旅行はお終い
「ポールさん。今までお世話になりました」
「ありがとうございました」
「これもコンシェルジュとして当然の事です」
翌日の昼もうすぐエルフの国に到着すると言う事で俺とアセナは帰る最終チェックを終えた。
持ち帰る物は全て別腹にしまったし、後はただ到着するのを待つだけである。
その前に1か月間お世話になったポールさんに別れの挨拶をしていた。
「この度の旅はご満足いただけたでしょうか?」
「すごく良かったです。飯とかだけじゃなく、ポールさんのさり気ない助けとかすんごく良かったですから」
「ありがとうございます」
「そう言っていただけるとコンシェルジュとして誇りに思います。お帰りの際はどうかお気を付けて」
この島を出れば後は帰るだけだ。
その前にカラスの真祖を手に入れるつもりだが、これに関しては考えがある。
と言うか既にスマホ使って調べただけだけどね。
それから鮫の真祖に関してだが、そろそろ孵化しそうな雰囲気がある。
別腹内にある卵の動きが激しくなってきたのだ。より正確に言うと卵の中の鮫の動きだが。
ろくに使ってない魔力を大量に食った影響か、卵の中で元気に動き回っている。
ある意味バカンス中で良かったかも知れない。大量に魔力を食う存在を体内に住まわせたまま戦うのは不安が残る。
なのでカラスの真祖に関しては超短期戦を仕掛けようと思う。
簡単に言うとちゃっちゃと盗んでちゃっちゃと逃げる。
スマホで調べる事が出来たからこそできるチートだ。
玄関までポールさんに見送られ、馬車に乗った俺達は島の出入り口まで進む。
既にエルフの国は目と鼻の先にあるのでもうすぐ着く。
「楽しかった」
馬車の中でアセナがぽつりと言う。
「そうだな、楽しかったな」
「また来たい」
「な~に、こういう所は金さえあれば何度だって来られる。また金を集めて来ればいいさ」
「……妹達と一緒に来れる?」
そうアセナは言った。
その質問に対してはとても難しいと言うのが正直なところだ。
真祖を解放しているのだから、順調に行こうが行くまいがそれを良しとしない者が邪魔しに来るのは目に見えている。
その邪魔者を払う事は難しい事ではないだろう。
だがこう言った施設に関してはとても厳しいものとなるのは確実だろう。
どんな国だってとんでもない犯罪者を自ら招き入れようとする国などあるはずがない。
だが――
「そうだな、余裕が出来たら来るとしよう。そのためにも金稼いでおかないとダメだろうな~」
「ん。お金必要」
アセナの姉妹達全員を連れてに旅行はどうなるかは正直言ってさっぱり分からない。
けれど心許せる家族と共に旅行となれば楽しいに決まっている。
ゆっくりできるかどうかまでは分からないが……それでも将来そう言う事が出来たらと思う。
それにこの国でもだが、どうやら今のところ表立って俺を捕まえられるだけの証拠はないらしい。
当然証拠を残さない様に気を配ってはいるが、本当に証拠を残さずに立ち去れているのかと聞かれると不安だ。
髪や血液などを落っことした事はないが、何が証拠となるのかさっぱり分からない。
俺にとって証拠にならないだろうと思っていた物が証拠になる事だってありえる。
それにすでに証拠は十分だが捕まえるタイミングを見計らっているだけかもしれない。
今まで通り警戒して進むとしよう。
『みな様、1か月間の旅はいかがだったでしょうか?セフィロはまたの来島を心からお待ちしています』
馬車を降りるとそんなアナウンスが流れる。
もうみんな帰る時間の様だ。
ゲートが開けるまで少し待っていると声をかけられた。
「やぁタツキ。お別れだね」
声をかけてきたのは勇者だった。
勇者の後ろにはルフェイと人魚姫が居る。
「おう。これで旅行は終わりだな、勇者様は忙しいのか?」
「それなりにね。強い魔物が現れたとか、悪魔退治とかそんな事してる」
「悪魔?この世界に悪魔っているんだ」
「知らなかった?教会じゃ普通に悪魔払いについて教えてもらったりしてたから知ってたよ。それにあいつら結構面倒臭いから」
「面倒臭い?」
どういう意味だろうと思っているとアセナが言う。
「悪魔に普通の攻撃は効かない。ちょっとコツがいる」
「へぇコツか。後で聞いていいか?」
「ん」
アセナは頷きながら了承してくれた。
勇者は「悪魔払いがコツか……」なんて呟いている。
おそらく教会から学んだと言っているから正しい手順みたいなものがあるのかも知れない。
俺はぶっ倒せる方法が分かればそれでいいだけだ。
「それじゃ僕達は教会に帰るけど、そっちの予定は?」
「俺達も帰るだけだよ。流石に遊び疲れたから家でゴロゴロする予定」
「家ってどこ?近くに行ったときに遊びに行っていい?」
ふむ……何と答えるべきかな?
