最後の夜
旅行最終日の夜。
俺達は礼服を着て城に行く準備を整えていた。
もうすぐエルフの国に到着するからか、今日は海面を泳いでいるので星空がよく見える。
雲1つない夜空は満月と星が散りばめられていてとても綺麗だ。
「それじゃポールさん行ってきます」
「旅行最後の夜、お楽しみください」
丁寧に頭を下げるポールさんに見送られながら馬車に乗る。
王城に行くのにポータルは使えないので、歩いて行くか馬車に乗るしかない。
と言ってもポールさんにパーティーの参加について聞かれていたので、馬車は時間通りにやって来た。
それ以前に王城に行くのに参加しないって人は居るのだろうか?
恐れ多いとかプレッシャーに弱い人、幼い子供がいる人とかは参加しない事もあるって事か?
まぁ参加しない人たちの事はおいといて、アセナが少ししょんぼりモードだ。
狼の耳が少し垂れている。
「どうかしたか?アセナ」
「……新婚旅行終わっちゃうなって思った」
「それに関しては仕方ないさ。それにまた来ればいいだけの話だ」
「また来れる?」
「その内な」
そう言いながら頭を撫でるがどうだろうな……
その内真祖を解放しているのが俺とバレるだろう。判明されれば堂々と旅行なんて行けるとは思えない。
だからその前に来れたのはとても良かったと言える。
いくら好き勝手っと言っても自由に動き回れない所に行っても何も面白くないからな。
そう思いながら王城に向かっていく。
王城に着くとそこには多くの馬車が既に到着している様で、多くの人の出入りが見えた。
と言ってもプラチナコースの人だけなのでこれでも少ない方なのかも知れない。
周りを見るとやはり子供数は少ない。
居たとしても小学校高学年ぐらいか、中学生1年生ぐらいの年齢と思われる。
やはり王様達の前で無邪気な子供を連れてくるのは難しいと言う事なのだろう。
俺達も馬車から降りてカードを見せてから入城した。
以前見学に来たどでかいホールに通された俺達はそこで初めての光景を見る。
舞踏会と言うのはこう言うものなのだろうかと強く思った。
誰もが礼服や綺麗なドレスに身を包み、ホール中央で踊っている人達もいる。
ホールの隅でクラシックを奏で、従業員が客の邪魔をしない様にグラスを持っている。
う~ん、この場違い感。俺絶対こういう所に居られねぇわ、まさに住む世界が違うって感じだ。
「タツキ、堂々として」
「アセナ?」
急にアセナが俺と腕を組む。
こんな事をされたら堂々としないとな。
俺がカッコ悪いと思われるのはどうでもいいが、アセナの魅力を邪魔するような真似はしたくない。
なのでとりあえず堂々とする事にした。
「ん。そんな感じ。タツキカッコいい」
「アセナは美人だからな、それなりにカッコつけないといけないんだよ」
「当然。私の夫なんだから」
それにしても……こう言う時ってどうやって時間潰せばいいんだろう?
ただ飯を食って終わりって訳にはいかないだろうし、ダンスをしているのは若い人達ばっかり。
と言うかダンスなんて俺知らないぞ。平民で野生児だった俺が知る訳がない。
それに今はクラスの酒を飲んでいる人は居ても、飯に手を付けている人はいない。
準備中って感じもするが、おそらくまだ食べていい時間帯なのではないのだろう。
ああ、腹が特別減っていると言う訳ではないが、やる事がないと本当に暇である。
とりあえず従業員がくれた酒をちびちび飲んで気を紛らわせよう。
アセナも飯を目の前に少し耐えている様子。俺が先に音を上げる訳にも行かない。
ぼんやりと暇だな~っと思っていると、ホールでクラシックを奏でている人達がぴたりと音楽を止めた。
なんだろうと思っていると、王族が姿を現した。
それに合わせてクラシックからこの島に来るときに聞いた音楽に切り替わる。
もしかしてこれ、国歌だったりするのかな?
