
そう言ってオルニさんは金貨を並べる。
「今回は骨だけだから大金貨10枚になるよ」
「大金貨ってよく使われるものなんですか?」
「いんや?普通に使うのは銀貨と銅貨だね。大金貨なんて精々家を建てる時ぐらいなものだよ。それでも大抵は大金貨1枚で済むけどね」
「それなら1枚銀貨に両替できませんかね?大変なのは分かりますが……」
「あ~それもそうだね。それじゃ1枚分だけ金貨と銀貨で支払わせてもらうよ」
そう言ってオルニさんは大金貨を1枚戻して金貨9枚、銀が10枚に両替してくれた。
価値に関しては今後慣れていくしかないだろうがしばらくは生きていけるだろう。
大金貨を使うのは家を建てる時ぐらい、つまりかなりの大金である事が分かる。
元々財布なんて持ってないし、別腹の中にしまっておこう。
「またS級の素材が手に入ったらぜひうちに卸しておくれよ。待ってるからね」
「はい。それではこのまま冒険者登録の方もお願いします」
「そう言えばそうだったね、おいで。ちょっと特別な物を用意するから個室で行うんだ」
言われるがままにオルニさんの後を追う。
だがマルダは一緒に来ようとしない。
「マルダは来てくれないのか?」
「え、でも冒険者カードは個人情報の塊ですよ。私はここで待ってます」
「そう言うもんか。それじゃ少し待っててくれ」
マルダと少し分かれてギルドの奥に進む。
オルニさんが通してくれた場所は簡素ではあるがきちんと掃除が行き届いている部屋だ。
そこにはテーブルの上に水晶が1つ置いてあるだけで、他に目立つものはない。
「それじゃそこに座って。軽い検査をするから」
「検査?」
「ええ。流石に犯罪者を冒険者にする訳にはいかないからその確認だよ。その水晶に触れて犯罪歴がないか確認するんだよ」
「この水晶1つで分かるんですか?」
「ギルド本部から支給されている魔道具だよ。国が取り調べを行う時にも使う物だから安心して使える。それじゃそこに座って」
オルニさんと向かい合うように座って水晶に触れる。
それを確認してオルニさんは何か、マニュアルの様な物を見ながら聞いてきた。
「まずは名前をどうぞ」
「タツキ」
「年齢は?」
「今年で……18」
「性別は?」
「当然男です」
「罪を犯した事はあるかい?」
「ないです」
水晶は……無反応。これちゃんと起動してるんだよな?
その様子を見てオルニさんは満足そうに頷いた。
「これで検査は終了だよ」
「え、これで終わり?」
「犯罪歴がなければこんなもんだよ。元奴隷って人でも大抵は借金奴隷だし、犯罪者はむしろアヴァロンに来ることはまずないからね。反応したとしても軽犯罪者、喧嘩して大怪我させたぐらいの者の事が多いから。それに前半の質問に関してはカードに記入するための質問だからね」
そんな感じの検査なのか。
お国も使っているというからもっと細かいとこを聞いてくるんだと思ってた。
そしてオルニさんはテーブルに透明な板状のものを置いた。
「これがカード、これに血を1垂らせばばすぐに使えるよ」
「名前とかどこに書けば……」
「血を垂らしたら自然と浮き出てくるから問題ないよ」
そう言いながらナイフを1本取り出した。
柄の部分を俺に向けて渡すが……え、もしかしてこれで血を流せって事?
俺の予想は当たっていたらしく、オルニさんは肩をすくめながら促す。仕方がないので親指を軽く切り、血をカードに擦り付けた。
するとカードから俺の名前、年齢、性別が浮き出た。
勝手に浮き出てくるなんてファンタジー。
「これで登録は完了だよ」
「ありがとうございました」
こうして俺はギルドから出てマルダと会った。
「終わったみたいですね」
「ああ終わった。これで俺も冒険者の仲間入りだな」
「と言うか冒険者でもスパーキングレオの討伐なんて普通無理なんですけどね。一体どんな所に住んでたんですか?」
「井戸もない過疎化したなんもない村から来た」
他にも言い訳が出来たかもしれないがパッと思いついたのはこれだけだ。
まぁ過疎化とか井戸とかそういうのは要らなかったかも知れないけど。
教会に戻りながらマルダと話をする。
「はぁ。なんにせよ強いっていうのは羨ましいです。私は下っ端で弱いですから……」
「俺だって最初は弱かったんだからそう気にするなって。最初っから強い奴は……そう居ないだろ」
「で、ですよね~。ちなみにタツキさんはどんな方法で強くなったんですか?」
「スキル頼みの戦闘だから参考にはならないと思うぞ」
「あ、スキル保持者だったんですか。道理で強いはずです」
ん?スキルってみんな持っている物じゃないのか?
