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ヴァロンランド国

 教会騎士達が撤収する間に俺と団長さん、そしてマルダと話をした。

 なんでも今回の訓練は見習い騎士から見習いの3文字が取れたばかりの騎士達だけの構成だったらしい。

 遠征として遠過ぎず近過ぎないのがこの国、ヴァロンランド国周辺の森での魔物討伐だった。

 討伐した魔物はアヴァロンで売る訳ではなく、教会直轄の解体業者などに渡して少しでも教会騎士全体の力を引き上げるために利用されるそうだ。


 獲物によってはアヴァロンで売った方が良さそうな物もあったりするらしいが、それは本当に稀な話。

 騎士団なのだから1人で討伐しに行く事は滅多になく、大抵は6人組で討伐に向かうかららしい。

 人間は弱いのだから集団で行動するのは当然と言える。

 弱いなら弱いで徒党を組んで攻めればいいだけの話なのだから。


「騎士団も大変なんですね」

「だがその分生活は保障されている。食う物も寝る場所も苦労しなからな」

「となると給料もいいんですか?」

「そうはならないぞ」

「え?」

「それは国に使える騎士達の基準だ。我々教国の教会騎士は給金ではなく神のために戦うのだ。給金はどれだけ偉くなろうがあまり上がらん」


 それだけ聞くと結構ブラックな感じがするのですが?

 本当にそれでいいのかマルダに目線を移す。

 するとマルダは慌てたように言う。


「で、ですが聖騎士団になれれば色々良い事ありますよ!ケガをした時とか優先的に聖女様達に癒していただけますし、お金も貰えるんですから!」

「もらえる?給料としてじゃなくて?」

「マルダ、その言い方はよせ。聖騎士団に入団した方々は強い魔物を退治した際お布施をいただけるのです。ですがそれはあくまでも感謝の気持ちとしていただくだけ、5割を教会に収めたのちに残りは討伐した者達で分けると言うのが通例です」


 お布施……使い方あってる?間違ってない?

 聞きなれない言葉だからよく分からないが……


「それじゃ魔物退治のお礼が彼らのボーナスになると?」

「うん……まぁ……そう言う事だ」


 言いにくそうでありながらも団長さん認めた。

 でもまさかお布施ね……普段の生活は教会で保障されているとしても趣味に使う様な金は得られそうないな。

 強欲な俺には出来そうにない。

 自分で働いた金は自分の物だ。そう言う意識は間違いではないと思うんだが?

 そんな文化の違いを確かめながら歩いていると、森を出てすぐに分かった。


「でっけー国だな~。あの規模の城下町は初めて見た」

「ですよね~。私も初めて見た時は驚きました。森の近くなのにあんな大きな国がある何て」


 城を中心に大きな円を描くように広がる城下町。

 遠くから見ているだけでも様々な施設、家があるのがよく分かる。

 賑やかさで言うなら前の世界で言う東京みたいなものだろうか?大都市である事は容易に想像がつく。

 この間のリゾート地、セフィロに負けず劣らずなんだろうが土地の広さは断然こちらの方が大きい。

 それにあくまでもあれは城下町だろう。

 農作業をしている場所も含めればもっと広いと言う予想だけは分かる。


「この規模の城下町は初めてだな……」

「そうですよね……イングリットの城下町を見た時も驚いたのに、その次がこれじゃものすごく驚きますよ……」


 マルダがしみじみと言う。

 しかしそうなるとドワーフの国とエルフの国は意外と小さいと言う感想が芽生える。

 ドワーフの国は洞穴生活、エルフの国は木の上生活。そういや上か下にばっかり規模を広げてたな。

 横に広くなっている国は初か?

 まぁイングリットも結構広いと思うけどさ。


 そして俺はヴァロンランドに入国した。

 マルダ達教会騎士達は1度離れ、俺はきちんと入国手続きをしてから入国する。

 滞在者と新たな入国者とは入るゲートが違う。なので仕方がない事なのだ。

 流石の大国と言うべきなのか、セキュリティーチェックは他の国よりも厳しめだったが、セフィロと似たような感じか。

 ギルドメンバーの証明書を見せた後、無事入国する事が出来た。


 そして俺はゲートを通った先で少し待つ。

マルダがこの街を案内すると言ったからだ。

 そんなにこの街の事を知ってるのかと聞いたら、最近はこの辺にずっと滞在しているのでそれなりに知っているとの事。

 ならば軽く案内でもしてもらおうと思ったわけだ。


 ゲートを出た広場で少し待っていると、マルダが来た。

 流石に今は鎧姿ではなく普段着の様だ。


「すみません!待たせちゃいましたか?」

「いんや、ゲートを通るまで時間掛かったからな。この広場に来てからはそんな時間経ってないよ」

「そうでしたか。それじゃまずご飯にしましょ!美味しくて安い店を知ってるんです」

「そりゃ助かる。丁度腹が減ってきた所だ」


 こんな感じでマルダの案内を受けながら店を目指す。

 この国の様子を見ながらだが、随分とこの国は発展している様に思える。

 人間以外の種族、ドワーフやエルフの姿もあり、冒険者と思われる獣人も見られる。この世界に民主主義と言うものがどれぐらい発展しているのか分からないが、この国はそれに近い気がした。

