真祖奪取計画開始!!
次の日の深夜。
誰もが寝静まっているであろう時間に俺達は動き出した。
今回の移動で当然ポータルは使えない。仮にポータルを使用した履歴の様な物が残っていると自分の首を絞める事になるからだ。
こういう時本当にアナログの方が案外動きやすい事が多い。
まぁル〇ンみたいな変装技術とかもってないのが原因の1つではあるんだが。
そして今回久しぶりにアセナは狼の姿になっている。
この方がいざ見付かってもすぐにアセナだと気付かれる可能性を低くするためだ。
それに俺が直接王妃から真祖を取り出すのだから、狼の真祖がすでに俺に協力していると勘づかれる可能性もあるので狼の姿なら見付かっても問題ないという事らしい。
そして俺も久しぶりに鎧を身に付けている。
ドワーフの国ではこの姿の俺は既に発見されているし、見付かったところで今さらと言う奴だ。
各国の警戒レベルが上がるのは目に見えているがこればっかりは仕方がない。
ありのままの俺の姿を見せるよりはまだまだマシと言う事にしてもらいたい。
アセナは俺よりも先に走り、1度鳴いてから先に王城の中へと入って行く。
アセナが言うには確実に兵士達を集める事が出来る方法があるらしいが、どんな方法なのかは聞いていない。
俺は王城の塀の前で兵士達が集まるのをマップで確認しながら待つ事にした。
数分待ったぐらいだろうか、明らかな動きがあった。
起きて仕事をしているであろう人達の反応が1点に向かって動き出したのだ。
アセナは王城で最も広い兵士の訓練場に移動させると言っていたが、まさかこんなにも早く集める事が出来るとは驚くしかない。
でもお陰で楽に移動する事が出来る。
気になるのは王妃がいる部屋の中に居る人数は3人である事。2人はとても近い距離いて、1人は少し離れた感じの所に居る。
そして1番乱入して来そうな勇者達の反応は動かない。
寝ているのかどうか判明していないが戦闘力ではこちらの方が上、王妃から真祖を取り出す作業を邪魔さえしなければそれでいい。
俺は鎧をカメレオンの様に周囲に高速で擬態しながら進む。
そして王城の中をマップで確認ししながら進むこと1分、王妃の寝室の前に着いた。
スマホは俺の別腹内にしまって落としたりしてまわない様にする。
そしてそっと扉を開けると、王妃以外の2人の正体が分かった。
1人は王様、王妃のベッドの隣で椅子に座りながら眠っている。
もう1人は人魚姫、王妃と添い寝している所を見るとまだまだ子供っぽい所があったのかも知れない。
さて、これから家族団らん?の邪魔をする事に心傷むが、侵入して王妃から真祖を――っと思っていたら王様がすぐさま目を覚まして俺に剣を振りかざしてきた。
人魚姫の方もベッドから跳び起きて杖を俺に向ける。
「死ね!!世界の敵め!!」
「メイルシュトローム!!」
人魚姫が水系の魔法が得意と言うのは勇者に聞いてたが結構強めの魔法が使えたんだな。
人魚姫が使ったのは視界を埋めつくほどの大渦巻。人間の中では上級に存在する魔法じゃないか?
だがそれは人類から見た話だ。俺から見ればまだまだ熟練度が足りない。
威力だけならハイド〇カノンぶっ放すワニの方が上、魔法を受ける限り細かい水の刃の様な物で切り刻む魔法の様だが鎧のおかげでその辺は問題なし。
王様の方はドワーフの王とどっこいどっこいか?人類にしては上出来。
でもそれではまだ足りない。
人間のしがらみなんざ、あっという間に捨てた俺にとっては不意打ちでボールを投げつけられたのとバットを振り下ろされたのとそう変わらない。
にしても俺の鎧本当に堅いな。
流石できるだけ不純物を取り除いた純魔石製の鎧である。
王妃の方も苦しそうな様子で起き上がりはしたが、やはり戦える様子ではない。
大きな咳をしながら俺を睨むので精一杯のようだ。
そして俺はこの家族に対して敬意を表しながら紳士ぶった態度を取りながら話しかける。
『初めまして人魚族の王家のみな様、私の事はご存知の様だ』
鎧に付けておいたボイスチェンジャー機能を使いながら話しかける。
イメージとしてはあれだ、テレビで声を変えている滅茶苦茶低い声。
そして王様は警戒したまま俺に話しかける。
「貴様だな!ドワーフの国にて『テュールの右手』を盗んだのは!!」
『テュールの右手?ああ、狼の真祖を封じていたあれか。確かにあれを奪ったのは私だ』
「そうだ!何の目的かは知らぬが妻から真祖を奪く事は不可能!!直ちに立ち去れ!!」
『ほう。立ち去れ、か。捕まえられない事を察しているのか?実力差と言うものをよく分かっているようで何より』
なんかこの言い方ちょっと癖になりそう。
いかにも悪役っぽくてちょっとカッコよくね?
