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魔物の襲来

 警報音が鳴り響いた後、校内全体に緊急の放送が流れる。


『たった今ヴァロンランド国周辺でワイバーンが目撃されました。生徒のみなさんは落ち着いて教室に待機してください。校庭や廊下に出ている生徒は速やかに近くの教室に入って下さい。教師のみなさんは生徒の安全を第1に優先し、近くの教室内に避難させてください。繰り返します――』

「へ~こういう事もあるんだな」


 ついでに言うとワイバーンか。ファンタジーじゃよくある展開だな。

 とりあえず仕事を始めるか。


「お~い、廊下に出てる生徒はこっちに来な。放送聞いただろ~」


 何て言いながら生徒達を招き入れる。

 自分達のクラスに近い生徒達は自分のクラスに戻ったようだが、遠い所にある生徒達は素直にこのクラスに入ってきた。

 ほとんどが上級生で落ち着いているのも幸いだろう。このクラス周辺ではパニックに陥っている生徒は見当たらない。

 怖がっているのはトキぐらいか?ヒノ先生にしがみ付いている。


「タツキ先生、他に生徒達はいますか?」

「廊下に居る生徒達は見当たりません。怪我をしている生徒達はいますか?」

「みんな落ち着いて行動してくれたので怪我はありません。ですがやはり不安そうですね」


 俺にはよく分からないがヒノ先生がそう言うのだからそうなのだろう。

 ただ恐怖を表に出していない、と言うだけで怖がるのは当然か。

 こういう時は励ますのが正しいのだろうか?それとも気丈に振る舞うのが正しいのだろうか?

 まぁ励ますのはヒノ先生の方が慣れてる感じがするし、俺は何て事のない様に振る舞っていればいいだろう。

 そう思っていると再び放送が鳴った。


『現在教室内に2名以上の教師がいる場合、1名職員室まで来てください。繰り返します――』

「それじゃ俺が行きますか。ヒノ先生、お任せしていいですか?」

「分かりました。この教室は私が受け持ちます」

「お願いします」


 そんじゃ職員室に現在の状況を確認しに行きますか。

 そう思って扉を開けると誰かに服を引っ張られた。

 誰だろうと思っていると、トキが俺の服を掴んでいた。その後ろにはヒカルとカエルが居る。


「どうかしたか?」

「タツキ先生危なくない?」

「ここは学校の中だぞ。安全に決まってる」

「でもさ、今外にはワイバーンが飛んでるんだろ!大丈夫なのかよ!」

「当たり前だろ?そう簡単に破られる結界だとは思えねぇよ。カエルもそう思うだろ?」

「は、はい。ワイバーンぐらいじゃ壊せないと思います。ワイバーンはBランクの魔物、Aランクの魔物以上じゃない限り大丈夫じゃないかと」

「博識なカエル先生もこう言ってる事だし安心して待ってな。大丈夫だって、ここには教会騎士も手練れの冒険者達も居る。そうそう危ない目に遭わないっての」


 まだ服を掴んでるトキの頭を撫でながら言う。

 でもトキはまだ不安そうだ。

 それじゃ余裕の笑みで見せながら言おう。


「大丈夫だって。ワイバーンぐらい何匹来ようが俺にとっては雑魚だ。だから安心して待ってな」


 そう言い聞かせるとトキは安心出来たのか手を放した。

 でも1度俺の腹に抱き付いて言う。


「危なくないよね?」

「ちょっと他の先生達と話して来るだけだ。校内から外に出る事はねぇだろうよ」

「分かった。でも気を付けてね?」

「心配性だな、トキは。ちょっとだけヒノ先生と待ってな、いい子にしてろよ?」

「うん!」


 子供らしい良い笑顔だ。

 俺はようやく教室から出て職員室に向かう。

 と言うか生徒達不安がり過ぎじゃねぇか?子供、と言う視線では仕方がない事かも知れないが……まるで俺がワイバーンと戦ってくる雰囲気盛沢山だったぞ。

 今の俺はただの副担任。生徒優先のノーマルな先生だ。

 俺は職員室に着くと、意外と少ない教師達と軽く挨拶をして今回の話を聞く。


「みなさん。緊急事態です。現在国の外で教会騎士や冒険者によってワイバーンの討伐を行っていますが、状況は芳しくありません。理由はワイバーンが飛行しているからではなく、()()で行動しているからです」


