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冒険者達の授業

 その後も俺は各教室で最初のうちは座学で教えていたが、根性試しをした後、実戦練習ばかりしているクラスも当然ある。

 それはすでに成人したクラス、もしくはもうすぐ成人する年であるクラスの人達だ。

 ここにいるのは成人すると同時に冒険者として活躍する予定の人や、既に冒険者として活動しているが新しい技術などを学ぶために入学する人達がいる。

 この人たちは子供たちのように朝からずっと授業を受けているわけではなく、大学生のように好きな授業だけを選択してその授業を受けるので1つの授業しか受けていない人もかなりいる。


 そんな中、俺が指導するっと言うか俺が担当している魔物と戦うための授業では俺がこの学校に来たことで入学者が一気に増えたらしい。なんでも校長先生の思惑通りに俺に指導してもらえれば英雄になれるかもしれないっと言う淡い期待を持って若者たちがこぞって応募したそうだ。

 そのためこの授業だけは異様に人が多く、そして俺も容赦なく鍛える事が出来るのである。


「ほらほら、見た目に紛らわされてるな~。見た目はただのゴブリンだが強さは普通じゃないぞ~」

「前衛!全力で耐えろ!!隙をついて横から俺が殺す!!」

「なんだよあのゴブリンたち!!速すぎるぞ!!」

「あれはゴブリンじゃねぇ!レッドキャップだ!!」

「レッドキャップだけじゃなくてこのトロールの方もどうにかしてくれ!!」


 レッドキャップ、ゴブリンの亜種と呼ばれスピードに特化した魔物。

 トロール、ギリギリ人型と言えるがとても太っている魔物。パワータイプで基本的に殴ったりけったりするだけのバカ。

 この2種類を合計10体創り出して実線授業を受けさせている。授業を受けている人達は全員で41人いるのだが、レッドキャップとトロールの混合にとても手間取っている。


 その理由はサイズの差だ。

 トロールは平均2メートルちょっとぐらいの大きさであり、それに比べてレッドキャップは幼稚園児ほどの大きさしかない。

 見上げるべき相手が2体、その隙間を縫うように襲ってくる小さなレッドキャップに上を見たり下を見たりと忙しく視線を動かさないといけない。

 俺は視覚だけではなく聴覚や嗅覚でとらえる事が出来るし、戦闘経験からちょっとした空気の動きから大雑把に相手がどこにいるのか探る事も出来る。でも彼らは当然そこまでの五感は発達していないし、経験もないのだろう。上からも下からも襲ってくるので軽いパニック状態とも言える。

 偶然なのかどうか分からないが、1部ベテランの授業参加者がいたのでその人達が若い人達をまとめて指揮したり、前線に出ているのでどうにか拮抗しているという感じだ。


 ちなみにこの2種類も俺が作り出したので当然普通とは違う。

 レッドキャップは見た目をゴブリンに近い形に作ったのでそれで油断を誘ったり、トロールは通常のトロールよりも少し頑丈に作った。もともと再生能力もない雑魚だが、単純な肉壁として使える。

 この光景を見て俺は一緒に見ている先生に聞く。


「そろそろ人型と戦わせるのはやめた方がいいですかね?魔物は多種多様とは言え、人型とばかり戦っていると人型としか戦えなくなる可能性が高いですし」

「確かにそうですね。その際にはどのような魔物を作り出すおつもりで?」

「ん~。そうだな……とりあえず害獣扱いされている狼から始めて……最後の方はアセナとでも戦わせます?」

「それはやめてください本当にやめてください。この学園どころか国が持ちませんから本当にやめてください」


 最後のは冗談だったんだけどな……本気で懇願こんがんされてしまった。

 とりあえず次の授業はともかく、今回の授業はどうなんだろう?


