邪魔者
旅行準備をしながら待つこと1ヶ月、ウミガメは来た。
既に港には旅行客でごった返しており、今か今かと入島に心を膨らませているのがよく分かる。
それは当然俺もだし、アセナだってそうだ。
これからの新婚旅行に期待を寄せているからか、思いっ切り尻尾を振り回している。
そして見るからに誰がどのコースなのか一目で分かる。
一般コースでは完全に私服、遊びには行くけどちょっと周りに合わせていい服選びました~って感じ。
そして俺達の居るプラチナコースではいかにも金持ちですって感じの人達ばかりだ。
何と言うか……華があるというか、紳士淑女と言う言葉しっくりくるというか、俺達みたいにノリと勢いでこのコースを選んだわけじゃなさそうだな~っと言う雰囲気がする。
俺浮いてないかな……
一応今着ているのはこの間買ったスーツなのだが浮いてないよな?
アセナは……とても楽しみにしているが堂々としているので浮いている感じがしない。
あ~あ、俺も顔に自信があれば違ったんだろうか?
そう思っていると入島する前に何かスピーチがあるらしい。
パンフレットによればこの島のお姫様が乗船してくれるお礼を言うそうだ。
そんな事どうでもいいから乗せてくれ。
そして人魚の兵がやって来て、守りを固める。
人魚族はぱっと見そんなに人間と変わりないが、所々腕や足に魚の鱗があるのが特徴で半魚人のような奴はいない。
半魚人的な連中は発見されているのだが、言葉も通じなければ人類と仲良くする気もない。
なのでそいつらは魔物として分類されている。
兵が守りを固め終えた後、噂の人魚姫が現れた。
人魚姫の姿は……子供?
鮮やかな緑色の髪をした中学生ぐらいの女の子。
その子は壇上でマイクの位置を合わせてから言う。
『初めましてみな様、この度はセフィロへの来島、父と母に変わって感謝申し上げます。今回は1か月間の旅となります。ぜひ良い思い出をお作りなっていただけるよう国民一同頑張って参りますのでよろしくお願いいたします』
そう言って頭を下げた後、俺達は入島した。
予約し終えた時に渡されたパスが俺達の証明書だ。
エルフ側で調べた結果何の問題もありませんでしたよ~っと言う証明でもある。
なのでそれを見せた後、元の世界で言う金属探知機的な魔法、危険物を持ち込んでいないかのボディーチェックをされた後入国した。
「これだけでも疲れるな……」
「うん……」
アセナも慣れないからか少しお疲れ気味のようだ。
すると後ろの方が何だか騒がしい。
なんだろうと思ってその方向を見ると久しぶりの顔を見た。
あ、久しぶりと言っても知り合いと言う訳ではない。
ただ周りの人達の視線を集めているの人物の顔が明らかに日本人顔の男だったからだ。
格好そのものは周囲に居るスーツやタキシードとは違い、真っ白な鎧のまま現れた彼はまるでその格好そのものが正装、とでもいうように自然と歩いている。
それを見たアセナが俺の後ろに隠れた。
「アセナ?」
「……あれ、勇者だ」
「は?」
勇者。その言葉そのものは俺の世界にもあったので意味は分かる。
でもこの世界ではおそらく特別な意味があるのだろう。
……その内俺の、いや俺達の敵になるかも知れない相手だというのだけはバカな俺にも理解できた。
勇者の後ろには杖と本を持った、いかにも文系です。みたいな眼鏡をかけた三つ編みの女の子が追い掛ける。
「勇者様!早く行かないと人魚姫様に迷惑かけちゃいますよ!!」
「そうならない様にしてるじゃないか。早く行き過ぎても迷惑だろ?」
「それはそうですが……だからってもう少し時間に余裕を持って行動しましょうよ」
「5分前行動がちょうどいいと僕は思うんだけどな……」
なんて会話が聞こえてくる。
どうやら勇者と呼ばれている男は元々ここに来る予定があったらしい。
その関係者がさっきの人魚姫の様だが……
そう思いながら勇者を見ていると勇者と目が合った。
俺はとっさに頭を下げて会釈で終わらせようと思ったが、何故か勇者の方から近付いてきた!
そして勇者は俺の手を取って興奮気味に言う。
「君!もしかして君も日本人!?」
「え、えっと……はい……」
「うわ~懐かしい!あ、僕は優雅!君は?」
「タツキ……」
「あ~ほんっとうに久しぶりだな~純日本人!!この世界に転移したのはいいけど転生者と思われる人を探してもなかなか見つからなくってさ!転移した人も居るって聞いてたけどようやく会えたよ~」
感無量って言葉がよく合いそうなほどでちょっと引いてる。
こういう感じの奴は正直言って苦手なんだが……どうしよう?
