Sクラスの授業 ヒカルとカエルの場合
意外と教師として生活する事に違和感がなくなってきた頃、そろそろ子供達にも実戦練習を組み込む様になってきた。
っと言ってもまだ魔物と戦う訳ではなく、訓練で同じクラスの子達と組み手をする感じだ。それ以前は教師の指示に従いながら武器の使い方を学び、ひたすら反復練習と言う感じだったので、元気のいい男の子たちは実戦練習に喜んでいる。
っと言っても刃は潰してあるし、ただのなまくらなんだがそれでも普通の鈍器と変わらない。鉄の塊で殴り合うのだからぶつかれば当然痛いに決まっている。
でもそれはAクラスまで、Sクラス、つまりヒカル達が居るクラスでは一足先に俺と組み手をしていた。
「こんの!たぁ!!」
「攻撃の度に叫ぶこったないだろ。そりゃ力も入るし、1対1の場合なら問題ないけど、こっそり殺す時には無駄に終わるからその辺コントロールできるように頑張れよ」
何と言うかヒカルには叫ぶ癖が付きそうでちょっと不安だ。俺は最初から戦いと言う感じではなかったので、獲物のに気付かれない様に息をひそめたり、一撃で仕留めると方法ばかり模索していたから逆になんで叫ぶんだろう?っと思ってしまう事の方が多かったりする。
まぁ俺の『捕食』は一撃でぶっ殺すスキルだから出来たって所もあるんだけどね。いや~ホント公式チートなスキル様に助けられてきました。
まぁヒカルの事を殺す訳にはいかないから使わないけど。
それにヒカルの場合かつために手段を選ばないと言う事が出来ていない。
もっと簡単に言うと少しは卑怯と言われる行動とか、嵌め手とか搦め手とかそう言う事が出来ていないのだ。
そりゃまだ子供だからそう言う技術がないと言えばそれまでなのだが、ここはちょっとだけ見せた方がいいのだろうか?
そう思ってから俺は持っているなまくらをヒカルに向かって投げた。
「うわ!?」
ヒカルは武器を投げて攻撃される事を全く予想していなかったからか、体勢を崩し、剣の腹で俺が投げた剣を防ぐ。
その間に俺はヒカル後ろに回り込み、頭を掴んで押し倒した。
「いっでぇ!!」
「今日はここまでだな」
今日の授業は魔法や精霊の力などを使わずに基礎体力を上げたり、武器を使う技術を上げるためなので魔法や精霊の力を使えればもっと違う結果になっただろう。っと言うかヒカルの場合そう言う嵌め手とかを使う時は精霊頼みが多いからな……精霊に頼らなくてもいいようにするのが今回の目的だし。
俺はヒカルの頭から手を退かすと、ヒカルは起き上がって俺に文句を言ってきた。
「先生ずっけぇよ。急に剣を投げて来るなんてさ」
「何言ってるんだよ。元々俺はそんなに剣の腕がいい訳じゃないんだ、だから簡単に剣を投げられる。相手と戦う時は自分の得意分野に引き込むのは基礎中の基礎だぞ」
「う~。でも先生みたいに素手で戦えるとは思えないしな……」
「それにヒカルの攻撃は素直過ぎる。もうちょいフェイントとかできる様に頑張りな。精霊に頼りっぱなしだと、今みたいに精霊の力が使えないとこうして簡単にやられちまうからな。それにヒカル自身もフェイントを覚えれば精霊の方も楽になる」
「わ、分かった。カッコ悪いけど頑張る……」
……どうやら意識改革も必要みたいだな。
ヒカルの中でフェイントはカッコ悪い物と思っているらしい。より正確に言うとだまし討ちと言う感じがするのか? 生き残るためには手段は選んでいられない事を教えないとダメなのかな……
まぁ後のことはヒノ先生に任せよう。ヒノ先生は俺よりも教えるのが上手いし、こうして客観的に戦い方を見ているので俺よりもいいアドバイスができるはずだ。
アラドメレクに関しては今回精霊の力などを使わないので放ったらかし状態だけど。
「よろしくお願いします」
「お~よろしく」
次の出てきたのはカエルだ。
カエルの装備は大楯に槍と言う防御に重点を置いた装備。動きは遅いが堅実な動きをしてくる。
まず俺が先制としてカエルに向かって剣を振り下ろすが、きちんと盾を使って身を守った。