「ちなみに今回の授業はどうですか?今回は結構いい方だと思いますが」

「そうですね。大きな敵と小さな敵と遭遇した時にいい訓練になると思います。ですが……相手が少々強いかもしれませんね」

「そうですか……40人もいるからこのぐらいでもいいかと思ったんですが……」

「まぁ彼らがただのゴブリンだと勘違いして油断していたのも原因ですがね。何事にも油断するなっと言う意味ではいい授業になったかもしれません」

「そう言ってもらえると助かります」


 現在の戦況はどうなっているかと言うと、トロールの攻撃を大盾を持った冒険者たちが必至で耐えている間にレッドキャップたちを5匹倒していた。

 残った3匹のレッドキャップを囲い込んで確実に倒そうとしているグループと、大剣を持った冒険者や魔法使いの冒険者たちがトロールを攻撃するグループに分かれていた。


 耐久力の高いトロールに攻撃力の高い魔法使いをぶつけた感じか。確かにトロールは魔法に対する耐性が低い。悪くない判断だが、あのトロールを倒せるだけの火力を出せるかな?

 レッドキャップの方は逃げ道をなくすところまでは上出来。だが相手はとても小さく、ちょっとした隙間からあっという間に逃げ去るのでそこは注意が必要だ。


 レッドキャップたちは固まって警戒しているときに突如レッドキャップを包むように火柱が上がった。

 どうやら他に魔法使いがいて魔法による範囲攻撃で一気に倒したらしい。これは俺も予想外だ。てっきり全員で刺しに行くみたいな動きをするとばっかり思ってた。

 そしてトロールの方は大剣を持った冒険者がトロールの足を傷付け、さらに動きを鈍らせた後に走り出し、魔法使いたちが魔法で攻撃していく。

 魔法の攻撃を一気に食らったトロールはハチの巣になって絶命した。さすがのトロールも魔法の集中砲火には耐えきれなかったようだ。


 死亡を確認した冒険者達は喜びをあらわにする。

 個人的な事を言わせてもらうとたった10体の魔物に対して時間かかりすぎっと思ったのだが、死ねば終わりの人生なのだから慎重と言うべきなのかもしれない。

 喜ぶ冒険者に対して俺は手をたたいて合図を送る。

 すると冒険者たちは音に気が付いて振り向いた。


「はいお疲れさん。今回は身長差のある魔物2体を同時に相手するって授業内容になったが、結構いい経験になったと思う。冒険中逃げている間に他の魔物に出会うっていう不幸にあったとしてもこれでまぁ戦えるだろう。今回は分かりやすい極端な特徴を持った連中にしたが、レッドキャップにあったら逃げずに殺す方が楽な場合多いから。今回の事を覚えておくように」

「「「「「うっす!!」」」」」

「そんでもってしばらく人型の魔物が多かったから、次は動物型の魔物に変えるぞ。なんか希望あるか?」


 そう聞いてみるとそれぞれパーティーと思われる人と相談をする。

 そして1人明らかに新人、もしくはこれから冒険者になろうとしている若者が考えなしに言った。


「先生がいる森の魔物と戦ってみたいです!」


 その言葉にベテラン冒険者たちが文句を言おうとしていたが、俺が文句を言われる前に言う。


「それ採用!そんじゃ次の授業は森に棲む魔物を持ってくるから覚悟しとけよ」


 そう言うと言い出しっぺの新人がベテラン達にボッコボコにされていた。

 俺はその光景を楽しみながら頷いていると、隣にいる先生が耳打ちをする。


「あの、Sランクの魔物は出しませんよね?」

「一応予定ではAランク相当の魔物にしようと思っています。いざとなったら俺が仕留めるのでご安心ください」


 その言葉に先生はほっとしているが、どの魔物にしようかな?


 ――


 成人向けの授業は週に1回のみなので次の授業までそれなりに時間がある。なので俺はゆっくりと考え、先生たちに許可をもらって訓練場での訓練となった。

 ちなみに今日は一応スノーを連れている。結界の強化と念のため。

 学校には当然スノーの事は話しているし、今日は子供たちがベテラン冒険者たちの戦い方を学ぶために見学している。

 そんな後輩たちにかっこいい所を見せようとしている新人に、森の魔物が現れると知っているので何度も作戦を確認するパーティー、どの魔物が現れるのか予想を立てているパーティー。色々いるがまぁ今回は大丈夫だろう。

