旅立ちと意外な再会
西の蛇を助けに行くことを決めて早3日、ヤタの能力もある程度使える様になってから俺は旅立つ事を決めた。
今玄関にアセナ、トヨヒメ、ヤタ、ヴィゾーヴニルの4人が見送るために居た。
「タツキ、教会は危険。気を付けて」
「『変質』は注意して使ってよ。魔物と勘違いされる可能性高いから」
「トヨちゃんの言う通り。人間の間では使わない方がいいかも知れないよ?お兄ちゃん」
「タツキ様、お気をつけてください」
「分かってる。人間側も色々強化してるみたいだし、気を付けて進むさ。それじゃ行ってきます」
そう言ってから俺は背にカラスの翼を変質で創り出しながら言った。
ヤタの殻を食べてから俺の背に翼を生やす事が出来る様になる。今までのコウモリの翼じゃ出来なかった事が出来る様になったので結構相性がいいのだろう。
ただトヨヒメの能力の方はあまり表面に出し辛い。この辺が海に面していない事が原因なのか、はたまた単に俺とトヨヒメ能力の相性が悪かっただけかよく分からない。
でも電撃に関してはスパーキングレオの攻撃より効率よく発生、攻撃できているので相性が悪いって事はないと思うんだが……
それから2人の殻を食べて2人とも持っていた能力が重力操作。
この能力があったからトヨヒメは鮫の状態でも空中で泳ぐように移動できていたし、ヤタは遊ぶときとて速く動けている理由なのだろう。
ただ同じ能力は重複しない様で、同じものだから1つに纏められたような感じがする。
肉弾戦を行う時は体重も関係してくる事が多いので戦闘中に重力操作する事はしなくてもいいのではないかと考えている。
体重重たい方が有利になる事なんて普通にある。
相手を押す時に自分の方が軽くては逆に自分の方が下がってしまう、何て事になったら間抜けな話だ。
なので利用する時は主に移動する時だけにしようと考えている。
「お兄ちゃん翼はもう大丈夫?違和感ない?」
「おう。ヤタに使い方教えてもらったからな、大分使える様になった。ありがとな」
そう言いながらヤタの頭を撫でる。
ヤタは嬉しそうに「えへへ~」と言う。こう言う反応も子供らしくていい。
そして最後にアセナが音もなく近付いて来て、そっとキスをした。
「……気を付けて」
「安心しろ、ちゃっちゃと分捕って帰ってくる」
安心させるため抱き締めながら頬をこすり合わせる。
アセナの表情は分からないが、抱き締める力が弱くなったので安心してくれたのだろう。
そっと離れて翼を広げる。
「ヴィゾーヴニル。家の事は任せる」
「お任せください。この命を持って真祖様をお守りします」
強い覚悟を感じる返答に俺は信頼する。
これなら任せても大丈夫そうだ。と言ってもここまでやって来る人間は居なさそうだが。
「そんじゃみんな、行ってきます!」
「「「「行ってらっしゃい(ませ)!」」」」
そして俺は西に向かって飛んだ。
ヤタからもらった翼はとても調子が良く、どこまでも飛んで行けそうな気すらする。
風を切る肌の感覚が気持ちいい。転移前では絶対に味わえなかったであろう飛行機などを使わずに空を飛ぶ、感覚は素晴らしいと言う感想以外出てこない。
そう言えばこの世界に空を飛べる存在はどれぐらい居るのだろ?
鳥とかそう言う元々空を飛ぶ能力を持った生物ではなく、人間型の生物で空を飛べるのはどれぐらい居るのだろうか?
と言ってもおそらく、ほとんどの存在は人類に近い形をしているだけで人類ではないだろうが。
そう思いながら飛行すること1時間、そろそろ歩いて移動した方がいいだろう。
一応変色して周囲の風景と同化しながら飛んでいたのだが、それでも良く見ようとすれば違和感に気付かれる。
なら途中で降りて歩いて行った方がよっぽど自然だ。
俺達が住んでいるこの森の中心部に人が立ち入ることは滅多にないが、浅い部分だと普通に人の出入りがある。
理由は薬草や、魔物を狩る事で生計を立てている冒険者達の存在が大きい。
と言ってもこの森の浅い部分とは言え、この森に入れる冒険者は熟練か、強い冒険者だけだが。
俺から言わせれば弱いの一言なのだが、普通の人間からすれば十分脅威らしい。
なんせ冒険者達は身体が基本、ちょっとした傷ぐらいなら問題ないだろうが大怪我につながるような仕事は避ける。
もしケガで手足を失えば大きな損害となるからだ。
結果生計が立てられず、冒険者を引退したとしても次の職にありつけるとは限らない。
などの理由で冒険者達は自分の実力より確実に弱い魔物の相手しかしない。
恐らく俺がこの世界に来たばかりの時、俺の周りには自分より強い魔物しかいないから感覚が狂っているんだろう。もし他の安全な地域に転移していたらもっと常識に近い生活をしていたはずだ。
それでもあの場所に転移したからアセナ達と出会えたのだから特に後悔みたいなものはないけど。
森の中に下りて変色を解除。普通に歩いて森の外を目指す。
一応最終目的地はキリエス教国だが今回向かうのはその1歩手前の国、ヴァロンランド国を目指している。
ヴァロンランド国は西側第2位の大国である。ちなみに1位はキリエス教国。
アヴァロン本部もあり、とても裕福な国だ。
冒険者だけではなく、様々な西側諸国の流通、文化、知識等々、様々なものが集まってくるとんでも大国だ。
それによりサミット的な会議がある場合大抵はこのヴァロンランドに集まって相談するそうだ。
それなのに教国の方が上と思われるのは宗教の力だろう。
世界最大の宗教の名はだてではないと言う事だ。
今回はスマホのマップ機能があるので迷子になる事はない。前と同じような事にならないのだ!!
