散歩
喫茶店を出て俺達は再び街を歩く。
喫茶店を出る時に俺が2人分まとめて払ったら後でマルダが「自分の分は自分で出します!」と言ったが街案内の礼って事で黙らせた。
と言うかまだまだ金が溜まってるから少しでも両替したいんだよね……今の店だって銀貨でしか払ってないし。
「この辺の店は冒険者向けの店が多いですよ。ポーションや武器、使い捨てのマジックアイテム、保存食が多く並んでます」
「意外と露店みたいな感じじゃないちゃんとした店の方が多いんだな。てっきりイメージでは露店販売みたいなのが多いんだとばっかり」
「その辺は……治安の問題ですね。この辺りは治安がいい方と言っても置き引きとかが全くない訳じゃありませんから。この国の騎士が治安維持をしていますが絶対とはいきませんので」
そりゃそうだろうな。
犯罪率0の国があるはずがない。
大なり小なり犯罪がある方が普通だ。
「ところで私達と離れて2~3ヶ月経ちましたけど旅はどうですか?」
「なんだかんだで色々してる。この間はいい金が入ったからセフィロで観光してきた」
「セフィロ!?セフィロって観光大国ですか!いいな~私もいつか行ってみたいです」
「美味い飯もたくさんあったしな。あ、所で生魚ってやっぱり食べない?」
「内陸部の国じゃありえませんよ。食べた事のある魚は干してしょっぱい魚だけです。生魚って……本当に食べてもお腹壊さないんですか?」
「壊さなかったな。米って言う穀物と一緒に食うと格別だ」
「う~。将来セフィロでリゾートするのを目標に頑張ろう!」
「教会騎士じゃ難しくねぇか?」
聞いた業務状態だと相当厳しい気がする。
一般用でも金貨1枚に届くかどうかって感じだったし、将来のお布施に期待しないとダメだな。
そんな感じで他愛ない話をしながら街を歩く。
時々デザートの買い食いをしながら話は盛り上がる。
「へ~ジャンヌさんってもう既に聖騎士団の入団候補に挙がってるんだ」
「はい!ジョージさんも同じですが2人とも確実と言われるほどです!後は実力試験に受かれば候補として正式に聖騎士団に入団できるんです!!」
「ジョージさんもか。怪我の方は本当に大丈夫なんだよな?」
「はい。ちょっと傷痕が残っちゃったらしいですが、元気ですよ。ジョージさんもタツキさんにお礼が言いたいと言ってました」
「それじゃ今度はキリエスにでも行ってみるかな?」
この様子だと入れるかもしれない。
そう思って言うとマルダは申し訳なさそうに言う。
「え~っと、それは難しいと思います」
「え、何で?」
「タツキさんってキリエス教に入団している訳じゃありませんよね?」
「特別どこかの宗教団体に加入してるって事はないぞ?」
「そうなるととても厳しいです。実はですね――」
マルダの説明を聞く限りキリエスに入国するのはとても無理だと思う。
キリエスで出入りする者は基本的に教会騎士団のみ。外部から入るとしても、それは巡礼のために来た信者がお祈りかお布施を出す時だけだとか。
それ以外の外部の人間は完全にシャットアウト。
信者だろうがそうでなかろうが入国する事すら叶わない。
「――と言う訳でして、自由に出入りできる人は本当に少ないんです。と言っても聖騎士団も滅多に出入りしませんし、司祭様達だって報告で教国に行くぐらいです。住んでいるのは元からその国に生まれた人達だけ、しかもほぼ外の国を一切知らずに生きているって噂があるぐらいですからね」
「何と言うか……あれ思い出すな……」
「あれとは?」
「どっかの経済学者が言った……何だったけな?本当の平等って奴を体現したような国だな、と思って」
真の社会主義だっけ?共産主義だっけ?