 俺は冒険者たちに声をかける。


「前回言ったとおり今回は動物型の魔物と戦わせる。それから今回は勝ったらその魔物の素材を持って行っていいぞ」


 そう言うと冒険者たちはやる気に満ちた雄たけびを上げる。

 頭では分かっているが、俺が用意した魔物を倒すたびにあの素材を持ち帰りたいっと言う希望者がちらほら居た。

 なので今回はその欲望に合わせ、倒したら持って行っていいと言ったのだ。


「そんじゃお前ら、頑張れよ。リタイヤしたらスノーに頼んで結界で守ってもらうから安心してぶっ倒れろ」


 俺の肩に乗った白猫を見てちょっと安心したような表情を作る。

 俺は観客席に移動し、座った後すぐそばにいたヒノ先生が聞いてくる。


「今回はどんな魔物を何体用意したんですか」

「1体だけ。それにかなり単純な奴だからうまくいけば勝てるよ」

「タツキ先生の上手くいけばはかなり厳しいですからね……勝てるでしょうか」


 ヒノ先生は不安そうに言う。

 そしてヒカルやトキが俺に聞いてくる。


「それで今回はどんな魔物なんだ!かっこいい奴か!!」

「個人的にはかっこいいかな」

「おっきい?小さい?」

「大きい方だな」


 そうやってちょこちょことヒントを出していると、冒険者たちは気合の入った表情で構える。子供達は子供達でどんな魔物が現れ、どんな戦いを繰り広げるのか楽しみに待っている。

 俺はテンションが高いうちに転移魔法で普通に森で捕まえた魔物を召喚した。

 するとなぜか周りの空気が固まった。おっかしいな?特別変な見た目じゃないし、怖い感じでもないんだけどな。

 そう思っていると訓練場にいる冒険者が叫んだ。


「弾丸バッファローに勝てるわけないだろうが!!」


 弾丸バッファロー、通称返り血の闘牛。

 元々好戦的な牛であり、体長はおよそ3メートルほど。今回用意したのはまだ若い個体なのでだいたい2メートル80センチぐらいの体長だ。

 この通り名がついた理由はただの突進だけで冒険者達を真っ直ぐひき殺していくからだという。

 ただし攻撃パターンは突進のみと言うまさに鉄砲玉のような牛なのである。


「盾役は死ぬ気で耐えろ~。相手を遅くする魔法があるなら使っとけ、防御薄い連中はとにかく避けろ。ひき殺されんなよ~」

「タツキ教諭の鬼畜!悪魔!真祖!!」

「真祖を妻にしたが俺は真祖じゃないぞ~」


 意外と反論する余裕のある冒険者と少し会話してから牛は空気を読まずに突進し始めた。まぁ動物だから空気を読む何てするはずないけど。

 とにかく始まった牛対41人の冒険者。この字面だけ見れば冒険者の方が圧倒的に優位に立てように見えるが、牛のランクはA。上手くて手ごわい事間違いなし。


 個人的な見方ではあるが、数が戦力っと言えるのは精々Bランクまでではないだろうか。

 BとAには圧倒的な差がある。それは1体多数の状況でどうにかする実力があると言う事だ。もちろん同ランク同士であれば数が多い方が優勢ではあるが、絶対ではない。

 あの牛の場合は単純なパワー、重量、そしてスピードで相手をひき殺すという単純な方法ではあるが、それだけで自分よりもランクの低いBランク以下の魔物であれば圧倒する事が出来る。


