面接
校長先生の手によってうまい事子供達を味方につけて1週間後、俺は再びヴァロンランドに来ていた。理由は俺がこの国で先生をして良いのかどうかを決めるためである。
あの時の行動によりお城で俺に先生をして良いのかどうか話し合いが行われた。校長先生が言っていたように俺がこの国に居る事で現れる利益と不利益を細かく計算していたらしい。
そして最終的には俺が本当に教師としてやる気はあるのかどうかっと言う話になったと言う。
なので今日は学校ではなく、この国の会議室で行われる。
場所はとんでもないが行ってしまえば面接と何も変わらない。公務員の面接ってこんな感じなのかな?
目の前にこの国の王様を含めて貴族や大臣10人以上の前で質問されるのは。
人によって俺を見る眼は当然違うが、全員毅然とした態度を取っているが、1部若そうな領主と思われる人は緊張している。
「それではタツキ様にお聞きします。自由学園の講師になってどのように子供達を導きたいと思っておりますか」
そう質問を問いかけたのは王様の近くに居る執事の様な爺さん。
面接の練習には校長先生とギルドマスターに頼んでおいたので堂々と言い放つ。
「私は彼らの長所を大きく伸ばすような形で導きたいと考えております」
「その方法はどのように行なおうと考えておりますか」
「まずは組み手をする事から始め、実際にどのような戦い方があっているか確認したいと思います。実戦で経験出来る事を多めに授業で行いたいです」
「実戦とはどのような形で行後予定ですか。実際に魔物を用意するのか、それとも組み手だけで終わらせるのか」
「出来れば魔物を用意したいと思っています。人型の相手ばかりをしていると獣型の魔物と戦い辛いと感じるようになってはいけないと思いますので、ご許可をいただければ魔物と戦わせたいと思います」
俺の言葉を文官のような人がメモをしている。
そして王様や貴族達はまだ質問してこない。それを少し不気味に感じながらもまずは執事の人の質問に答えていく。
校長先生が言うには、ある程度質問する内容を決めているらしく、執事の人が一通り質問してから貴族の人達が質問すると言う形らしい。
「――それでは、各方々からご質問をどうぞ」
ここから貴族達からも質問される事になる。
そして1人の中肉中背の貴族が手を上げてから言う。
「初めましてタツキ様。私はグロークと申します。私の息子が学園に通っており、息子も指導される事を望んでおります」
「ありがとうございます」
「しかし、先程の魔物と戦わせると言うのは一保護者として不安を隠せません。そこいらから魔物を持ってくるだけでも一苦労ですし、息子が無事に済むとは限らない。冒険者になるとして魔物との戦いを想定するのは当然ですが、あなたは安全だと言い切れますか?」
あの教室で察してはいたが、本当に貴族の子供が通っていると理解させられた。
だが平民の子供が冒険者になるのとは違い、貴族の場合塾に通わせる感覚だと校長は言っていた。貴族だからこそっと言う訳ではないが、馬に乗れるようになったり、剣の扱いを出来るように金のある貴族は家庭教師を雇って勉強させるらしい。だが逆に金のない貴族となるとこの学校の様な所で剣の扱いなどを学ばせるのだと言う。
っと言ってもそれはあくまでもこの国の貴族達の話であり、他国では私兵から剣を学ばせたりしていると言う。
だからおそらくこの貴族の息子もそんな塾感覚で学校に行かせているんだろう。この学校、日本と違って総合とか道徳とかないから本当に勉強しかしないからな。テレビで見た外国の学校みたいな感じ。
そして想定内の質問なので俺は用意していた返事を言う。
「もちろん絶対に安全とは言い切れません。相手は魔物であり、襲ってくる相手を容赦しません。ですのでまずは魔物と戦えるか他の先生方と相談し、その上で本人が魔物と戦って経験を積みたいのか確認し、さらに保護者である方々に承認をいただいた者達のみを対象にしたいと思います」
