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俺の初授業

申し訳ありませんが、これからこの時間帯に投稿する事になりそうです。

ご了承ください。

 こう言う形で俺は学校の先生として就職が決まった。

 まぁそれによって別の問題も発生した訳だが……


「………………」


 アセナがじっと朝から見ている。半日以上そばを離れる事がどうやら気に入らないらしい。

 一応8時間と言う元の世界と変わらない仕事時間なのだが、アセナにとっては長い時間一緒に居られないと言う感覚の様だ。

 なので不満たらたら。さらに今からヒノ先生とアラドメレク、ヒカル達を送ってこの5人はこれから先は学園の寮で暮らす事になる。

 これによってヤタから不満が出ている。貴重な遊び相手が居なくなるからっと言うのが主な理由だが……寂しいと言う理由は分かる。なので強く言わないが……それでもまぁヤタなりにヒカル達の未来を考えてわがままなどを言わない分我慢していると言える。


「あのな、アセナ。別に前みたいに1カ月ぐらいずっと会えないって訳じゃないんだから、ちゃんと帰ってくるからそう不満そうにするなよ」

「……タツキはゆっくりしていればいいのに」

「まあ個人的にずっと家に居るって言うのもどうかと思うし、それに俺達は人類の敵ではないと教える必要もあるからな。そう思ってもらうには子供と大人、両方説得できる教育施設って言うのはかなり都合がいいんだよ。それに子供達が完全に安全に過ごせると決まった訳でもないって言うのもあるけどな」

「それは……分かるけど」


 頭では理解できていても、納得は出来ていないと言う感じらしい。

 俺はため息を付きながらアセナに言った。


「俺の影の中で大人しくしてるなら一緒に来てもよし」


 そう言うとアセナは尻尾を大きく振りながら俺の影の中に潜り込んだ。

 それを見ていたヒノ先生は不安そうに聞く。


「あの、アセナさんを連れて行っていいのでしょうか?」

「バレなきゃ犯罪じゃない。それにアセナを連れて行っちゃダメって法も校則もないからな、それにずっと俺の影の中で大人しくしてるなんて無理だろ。明日には一緒に居たりしないって」

「そうでしょうか?」


 ヒノ先生はそう思っていない様だが、アセナは自由に走り回ったりするのが好きなのに俺の影の中でじっとしているだなんて無理だろう。だから今日一緒に行けば懲りるだろうと思ったんだが。

 とにかく急遽一緒に行く事になったのでヴィゾーヴニルがアセナの分の弁当を持ってきてくれた。そして丁寧に頭を下げながら言う。


「行ってらっしゃいませ」

「おう、行って来る。それから護衛としてアナザも連れて行くから他のメイド部隊の事よろしくな」

「承知しました」

「そんじゃ行ってきまーす」


 気楽にそう言って、みんなから行ってらっしゃいと言われた後、俺達は学校まで転移した。

 学校の校庭に転移した事により周りから驚きの表情で見られた。

 そしてヒカル達は懐かしそうに言う。


「あ~。やっと帰ってきたな、俺達」

「ですね。家とは違いますけど、帰ってきたって感じがします」

「早くみんなに会いたい」


 印象はやっぱりいい感じの様だ。

 もちろんヒカル達と俺達大人組を見て既に気が付いた様子を見せる生徒達も居たが、気にせずまずは職員室に行く。

 ここでは子供達と言うよりは先生組が挨拶をしたりするためである。子供達は先に教室に向かい、俺達は挨拶をした後それぞれの机に向かった。


「…………え、何この量の書類。なんでいきなりこんなにあんの?」


 俺がこれから使う机の上には大量の書類が用意されていた。

 その内容は俺が担当する生徒達のプロフィールと言うか、簡単に家系やこの学園に入った理由など書かれている。

 何だこれっと思っているといつの間にか現れた校長が、俺に言う。


「これは全てタツキ先生が担当する生徒達のプロフィールです。彼らの指導、お願いしますよ」

「いやいやいや。何ですかこの量。確かにクラスとか関係なく担当すると聞いていましたが、普通に大人も混じってるじゃないですか。彼らも俺が担当するんですか?」

「そうですね。タツキ先生の武勇は世界各国に響き渡っておりますから、タツキ先生の指導を受ければ自分も英雄になれると期待している者も多いのです。なので未成年だけではなく大人も担当していただきます」