 その言葉に他の教師だけではなく、俺も耳を疑った。

 ワイバーンとは基本的に単独で行動する種族だからだ。

 2匹ならつがいとしてありえない数ではないが、群れと言ったのであれば2匹以上いるのだろう。

 他の教師が手を上げて聞く。


「ワイバーンの数は何体ですか」

「確認されているワイバーンの数は全部で5匹です。ただでさえ空中に居るワイバーンを落とすのだけでも大変なのに、数が多くて難航しているそうです」


 それは普通の人間にとってかなりの脅威だ。

 魔物図鑑によるとワイバーンはドラゴンの親戚ではなく、ドラゴンに進化する途中のトカゲと記されている。

 つまり言ってしまえばただの空飛ぶトカゲ、しかもドラゴンに進化するまでに到達した個体はとても少ないのである。


「で、ですが時間はかかるでしょうが討伐は不可能ではないとの事です!ですので我々は生徒達の安全を優先し、念のため戦える教師のみなさんは校庭で武装したうえで待機していてください。生徒達は安全のため校内に留めておきます。わずかとはいえ寮までは距離がありますから」


 つまり俺はワイバーン狩りに参加する必要はないって事だな。

 なら俺も一応校庭で待機するが正しいだろう。

 俺も戦える教師の1人だろうからな。


 こうして生徒達を校内に残していざと言う時のため、俺や戦える教師達は校庭で武装した状態で待機となった。

 と言っても俺の場合はいつものマコトに直してもらった制服だけど。

 剣や槍を武装した他の先生に比べるとなめてると思われても仕方がないが、これが普段からの戦闘服だからな……

 他の先生達の目線から背ける様に俺はワイバーンと戦っている連中の方に目線を移す。


 空を飛んで攻撃している者は1人も居ない。

 地上から魔法や弓で攻撃したり、鎖を投げて引っ張って無理矢理ワイバーンを落とした後近接戦闘の連中が攻撃を仕掛けている。っと言う感じだ。

 安全重視、と言う事なんだろうが確かにこれではとても時間がかかるな。

 ゲームではないからワイバーンが降りてくるって事もないし、常に飛んで優位性を保っている。

 あ、鎖が繋がったままのワイバーンが空に飛んで冒険者と思われる誰かが一緒にお空に行っちゃった。誰か助けに行ってやれよ。空中だから無理?それじゃ仕方がない。


 また別のワイバーンを無理矢理地上に引きずり落としたら、ちまちまと剣を振り下ろして攻撃するのは教会騎士団。

 見習いが取れたばかりの連中だからか見ていて危なっかしい。

 あ、1人が思い切ってワイバーンの目を潰した。ワイバーンは苦しそうに鳴くがそいつは容赦なくワイバーンに剣を突き刺す。

 その騎士は振り落とされた後、指揮をしている人に怒られている。

 もしかしてあれがマルダか?となるとあれがこの間の騎士団長さんか。お仕事お疲れ様です。


 にしてもあれだ。大変な時なんだから素材の価値を落とさない様に戦うなよ。

 とりあえずその皮膜を切れ。そうすりゃ多分飛べなくなるんじゃねぇの?

 ワイバーンのとび方を見て思ったのだが、あれグライダーみたいに滑空するだけだろ。

 多少は重力操作を使えたとしても飛行にその皮膜を利用しているのは目に見えてるんだから、まずはそこを切り落とせよ。


 あ~何だかちんたらしている様に見えてイラつくな。

 余裕を持って勝てない相手なら、さっさと相手の部位破壊でもなんだでも良いから確実に動けなるなるまで頑張れよ。

 余裕ない奴が素材重視で頑張っているんじゃありません!!