とにかくその学者の言う理想郷とは、全員が同じ所得をもらい、全く同じ家に住み、信仰心を持って平和に暮らせる場所、らしい。
民主主義の中に生まれ、周囲との不平等が当然であった俺にとって、それがどれだけ理想郷に近いのかはさっぱり分からない。所詮好きな小説で語っていた1文でしか知らない俺は、その言葉にどれだけの希望やら何やらが込められているのかは知らない。
でも言える事は1つだけ、そんな人生は暇そうだ。
俺は好き勝手にしたい、という思いだけでこの世界に召喚される事を了承した。
短絡的で稚拙な理由だろう。
だがそんな理由で世界すら飛び出したと言うのに、そんなペットか家畜のような暮らしはしたくない。
好き勝手に生きて楽しみたいと思ったから俺はこの世界に召喚されたのだ。
それを自ら手放す様な真似はしない。
「本当の平等って何です?」
「小難しい事だから詳しくは分からないが……全員同じ家に住んで、全員同じものを食べて、全員同じ服だけを着てって感じで全部同じにしちまうんだと。そして信じる神様は1人だけだから信仰の違いで喧嘩する事もない、同じ食べ物を同じ量与えるから食料の奪い合いも起きない、服もおもちゃも家の敷地も全部同じにして差をなくせばそれは理想郷だ。って言う説があったな~って思いだしただけだ」
「………………あ、あそこがアヴァロン本部ですよ!!タツキさんもこの辺でのお仕事欲しいって言ってましたよね!!」
暗くなる様な感じがしたからか、マルダは強引に話題を変える。
アヴァロン本部と言うだけあってとてもデカい。この世界での高層建築物は国を囲う壁か、城しか見た事がないがそれ以外だと初めてだ。
10階建ての建物で真っ直ぐ縦に伸びる姿はまるでビルの様。
しかも外見が白いから余計に凄い感じがする。
入ろうと手で押そうとしたら勝手に扉が開く。
この世界の自動ドア?だとしたらこの国は相当発展していると見るべきなのかも知れない。
「ホント凄いですよね~この扉。アヴァロンが独自に開発した扉らしいですよ?」
「確かに凄いな。勝手に開くドアってのは」
これどう考えても元の世界を元に作ってるだろ。
それとも便利性を追い求めた結果だと言うのだろうか?
ともかく俺はアヴァロン本部の依頼内容がどんなものか確かめてみる。
ワイバーンの討伐。
盗賊団首領の確保。
貴族の護衛任務。
コルネ草の採取。
城壁警備の手伝い。
「何と言うか……スゲー職種の幅広さだな」
「本部の場合、街のお祭りの手伝いから遠い国での強い魔物の討伐まで、様々な依頼が来るそうです。他の支部だとイングリットの様にその国の依頼しか受け付けてませんが、本部だとそう言うのはあまり関係ないようです」
依頼内容をよく見ると、確かに場所がバラバラに書かれていた。
国名、地域、または町の名前が書かれている。おそらくそこで依頼された物なのだろう。
とりあえずこの国での長時間受けられる依頼はないだろうか?
キリエスに侵入する事が難しいと分かった今、この国で働きながらキリエスについて調べるのが1番都合がいい。
そう思いながらこの国の依頼を見て見るが……平和だからか長時間続けられる様な依頼はない。
1番長いのがこの国の城壁を守るバイト、1週間。
1週間でどう調べ上げろと?確かにスマホである程度調べられるだろうが、楽勝と言う訳にはいかないだろう。
そう思って依頼を探していると、ボロボロの依頼書が1枚目に付いた。
この国の教師の募集だ。
アヴァロンが経営している学校のとあるクラスの副担任をして欲しいと書いてある。
しかしこの依頼書には期限が書いておらず、おそらく1度職に着いたらずっと働いてもらいたいと言う事なんだろう。
流石の俺でもずっとは無理だ。
この先他の真祖を解放するために動かないといけないし、何より人類が大量に居るこの国では都合が悪い。
俺が開放に関わっている事が表沙汰になれば、すぐそこの教会本部から多くの教会騎士に囲まれるだろう。いや、それよりも早くアヴァロンの冒険者達に囲まれるか。
でも他に長時間働けるものもなさそうだしな……
「そちらの依頼、受けていただけるでしょうか?」
俺がボロボロの依頼書を前に立っていると、冒険者とは思えない中年のハゲたおっさんが話しかけてきた。
1度マルダと顔を合わせてから再び顔を向ける。
この人が依頼主か?
「えっとあなたは……」
「失礼しました。私はアヴァロン自由学園の校長をしております。その依頼を受けていただける方を探しているのですよ」
「……随分とお待ちしているようですが」
依頼書のボロボロ具合を見て言う。
「はい。給金の方は問題ないのですが何せ学校の教師、冒険し依頼をこなす方々には都合が悪い事が多い。冒険者から英雄と言われるようになると仰っている方も多いですし、冒険者を引退なさる方に声をかけてみたりもするのですが……」
「上手くいってないと」
「はい。ですからつい依頼書を見ている方に声をかけてしまったのです。申し訳ありません」
校長先生はそう言ってここから出て行った。
何と言うか、普通の教師とは違うのだろうか?
