家族が増えて、名付けをする
「ただいま~」
「ただいま」
2人と1体と1つはようやく我が家に帰ってきた。
1か月間いなかっただけなのに懐かしく感じるのだから、やっぱりここが家なんだと思う。
そしてあのリゾートでの家と比べると大分改善点が分かってきた。
とりあえずあの家を模倣してより快適な家になる様改築しなければならない。
はてさて、とりあえず今回の真祖奪還には成功したものの、封印の解除に関してはまだ上手くいったとは言い切れない。
鮫の真祖はもうすぐ復活しそうだが、カラスの真祖に関してはどのように復活させればいいのかよく知らないからだ。
アセナの時はアセナがあのミイラが握っていた珠を取り込む事で成功した様だが今回はそうではない。
だって本体と思われる存在はこの卵の中だし、割ればいいのか?それとも孵化するように手伝えばいいのか?
こういう時はいつでも便利、スマホで検索を……
「本日は我が主を助けていただきありがとうございます」
突然の男の声に臨戦態勢を取る。
男は白い執事服に、赤い髪と言う何とも派手な男だ。
跪き、頭を下げているのだから敵ではないのだろうが、どこから湧いて出た?
「久しぶり。ヴィゾーヴニル」
「お久しぶりです。狼の真祖様」
「今の私はアセナ、あなたがそう呼ぶ事を許可する」
「では本日よりアセナ様と呼ばせていただきます」
アセナと話してる……これで完全に敵ではない事は証明されたと言える。
俺は臨戦態勢を解き、とりあえず聞く。
「お前誰?」
「申し訳ございません。わたくしはヴィゾーヴニル、カラスの真祖の執事をしております。より分かりやすく言うと真祖を守っていましたあの鶏です」
「え?あのデッカイ鶏?」
「はい。主を助けていただいたあなた様はわたくしにとっても救世主、忠誠を誓います。お名前をお伺いしても?」
「あ、俺はタツキだ」
「ではタツキ様と呼びさせていただきます」
ふむ……確かに赤い髪は鶏のとさかを彷彿させるな。
でも何で鶏の擬人化がこんなイケメンなの?
今時の中性的なイケメン。やっべ鶏に顔で負けたわ。普通にショック。
「あ~うん。忠誠は放っておいて、とりあえずそのカラスの真祖を復活させる方法を知ってるか?」
「存じております。といいましても真祖様は自力で復活する事が出来ますので、我々は特にする事はありません」
「え、そうなの?」
「はい。おそらくタツキ様勘違いをされております。この状態は真祖様自らが行った事ですので自ら解除する事が出来るのです。あくまでもエルフ達がしていたのはあの社の結界のみ、さらにわたくしが見張る事でより強く守っていただけなのです」
「つまり……この卵状態は真祖が自ら行った事だから自力で復活できると?」
「はい。それから復活に必要な分の魔力はわたくしが既に供給し終えています。安全な場所と判断すれば自然と……復活を始めた様です」
そう言ってヴィゾーヴニルが大切そうに抱える卵が小刻みに震えだした。そして俺の身体の中でも変化が起きる。
どうやら俺の別腹内に居た鮫の真祖も卵の中から出ようと活発に動き出した。
ただ……ちょっと暴れすぎ。
腹が地味に痛てぇ。
「タツキ?お腹痛い?」
「う、生まれる~」
ギャグで言ってみたらアセナは思いっきり驚いていた。
「!?タツキ女の子だった?でも毎晩ちゃんと……」
「あ、いや今のはギャグで、鮫の真祖が今腹の中で復活しかけてる……」
「そうなの?驚かさないで」
そう言いながらも俺の事を気遣って側に居てくれる。
俺は別腹から取り出して右手に鮫の真祖を移動させたが、生まれる寸前だからか思っていた以上に魔力を吸い取られる。
だるくて疲れるのでスゲー嫌だなこれ。
そしてカラスの真祖の方ももうすぐ生まれる様で動きがさらに激しくなっていく。
もう何と言うか割れる音も聞こえてきたし、もうすぐ生まれるって言うのだけははっきりと分かる。
と言っても今、鮫の真祖に魔力食われてて力でないし、力が出ない。
だっる~い。
そしてそのうち2体の真祖は競い合うように激しさを増し、とうとう2つほぼ同時に卵が割れた。
ほんのわずかに早かったのは鮫の真祖。薄い卵の膜からするりと抜け出して俺の前で優雅に空を泳ぐ。大きさは既に1mぐらい。これで生まれたてなのだからこれからもっと大きくなるだろう。
少し遅れてカラスの真祖も復活する。と言っても復活したてだからかまだまだ小さな雛だ。カラスって雛の時から黒いんだな。
2体の真祖は封印が解けて嬉しそうに見える。
2体ともアセナの元に泳いだり走っていく。
アセナは心の底から嬉しそうに2体を迎える。俺の知らない妹へ向ける表情はとても穏やかで自愛溢れる表情に見えた。
「久しぶり、2人とも」
そう言ってアセナは2体を抱きしめた。
抱き締められた2体も嬉しそうに穏やかな時間を過ごす。
俺はそんな久々の姉妹の再開を邪魔しない様に家の改築を始めるのだった。
-
水回り、特に風呂と鮫の真祖が使うかも知れない水回りを中心に、改築して休憩を入れようと戻って来たらアセナの頬が膨れていた。
「どうしたアセナ?その顔」
「タツキを紹介しようとしたら居なかった。どこ行ってたの?」
「ちょっと水回りの改築してた。ほら鮫の真祖が居るぐらいだし、プールもどきも必要かな?って。それにアセナだって風呂の事気に入ってただろ?だからその辺の改修工事を――」
「紹介した後でも出来る。もう紹介しない」
そう言ってカラスの真祖と鮫の真祖を抱きかかえたまま背を向けた。
こうなるとアセナは少し意固地になる。素直に謝っても機嫌が直るまで少し時間がかかるのだ。
どうするかな……っと考えているとゆっくりと鮫の真祖が俺に向かって泳いでくる。
「どうかしたか?」
そう聞くと鮫の真祖は何か加えていた物を俺の前に落とした。
それは卵の抜け殻、さっきまで真祖が入っていた膜の様な卵の殻だ。
これを渡したかったみたいだが……どうすればいいんだろう?記念に木箱にでもしまっておくか?