俺は連続で剣を振り下ろすがカエルは冷静に盾で身を守りながら俺に槍を繰り出して来る。どちらかと言うと受け手のカエルだが、槍の動きは悪くない。的確に相手の胴体を狙っている。
だがヒカルほどの速度はないので避けるのはそう難しくはない。カエルは別に全身鎧を身に付けている訳ではないのでそんなに動きは制限されていないはずなんだが……ちょっと遅いな。
それに堅実過ぎて向こうから攻撃してくる事がない。俺が近付いて槍の攻撃が届く範囲にならないと攻撃してこない。
これはこれでどうなんだろうな……盾職としては間違っていないかも知れないが、ここまで攻撃しやすい立場になると攻撃する気あるの?っと考えてしまう。
だが堅実な動きなのは確かなので隙はない。俺が回り込もうとしても鎧を着ていないので簡単に振り向く事が出来る。そして槍の間合いに入れば突いたり払ったりする事で俺を倒そうとしてくる。
大楯は常にカエルを隠す様に前に出ているので身体の動きと槍の動きを悟らせないのもいい戦法だ。
だがそれは同レベルでの話。そして最大の弱点は大人と子供と言うどうしようもない差だ。
俺が動かない限りカエルも動かないので俺はよく準備した後、俺はカエルにタックルを仕掛けた。
「っ!!」
大楯を使いこなすのはとても大変だ。
何が大変かと言うとか相手の力を上手く受け流す術を身に付ける必要があるから。
それが出来ないと今までの様にただ耐えて耐えてを繰り返す事になり、体力を消耗し続ける。そうならないために全ての攻撃を受け続けるのではなく、時には体の負担にならない様に受け流す術が必要なのだ。
でもこれまでの攻撃でカエルは全ての攻撃を耐えていた。となれば自然とカエルはまだ受け流す術を身に付けていないと言う答えにたどり着く。
なので俺はただ大楯にぶつかってひたすら押し込んでいけばいいだけ。大人と子供の体格差を利用した戦法。カエルは耐えながらも少しずつ仰け反っていき、最後は背中から転がった。
俺はそんなカエルを縦の上から少し体重をかけて軽く潰してから聞く。
「まだ続けるか?」
「いえ、参りました」
そう言ったので俺は盾の上からどいた。
カエルは疲れた様子でしばらく大の字でグラウンドで休んでから立ち上がった。
「先生。あんな無理矢理の戦法ありですか?」
「ありに決まってるだろ。確かに大楯による防御力は評価するが、まだまだ力を受け流す技術が出来ていない。普段は土精霊のおかげで大楯とか持たなくてもいいんだろうが、今回は体格差とパワーのごり押しで勝てる勝てる」
「うう。そんなに弱かったですか?」
「弱くはないが……守り過ぎだ。カウンター狙いだったとしてもあれは動かな過ぎ。だから俺が突っ込む前に攻撃とか俺にも隙は十分あったんだから攻撃しないと」
「先生だとそれもフェイントかも知れないじゃないですか」
「そんなに怖いんだったら盾を使いながらぶつかって来い。シールドアタックって奴だな」
そう言うとカエルはあっと言う表情をした。どうやら盾を使ってぶつかっていくと言う戦法に思い至らなかったらしい。
やっぱりカエルは頭が固いな……また若いのに。まぁ盾は防ぐ物っと言う印象が強かったから思い至らなかったのかも知れないが、そう言う頭の柔らかさも必要だぞ。
そして次……次が面倒なんだよな……
「先生!よろしくお願いします!」
ラストはトキ。
最近のトキはめっちゃ強くなり始めている。この間戦争の時に未来のトキが現れてから成長速度が半端ないのだ。
多分森の中に居た俺とどっこいぐらいじゃないだろうか?しかも何を勘違いしたのか、強くなれば俺と結婚できると勘違いしている様だし、俺そんな事一言も言った覚えないんだけどな……
「お~よろしく頼むぞ」
そう言った後俺は剣を構えた。
トキが持っている剣は普通の剣ではなく、レイピアと言う方がしっくりくる細いタイプの剣だ。
お互いにスキルや魔法は無しとは言え、油断するとヤバいんだよな~。
そんなのん気に考えているとトキが仕掛けてきた。