「マジですか……てっきり子供達だけが相手なのだとばかり……」

「ほっほっほ。頑張ってくださいね。それでは」


 そう言って校長先生は校長室に戻って行った。どうやら俺も上手くはめられたらしい。

 まぁ俺が居る事を売りにしてこの学校を大きくしたいと思っている様だし、ある程度はこう言う事を想定しておくべきだったのかも知れない。

 それにしても、プロフィールだけでこの量とは。素直に驚きだ。そんなに俺の授業を受けたいかね?

 なんて思っていると、ヒカル達と同学年のCグラスの担任の先生が俺に挨拶をしてきた。


「タツキ先生。今日の1時限目は私のクラスを担当していただきます。どうぞよろしくお願いします」

「あ、はい。これからよろしくお願いします」


 こうして、俺の教師生活が始まった。


 ――


 とりあえず1時限目、ヒカル達と同年代の子供達を指導する。

 子供達は不安そうな顔をする者から、ワクワクと楽しみにしているような雰囲気の者など様々だ。

 俺の後ろにはこのクラスの担任と副担任がおり、俺がやり過ぎだっと言う時に止めに入る。この人達がいるのである程度は手探りでも出来るだろう。

 俺は彼らの前でまず自己紹介から始める。


「知ってると思うが、俺の名前はタツキ。今日からここの学校の先生として就職した。本気で冒険者になりたいからここに居るんだろうが、ぶっちゃけ俺は厳しい方だと思うので覚悟してくれ」


 そう言うと1部の気の弱そうな生徒達がごくりとつばを飲み込んだ。

 それを見た俺は落ち着かせる様に言う。


「でもま、いきなり厳しくするつもりはない。厳しいだろうがちゃんとお前達のレベルに合わせる。だから安心して欲しい」


 出来るだけゆっくりと、絵本でも読み聞かせるように言うと生徒達はほっとしたように表情を緩ませる。

 そして1人の活発そうな男の子が手を上げて言った。


「タツキ先生!それで今日はどんな訓練をするんですか!!やっぱり組手とかですか?」

「今日はそう言う事はしない。1つだけテストをした後あとはお終いだ」


 テストという単語を聞いて生徒達は「えぇ~」っと明らかに嫌そうな声と表情を出す。

 俺はそんな生徒達に苦笑いをしてから言う。


「テストと言っても根性試しみたいなものだ。時間がかかっても問題ないし、戦う技術も何も要らない。必要なのは、覚悟だけだ」


 本気の声を出すと生徒達は全員黙った。真剣な表情をして、どんなテストなのか怯えている。

 ちなみに今日する事はきちんと先生方に話した。先生方は正直まだ早いのではないかという声が多かったが、将来冒険者になると言うのであれば必要な事だと説得して現在に至る。

 俺が今日用意した授業はもっと高学年になってから行われるらしいが、俺はこの辺りの多感な少年少女時代に経験させるのがいいのではないかと思う。今日の授業で生徒達1人1人の性格などがよく分かるはずだ。


「それじゃ……すまないがまだみんなの名前を覚えてないから出席番号順に来てくれ。それから武器とかも持って来いよ」


 武器を持って来いと言ったので子供達は何をやらせるのかと恐る恐る並ぶ。

 出席番号1番の子は気の弱そうな女の子。武器とは言えなさそうな薄くて小さなナイフを両手で握りしめ、ぶるぶると震えている。


 俺はそんな女の子の前で血を1滴垂らした。

 地面の土を取り込む様に現れたのは1匹の狼。いや、現れたと言うのは間違った表現か。俺のスキルで普通の狼を創り出した。

 っと言ってもこの狼に戦闘能力はない。すでに横に倒れた状態であり、状態で言うなら眠っているだけだ。何をされても眠り続けるし、何の価値もない生き人形とでも言って間違いない個体だ。