「スキルってみんな持ってるもんじゃないの?」
「持ってるって言っても本当に基礎的なスキルが一般的ですよ。身体強化、各耐性、後は……魔力消費を抑えるスキルだとかそんなところですよ。人間で凄いスキルを持っているのは伝説の勇者様や達人と言えるお爺ちゃんたちぐらいでしょうか?」
思い出す様にマルダは言う。
そいつ等ってやっぱり最初っから強いスキルを得て生まれてきたのか?
「達人ね……その人達ってみんな最初っから持ってるスキルだけで強くなったのか?それとも後天的にスキルを得る事って出来るのか?」
「それは普通にできますよ。剣の修業を行っていれば剣のスキルを手に入れる事が出来ますし、魔法の修業を行っていれば魔法に関するスキルを得る事が出来ます。でもそれらは全て基礎的なスキルだけであり、勇者様のような世界を救うスキルになる事はないはずです」
「世界を救う、ね。壮大な話だ」
マンガやアニメなどでは普通に行なわれている事だが、実際にそれを実行するとしたらどれだけの実力が必要なんだろう?
有り体に言う勇気だとか力だとか友情だとか、様々な物が必要だろうに。
俺はそんな面倒な事はしたくない。
出世欲も目立ちたいと言う欲もない。好き勝手に生きていけるというのならそれだけで十分だ。
世界を救いたがる連中の気持ちが分からない。
救うのは身近な誰かぐらいでも十分な気がする。
「そうですよね……あ、でもジャンヌさんはその中の1人に数えられそうなんですよ!」
「え、ジャンヌが?」
「はい!!最近魔物の活動が活発になっているらしく、世界中で魔物対策に追われているんです。なので若手から有望な者を積極的に鍛えようとしているんです!その中の1人としてジャンヌさんも選ばれたんですよ!!」
「それは……喜ぶべきか?」
「え?喜ばしい事じゃないんですか?」
マルダは分からないらしいが俺としてはな。
本人がそういう強くなりたいという気持ちがあるのなら喜んで送りだすものの、そうなのかどう分かんないのに喜ばしいと決めるのは何か違う気がする。
分からない時は素直に聞いてみるのが1番だろう。
「ジャンヌ自身はどう思ってるんだ?」
「喜んでましたよ。教会騎士としては出世みたいなものですし、ジャンヌさん自身すごく喜んでますよ。これでまた誰かを守る事が出来るって」
「……そうか。なら祝福しないとな」
「ですよね!!」
何らかの打算なしに誰かを救おうとする奴は本当に英雄、という言葉が相応しいと思う。
普通なら何らかの理由があって行うはずの行動だ。
単にそれが大切な人だから、何らかの徳があるから、普通はそんな事を考えて行動していると思うのだが考え過ぎだろうか?
それでも実力がなければ無謀と言わざる負えないのだが。
「ジャンヌさんも英雄の道を進み始めたかと思うと……感慨深いですね……」
「それって長い付き合いの人が言うセリフじゃないか?そんなに長い付き合いなのか?」
「結構長い方だと思いますよ。私達は教会の孤児院に住んでいたので子供の頃から一緒です。ジャンヌさんは孤児院でもみんなのお姉ちゃんって感じで、私達の事を守ってくれますから」
孤児院……前の世界じゃそんな聞かなかったな。
この世界には魔物が居るのだから当たり前なのか?
前の世界の様に人間の天下ではない事は何となく分かっていたが、それでも驚きだ。
孤児なんてドラマか遠い国での話としか思えなかったからな。
「えっと、タツキさんは次はどこの国に行くんですか!」
「え?そうだな……特に決めてなかったし、どっかいい武器を作ってる場所って知らないか?」
結構大きな声で聞かれたので少し驚いた。
いい武器と言うとマルダは頷きながら言う。
「それならドワーフの国なんてどうでしょう?あそこにはいい武器がたくさんありますよ」
お~これまた王道。いい武器とドワーフか。
でも勢いで言ってみたが俺に武器ってそんな必要ないんだよな……
俺の身体を変質させればある程度の武器以上に強い爪や牙が手に入るし、それに武器を扱った事なんて1度もない。
精々学校の授業で習った剣道で使った竹刀か木刀が良い所だ。
でも武器を持っていない冒険者と言うのもおかしな話だろうし、冒険者であるアピールとして買ってみるか。
「そのドワーフの国ってどの辺なんだ?」
「イングリットから見て北東にある鉱山地帯にドワーフの国があります。商業都市としても有名なのですぐに見つかりますよ」
「商業都市……やっぱ武器とか作って売ってるからか?」
「その他にも細工だったり細かい作業は得意な種族です。でも気を付けてください」
「え、何に?」
「気に入られるとお酒をじゃんじゃん飲まされますから」
あ~酒好きって所も同じなのね。
その時は急性アルコール中毒ならないよう気を付けよ。
そう思いながら次の国を決めた俺である。
そういや前世じゃ美味い酒って飲んだ事なかったな。
未成年だからどうしようもないけど。