今日は座学です
根性試しと言うような授業を終えた後、俺は他の先生達と確認し合いながら授業を決めていく。
本来であれば剣の使い方や、槍や魔法と言った戦い方を教えるのだが、残念ながら俺は人に指導するほど武器の扱いが上手い訳ではない。
それに今回の授業で子供の方はもう少し時間を置いた方がいいのではないか、と言う事で2週間ぐらいは座学で魔物の生態などを教える事となった。
個人的にも武器の扱いよりも魔物を食って奪ってきた物の方が教えやすいし、将来的にためになるだろう。
「っと言う事でしばらくは座学だ。この間みたいな授業はしばらくしないが、それでもまぁしぱらくは魔物の生態について学んでおこうって事になったから」
「「「えー」」」
もちろん生徒達は不満そうに声をあげるが、様子をうかがうにホッとしている生徒もいる様だ。
なのでまずどこにでもいる様な魔物から。
「そんじゃとりあえずゴブリンの生態から始めるぞ。それから同時にどうやったら勝てるのかって言う所もやっていくから、ちゃんと覚えておけよ」
こうして俺の座学は始まった。
意外な事にアセナは毎日俺の影の中でまどろんでいる。離れるよりはマシっと言う感じらしく、意外と飽きたからと言って俺の影の中から出て行く事はない。
今日も俺の影の中で昼寝をしている。
「先生。ゴブリンって勉強する必要あるんですか?」
「え、当然だろ。あいつら種族多いし、ゴブリンキングとか上位個体がいるかどうかで大きく難易度は変わるからな。ちなみにゴブリンキング討伐に必要な冒険者ランクってどれぐらいか知ってる人いるか?」
「はい!確かCランクからだったと思います!」
「その理由は」
「え?」
「理由は分かるか?」
元気に手を上げたメガネ男子が黙って考えてしまう。
どうやら分からないらしいので解説してやろう。
「理由は簡単。ゴブリンキングの周りには必ず100匹以上のゴブリンが居るからだ。もっと言うとゴブリンロードが居た場合はゴブリンキングが必ず2体以上存在する。大きさとか細かいところ知ってるか?」
「分かりません」
「そんじゃ更に解説。ゴブリンたちは簡単に言うと人間社会に非常に似た社会性を持っている。ゴブリンロードを王様と例えるなら、ゴブリンキングたちは大臣や貴族って具合だな。それにゴブリンロード1匹いると他のゴブリンたちも強くなる。その理由は分かるか?」
「えっと……やっぱり群れるから?」
「他にもあるぞ。まずは考えてみようか」
どうしてゴブリンたちゴブリンロードが居るか居ないかだけで強くなれるのか。その理由は案外簡単な物だ。
生徒達は好きに周りの生徒達と相談し始める。
「やっぱり数じゃないの?ロードまで育つと1000匹以上になるって聞いた事あるし」
「でもこれってロードが居るとどうして強くなるのかって事を聞かれてるんだろ。数だけの問題か?」
「今先生も言ってたけど、ゴブリンって結構種類居るよね。種類の多さも問題だよね」
「それじゃそれが答え?」
生徒達はそう周りの子達と相談しながらゴブリンロードが何故高ランクなのか考えている。
それを5分ほど放っておいて、そろそろ良いかなっと思った所で手を打った。
「相談はそこまで。それじゃお前達の答えを聞いてみようか」
そう言うとさっき答えてくれた眼鏡の男子生徒が確信を持って答える。
「種族の多さ、そして単純な数だと思います」
「それだけじゃ残念。50点だ」
そう言うと生徒達は不満そうに声を漏らす。
俺は何故ゴブリンロードが居るかいないかでゴブリンの脅威が上下するのか解説をする。
「まず勘違いしがちだが、ゴブリンナイトも普通のゴブリンも全部同じゴブリンだ。ただ武装が違ったり得意な事が違うだけで、あれ全部タダのゴブリンだから」