「タ、タツキ先生。この狼と戦うの?」

「そうじゃない。君達が戦えるかどうか分からないのにそんな危険な事はさせないよ。今回の授業は『生きた動物を殺す事』っだ」


 授業内容を言うと子供達に動揺が走った。

 眼鏡をかけた貴族の子供と思われる少年が手を上げながら言う。


「申し訳ありませんがタツキ教諭、魔物を殺すのはもっと高学年になってからだと記憶していたのですが……」

「ああそうだな。でもこれはただの動物だ。それに俺の力で人工的に生み出された決して起きないし、何の力もない生きた人形の様な物だ。これなら安全だろ?」

「確かに安全だと思いますが……本当に襲いません?」

「襲わない。何なら生きてるのを確かめてみるか?触ると温かいし、呼吸だってしてる。触ってみるか?」


 そう聞くと少年は首を横に何度も横に振った。まぁ普通の反応だろう。

 そして俺はキチンと言っておく。


「いいか。さっきも言ったがこれは根性試しだ。冒険者になれば必ず魔物や野生動物と戦う事になる。こちらに敵意がなくとも、腹をすかせた動物などが襲ってくる事もある。だからまずは生き物の命を奪う事で命の重みを知ってほしい。まぁこれ人形だけど」


 あえて最後に人形であると主張しておくことで少しでも殺し易くしておく。気休め程度にしかならないかも知れないが、本当に生きた動物っと言うよりはマシだろう。


「それから動物を殺す際簡単な結界の中に俺と一緒に入ってもらう。効果は外の音が聞こえないと、外からの視線を感じないだけだ。危険性はないから安心して欲しい。それじゃまずは君からやろうか」

「は……はい……」


 女の子は緊張から震えが止まらないが、俺の近くによって、人形の前に立った。

 俺はそのタイミングで結界を張る。外からの視線と声が聞こえなけらば疑似的とは言え自分自身と生徒だけの空間の様に感じるだろう。

 俺はあぐらをかいて座ると、女の子は震えた状態で人形の前でただ立っていた。


「あの……先生。もうやっていいんですか?」

「好きなタイミングでしていいよ。急がせるつもりはない」


 本心からの言葉なので俺はただ女の子を見守る。

 女の子は人形の前でしゃがみ、人形に触れた。


「キャ!ほ、本当に動いてる」

「当然だろ。人形とは言え生きてるんだ。まぁ呼吸をして心臓が動いているだけだから、生きてるとは言い切れないけど」

「それじゃ血もあるんですか?」

「当然ある。切れば血が出るし冷たくなる。根性試しって言ったろ?それに言っておくが別に殺さなくてもいいんだ」

「え?」

「今の段階で殺せる覚悟があるかないか、確認したかっただけ。出来なかったからって何か言うつもりはないよ」


 俺はただ個人の反応を確かめたいだけだ。それ以上もそれ以下もない。

 女の子はそれ以上俺が何も言わないので人形を触れた状態でじっと人形を見る。真剣な表情で、右手に持ったナイフと人形を何度も見比べながら、俺に言った。


「ごめんなさい先生。私、出来そうにありません」

「そうか。それじゃこの結界から出て次の子を呼んでくれ。あ、そうだ」


 殺せなかった事にしょげているような様子だった女のに、俺は言っておく。


「君は何も間違ってない」

「……冒険者を目指してるのに?人形すら殺せないのに??」

「ああ。優しい人の事を悪い奴なんて言う奴居るか?ん?」


 そうちょっとだけおどけた感じで言うと、女の子は頭を下げて結界を出た。


 今回の授業の結果。

 Cクラス内で生き人形を殺せたのは4名。男子3人に女子1人。それ以外は殺せなかった。人形と分かっていても限りなく本物に近い動物を殺す事をためらう生徒の方が多かった。

 全員が終わった後俺は、きちんと言っておく。


「今回の授業ではどこにでもいるような動物の人形を使ったわけだが、これを機に動物や魔物の命を奪うと言う事を学んでほしい。もちろん殺せなかったからと言って冒険者として才能がない訳ではない。やり方は人それぞれ自分に合った戦い方を覚えて欲しい」


 こうしてこのクラスの授業は終わったのである。

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