蛇を探しに
「校長先生、ヒノ先生。少しお話良いですか?」
王様と会った2週間後、俺は校長先生とヒノ先生を呼び出した。
内容は当然蛇の救出だ。と言ってもそれを正直に話すつもりはないのでもちろん別な言い方をする。
校長室に通された俺はお2人に言う。
「ようやく精霊を召喚出来そうな方を見付けました。その方を見付けに行くついでに下見をしておきたいので少し休暇をいただいてもよろしいでしょうか?」
「下見とは?」
校長先生が当然の質問をする。
「上位精霊を召喚する条件の1つとして自然に囲まれた場所に魔方陣を描かないといけないそうなのです。すぐそこの森でも条件は満たせるでしょうが、危険ですのでもっと安全で広大な森があるユーラニアと言う国で上位精霊を召喚する事が許されるか交渉に行ってきます」
「そうですか。もうそこまで準備していたのですね」
「はい。と言いましてもその前に寄る方がこちらに協力してくれるかどうかの方が重要なのですが……」
「手紙か何かで伝わってはいないのですか?」
「送りましたが残念ながらまだ返事は帰ってきていません。まだ少し猶予があるとは言え、できるだけ早くしたいと思っています」
ま、無理やり協力させてもらうがな。
そういうとヒノ先生は少し寂しそうに言う。
「そうですか。あの子達も懐いていたので少し残念です。旅はどれぐらいの長さになりそうですか?」
「速くても2週間。遅かったら……1か月ちょっとでしょうか?と言っても交渉がほとんどになりそうなので何とも言えませんが」
ユーラニアと言う国での交渉が今回の肝となる。
蛇の真祖に関してはどんな手を使ってでも分捕るつもりなので、特にこれと言った難しい所はない。
それに今回ばかりは俺も本気なので、今まで使ってこなかった能力の実験なども行ってみようと思う。
今回だけは、ガチだ。
子供達の命がかかった状態でいつものようにノリだけで行うつもりはない。
その事を真剣に語る事で誤魔化す。
別に全部嘘って訳でもないからな。
「……なんにせよ、しばらく生徒達が寂しがるでしょうね。とても馴染んだと聞いていますが?」
「はい。タツキ先生にとても懐いていますよ。本当に……」
どこか感慨深そうな表情をするヒノ先生。
その表情はとても穏やかではあるが、何故だか酷く脆い笑みにも見えたのは気のせいだろうか?
「と言う訳で少しお休みをいただきたいのですが」
「いえ、これは立派な仕事です。依頼内容は子供達を救う事、ならばこの旅も依頼内容に一切矛盾する点はないと言えます。ですので日数の事は気にせず、しっかりと務めを果たしてきてください」
「………………はい。しっかりと務めて来ます」
真摯な態度に俺は真摯に返した。
そして相談する。
「それで何ですが……生徒達には何て言いましょう?事情は俺よりも知ってるでしょうが、突然すぎるのではないかと……」
「それは私の方で助けておきます。ただちゃんと一言と行って来ると伝えておかないと怒るでしょうね」
「ちゃんと言いますよ。ただ……その後大変な気がするので何となく……」
「きちんと理解してくれますよ。寂しいとは言いそうですけどね」
結局言ってみないと分からない。
どうせまた会えるし軽く行って来る程度でも大丈夫か。
助けに戻るのは決まっている事だし。
そう思うと少しだけ話し易くなった。
そして校長先生達と話して俺が旅に出るのは3日後と決定した。
その間に生徒達に言っておく事と言われたが元々言うつもりだったので何も問題ない。
ただ単にヘタレてただけの話だし。
そしてその日の授業終了後、ちょっと重要な話があると言って3人を止めた。
「ちょっと真面目な話になるが、しばらく学校を休む事にした」
「え?」
「急にどうしたんですか?」
「どういう事だよ先生?」
「上位精霊を召喚出来る人を見付けた。だからその人を迎えに行く。だから少しの間学校を休む」
「先生!!」
そう言うと何故かトキが飛び出して俺にしがみ付く。
さらに鼻をすする音もする。
「バイバイなの?」
「そんな訳ないだろ?俺はお前達を助けられる人を呼びに行くだけだ。バイバイな訳ないだろ?」
「本当?」
「本当だって。と言うかバイバイしたら助けられないし、帰ってくるに決まってるだろ」
しゃがんでトキの頭を撫でながら言うとようやくトキは落ち着いてきた。
まだ目元に涙を浮かばせていたが、さっきよりは落ち着いた方だろう。
「な、なんだよ~。それなら真面目な話とか言いだすなって!」
「僕も驚きました」
「だ、だって真面目な話だし真剣に言わなきゃいけない事だろ?」
「でもすごく驚いた……」
「驚かして悪かったな、トキ」
撫でられるトキはただその感触に身を任せる。
俺は少し離れた所で笑っている人に目線を動かす。
「で、助けてくれるんじゃなかったんですか?」
「すみません。とても微笑ましかったですから……」
そう言ってヒノ先生は笑いを堪えている。
俺だってまさかこれだけでこんな反応されるとは思ってもみなかったんだよ。
「という訳でみんな、タツキ先生は少しの間旅に出ます。その間また私達だけになりますが、必ずタツキ先生はこの学校に戻ってきます。それまでちゃんと勉強しましょうね」
「え~勉強~」
「ヒカル。必要な事なんだから覚えないと」
「ちぇ~。カエルは真面目だな」
何て男子2名は言う。あの2人は大丈夫そうだな。
問題は今も俺に撫でられているトキの方か。
「先生どれぐらいで帰ってくる?」
「早くて2週間。遅くても1か月後には帰ってくる。それまでちゃ~んといい子にしてろよ?」
「分かった。それじゃこれ」
そう言ってトキは小指を出す。
「お。指切りか?懐かしいなぁ。それで何を約束する?」
「ちゃんと帰ってきてね」
「分かった。それじゃ指切りだ」
こうして俺はトキと指切りをする。
俺と比べると何もかもが小さい。この子達には幸せになってもらいたい、と言う思いは変わらない。
約束するまでもなく果たすつもりだ。
「「ゆ~びきった!」」
これで約束完了。
俺は再びトキの頭に手を置いて撫でる。
もうトキの表情に不安は見当たらない。
「もう大丈夫か」
「うん!」
「ならよし」
撫でるのを止めてもトキの表情は晴れやかなままだ。
こうして俺は学校から休暇を取り、蛇の真祖を迎えにキリエスへと行く準備を整えた。
準備期間でアヴァロンへの依頼の取り下げ、旅用の食料品を買ったりとした後に旅立つ。
それから生徒達へ最後の試合を行った後、校門から出る前に子供達とトキ先生が待っていた。
「見送りは要らないと言ったはずですが?」
「それでもこの子達が見送りたいと言っていたので連れてきました」
それじゃ仕方がないかと思いながら子供達を見る。
「そんじゃちょっくら行ってくるから大人しく待ってろよ」
「タツキ先生も気を付けてな!」
「旅の無事を祈ります」
「帰ってきてね!」
「当然。さっさと会って連れて来るから少しだけ待ってな」
別腹収納が出来るので見た目は手ぶらだ。
だがこの国に来る前より重たいものを背負っている。
失敗は決して許されない。
「そんじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃーい!!」
「気を付けてくださいねー!!」
「せんせー!頑張ってねー!!」
俺は振り返らず手を振ってキリエスに向かう。
それじゃ久々に本気を出そうか。