「鮫の真祖様はその卵の殻を『捕食』していただきたいそうです」
「ヴィゾーヴニル。卵の殻を『捕食』?」
「はい。アセナ様よりお伺いしたところ、タツキ様は魔物を『捕食』する事でさらなる力を得るとか。ならばその身体の1部であった卵を『捕食』する事で鮫の真祖様は自身のお力の1部をお渡ししようとしているのです」
「え、マジで?そりゃありがたい」
正直言ってセフィロで魔物の肉を食ったのだが何故だか『変質』する事はなかった。
単に下級だったからなのか、それよりも素晴らしい力を持った魔物を捕食していたのが原因なのか、全く反応がない。
なのであの国で新たな能力を得る事は出来なかったのだ。
海産物食って海中でも行動できるかもしれない、と言う希望は潰されてしまったのだった。
だが仮にこの卵の殻を食べる事で鮫の真祖の力を得る事が出来るのであれば、これは最上級のごちそうになるのではないだろうか?
最初こそ真祖を食うと言う目標があった訳だが、アセナがその真祖の1体となれば捕食する訳にはいかない。愛する妻を物理的に食べたいと思う夫がいるはずがない。
そして他の真祖たちもアセナの姉妹、食べる訳にはいかないと諦めていた。
だが今回この卵の殻を食べる事で真祖の力を得る可能性があると言うのなら願ってもない事だ。
強くなりたいという願望はある。
そのもっと効率的な道がなくなってしまったかと思っていたが、これでなら十分に強くなれるだろう。
そんな期待を抱きながら、俺は鮫の真祖の卵の殻を『捕食』した。
『捕食』し、『変質』を使うと身体に強い衝撃が走った。
全身に走る強過ぎる衝撃は電撃のようで、しかも自分自身の体内からほとばしっているのだから防ぎようがない。
しかし変質はすぐさまその電撃に耐えられる肉体を生成、見た目には変化は見られないが体内では激しい肉体の変化が起こっている。
電撃に耐えられるためと同時に電撃で攻撃しやすい様に、主に身体の表面が変質していく。
体内では強力な電気を生産、増幅できるように様々な臓器などが変質していく。
そうしている間に身体に走る電撃の衝撃は徐々に安定し、電撃を使うと少し痺れるぐらいの感じに収まった。
手足の感覚、筋肉が強くなった様な感じはしないが、気配や周囲の感覚がより敏感になった気がする。
鮫の鼻の部分には電気を使ったレーダー的な器官が存在すると聞く。それが俺にとって周囲の環境に反応すると言う感じになったのだろうか?
それから以前より電撃を使う際のエネルギー消費が削減された気がする。
指先で小さな電撃の球を溜めて放出してみたが、以前より早く集まり、そして精度が上がった。
これなら異世界ファンタジーでよくあるレールガンの製作などもできるかもしれない。
この世界は科学力よりも魔法の力の方がメインで使っているので黒色火薬などを見た事がない。
おそらく一々爆発の衝撃で弾を飛ばすより、魔法で火の球でもぶっ放す方が楽だと考えているんだろう。
道具が必要ないと言う点では確かにその方が優れているだろうからな。
「ありがとうな、えっと……アセナ。この子に名前は?」
卵の殻をもらったお礼を言おうとした時に、名前を聞いていなかった。
そしてアセナは平然と言う。
「私達に真祖に名前はない。タツキが付けて」
「……鮫の名前か……なんかいいのあったかな?」
とりあえず分かっているのは女の子であると言う事と、鮫と言う事だけである。
それともこの綺麗な水色にちなんだ名前でも付ければいいのだろうか?