そして俺は否定する。
『だが出来ぬ相談だ。私はその王妃の中にある真祖が目的なのだから。目的の物を目の前に立ち去る盗人はいまい』
「アクアジェル!!」
人魚姫の方が俺を囲うように水の檻を創り出したようだ。
だがこの程度では止められない。
それに取り除く作業に集中したいからさっさと終わらせよう。
水の檻の中から俺は両手の人差し指を微妙に変質、毒針が出るようにした。
水の檻の影響でお互いの動きは視覚だけでは分からないだろう。
ならその間に仕込んで終わらせる。
俺は戦える王様と人魚姫に向かって毒針を発射、すると水の檻は直ぐに形を崩して床を水浸しにしてしまう。
王様と人魚姫は直ぐに毒針を抜いた様だがもう遅い。
毒針には魔力操作を乱す効果と軽い麻痺毒を仕込んでおいた。死にはしないがしばらくは思い通りに動く事は不可能だ。
「あなた!ハルル!」
「くそ!身体が!!」
「お母様!」
王妃が動けない2人に声をかけるが動けない。
俺は人魚姫をそっと退かすと王妃を押し倒した。
これ絵面的にアウトじゃね?どう見ても強姦する寸前じゃん。
王妃は不安そうな表情になりながらも俺に怒鳴る。
「わたくしの中から真祖を取り出す事は不可能です!いい加減わかりなさい!!」
『それは王妃殿の体内にあるから、でしたな。しかも明確な形を持っている訳ではなく、呪いに近い物だとか』
「そうです!ですからこんな事をしようとしても――」
『だが関係ない。私にはそれを屈服させる方法があるのだから』
「え?」
初めて王妃から間抜けな声が漏れる。
まるで信じられない話を聞いた様な、今までにできなかった事をすると言われて驚く事しか出来ない様な、そんな声が漏れた。
俺は押し倒した王妃の胸の谷間に掌をそっと置いた。
ここからは俺の集中力が試される。初めて『変質』を他の人に使うのだから当然緊張する。
俺は鎧の中で深呼吸をしてから意識を王妃の体内に向けた。
まずは俺の魔力をソナーの様に波紋状に飛とばす。そこから王妃とは違うものを見つけ出さなけらばならない。
少しじっくりと飛ばすと向こうから反応があった。
何かが王妃の中で泳いでいる?
でもソナーを飛ばした感じだと丸い卵の様な感じだ。
『誰?私を呼ぶのは?』
そんな声が聞こえた。
その声は意外と丁寧で、真祖の物とは思えなかったがおそらくこの声が真祖なのだろう。
俺も心の中で声をかける。
『こんばんわ。こんな時間に呼んで悪いな』
『……誰?』
『俺はタツキ、君を迎えに来た』
『迎え?嘘を付かないで。お姉さま達も創造神様も助けに来てくれなかったのに、人間がお迎えだなんて』
『本当だ。実際に狼の真祖は助けた。嘘じゃない』
そう言うと鮫の真祖をは少し黙ると恐る恐る聞く。
『本当に?本当にお迎えなの?』
『そうだ。創造神に頼まれて来たんだ。それと狼の真祖であるお前の姉からもな』
『……本当みたい。ちょっとだけだけど、お姉さまの魔力の残滓を感じる』
信頼を得る事は出来たみたいだな。
ではここで一気に畳みかけよう。
どれぐらい時間が残っておるのか分からないからな。
『それじゃ1度俺の『変質』で王妃とお前を分離させる。その後俺の『捕食』で俺の魔力を溜めている別腹に送るから』
『でも……大丈夫なの?私、多くの魔力が必要なのに?』
『俺物理攻撃ばっかりしてるから問題ない。ほとんど魔力使わないし』
『そうなの?それならそっちに移る』
『おう。それじゃ後は任せな』
少しずつ、少しずつ王妃の胸元から丸い物が出てくる。
王妃も自分の身体から出てくる丸い物に目も丸くしていた。
そしてその丸い物が半分ほど出ると正体がやっとわかった。
これは鮫の卵だ。
丸くて殻がない卵、その卵は半透明で中に真祖の本体である小さな鮫の本体の影が見える。
俺はその卵を両手ですくい上げる様に優しく、傷付けない様に取り出した。
『………………美しい。これを生命の根幹と言わずに何と言う?やはり生命と言うものは素晴らしい』
ついそんな感想が漏れてしまった。
小さな膜と言ってもおかしくない程の卵の中で鮫の真祖は泳いでいる。
これが小さな命。これを美しいと感じない者は存在しないのではないだろうか?
