後はただの新婚旅行
帰る前にアセナを迎えに行くと、それはそれは妙な光景が広がっていた。
この国の兵士からからメイドまで様々な者達が虚ろな様子でただ突っ立っているのだから。
他に妙な所と言えば……周囲にアセナの匂いが充満している事?
何故アセナの匂いがこんなにしているのかよく分からないが、これがアセナが自信満々に行った理由なんだろうか?
アセナは俺を見付けると尻尾を振りながら駆け寄ってくる。
そしてその障害となっていたこの城の人達は、統一された動きで俺達の間を邪魔しない様に動く。
虚ろな表情の割にはきっちり動くんだよな、どういう原理?
まぁ魔法があるこの世界で深く考えた所で答えは出ないだろう。
ならさっさとそう言うものだと決めてしまえばいいのだ。
俺はアセナを連れて別荘に帰って寝た。
開けっ放しの窓から出入りするのはやっぱり行儀が悪いと思う俺なのだった。
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次の日……でいいのか?
1回ぐらい夜更かししても正直俺達には何の問題も起きないのでいつも通り起きてポールさんに挨拶をした。
「おはようございます。ポールさん」
「おはようございます」
「おはようございます、タツキ様、アセナ様。アセナ様はご機嫌がよろしいようですね」
「分かっちゃう?」
そう。アセナは妹である鮫の真祖を助け出してから気分がいい。
と言ってもまだ鮫の真祖は完全復活した訳ではなく、今も俺の別腹の中で魔力を食べて復活するタイミングを見計らっている。
個人的な願望を言うとこの旅行が終わったころに復活してほしいな。
その前に復活するとお前誰?って状況になるかも知れないし。
「ええ。とても表情が晴れやかでございます」
「そう言うポールも何か良い事あった?」
「そのように見えますか?」
「見える」
「実はですね、王妃様のご病気が回復に向かっていると新聞に載っていたのです。一国民として喜ばしい出来事でしょう」
へ~やっぱり真祖が居る事が原因だったのか。
それは昨日俺が取り除いたんだし、そりゃ回復に向かうはずだわな。
「その新聞ってどこで買えます?」
「こちらの新聞は無料配布されております。お朝食から帰られる前には用意しておきます」
「ありがとうございます。それじゃ朝飯食いに行ってきます」
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
こうしていつも通りポータルでホテル本館で朝飯を食う。
ただ体内に鮫の真祖が居るせいかやけに腹が減るな、いつもより多めに食っておくか?
「タツキ、みんな話してる」
「ん?何の話だ?」
「王妃が病気から治ってきてるって話。タツキ良い事した?」
「さぁな。所詮世の中良い事と悪い事って言うのはセットで付いて来る事の方が多いからな……」
確かに王妃の体調が良くなったことはいいニュースだろう。
だが逆に言えば真祖を俺に奪われた事を示す。
当然国民は真祖の事なんて知らないだろうから喜びの方が勝っているだろうが、それがいつまで続くのかは分からない。
と言っても俺は真祖を表立って使う気は全くないんだけどね。
だって目立つ事って面倒な事多いじゃん。俺面倒なの嫌い。
「それじゃ結局タツキがした事は悪い事?それとも良い事?」
「そう簡単に決まんねぇから苦労してんだよ。それより今日はどこ行く?」
「……今日はゆっくりイチャイチャしてたい」
アセナが顔を赤くしながら言う。
色んな意味でイチャイチャしたいって要望がよく分かる表情で。
そうなるとゆっくり出来る所……そういやプールあったな。
そこでのんびりするか?
「それじゃ今日はイチャイチャしてるか」
「うん」
嬉しそうにはにかむアセナを見て俺はとても癒されます。
そんじゃパンフレットを見て適当に考えてみよう。
飯を食い終わった後家に戻る。
「お帰りなさいませ。こちらが今日の新聞でございます」
「ありがとうございます。ところでこの辺でゆっくりできる場所ってどこかあります?」
困った時のポールさん。
迷ったりよく分かんなかった時に助けてくるコンセルジュ様!!