簡単に言えば先生、本人確認、保護者の承諾と言う3段構えでのみ魔物との戦闘を許可しようと考えていた。
この考えに関しては校長先生もギルドマスターもある程度大丈夫だろうと言っていた。
他の貴族達……と言うよりは保護者達と言う方が合っている様な気もするが、ある程度納得して頷いていたりする。
そして同じ貴族が確認する。
「仮に本人に強い意志があった場合でも、保護者が否定した場合はどうしますか」
「その場合はご本人に保護者の方々を説得していただくしかありません。保護者の方が了承しない限り決して実戦訓練は出来ないようにします」
強く言うとその貴族は「以上です」っと言って黙った。
そして次の貴族が手を上げる。
「初めましてタツキ様、私はフォーマと申します。実戦訓練ではどのような魔物を使用するおつもりでしょうか」
「はい。まずは野生の獣から始めようと思っております」
「魔物ではないのですか?」
「まずは何らかの生き物の命を奪うと言う事を教えたいと思っています。心優しい者であれば鈍るでしょうし、肉を切ったり潰すと言う感覚は想像以上に手に残ります。命を奪ったと言う感覚に慣れるまではそれなりに時間がかかると思いますが」
「それは危険では?トラウマになる生徒も現れる可能性が高い様に聞こえますが」
そう念を押すように聞いてくるのではっきりと答える。
「仮に獣の命を奪った事で罪悪感やトラウマになると言うのであればその生徒は2度と実戦訓練に参加させません。冒険者はどちらかと言うと何かを倒して魔物の素材を得る仕事が多い、もちろん採取系だけに特化するとしても魔物に襲われる可能性は否定しきれません。ですので本当に冒険者になると言うのであれば、殺す事をためらわないように教育します」
そう言うと貴族達は俺の言い方に少し気分を害したのか、ムッとした表情を作る。
習い事感覚で通わせている貴族達を非難している様に聞こえてしまっただろうか。でも俺はあくまでも本気で冒険者になろうとしている生徒達限定で行なおうと思っている。
命を奪う仕事に就かないのであればその方が俺は良いと思う。獣だろうが魔物だろうが、命を奪えば命を尊ぶ事を忘れていくのは必然だから。
そう言った後スキンヘッドの貴族っぽくない初老の男性が手を上げた。
「初めまして、タツキ殿。私はヘッドと言う。娘が以前あなたからぬいぐるみをいただいたと聞いている」
この人がアイアンヘッドか。堅物であり今回の話の重要人物。
その身体から出てくる気配は確かに人間の中ではかなり強い方だ。肉体の衰えも感じさせないし、まだまだ戦えそうだ。
「私の娘も学園に通い、身を守る術を学んでいる。そこで君に問おう。力とは何かね」
随分と抽象的な質問してきたな。これは……どう答えるのがいいんだ?
何かを守るために使うとでも言えばいいのか?それとも危険な物だと言うべきなのか?
分からない。こういう時は素直に俺の思ている事を言うしかないか。
少し考えて時間が過ぎた後、俺は言う。
「力とは手段です」
「……手段とはどういう意味かね」
「力はどのように使うかによって大きく見方が変わります。何かを守るために見えれば善、何かを壊している様に見えれば悪。同じ力を振るうとしても状況や見る視点が変わればいくらでもその形を変える物です。ですので力は自分がどうしたいか選択するための手段だと私は考えています」
そう言うとヘッド卿は目を閉じて何かを考えた後に言う。
「そうか。私の質問を手段と答えたのは君が初めてだ」
「そうですか」
「ほとんどの者は武器や魔法と答える者が多かったのでね。手段と答えたのは君が初めてで面白いと思ったよ」
「ありがとうございます」
褒められているのかどうか分からないので力なく答えた。
その後も他の貴族達からの質問に答え、面接は終わった。
あ~。帰ってアセナをモフりたい。