そう思っていると三つ編みの女の子が俺と勇者をひっぺ替えしてくれた。
「勇者様、落ち着いて下さい。引いてらっしゃいます」
「ああ、ごめんごめん。つい同郷だと思うとつい」
「はぁ。申し訳ございません。私はルフェイ、勇者様のお供をしています」
「こちらこそ初めまして、タツキです」
ルフェイはそう言った。
にしても……勇者は転生者や転移者を探してるのか?
探しているとすれば一体どんな理由で探しているんだろう。
なんにせよ面倒なのは目に見えている。
こういう時は適当に話を合わせておいた方がいいだろう。
「あの……お2人はどうしてこの島に?」
「それに関しては少し野暮用でして――」
「ちょっと人魚姫にお願いがあって来たんだよ。僕達今仲間を集めてるから」
そう言うとルフェイは勇者の横っ腹を肘で突っついた。
言ってはいけない事の様には聞こえなかったが……裏事情があるとみておいた方がいいだろう。
「それでタツキ様は観光ですか?」
「あ、はい。新婚旅行です。彼女とどうせならいい思い出作りをしたいと思いまして」
そう言って後ろから勇者の様子をうかがうアセナを見る。
アセナは完全に勇者を警戒しているようで俺の背から離れようとしない。
それを聞いた勇者とルフェイは驚いた様な表情をした後すぐに離れた。
「あ~ごめんね。邪魔するつもりはなかったんだ。ただ本当に同郷の人がいて嬉しかっただけでさ」
「それならすぐに離れますよ。新婚旅行の邪魔をしてすみません」
「いえいえ、俺も同郷の人と会えて嬉しかったですから」
そう言ってにこやかに返す。
でもそれは表っ面だけだ。
新婚旅行兼、真祖開放の邪魔になりそうな存在は消えろ。
そう思っていると勇者は何かを渡してきた。
ぱっと見はただの木札、何か魔法がかけられている様だが使い方はよく分からない。
それを渡すのを見てルフェイはとても驚いている。
「勇者様!?それは――」
「この旅行中だけだよ、後で返してもらう。これは通信機、と言っても本当に通信しか出来ないけどね。スマホほどの機能はないからトランシーバーみたいな感じだけどね」
「え、でもこれ本当に借りていいのか?こういうのこの世界じゃ見かけないけど?」
この世界に当然科学は発達していないし、こういう道具に関しても見た事がない。
ドワーフの国でなんちゃって化学みたいなのは見たがほとんどが超大型機械の様に見えた。
そんな世界にトランシーバー?どうやって作ったんだ?
「僕が持ってきたスマホを元に作られたんだよ。と言っても量産も出来ないし、これ1個作るのにとても手間と時間がかかる。今持ってるのは僕とルフェイ、後はタツキが持ってる3つだけだから」
「いやいやいや、受け取れねぇよ。そんなに貴重な物壊したらどうしようとしか思わねぇから返すって」
「でも……今持ってるの僕とルフェイだけだからほとんど機能の使いようがないし……」
「だったら人魚姫にでも渡しとけ、とにかく俺はそんな貴重な物持っていたくありません」
そう言って無理矢理突っ返した。
今言ったのは建前で、旅行中こいつから電話かかてくるとかウザいだけ。
持っていたらいつか電話に出ないといけないだろうし、旅行中そんな事に時間を使いたくない。
アセナとのイチャイチャを邪魔しようとしてんじゃねぇよボケ。
突っ返すと残念そうではあったがどうにか返せた。
そして勇者は言う。
「何かあったら僕に相談していいからね、勇者は人を助けてこそなんだから」
「多分そんな事にはならないと思うけどな、勇者案件に引っ掛かりそうなことに首突っ込みたくない」
「それは確かに!それに安全な国らしいからね、そんな事になる確率は低いか。それじゃまたどこかで会った時にはご飯ぐらい一緒に食べて欲しいな」
「昼飯ぐらいだったらいいぞ」
「それじゃまた会えたら。アセナちゃんもまたね」
「失礼します」
勇者は嵐のように来てあっと言う間に去って行った。
にしても面倒臭そうなことになったな。
勇者と同じ旅行、真祖開放を目的に動いている俺達にとって邪魔になるのは目に見えていた。