 でも当然この国には王様がいるし、貴族や領主が居る。

 だが発展そのものは、あまり元の世界と変わらない賑やかさなのだから素直に凄い。

 巨大な1枚ガラス、駐在さんの様に時々見かける騎士、人類種がごちゃ混ぜに居るのを見るとアメリカの首都はこんな感じなのかな~と思う。


 ただ気がかりなのは俺達の後を追っている誰かだ。

 俺がマルダと会うまではいなかったから恐らく対象はマルダだろう。

 だが敵意に近い感情は俺に向けられているから……どう言う事だ?

 ストーキング対象はマルダなのに俺に敵意が向けられるって事は……恋愛絡み?


「ここですよここ。この店が美味しいんです」


 町並みや追手の気配を探っている間に見せに着いていた。

 店の雰囲気は落ち着いた大人なカフェって感じがする。これでジャズとかが流れていたらもっといい雰囲気が出ていただろう。

 カフェのオーナーと思われる初老の爺さんはにこやかにメニューを持ってきてくれた。


「コーヒーとミートスパゲッティお願いします。タツキさんはどうします?」

「う~んと、よく分かんないのでコーヒーブラックとおすすめの料理1つお願いします」


 そう言うと爺さんはにこやかなまま下がった。

 特に俺に対してにこやかだった気がするが……何でだろう?


「オーナーさんコーヒーのブラックを頼む人の事好きなんですよ。と言うかコーヒーの事知ってるんですか?」

「まぁ一応な。にしても落ち着く店だな」

「はい。それにご飯も美味しいのですごくいいです。麺料理って庶民の味なのにこんなにおいしくするから凄いんですよ、マスターは」


 この辺じゃパスタは一般的なのか。でも味はいまいちと。

 それにしてもこの国の街並みを見てだが、前の世界であったものが混在している気がする。

 と言っても西洋風の建築物であったり、この店の様な昔ながらのカフェの様な物があったりと混在している。

 これは一体どういうことなのだろう?


「なぁマルダ。この店のオーナーって何か特別な感じがするな」

「それは当然ですよ。マスターは若い頃に異世界から迷い込んできた“迷い人”と言われています」

「迷い人?」


 異世界人とは違うのか?

 聞き返す様に言うとマルダは答える。


「はい。“迷い人”とは召喚者とは違って本当に何らかの事故で異世界からこの世界に迷い込んできてしまった方々の事を言います。召喚者はこの世界の人の勝手ですが、迷い人に関しては何が原因でこの世界に来てしまったのかよく分かっていません」


 随分と不思議な事があるんだな。

 それとも神隠しの類がそれと言っていいのだろうか?

 ……もしかしたら俺達も迷い人として思われる可能性は高い。

 神であるマコトのいたずら感覚であるのは間違いないが、この世界の召喚によって来た訳ではないと言う面を出して言えば俺も迷い人かもしれない。


「お待たせしました」


 そう言いながらマスターはコーヒー2杯とミートスパゲッティ、ナポリタンを持ってきてくれた。

 何と言うかこのナポリタン。見た目がまんま日本製の様にしか見えないのだが?

 もしかして日本から来たのか?

 口を付けると……あ、これ思いっ切り日本の味だ。

 そりゃ日本の味と言ったら和食が1番最初に思い付くだろうが、これはこれで日本の味と言える。


「スゲー美味いな」

「ですよね~。これで銅貨5枚なんですからすごくいいですよね~」


 マルダも本当に美味そうに食べながら言う。

 スプーンを使わずに巻いて食うとやっぱり美味い。

 やっぱりナポリタンも日本の味じゃないだろうか?


「タツキさんの食べ方上品ですね?」

「え?どこが?」

「そうやって巻いて食べる所です。みんな巻かずに食べますよ?」

「その辺は……口うるさい母親の影響だ。口の周り汚すなってうるさかったんだよ」

「へ~私もマネしよっと」


 そう言ってマルダも俺の真似をしながら食べ始めた。

 食べ終えてコーヒーを飲むと、苦いが確かに美味い。

 この世界に来る前はコーヒーなんてインスタントしか飲まなかったが、ちゃんとした店で飲むものもいいかもしれない。

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