 そう思いながら早2時間。

 ようやく1体を仕留めた様だ。途中で素材の事などどうでもよくなったのか、激しく攻撃している間にようやく1体が動かなくなった。

 他のワイバーン達も傷だらけのボロボロだし、全て飛んではいるが、最初に見た時に比べると弱弱しい。


 流石にもう大丈夫かな~なんて思っていると何かが近付いてくる感じがした。

 それはワイバーンとは真逆の方向からだ。俺は慌ててそちらに振り向くと、黒くて流線型のドラゴンが迫っていた。

 高速で飛ぶために無駄な物はできるだけそぎ落としました~っとでも言わんばかりの細長く、手足や翼が短いドラゴンだ。頭部は新幹線の様に風の影響をできるだけ受けないようにした、とんがったヘルメットの様。

 それが高速を維持したままこの国の結界にぶち当たった。


 国内に響き渡る爆音。そしてガラスの様に儚く割れたような音がしたと思ったら、結界が破られた。

 細長いドラゴンを見て教師の1人が呟いた。


「………………まさか、あれはソニックドラゴン?飛行スピードに特化したドラゴン……」


 飛行に特化したドラゴン?

 とにかくあれはワイバーンよりも厄介な存在と言うのだけは分かる。

 空中と言う部分で不安はあるが、あれに勝てるのは恐らく俺だけだろうな。

 結界が破られた警報音なのか、ワイバーンが来た時よりも大きな音がけたたましく鳴り響く。

 俺はそんな音の中近くの教師に言う。


「ちょっとあのドラゴン倒してきます。なので少し抜けます」

「は、はあ!?何言ってるだね君は!!あれは飛行に特化したドラゴンだぞ!!いくら君が強い魔物を倒してきたと言っても空中じゃ勝てない!!」

「だからって放っておくわけにもいかないでしょ?あれはさっさと倒しておかないといけない相手です」

「そ、それは……」

「と言う訳で行ってきます」


 俺は返事を待たずに跳び出した。

 と言ってもこの場で戦う事はとても俺にハンデがある。

 見るからに分かる『変質』が使えない以上ヤタの翼などを使う訳にはいかない。見た目が変わらない変質なら問題ないが、それでどこまで戦えるかは不明だ。

 なので今回は防御用魔方陣を足場にして戦わざる負えない。

 生徒やこの国に迷惑はかけたくないので即行で仕留めさせてもらう。

 俺のジャンプに反応したドラゴンは普通に避けた。だが俺は即座に魔方陣を展開して足場を作った。


 後は1撃で仕留められるだけの変質と魔力を調整。

 電撃に重力操作、重力操作の方は軽くするのではなくむしろ重くする。上から下に向かって攻撃するのだから問題ない。

 筋力強化、手刀の切り裂く効果と強化、確実に仕留めるための知覚強化、逃がさないために結界、風魔法による空気抵抗の低下、それらの衝撃に耐えきるための身体強化!!


 ドラゴンは俺の異様な雰囲気を素早く察したのか、逃げようとするが俺は小規模の結界を張って拘束する。

 被害0にするのであれば即行の一撃必殺しかない!

 一撃で全力の攻撃を放った。

 やった事は単純。確実に仕留められるだけのエネルギーを纏って超高速で仕留めるだけ。攻撃は手刀で切り裂くだけ。


 結果ドラゴンは首を切り落とした。久しぶりの全力は気持ちがいい。

 だが思っていたよりも力を入れ過ぎたのか、防御用魔方陣10枚ほどを破って11枚目で止まった。それはもうすぐ誰かの家の屋根にぶつかりそうなほどだった。

 異様なほどにゆっくりと首と胴体が離れていく様子を見ながら俺はドラゴンの元に戻った。

 そして『捕食』で別腹の中に収納する。

 あとでゆっくり食べてあの飛行速度についてパクってやろう。

 それにこんな国の真ん中辺りで落とすだけでも被害が出そうだし。


 こうしてドラゴン1体を倒して俺は校庭に戻ってきた。

 久々の全力はとても疲れた。ワイバーンの方も終わったらゆっくり寝よう。


「…………………………え?今の、え?」

「無事最悪の事態は免れました。ちゃんちゃん」


 戻ってきた時に他の教師達に視線を向けられたが疲れたので無視しておく。

 今の俺の動きでワイバーン達はビビってどっかに逃げたのだからこれでハッピーエンドでいいだろう。

 それよりこの結界いつ直せるんだろ?

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