などと高をくくっているとまたどこかで剣戟が聞こえる。
まさかと思ってそっと音が聞こえる方を覗くと……いた。教会騎士だ。
と言っても前に会ったマルダよりも上質そうな鎧を身に付けた騎士の集団。それが1体の魔物を連携しながら倒している途中だった。
恐らく相手にしているのは……赤いオーガだ。
オーガ種の中でバカなパワータイプ。知能は低いがバカ力だけはあるので普通に冒険者から見たら十分強敵だろう。
でもオーガ種って食ってもまずいんだよな……前に試しに食った黒いオーガは不味かった。
やっぱり人型の種族は不味いのかな?
教会騎士達は慎重に連携を取りながらちまちまと攻撃を加える。
何と言うか……地味なパーティー構成だな。
スタープレイヤーと言うか、戦いの中心となるメインキャラが居ないと言うか、決定打に欠ける構成のように感じた。
地道にコツコツとダメージを与える戦略は当然あるだろうが、赤いオーガ相手に決め手がかけるとか、あいつら2軍3軍チームなのか?
それともマルダの様に見習い騎士なのか?
そう思っている間に1人が飛び出して首を斬った。
今のはそれなりによかったんじゃねぇの?
そして倒されたオーガは倒れて絶命する。
勝利した騎士達は勝どきを上げて喜んでいたが、すぐに上司と思われる騎士がオーガの首を斬った騎士を怒鳴った。
「まだ相手は十分に動ける状態だったぞ!勝手な行動はよせ!!」
そう言われてオーガを切った騎士はシュンとした。
俺も今のは怒らなくてもいいのではないかと思う。だってオーガを倒したのはあの騎士で、攻撃のタイミングも別に悪くないと思う。
自分の事ではないにしても、何だか気に入らないな~っと思いながら移動しようとすると。
「そこに居るのは誰だ!姿を見せろ!!」
………………もしかして俺の事か?
流石に目が合う事はないが、大雑把な気配だけは分かっていると見た方がいいか。
俺は素直に騎士達の前に出た。
そして偉いと思われる騎士が言う。
「貴様、冒険者か」
「はい。俺はタツキ、冒険者で薬草の採取をしていました」
そう言って以前から持っている血止めの薬草を見せる。
冒険者で薬草の採取と言う点で納得したのか騎士は穏やかに言った。
「すまない。私は教会騎士団長のカレダと言う。魔物ではないかと疑っていた」
「そう言う事でしたら仕方がありません。ここでは用心するのが当たり前ですから」
「そう言ってもらえると助かる。我々は教国に戻るが君はどうする?」
「俺も戻る途中です。薬草の採取は上手くいったので」
「そうか。だが我々は君の護衛はしないぞ?」
「分かってます。自分の身は自分で守ってなんぼですから」
「そうか。では教国に戻るぞ!オーガの死体を忘れるな!!」
そう言って撤収作業に取り掛かる騎士達。
俺も少し教会騎士の行動について興味があったので見守る。
見守っていると1人の教会騎士が近付いてきた。
「あの、タツキさんですよね?」
「ん?その声どこかで……」
どっかで聞いた声だ。
しかも女性で元気のありそうな……
「まさか、マルダ?」
「覚えてくれていたんですね!!」
そう言って兜を外すとそこには知った顔があった。
「おお!本当に久しぶりだな!!」
「はい!タツキさんもお元気そうで何よりです!」
「こら!マルダ!!撤収作業を手伝わんか!!」
「す、すみません!それじゃタツキさん、また後で」
「おう。仕事頑張んな」
そう声をかけた俺に騎士達が撤収作業をしながら眺めるのだった。