「え!?あれ全部同じなんですか!!でも魔物図鑑では――」
「確かに別種のように書いてあるがあれ間違いの元だからうのみにしない方がいいぞ。お前達人間だって得意な事が違うのと同じだ。魔法が得意、身体能力が高い、そんな細やかな違いからゴブリンたちは自身にあった武装をしているだけに過ぎない。まだゴブリンを狩った事はないだろうけど、鎧の下は普通のゴブリンと何も変わらない」
そう言うと魔物を図鑑を取り出していた眼鏡少年が図鑑と俺を見比べる。
俺はちょっと笑いながら黒板を使って解説を行う。
「まずさっきのゴブリンロードが1体いる事で、何故ゴブリンと言うたったの1体ではEランク程度の魔物が最大Aランクに脅威にまで上がるのかの答えから言おう。もちろん君達が出した答えの様に数や武装をしていると言う点ももちろんある。だがそれ以上に恐ろしいのはゴブリンロードの統率力と知識だ」
「統率力と知識?」
「ああ。大抵のゴブリンロードは普通のゴブリンから始まり、進化を行い続けてゴブリンロードとなる。その過程に関してだが、実は途中でゴブリンの寿命はとっくに超えている。魔物の食物連鎖の中で最下位に近いあいつらの寿命はだいたい10年前後、その代わり1年で成人となり早熟だ。その後は他の動物の群と同じように群れを少しずつ大きくしながら長老と言える個体がゴブリンキングになる。このゴブリンロードになる時の条件がゴブリン100匹を群れの仲間にするって事だな」
黒板にゴブリンと言う文字を書きながら簡単に丸や線を使って説明を続ける。
「そしてゴブリンキングからゴブリンロードに進化するには他の群のボスであるゴブリンキングを仲間に率いる事。最低でも2体以上だったかな?それによりゴブリンロードになったゴブリンの寿命は進化によってたった10年から80年ぐらいまで生きる事が出来るようになる。まぁその代わり出生率も下がっちまう訳だが、まぁこの辺は冒険者に見つからず生きてれば自然と増えていくだろう」
ここでいったん生徒達に振り向くと、生徒達は木の板に真剣に俺が言った事と黒板に書いた事を写している。
そんな重要な事話しているだろうか?テストに出すつもりはないんだけど。
「さて、ここからどうしてゴブリンロードが厄介なのか、その答えは経験から来る知識だ」
「知識、ですか?」
「そう知識。簡単に言うと爺ちゃんの知恵袋と言うか、普通のゴブリンの倍以上の時間を生きている訳だからそれなりに道具の作り方、それこそ武器とかを作る知識などもあるから非常に面倒になる。ちなみに錆びた剣やら槍などを持っている個体はどっかその辺で死んだ冒険者の武器を拾って使い方を覚えた個体が多いな。まぁゴブリンロードが居るところだと普通に鍛造技術とかあるけど」
色々と思い出しながら言うと1人の生徒が手を上げて聞く。
「あの、先生はどうしてそんなに詳しいんですか?そんな話聞いた事ないんですけど……」
「大した事じゃない。俺が住んでる森の中にゴブリンロードの村みたいなのがあってさ、そこを観察している間に知っただけ。あの森にはSランクがうじゃうじゃいるから装備の強化や魔法が使える様になる事は必須みたいだしな」
俺の言葉に呆然としているのか、固まる生徒達。
何か不味い事を言ったかと思って担任と副担任に顔を向けると、私達も初耳ですっと言う感じでジェスチャーで答える。
そうか。みんな知らなかったのか……
そう思っているとチャイムが鳴ったので今日の授業はここまでとなった。
ちなみにゴブリンの生態に関してテストに出すつもりはない。と言うかそれ以前に筆記でのテストではなく実技だけのテストにする予定なのでただのちょっとした豆知識みたいなものである。
つまり今日の授業で何が言いたかったかと言うと、ゴブリンなめてると危ない目に遭うぞっと言う事だ。