教会地下の強者
キリエス周辺で待機して夜になる。
周囲に森の様な身を隠せる場所はないのでギリギリまでソニックドラゴン達を俺の別腹の中に隠しておく必要があった。
そして暇な間はスマホでキリエスの事を細かく調べていた。
このキリエス教国は俺の知っている感じで説明すると京都の様な感じだ。
この国1つを最初から巨大な儀式に使えるよう設計されていたらしく、大規模な儀式を行うのに適した国と言える。
風水とか五行思想とはさすがに違うだろうが、この世界には神様が居て俺のように直接話をする人間が神様のアドバイスを聞きながら造ったとすれば何1つおかしい点はない。
おそらく自称正義の神様が造らせたであろう国と言うのであれば確かに危険度はとても高いのかも知れない。
でもこの奥に蛇の真祖が居て、子供達を助ける事が出来ると言うのであれば挑む価値は十分にある。
俺は鎧姿に変身した後、別腹内のソニックドラゴン達を別腹から飛び出させ作戦を開始する。
だがこの国の結界はヴァロンランドのよりも堅いらしいので俺が直接砕く。俺が魔力砲で結界を破るだけだ。
後はソニックドラゴン達が時間稼ぎと祭儀場の破壊をしてくれる。
祭儀場はこの国の中心に建てられており、同時に最大の礼拝堂でもあるらしい。
それを壊すのは様々な色んな宗教の人に怒られそうだが、こいつ等は異世界人を拉致って平気で使うクズ共なので俺の心は全く痛まない。
俺は指揮官に任命したソニックドラゴンの背に乗ってキリエスのちょうど真上に立つ。
自分でも飛べるがやっぱりドラゴンの上に立つのは男の夢。自分で作ったとはいえドラゴンの上に立ってみたかったのである。
丁度上空に来た時に指揮官は俺を促すように顔を動かす。俺はそれに頷いてから真下に手をかざす。
今回必要なのはただの破壊力ではなく、どちらかというと貫通力だと思う。なので貫通する銃弾をイメージしながらキリエスの中心、祭儀場めがけて魔力砲を撃った。
その結果に俺が作りだしたソニックドラゴン達は全員俺の事を見て、無言でどうするの?っと抗議してくる。
俺はそれに対して何らかの反応をしなければならないのだろうが、どう返せばいいのかよく分からない。
とりあえず結界の破壊には成功した。
だがその真下にあった祭儀場は跡形もなく消し飛んでいた。しかもクレーター……というよりは深そうな穴まで出来ていたのでどうすればいいんだろうと思う。
国には緊急の鐘が鳴り響き、緊急を知らせる。
わらわらと虫の様に出てくる教会騎士に対して俺はソニックドラゴン達に言う。
「とりあえず俺が蛇の真祖を連れだすまで時間稼ぎを頼む」
そう言って俺は鎧を周りの景色に溶け込ませながら飛び下りた。
どこか呆れるような雰囲気があったがソニックドラゴン達は雄叫びを上げながらキリエスに攻撃を仕掛ける。
夜と言う事もあり、地上に降り立つとソニックドラゴン達の様子が見辛くなるが、ソニックドラゴン達のブレスは雷と言うかプラズマみたいな感じなのでピカピカと光って眩しい。
もしかしたら意外と時間稼ぎには最適だったのかも知れない。
俺はスマホで見たマップを思い出しながら蛇の真祖が居るであろう場所に向かって走る。
そこはキリエスの地下にある何故か資料室に反応があった。蛇の真祖を調べる事でアセナ達の再封印の仕方でも探っていたのだろうか?