新聞を受け取りながら聞く。
「そうですね……タツキ様とアセナ様はアクティビティーの方を楽しんでおられましたし、スパやエステなどはどうでしょう?」
「そういやパンフレットにそんなの書いてたな。確か島の中心部だっけ?」
「はい。中心部はセフィロ・トータスの体温が高い部分でして、温泉の効果もございます」
「え?亀の背中に温泉もあったのこの島?」
「はい。セフィロ・トータスの体温で温められた温泉は滋養強壮の効果もございます」
「時々思うんだけどこの亀本当に何者?温泉で滋養強壮っておかしくね?」
「おかしくありません。それに滋養強壮効果があるのはセフィロ・トータスの生き血風呂のみですので」
「怖!生き血風呂って生臭そう!!」
「冗談です」
「あ、冗談。ポールさんも冗談言うときあるんですね」
「生き血は温泉の隣のお食事処でいただく事が出来ます」
「冗談ってそっち!!」
まさかのすっぽんの生き血を飲む日が来るのか!?
すっぽんじゃなくてウミガメだけど!!
そう思っているとアセナもポールさんに質問する。
「その温泉って所で2人っきりになれる?」
「その場合は予約が必要となります。貸切風呂は1時間のみとなっておりますが、小さなお子様連れのお客様が多くご利用していただいてます」
「そこの予約直ぐ取れる?」
「少々お待ちください」
そう言ってポールさんは予約を入れるためにポータルの方へ行ってしまった。
実はあのポータル、連絡を伝えるために使用する事も可能だったりする。
なら何故勇者の通信機が画期的かだって?
それは距離の制限がないからである。
ポールさんに聞いたところ、この世界の電話は普通有線でありいくつもの素材となる物を繋げて行える。
だが距離を延ばせば延ばすほど通信の質は落ちるので限界があるとか。
この島はそれなりに大きいが、中心となる城からクモの巣のように広がっているので質が高いままの通信が可能だという。
だと言うのに勇者のは距離制限なしの無線である。
とても大きな技術革新と言えるそうだ。
それにしてもアセナってそんなに温泉に興味あったのか?
そう思いながら聞く。
「アセナって温泉に入った事なかったっけ?」
「ない。でも……」
「でも?」
「鮫がちゃんと復活したら2人っきりになれなくなる。だから今のうちに甘えるだけ甘えておく」
そう言ってアセナはめいっぱいの甘えを見せて俺に身体を擦り付ける。
ちょっと不安になったのか?2人っきりじゃなくなる事に。
なら俺が出来るのはその不安を取り除く事だけだ。
俺はアセナの顔を少しだけ挙げて優しくキスをした。
するとアセナは安心した様に身を任せてくれる。
少し長めのキスをした後アセナに言っておく。
「2人っきりじゃなくなっても俺はアセナを愛してる」
そう言うとアセナの顔は真っ赤になった。
そしてその赤くなった顔を見られたくないのか俺に抱き付いて誤魔化す。
そんな時にポールさんが微笑ましい物を見たような表情をしながら言った。
「奥様、明日の午後8時から9時までの予約を取れました。その前にお隣のお食事処で予約も取らせていただきました」
「ん」
「あれ?その場合晩飯2回食わないといけない?」
「大丈夫ですよ旦那様。その日のお夕食をその店舗でと伝えておきました」
それは助かる。
それといつの間に旦那様と奥様に変わったんだ?
そしてアセナは俺の胸から顔を上げるとポールさんに強く言った。
「これチップ。今日は後お休みでもいい」
「承知しました。では明日またお会いしましょう」
あれ?ポールさんがそう言ってポータルの向こう側へ消えてしまった。
何かを察して帰ったようだが、え、俺これからどうなっちゃうの?
と言うかアセナさん?目が怖い。完全に獲物を見る目となっておりますが?
「タツキ」
「えっと、どうしたアセナ?」
「今日は1日中イチャイチャする。久しぶりの24時間耐久レースする」
「ちょっと待て!!え、これから!?また日が明るいですけど!!」
「今から始めないと間に合わない」
「何に間に合わせるんだよ!!」
「朝ごはん」
「お前本当に体力あり過ぎだろ!!」
こうして俺はアセナに引きずり込まれて寝室に閉じ込められるのだった。