流石にそれじゃ単純すぎるか……単純と言えばあれか?
「トヨタマヒメ、もしくは乙姫か?」
「?」
「それ人の名前?」
「ああ。正確に言うと俺が居た世界で絵本に載ってたお姫様の名前だよ。トヨタマヒメはその原作で海の神様のお姫様、乙姫はそれがもっと子供向けに作った絵本のお姫様。まぁ同一人物って言っても問題ないと思うけどね」
つまるところ、浦島太郎の乙姫だ。
原作と言うのは日本書紀に書かれている乙姫のモチーフになったと言うお姫様の名前だ。
実はこのトヨタマヒメ、正体は鮫と言う話があり初めて知った時は結構驚いた。
そしてアセナは不思議そうに言う。
「つまり人魚姫?」
「それは違う……はずだ。乙姫は下半身魚じゃないし、トヨタマヒメの正体が鮫ってだけで別に人魚じゃ……あれ?竜宮城でお姫様やってるから実はそんなに変わんない?あれ?あれ?」
混乱し始めると目の前の鮫の真祖が輝く。
そして姿を見せたのは長身の女性であった。
身長は175cmぐらいで女性の中では結構背が高い。そしてスタイルは身長に合わせてかアセナよりもグラマーだ。
髪の色は綺麗な海の色で、瞳の色は深海の様にもっと深い青と言った感じだ。
服装は……水着?
パレオと言っただろうか?水着の上から薄い布を巻くように着ている。
何と言うか上品な人と言うイメージが強い。さらにモデル体型と言う奴だからだろうか、どことなくお姫様よりも女王様の方がしっくりくる。
そして鮫の真祖は言った。
「それならトヨタマヒメの方がいい。乙姫は……なんかヤだ」
……意外と子供っぽい言い方をするんだな。
見た目はお姉さんキャラっぽいのに中身は妹キャラって感じか?
「分かった。それじゃこれからはトヨタマヒメって呼ばせてもらう」
「う~ん。それは長いからトヨヒメでいいじゃない?トヨヒメ、それが私の愛称」
「分かったよ、トヨヒメ」
これで呼び方は決定だな。
にしても何で妹キャラ満載なんだろう?
そう思っているとアセナが俺に向かって言う。
「トヨヒメは末っ子。1番甘えん坊でかまってちゃん」
「なるほど、末っ子か。と言うかアセナとかカラスの真祖って何番目なんだ?」
「……私は次女。双子の次女。カラスは5女」
なんか次女と言う部分で凄く嫌そうに言ったが、なんかあったんだろうか?
そしてカラスは5女か。
そのカラスは何やら俺の事をつぶらな瞳で期待するように見る。
これはあれだな、カラスにも名付けないとダメなパターンだな。
「ぜひカラスの真祖様にも良き名をお与えください」
ヴィゾーヴニルが雛を恭しく両手で持ち上げる。
だが正直言ってカラスでいい名前など1つしか思いつかない。
「悪いがこれしか思いつかなかったぞ。ヤタガラス、これでもいいか?」
そう言うとカラスの真祖も人型に変化した。
見た目は小学生ぐらいか。
だが服装は今どきのオシャレ小学生?みたいな感じで首から下はカラフルで可愛い感じの服を着ている。
個人的に黒髪黒目は見ていて落ち着くし、将来美人になりそうだな~って感じだ。
子供は嫌いじゃないがロリコンではない。
「カラスって言ってたけど、どんなカラスのなの?」
「簡単に言うと道案内してくれるカラスだな。旅で迷子にならない様道先を教えてくれる縁起のいいカラスだ」
「へ~道案内。道案内得意だよ!」
子供らしい発言をしながら何故か俺の膝の上に座る。
丁度あぐらをかいていたのですっぽりと収まった。
「人の上に座るの好きなのか?」
「うん!こう丸くなってる所に座るのが好き。巣みたい!」
俺のあぐらが巣か。確かに丸いからそう見えなくもない。
そう思っているとヤタガラスはじっと俺を見る。
「どうした?」
「私にはどんなニックネームくれるの?そして何て呼べばいい?」
「ん?無難にヤタでいいんじゃないか?後俺の事は好きに呼べばいい」
「ん~、可愛くないけど分かりやすいからいっか。それじゃ……お兄ちゃん」
「お兄ちゃん?」
「タツキお兄ちゃんって呼ぶ!」
まぁ……それはそれで無難なのか?
お兄ちゃん何て呼ばれた事がないから背中が痒い。
それを聞いていたトヨヒメも言う。
「ならわたくしもお兄様と呼んだ方がいい?」
「その辺は……好きにしな」
こうしてトヨタマヒメとヤタガラスがこの家の住人となった。
妻の妹と暮らすと言うのはどんな事になるのか、想像もつかない。