アヴァロンが運営している学校と言うから冒険者に関する知識が多くないとダメとか、そう言う感じではないように感じる。
違和感を感じながらもどうするか迷っていると、冒険者と思われる魔法使い風の女性が声をかけてきた。
「貴方その依頼受ける気?」
「え、いやまだ悩んでるって感じですけど……」
「やめておきなさい。その依頼絶対訳アリだから」
「なぜそう言えるんですか?」
この問いはマルダがした。
俺も頷くとお仲間と思われたのか女性は言う。
「だってアヴァロンの学校で教師不足と言う話は聞いた事がないし、多分あの問題児組だろうしね」
「問題児?」
「なんでもどこからか拾って来た子供達らしいわよ。しかもどこから拾って来たのかはまるで情報が見つからない。どう考えてもどこかで情報を隠してる。だから誰も受けようとは思わないのよ。しかも何故か強いらしいから余計に噂だけが広まってるの。問題児としてね。一応これは忠告のつもりだから気を付けた方がいいわよ、新人さん達」
そう言って女性はパーティーと思われる他の女性達の方に行った。
どこから来たのか分からない問題児ね……俺もその中に含まれそうだな。
結局のところこの依頼を受けるかどうかは持ち越しとした。
そしてもう夕方なのでマルダとも別れる。
「タツキさん。この国はどうでした?」
「他の国に比べてスゲー発展してると思った。やっぱりアヴァロンの影響なのかね?」
「多分そうですね。アヴァロンの恩恵はいま世界に広まっていますけど、この国ほどではないでしょうから」
うんうん。何と言うか元の世界と似たり寄ったりの技術がある分、かなり発展しているように感じた。
他の国にもいずれ普及すればいいと思うが……それって何年単位なんだろうな?
そう思っているとマルダが何か言いたげに口を開いたり閉じたりしている。
俺はただ黙って言いだすのを待つとマルダは言った。
「………………あの、本当の平等ってこの世界にないのでしょうか」
「昼間の話か?」
「はい。教会の教義には真の平等を目指す、と言うものがあります。それは……間違いなんでしょうか?」
「間違いではないだろうが無理だな」
「即答!?」
マルダは驚きながら言った。
俺はその平等について俺なりの考えを言う。
「だって真の平等って事は全く差がないって事なんだろ?」
「多分そうです」
「なら100%無理。男女差別って言葉があるぐらいだ、男と女に分かれているだけで既に差が生まれてる。仮に完全に差をなくすことが真の平等って事なら、種として生まれ変わらない限り無理だろうな」
「……それ極論過ぎません?」
マルダは半開きの目で言う。
俺は頭を掻きながら続ける。
「俺はバカだから極論しか言えねぇんだよ。どんだけ頑張ったって顔の形、手足の長さ、スタイル、性格、どれだけ似せようが必ず差は生まれる。そして俺は飯を食わないと生きていけない」
「それはタツキさんだけの話じゃないと思いますが……」
「自分より弱い魔物を仕留めて食べる。俺は強いから弱い存在を食べて生きながらえるが、弱い奴だって自分より弱い奴を食べて生きている。これは上司と部下の関係として捉える事も出来る」
そう言うとマルダは少し考える様な素振りを見せる。
俺の言葉を聞いてどう自分で思うのか考えている。
「所詮世の中は必ず強者と弱者に分かれる。不平等の中で生きている俺に平等の中で生きろと言われも理解できん。どうせそこでも差が生まれるとしか思えない」
「………………なら、タツキさんの思う真の平等って何だと思います?」
俺は考えながら口に出す。
「そうだな……とりあえず……性別の差をなくすために女性だけにするかな?子供を残すのは女性だし、誰かとエロい事をせずに子供を残せる存在だけにして……女の子しか生まれない様にする。あ、でも複数の女性じゃ結局差が生まれるから1人だけにして?上手く生き残れるかな……まぁ仮定だから全部順調に進むとして、1人の女性からその子孫だけを残せば限りなく差はなくなるか。全員姉妹とおばさんだけになるだろうし。それから寿命が尽きるのも生まれてから何日って決めておくか。寿命は始めから設定されていて、病気などには絶対かからない。それら食糧とか家とかは全部同じに様に与えればいいだろ。こんな感じか?」
「何と言うか……神様みたいな視線で言うんですね」
「だってそう言うのは根本的な所からやらないと無理だろ?とりあえずこの世界で俺の思う真の平等は無理だろうな」
所詮この世には差しかない。
強い者と弱い者、美しい者と醜い者、頑丈な物と脆い物、全てに差がある。
そんな世界で平等が上手くいくはずがない。
「それじゃ……教会が平等を目指すのは滑稽ですか?」
「さ~な。何を目指して何をなすは個人の自由だ。好きにすればいいってのが正直なところだ。俺に迷惑なのが降りかからないのなら」
「……やっぱりタツキさんは強いですね。自由があって自由に生きてます」
そうだろうか?
他者から見た俺が自由であるのかどうかなど分からない。
前の世界じゃ自由なんて感じられなかったからな。
「自由って言ってもこの世の理の中で生きてるけどな。そんじゃありがとな、マルダ」
「はい!いつだって力になりますよ!タツキさん!それじゃ!!」
最後に元気に去って行くマルダにを見送ってからふと思った。
今日の宿どうしよう?