だがそれでも何故資料室なのだろう?実験室は他にもあったようだし、何故そこにあるのかよく分からない。
だが理由などどうでもいいのでさっさと助け出すとしよう。
資料室は西側にある塔の地下にある。
この国は綺麗な正方形型の国をしており東は住居区、北は政治をする場、南は宗教関連の施設が集中していた。
そして俺が今から入る西側は資料や美術品の保管などを目的とした施設が集中していた。
どんな物が保管されているかと言うと、主に宗教関連の美術品らしい。元の世界風に言うなら天使と人間の絵とか、神様の彫刻とかそんな物が保管されているとか。
そんな美術的価値など全く知らない俺にとっては誰かが描いた絵でしかない。
所詮美術的価値なんて1部の本当に理解しているつもりの富豪達が決める物だろう。俺はそんな食えない物に興味はない。
蛇の真祖が居る場所に行くには少し面倒な事に、西側の地下を複雑な迷路の様になっているのでこれを攻略する必要がある。
美術品を盗まれないための防衛策なのだろう。しかもいやらしい罠と言うか何と言うか、行く時よりも帰る時の方が難しくなるという構造をしていた。
歩いてみて分かったのだが、微妙なほんの1度2度の坂だったり、全て同じような作りをしている事による帰り道の分かり辛さなど入れないよりも帰さない作りをしている。
しかも時々どこかの部屋を通る必要もあり、通路だけを進もうと思えば絶対にたどり着けない作りだ。
と言っても俺にはマップ機能があるので問題ないんだけど。
スマホのマップ機能にあるナビを使えば行き帰りに迷う事はないけどな。
そんな風にナビを使いながら蛇の真祖を目指していると、ふと霧が出てきた。
と言うか霧?地下で?それとも防衛機能の1つだろうか?
なんて思っていると何かの気配がする。足は止めずに気配だけで探ると何かいる。
『変質』でピット器官や超音波で相手が何者か探ろうとした時、1本のナイフがすでに俺の首を狙っていた。
だが俺は恐れずそのナイフを掴む。とても軽い。どうやらナイフを投げてきたようだ。
ナイフを掴む事に少し意識が言っただけで既に何かの気配は霧の中に消えている。
どうやら優秀な暗殺者が居るらしい。
ナイフを調べてみると毒などが塗られている事はなく、ただの鋭利なナイフだった。そして少し様子を見ているだけだったのにふと霧のように霧散してしまった。
こうなると少し警戒しておいた方がいいかも知れない。
視覚だけでなく他の器官も使い常に警戒しておく。
そうして歩いていると相手はなかなか殺しに来ない。というよりは超音波に気が付いている様子すらある。
何かの形状は人型。しかもかなり小柄で子供と言ってもいいのではないだろうか?流石に性別までは分からないが小さな笑い声が聞こえる。
面白がっているような笑い声だ。もしくは楽しんでいる。
最終的に何かは俺が次に通り抜けるべき部屋の中に入り込んだ。
確か次に通る部屋は……何もないドーム状の部屋だったはず。そこで一騎打ちでもする気だろうか?
直接戦闘も出来る暗殺者って面倒としか言いようがないな。
だが俺の進路上に居るのであれば仕方がない。俺はその扉を開けた。
そしていきなり俺の首に現れる2本のナイフ。1度目も防げたので2本同時でもつまんで止める。
止めた後相手に再び使わせない様に持っていようと思ったがまた霧のように消えてしまった。
となるとこのナイフはスキルによって創り出されたとみて間違いないな。
すると暗殺者は笑いながら話しかけてきた。
「アハハ。やっぱり強いんだね~お兄さん」
『……名を聞いても?』
「私?私はジャック・ザ・リッパー。お兄さんの名前は?」
ジャック・ザ・リッパー?
あの世界的に有名な殺人鬼?
だが姿は相変わらず霧の中に隠れたままだ。
『私は……残念だがここで名乗る訳にはいかないな』
「やっぱりダメ?お兄さんも随分警戒心が強いね。いい子いい子してあげようか?」
『残念だが私は子供にその様な事をしてもらう趣味はない。だがそうだな……暫定的に黒と言うのはどうかな?』
「クロさん?良いよ~クロさんだね。それでクロさんは何しに来たの?」
『この奥に探し物がある。それを取りに行くだけだ。邪魔をしないでくれ』
「でもね~これも私のお仕事なんだ~。お宝を盗みに来た人は解体していいって!」
そう言って俺に跳びかかって来た。
そして初めて見るジャックの姿。それは小さいと言うよりは幼い子供で白髪のショートヘアーで赤い目。服装はライダースーツみたいな感じで邪魔になる物は一切ない。両手にあるのは投げてきたナイフと同じナイフだ。
にしてもどこかで見た事がある姿なんだよな……
どこで見たんだっけ?