適当にイングリットの近くとでも言えばいいのだろうか?
そう考えているとアセナが先に言う。
「『始まりと終わりの森』の近く。北側の森」
ん?『始まりと終わりの森』ってどこ?
そう言うと勇者達は頷きながら言う。
「ああ、イングリットに近い所で合ってる?」
「北東寄り」
「そうか、ありがとアセナさん」
え、分かったの?今の一言で分かったの?
周りの反応を見る限り分かっていないのは俺1人の様だ。
ここは分かっているふりをして言おう。
「最初に召喚された山小屋みたいな所を家として使ってるんだ」
「あ~やっぱり転移組ってそう言う住めそうなところに転移させられるのかな?そして最後に良い?」
「なんだよ改まって?」
そう聞くと勇者は言いにくそうな表情で言う。
「昨日の夜さ、世界の平和よりアセナさんを選ぶって言ってたじゃん」
「ああ。そうだけど?」
「その場合……タツキにとっての『正義』って何だ?」
また妙な事を聞くと俺は思った。
そんなもん1つしかない。
「アセナみたいに気に入った奴らを守る事。絶対に傷付けさせないし、寿命以外で死なせない。とりあえず戦いで死ぬ事だけはさせない」
「………………うん。分かった。君は悪じゃない」
勇者様が独断でそんな事を言っていいのだろうか?
所詮俺は自己中な男。
俺はアセナ達を守るためなら平然と罪を犯す事を何とも思わないと言うのに。
「そりゃどうも。勇者様に悪じゃないって言われたぞアセナ」
「当然。タツキは悪い事何もしてない」
そうアセナに行ったらそう返事が返ってきた。
アセナにとって姉妹を助けるはそりゃ悪い事に含まれないだろうな。
むしろ邪魔してきた方が悪い事だろう。
そうしている間にゲートが開かれ、少しずつ観光客は帰っていく。
それを見た俺達は共にゲートをくぐり、無事エルフの国に戻ってきた。
軽く背伸びをしていると勇者は言った。
「それじゃ僕達は西だから。2人はどっちで帰るの?」
「俺達は東だな。ここでお別れだな」
「そうみたいだね。それじゃねタツキ、アセナさん」
「またその内。ルフェイと人魚姫様も」
「バイバイ」
「それでは」
「………………タツキ様」
「なんです?人魚姫様」
「また会えたら1つ質問をしてもよろしいでしょうか」
「質問?今じゃなくてか?」
「はい。質問したい事はあるのですが、上手く……言葉としてまとめられていませんので次回お会いした時に質問させてください」
ふむ。
よく分からないがそれでいいのなら別にいいか。
「分かりました。ではまたその内」
「はい。質問する日まで失礼します」
そう言って勇者パーティーは西に向かって旅立った。
俺はアセナを見て言う。
「そんじゃ俺達も帰るか」
「ん。ちょっと取ってくる物があるけど」
「そうだな。それを持って帰るとしよう」