「まずは前衛の盾職たちに防御系の魔法をかけろ!!そして絶対に後ろの支援系魔法使い達に気を向かせるなよ!!倒されたら死ぬぞ!!」


 ベテラン冒険者達もその事を知っているからか、攻撃系ではなく防御系で支援しろと言う。

 それは正解だ。そして盾職も支援系魔法使い達が狙われない様に『挑発』系スキルを使用して軽装備の冒険者や後方の支援系冒険者達に気が向かない様にする。

 そして予定通り突進してきた牛に対して盾職の冒険者達は下半身に力を込めて、5人がかりで牛の攻撃を受けた。

 その衝撃だけで端に居た盾職の人が転がされる。受け止めた冒険者の方は歯を食いしばりながら必死に牛の攻撃を受け止め、止まった。


「今だ!!」

「うおおおおぉぉぉぉぉ!!」


 牛の足が止まった瞬間冒険者達は剣で攻撃していく。だがあの牛の皮膚は非常に硬く、ちょっといい剣ぐらいではろくに傷を付ける事も出来ない。

 その防御力に冒険者達は舌を巻いていると、牛は冒険者たとを振り払いこの訓練場ギリギリを円を描く様に走り出した。

 それを見て俺は言う。


「ここが正念場だぞ!!」


 そう俺が叫ぶとすぐに冒険者達は牛を注意深く監視し始めた。そしてそれが敗因である。

 あの動作はいわゆる必殺技の準備であり、Aランク以上であれば当然どの魔物も持っている。これがBランクとの大きな差だ。

 牛は周囲をぐるぐると回り、身体が温まっているかのように赤く発光し始める。そして赤い雷の様な物が牛を包み始めるとそのまま冒険者達に向かって突進した。


 もちろん盾職の冒険達は全力で踏ん張った。さっきよりも力を込めて、全体重をかけて牛を止めようとするが、あっさりと引きとばされてしまう。

 それにより観客席から見ていた子供達や他の先生達から悲鳴が聞こえる。全身鎧を身に付け、巨大な盾を持っていた男達が一撃であっけなく空中に投げ出されたのだから当然と言えるのかも知れない。

 遮蔽物がなくなった牛はそのまま他の冒険者達に襲い掛かる。


「スノー」

『はーい』


 このままでは死ぬと判断した俺はスノーに結界を張る様に言う。そしてスノーは結界を張り、牛を閉じ込めた。

 牛は猛スピードでスノーの結界にぶつかって首が変な方向に曲がったように見える。だが依然と立っているし、精々首をひねった程度なんだろう。


「ほらお前らは逃げろ。授業はここまでだ」

「は、はい!!」


 そう言って冒険者達は倒れた冒険者達を担いでこの場から逃げた。

 俺と牛は睨み合い、いつでも動けるようにする。俺は無銘を取り出していつでも切れる様に横に構えた。

 スノーの結界が消えると牛は先程と同じように必殺技を出す準備を行う。先程よりも長い時間をかけて、より速く俺に向かって突進してきた。

 俺も牛が真正面に来た時に駆け出した。そしてすれ違うように無銘を横から上に切り上げ、首を斬り上げた。


 流石の牛のも首を斬り落とされればそこまでだ。

 上空に飛んだ牛の頭を俺は掴み、首がなくなっても突進を続けていた胴体は訓練場の壁にぶつかって倒れた。

 俺が勝った事に歓声を上げる子供達だが、これは別に闘技場での見世物ではないのだ。俺は歓声を無視して冒険者達の元に行く。


「今日の授業はここまで。反省点言える奴居るか」


 そう冒険者達に聞くと、ベテランの冒険者が言った。


「あの最後の赤い突進、あれは発動までに時間があった。あの時に邪魔できていればまだ戦えていたかもしれない……」

「そうだな。確かに自分より強い相手に対して臆病になるのは当然だ。誰だって自分より強い相手は怖い。でもだからってビビっているだけじゃダメだ、危険を承知で相手に技を使わせないと言うのことは無謀じゃない。俺はそれを勇気と呼んでいる。慎重に確実にやるのも重要だが、たまにはリスク承知の戦い方を学んだ方がいい。チャンスはほんの一瞬だからな」


 そう言うと冒険者達は何も言わずにただ頷いた。

 そして俺は引きとばされた冒険者達にポーションを飲ませて回復させる。あと壊れてしまった盾や鎧は俺の『変質』で直して返す。

 直ぐに修復された盾と鎧に驚いてはいたが、これでまた仕事に行けると喜ばれた。


 その後は例の牛を捌いて冒険者達に振る舞った。

 負けたのにいいのかと聞かれたが、頑張ったからっと言う事で食わせておく。まぁちゃんとした料理と言うよりはただのバーベキューなのだが、それでも流石Aランクのお肉。焼いただけでも美味い。

 こうして冒険者達にAランクの魔物との戦闘についてと、美味しい報酬について学ばせたのだった。

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