俺はジャックのナイフを最初こそ鎧で受け止めようと思ったが受けずに避け続ける。受けるとしてもそのナイフの刃には触れずに側面を掴んで身を守る。
ナイフが軽いからかナイフの動きは変幻自在、しかも結構なスピードだ。光速までにはいかなくてもあの森の中でそれなりに生きていける程の実力はある。
それに何と言うかあのナイフの刃に触れるのは危険だと本能が叫んでいる。
もしかしてナイフ、もしくはジャック自身に何らかのチートスキルを持っている可能性が高い。
そして子供の見た目にしては攻撃がかなり鋭い。
スピードに特化したタイプと見てまず間違いない。子供特有の軽さにスピードを足せばそりゃ当然かなり速くなるか。
しかもスキルの効果なのか気配が異様に薄い。
普通はここまで殺気を出していればはっきりと分かるはずなのに、相変わらずジャックの気配掴み切れない。
影が薄いなんてレベルを超えている。
暗殺特化のスピードタイプ。殺せ〇せーか。
しかも問題は身長差。
ジャックはどう見ても子供、しかも小学校低学年ぐらいの見た目だ。となると180超える俺との身長差はとても大きい。
あまり使わない足技限定となると俺の方が不利だ。
見た目以上にやりにくい。しかも身長差だけではなく的確に人間の可動範囲を知っている動きをしている。人間の身体の構造にも詳しい相手の様だ。
あまり手の内は見せたくないが、仕方がないか。
「どうしたの!守ってばかりじゃ勝てないよ!世界1の大悪党の名が泣いちゃうよ!!」
そんな事名乗ったつもりはないが、それならこれで終わらせよう。
わざと背後に隙を作った後、ジャックは俺の首を狙ってナイフを縦に突き刺そうとした。
そこで俺の身体を『変質』。と言っても大した変質ではない。骨の少ない生物の様に、軟体生物の様に身体を細胞レベルで柔らかくしただけだ。
これによりびっくり人間みたいな感じで身体を捻れば360度回転できる。
「え!?」
流石のジャックもこの動きは予測できていなかったのか、空中でナイフを突き出した状態になる。
どれだけ素早くても人間である限り空中で動けない。俺はジャックの首を掴んで地面に叩き付けた。
「がふ!!」
そのままジャックをうつ伏せで抑える。
これで勝ちだ。
『私の勝ちだな』
「な、なに今の動き?お兄さん本当に人間?」
『一応は、だな。それよりどうする?このまま大人しくするのであれば殺さないでおくが』
「あ~それは無理なんだよね~」
『無理?』
「私この教会の偉い人に呪い掛けられててね、この国を出るか、仕事に失敗すると死んじゃうんだ。だからどっちにしても死んじゃうんだ~」
なんだそれ?
元々この子は使い捨てにする気だったって事か?
……気に入らない。とても気に入らない。
『それはどのような呪いだ。詳しく聞かせろ』
「詳しくって言っても言われた事しか知らないよ?さっき言ったように仕事に失敗するか、この国を出ると自然と発動する仕組みなってるって話しか知らない。多分詳しい話をして解呪しようとするのを防ぎたかったんじゃないかな?」
『本当にそれだけか』
「それだけ。あ~でも個人的な願望としては呪いじゃなくてお兄さんに殺されたいな~。その方が死んだ後地獄で自慢できそう」
……随分と寂しい事を言う。
俺はそっと手を放した。ジャックは意外そうに見てその場に座った。
そして俺と向き合って言う。
「殺さないの?」
『……小さな希望だが、その呪い解呪できるかもしれない』
「え」
ジャックは驚く。
『私を信じられるのなら少し身を任せてみろ。信じられないのなら死ぬだけだ』
「ほ、本当に?私助かるの?」
『生きたいと思うのなら首を出せ』
ジャックは俺に言われるがままに首を見せた。
戦闘中にはちゃんと見られなかったがジャックの首には首輪の様なタトゥーが刻まれていた。どこか禍々しく、気味が悪い。
俺はジャックの首に触れて呪いを『変質』、わざと衝撃に弱い部分を作ってそこに魔力を当てると簡単に壊れた。
『これで呪いは破壊できた。何か異常はないか?』
「多分ないよ。本当に……これで自由なの?」
『まだ自由ではない。この国を出てからが自由だ。それに俺はこの奥に用がある。どうする?共に行動するか?』
もしここから出られると言うのであれば、それもいいのではないかと思う。
どれぐらい前からなのかは分からないがそれなりに長い時間ここに居たように感じる。
1人の方が逃げやすいと思うのであればそれそれでいいと思う。
だがジャックは首を縦に振った。
「うん。一緒に行くよ。帰り道分からないし」
『そうか。それでは共に行こう』
俺はジャックの手を掴んで一緒に歩き出した。