真ん中に王様、左側に王妃、右側に人魚姫が並んだ。
そして王様はマイクを手に語り始める。
『みな様、本日は1か月間の旅最後の夜となります。最後まで素敵な夜になる事をお約束いたします。短いですが是非このパーティーをお楽しみください』
どうやらこれが始まりの合図だったらしい。
先程よりも踊る人の数が増えたし、酒だけではなく料理に手を出す者もいる。
俺とアセナはそれぞれ料理を取りに行った。
下品に山盛りにせず、綺麗に並べるのが面倒臭い。
今晩は腹いっぱいっと言う訳にはいかなそうだ。
それに……面倒な事が多そうだ。
アセナはデザート系を取りに行っていたはずだが、いつの間にか男共に囲まれていた。
どうやらどの男もアセナの美貌に翅虫の様に群がっている。
アセナはその中から出ようとするが、こんな所で暴れられないからかなかなか抜け出せずにいる。
「お嬢さん。僕と一曲――」
「いえいえ、私と一曲いかがですか?」
「それよりもお話しませんか?」
「どうも、私は宝石商でしてあなた様にぴったりの――」
傾国の美女とはこういう事を言うのかも知れない。
特別何かをしている訳でもないのに勝手に男の方が貢ごうとしていた。
ここで逆ハーレムを築けば悪女確定だがアセナは明らかに嫌がっている。
短く断って抜け出そうとしているが、次々と男共がナンパしてくるので抜け出せない。
「アセナ」
俺がそう呼ぶとアセナは無理矢理出てきた。
男共は俺を明らかに不満そうな表情をする。
「ちょっと君、横入りはマナー違反ではないかな?」
「マナー違反?俺の妻にナンパしている連中にマナーなんて求めると思うか?」
「え、妻?」
男共はとても強い驚きだったのか俺とアセナを見比べる。
アセナは抜け出した後、俺にぴったりとくっ付いて俺の物であると主張している様に見えた。
プチケーキみたいなのが乗った皿はしっかり持っていたけど。
「この人は私の夫です。離れて下さい」
そうしっかりと言って男共は散った。
その足取りは明らかに重く、トボトボと言う表現がこれ以上に合う事はない。
そしてアセナは不満そうに頬を膨らませた。
「助けるのが遅い」
「悪いって。気が付いたらすでに団子状態だったんだよ」
「……今夜は私が上」
「はいはい。その辺は任せますよ」
「ぼ、僕も助けて!!」
そんな情けない声が聞こえて来たので振り返ると、ドレスを着た女性達に追い掛け回される真っ白なタキシードを着た勇者の姿があった。
俺はため息をつきながら言う。
「何してんだよユウガ。勇者らしくお持ち帰りでも何ですればいいのに」
「僕にそんな勇気ないよ!と言うか僕そんな風に見える?」
「安心安全健全なチェリーボーイに見える」
「その表現古くない?確かに経験ないけど」
落ち込みながら言うが女性達の進撃は一時的に止まったようだ。
俺と話しているし、近くにアセナが居る事も理由だろう。
ケーキを食べているだけだが女性が近くにいると言う状況は手が出し辛いのかも知れない。
アセナは無関心だけど。
「でもこう言うのって同じ女性とつるんでないとダメなんじゃないか?ルフェイはどうした?」
「今王様達の護衛してる。自主的な物だから多分僕みたいな状況になるのを避けたんじゃないかな」
「勇者パーティーに突貫する勇者は居るのか?」
「むしろ勇者パーティーっている看板で寄ってきてる人も少なくないから。2人で居ればもっとひどい状況だったかも」
なる程。
勇者を狙って女共が、ルフェイを狙って男共が団子になる可能性の方は高いと。
それは想像するだけでもうんざりするな。
頷いているとアセナの姿がない。あれ?ケーキのお替りにでも行ったか?
「勇者殿、パーティーはお楽しみいただけているかな?」
そんな声が隣で掛けられた。
近付いて来るのは王族全員である。
「国王様。はい、楽しんでいます。ちょっと女性との付き合いが大変ですが」
「それに関してはすまない。お客様同士の関係に口を挟む訳には行かないからな。そしてそちらの方は」
何て王様が俺に目線を移す。
俺は直立不動って感じでまっすぐ立つ。
やっべ、勇者はどうにかなって王族相手に誤魔化せる自信はないな……
そう言う人を見る目?みたいなのはどう見ても向こうの方が上の様な気がするからな……
「彼はタツキ、僕の同郷です」
「ほう。君も異世界から迷い込んできた者か」
「初めまして王様。俺はタツキと申します」
そう言って頭を深く下げた。
あ~色んな意味で緊張するな!