俺はこの小さな卵をそっと『捕食』。
別腹の中に移動させた。
これで俺の目的は完了だ。
未だに3人は驚いているのか声1つ上げずにただ茫然としていた。
『さて、これで私の目的は達成した。私は去るとしよう』
これでお仕事終わり!後は何も考えずバカンスだー!!
っと思ていたのに扉が開いた。
「人魚姫!ご無事ですか!!」
あ、勇者だ。
でもあれ?こいつ寝てたんじゃ?
なんでだろうと思っていると人魚姫の近くに木の板が見えた。
まさかあれ、通信機?マジで人魚姫に渡していたのかよ……
恐らく通信を開始していたのは俺がやって来た時に使った魔法中か、檻の中に閉じ込められていた時に通話を始めたんだろう。
ここで援軍とか想定してなかったな……
「お前か!!真祖復活をたくらむ黒い鎧!」
う~ん。素の俺を知ってる勇者に話しするとぼろが出ないかちょっと心配だな。
ここはドワーフの時同様にだんまりと決め込みますか。
「くそ、だんまりか。ルフェイ!!」
「結界、起動します!!」
そう言ってルフェイは結界を起動した様だが……なんか脆そう。たいした事なさそうだ。
「ここでお前を止めないといけない!世界のために!!」
「お待ちください!勇者様!それは既にお母様から真祖を抜き取っています!!殺してはいけません!!」
え?人魚姫が止めに入るの?
と言うか殺され場合人魚姫に真祖が移るんだろ?やっぱりまだ真祖を身に宿したくないって思ってるのかな?
まぁ母親が死ぬ寸前になれば当然と言えるけどさ。
「え!じゃ、じゃあどうしたらっ!」
「捕まえて下さい!!このような前例がない以上ここでそれを殺した場合どうなるのか分かりません!なので捕縛を――」
長い!俺空気!
来ないなら俺の方が先にやる!
そう思って勇者をそれなりに力を込めて殴り飛ばした。
新米勇者は結界を突き抜けて廊下にドガン!気絶させた。
そしてルフェイには悪いがデコピンで気絶してもらう。
カッコよく首を手刀で叩いたら首と身体が離れ離れにしちゃいそうだし……
デコピンを食らったルフェイは直ぐ気絶して倒れそうになったが俺が支えてそっと床の上に寝転がした。
これで良し。
もう夜も暗いからか~える。
「待ってください!」
帰ろうと思ったら人魚姫が俺に向かって叫んだ。
なんだよ、まだ文句言い足りないってか?いや、真祖奪っておいて文句出ないはずはないけど。
俺は振り向くと人魚姫は聞いて来る。
「何故……ですか?何故、私とお母様を殺さずに真祖だけを奪ったのですか?私達は殺されるものだとばかり……」
答える義理はないが……まぁこの程度はいいか。
『大した理由はない。お前達は、いやお前達の先祖も苦しんできたのだろ?ならば死と言う安らぎでは今までの苦しみを味わってきた報酬としてはあまりにも足りない。ならば寿命尽きるまで生を謳歌する事こそが、最大の報酬なのではないかと思っただけだ。それでも真祖を奪われたのは事実。この先の事は分からないがな』
それだけ言って扉を閉めた。
これ以上アセナを待たせるのはダメだろう。
気絶した勇者を壁にめり込ませたままだが、まぁこれは放っといてもいいよね?




