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Sクラスの授業 トキの場合

 トキの戦闘方法は典型的なスピードタイプの剣士っと言う感じか。相手とできるだけつばぜり合いをする事なくスピードを活かしながら一瞬の隙を見つけて切り裂く。

 俺を相手に物怖じしない性格と言うのも重要な部分だろう。ヒカルとカエルはどこかで俺が本気で戦ってきたらっと腰が引けていた気がする。

 しかしトキはチャンスだと思ったら突っ込んで来る。その結果殴られようと蹴られようとも怯える事はない。


 トキが上手く俺との身長差を利用して戦っている。

 当然俺の方が背が高いのでトキの方が攻撃は届きにくいが、姿勢を低くして俺の剣では届きにくい場所を維持しながら戦う。フェイントもヒノ先生から教えてもらったのか時々入れて翻弄しようとしてくる。

 それを俺は無理矢理力でねじ伏せる。上手く剣を振れない位置に俺は陣取り加速する前にトキに近付いて回り込んだりできない様にし続けた。


「先生の鬼畜!!私がしたい事徹底的に潰し過ぎ!!」

「それが殺し合いって奴だよ。相手が得意な事を潰し、こちらが優位になるように続ける。これが戦いの基礎だ」


 俺がトキに体当たりをするとトキはわざと俺の体当たりを利用して後ろに大きく飛んだ。きっと軽い子供だからこそできる逃げ方だろう。大人じゃ俺を台にして飛ぶとか味方じゃないとできないだろう。

 下がったトキは肩で息を整えながらも剣をこちらに向ける。

 諦めてはいないが体力と言う面でもまだまだトキは成長中だ。あと5年もすれば立派になると思うが子供からすれば長い時間だろうな。


「どうする。そろそろやめるか?」

「まだ……諦めない!!」


 気合いを入れ直すトキを見て俺はちょっとだけ笑った。

 まずは諦めないと言うのが重要なのだからそこだけは認めてもいいのかも知れない。

 なんて思っているといきなりトキが目の前に現れた。


「ん?」


 俺はバックステップで下がりながらトキのレイピアを弾いて防ぐ。

 魔法やスキルを使った攻撃ではない。今もトキの攻撃を防ぎながら見ているが特別スピードが上がった訳でも何でもない。いつも通りだ。


 なのにほんの一瞬、瞬間移動でもしたかのようにトキの動きが突如変わる。

 それをしばらく観察してみて気が付いた。

 なるほどと感じながらヒノ先生の方を見てみると、トキが俺に一矢報いた事が嬉しいのかヒノ先生は満足そうな笑みを浮かべている。

 確かにそれならスキルや魔法ではないので使用可能だ。


 では、俺も同じ事で返してやろう。


「え、キャ!」


 俺がトキの攻撃に感じた違和感。それは見ていたはずの相手の動きが一瞬見えなくなる事。

 行ってしまえばこれは相手の呼吸を知ると言う基礎的な行動であり、体術の基礎だ。

 俺がトキの攻撃で感じたのは例えるなら録画した番組を30秒だけ飛ばしたような、コマ送りの様な違和感。そしてそれが何故一瞬だったのかと言うと、自然と目を瞑った瞬間に攻撃を変えていたからだ。


 相手の呼吸と言う物は何も息をしているかどうかだけの話ではない。

 目を瞑るタイミング、力を抜いたり入れたりするタイミング、周囲を警戒するために気を張っている間にゆるんだ隙などその他もろもろが全て呼吸と言える。

 トキはただ俺が目を瞑った瞬間をとらえていただけに過ぎない。


「っ!いな!キャ!!」


 俺はわざと正面から攻撃し、レイピアに何度も剣をぶつける。

 もちろんトキは相手を目の前に瞬きを出来るだけしていないが、それでも気の緩む瞬間と言う物がある。つかれて力を入れていない瞬間、呼吸を整えようとしている瞬間に俺は動いてトキの持つレイピアに攻撃を繰り返しているだけだ。

 視覚だけではなく長期戦のために休んでいる瞬間を容赦なく攻め続ける鬼畜の所業だと俺も自覚している。

 だってこれから休もうとしている時に攻撃されれば防ごうにもそんな急に動く事は出来ない。むしろ意識と身体が上手く動かない事に焦りや疑問が込み上げて来る。

 それにより余計に動きが悪くなると言う悪循環に陥るのだ!!


「ちょっと先生!!容赦なさすぎ!!」

「容赦したら訓練にならないだろ。そしてお終い」


 俺は目の前で武器をただ落とした。

 トキは目の前で武器を落とすと言う俺の奇行に、つい落ちていく武器に気を取られてしまった。

 そこで俺は自由になった左手でトキの右手を掴み、残りの右手でトキのレイピアを奪い取った。


「え?」

「チェックメイト。な~んつって」


 奪い取ったレイピアを首に当てて勝利宣言をした。これにはヒノ先生も「ここまで!」と言ったので俺の勝ちだろう。

 トキは驚きながら奪い取られたレイピアを見ながら俺に聞く。


「ど、どうやって私のレイピアを奪ったんですか?」

「ん?どうってトキは片手で持ってる武器だったから奪えただけだぞ。ぶっちゃけ半分は無理矢理だしな」


 ただ単に掴んでいる物はどうしても掴む力以上の力をかけられると手から落としてしまうだけの話だ。

 ヒカルのように両手で持つ武器の場合は多分奪えないと思うが、片手で持っている物なら出来るだろうと考えた結果だ。

 それを言うとトキはへたり込みながら俺を責める。


「それに先生瞬歩(しゅんぽ)はずるいよ!しかも完成度私よりも高かったし!!」

「はっはっは。先生だってそう簡単に追い越されない様に頑張らないとダメなんだよ」


 この瞬歩と言うのはヒノ先生から教えてもらった武術の様な物らしい。相手が認識できない瞬間に合わせて近付いて相手を倒す技。相手の呼吸さえ分かれば簡単に使える技なので結構便利だ。

 トキの場合はまだ視覚しか認識されていない状態だったので音や気配何かでバレてしまった。これが敗因だろう。

 そう思っているとヒノ先生が呆れながら俺に言う。


「なんでもうそんなに使いこなせているんですか。普通なら10年ぐらいかかる物なんですけど」

「え?でも気配断って隠れたり、相手が意識していない間に攻撃するのは基本ですよね?」

「確かに基本ですがそれを出来るようになるのはかなりの訓練が……タツキさんの場合はあの森で過ごした分経験は十分に備わっていたと見るべきでしょうか」


 ヒノ先生が何か諦めた様な感じでそう呟いた。

 武術って言うのは基本的に効率的に相手を倒す方法だから基礎は自然の中で十分鍛えられるものなんだな。あとはやり方さえ学べば出来るっぽい。

 特に気配うんぬんはさっきも言った通り自然界では必須事項だからな。


「先生!また今度戦ってね!!」

「おう。また今度の授業でな」


 これが現在のヒカル達の授業風景である。

 ちなみにさっきの瞬歩はほぼ1対1用の技なので1対複数の場合は難易度が一気に跳ね上がる。複数人の呼吸が一致する瞬間なんてほぼないので1対1を連続で行うと効率的だったりする。

 まぁ結局かなり難しい技なんだけどね。

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