「タツキと言うのか。私はドン・セフィロ・トータス、この国の王である」
「存じてあげます。国王様」
「そう固くする必要はない。これは客人達へのもてなしなのだから」
敵対している時よりはフレンドリーだな。
あ、それは当然か。最初は妻と娘を殺しに来たかと思われてたんだからな。
「では私も。私はパール・セフィロ・トータス、この国の王妃です」
「ハルル・セフィロ・トータス。人魚姫です」
「初めまして王妃様、人魚姫様。王妃様は体調のご回復、お喜び申し上げます」
「新聞の記事を読んでいましたのね。ええ、病から治って今ではこの通りです」
記事の上では王妃は病に倒れていたと言う事になっている。
歴代の王妃たちを苦しめていた呪いとでもいうべきものが排除されたのだから、回復するのは当然だろう。
「タツキ、ここではそう畏まらなくても大丈夫だよ」
「いや、でも相手は王族だろ?畏まるなって……」
「構わん。先程も言ったようにこれはここに居る客人達へのもてなしの席だ、楽にしてよい」
「……そう言う事でしたら」
俺はほんの少し肩の力を抜く。
流石に完全にだらけるのはダメだろうからな。
にしてもこんな形で王族と再会とか予想してなかった……
「それで君の妻はどこかね?勇者殿から話は聞いている」
「今あそこでケーキを選んでます。食い意地はっててすみません」
「構わん。それで君1つ質問してもよいだろうか」
「なんでしょう?」
さて、黒い鎧に関する質問なのかどうか気になるな。
いや、むしろ直接的な事は聞いて来ないか?
腹の探り合いでは絶対に負ける。なら直接聞かずに遠回りに聞いて来る可能性の方が高いか。
「君にとっての平和とは何だと思う?」
「平和、ですか」
「私にとっての平和はこの国の平穏を指す。みなが笑い、仕事に励み、充実した暮らしを得る。それこそが平和である。君にとっての平和とは何だ?」
俺にとっての平和?
そんなもん当然これしかない。
「俺にとっての平和とはアセナと共に生きている時間です。何か刺激があると言う訳ではありませんが、好きな誰かと寿命が尽きるまで平穏に暮らせたら平和と言えると思えます」
「アセナとは君の妻の名だったかな?」
「はい」
「………………愛する者と寿命が尽きるまで、か。では妻の様に病にかかったらどうする?見ず知らずの誰かに殺されると思ったらどうする?」
「病にかかったらどんな手を使ってでも治せる医者を探します。誰かがアセナに危害を加えると言うのなら戦います」
正直に答えると王様は何か考えるような素振りをしてからまた口を開いた。
「……仮に、仮にだ。君の妻に何らかの呪いがあったとしよう。その呪いがある事でこの世界全体の平和につながっているとしたら、その呪いが消えたる事で妻の命が保てることになっても呪いを解こうとするかね?」
ああ、これは気が付いていると仮定しておいた方がいいな。
最低でも怪しんでいる。
何が切っ掛けでそのような考えにたどり着いたのかは分からないが、この質問の回答を持って宣言しよう。
「解きます。俺は王様の様に上に立つ者ではないからこそ言える事なんだと思います。俺は見知らぬ誰かの平和より、自分の平和を選びます。俺にとっての平和はアセナと共に暮らす事。顔も名前も分からない誰かに気を遣うより、大切な誰かを救う事を選びます」
「そうか。それは確かに、私の様に上に立つ者には出来ぬ選択だな」
何故だろうか、王様は俺の言葉に対して強い憧れと言うか、羨ましいと言う感じがした。
恐らく王様、いや王族と言う立場はあまり自由がないのだろう。
誰か個人のためではなく、国と言うもっと大きな何かを背負うために、時に大切な人を犠牲にしなければならない状況があるのかも知れない。
………………俺には出来ない生き方だ。
俺は自己中で自分が幸せなら他の誰かがどうなろうが知ったこっちゃない。
自分の幸せのために平然と誰かを切り捨てる。人として間違っているんだろう。
もしこれが人間、それどころか人類の生き方ではないと言うのなら受け入れよう。
俺は人類でなくていい。
「つまらぬ事聞いて悪かったな。これにて失礼する」
そう言って王様たちは去って行った。
他の客と話す様子もないし、あれは明らかに俺を狙ってきてたな。
「タツキ」
勇者が俺に聞く。
「なんだ」
「世界の平和より、アセナさんの方が大切か?」
「当たり前だろ。見ず知らずの他人がどうなろうが知ったこっちゃない」
「そうか。そうなんだな……」
勇者はどこか残念そうに言う。
おそらく勇者も勘づいているんだろう。
さて、俺はいつまで勇者様の友人で居られるのかな?




