先生に戻るための条件
トキの言葉に衝撃を受けた俺は次の日学校に向かった。
校長先生だけではなくギルドマスターも交えて校長室で話し合いをする。
まずヒカルとカエルはあの後改めて学校に行きたいという話を聞いた。2人共学校に前向きで単に他のクラスの友達と会いたいっと言う気持ちなども含めて復学する気持ちは強い。
トキに関しては……ちょっと時間を置いている。
誰と居たいうんぬんに関しては放っておいてまた学校に行きたいかどうかだけを改めて聞くと、行きたいと言った。ただ俺も先生として一緒に来て欲しいと言われたのでこればっかりは校長先生や国の人達に聞かないと分からない。
とりあえず問題を先送りにして子供達3人と、ヒノ先生とアラドメレク達がまた学校に行けるように相談をする。
それから意外だったのは俺の事を見た先生達と生徒達である。
俺はジャッジとの戦いで怯えられるとばかり思っていたのに、何故か何も変わらない感じで出迎えてくれた。生徒達に関しては俺の様に強くなりたいと言う子達もいる程で正直戸惑っている。
俺の方が悪役じゃないの?キリエス連中の方が正義じゃないの?
そんな風に思いながらも校長先生とギルドマスターと話しを進める。
「それではヒノ先生、アラドメレク先生は4月より復職されると言う事でよろしいでしょうか」
「はい。ご迷惑でなければよろしくお願いします」
「私もいいよ~。子供と遊ぶのって刺激があって面白いし、戻れるなら何でもいいわよ」
校長先生が確認してヒノ先生とアラドメレクは了承した。
これで2人は4月から復職する事が決まった。まずは1つOKと。
これに関してはギルドマスターも特に何もなし。学校側としても実力のある教師は1人でも欲しい状態であり、結局自由学園でも実力主義と言うか、才能ある子供達になめられない様にする必要があるようだ。
そして子供達の復学に関しても滞りなく復学させる準備が進められる事となった。
ただ寮に関しては現在他の子が使っているので前と同じ部屋で寝泊まりするのは難しいそうだ。なので復学したら別の部屋の寮で寝泊まりする事になるだろうとの事。
これに関しては仕方がない事なので子供達には悪いが諦めてもらうしかないだろう。それにあの部屋にあった私物は全て持ち出した訳だし、問題ないはずだ。
そして最後の問題。
トキの我儘である。
「それでトキさんは学校に通うならタツキ先生と一緒が良いと希望したのですね」
「はい。っと言いましても俺がこの学校で教師をするとなると色々な問題が出ると思ったのですが……どうなんでしょう?」
そう思いながらギルドマスターに視線を向ける。
ギルドマスターは腕を組んで考えてから、目を開けて俺に言う。
「出来なくはないが……色々と制約が付くし、根回しも必要だ。この国の国王は当然、大臣や貴族にも根回しをする必要があるだろう」
「逆に言うとそれさえできれば問題ないと?」
ヒノ先生が確かめるように言うとギルドマスターは頷く。
「そうなります。それにこの自由学園の面倒な部分はこの国の貴族の子供も通っていると言う事です。子供がタツキと接する事で何らかの悪影響を与えるかも知れない、っと思われれば反対されるでしょう。現状はそこまで悪い物ではないが」
「え?それって俺の印象とかですよね。悪くないんですか?」
「原因の一端としてキリエス教徒の過激派が絡んでいるからな。あいつらの行動も強引だったし、1部の者は仕方がない物だったと捉えている者もいる。だが純粋にタツキがこの国で暴れた場合どうなるか分からないと言う不安を持つ者も当然存在する」
「それは仕方がないですよ。ジャッジとキリエスの過激派部隊を殲滅させたんですから」
これに関しては仕方がない。
自分より力のある存在が身近に居るのだから恐怖を感じない方がおかしい。それを居ても恐ろしくない存在として印象付けるにはかなりの時間を必要とするだろう。
それだけの事をしでかしたのだから仕方がない。
「それに関しては何も言わないんだな。とにかくタツキへの印象は国の全戦力を集結させても勝てない相手として認識されている。っと言っても以前にソニックドラゴンの危機を迅速に解決してくれたと言う事もあって酷い物ではない。学校に居させることでこの国の敵が来た際に代わりに迎撃してもらおうと考える者も少なくないだろう」
「でもそれって参加して大丈夫なんですか?俺一応大国の王様と同等の権力があるとかこの間聞いたんですけど」
「それがあるから参加は無理だろうな。漁夫の利を狙って他国を攻めると言うのなら別だが、一緒に戦うと言うのは無理だろうな。出来るとすれば魔物限定だろう」
だよね。そりゃ学校の職員として学校を守る事までは出来たとしても、他国の戦争に参加すると言うのは不味いだろう。
この間の国際会議で軍事同盟組むのだけは本当に止めて下さい。と言うか戦争を起こす事も参加する事もしないでっとびくびくしながら言われたもん。そりゃ俺個人も他国の戦争に巻き込まれたくないし、アセナ達の力目当てで近寄ってくる連中は気に入らない。なので軍事介入及び戦争をこちらから仕掛けないと言うルールに同意した。
その代わり襲ってきたら容赦なく滅ぼすと言っておいたけど。
「意外と印象が悪くないって言うのはよかったが、結局俺はこの学校で先生するのは無理って事ですよね」
「それは根回し次第だ。特に頭が固い貴族が1人居てな……そいつは賄賂も受け取らないし、本当に堅物でな……そいつをどうにかしないといけないだろう」
「堅物」
一体どんな人なんだろうと思っているとヒノ先生と校長先生が思い付いた様に言う。
「もしかしてアイアンヘッドですか?」
「恐らくヘッド卿でしょうな……」
誰の事を言っているのか分からないのでギルドマスターに聞く。
「ヘッド卿って誰です?」
「この国の近衛騎士団長をしているヘッドだ。元々は冒険者だったのだが、途中で偶然当時皇太子だった現王を助けてな、国の騎士になった。その後出世し続けて現在近衛騎士団長。騎士の中では最も地位が高い。冒険者から貴族にまでなった本物の英雄だ」
「貴族の地位もある騎士ですか。でも結局は騎士でしょ?」
「だがこの国はあいつに何度も助けられた。あいつの魔法はそう珍しい物ではない、肉体強化とオーラだけだが防御面がずば抜けている。近衛騎士をしている理由もそれだ。いざとなったら王の盾として前に立つ事を躊躇なく出来る男だからな、発言力も強い」
「実績から来る発言力か……そりゃ手ごわい」
「そして先生が言ったアイアンヘッドは冒険者時代の二つ名だ。文字通り頭の固さと魔法による防御がとにかく硬くてな、当時を知る冒険者から未だにアイアンヘッドと言われている。」
頭の固さから来る二つ名って面白いな。それだけ面倒臭い相手なんだろうけど。
「っとなるとその人を納得させないといけないって事ですか」
「そうなる。あいつは元々正義感が強く、どんな時も鋼の壁として立ちふさがってきた男だ。今でもこの国の防衛はあいつに任されているし、盤石の構えでどこからも攻めきれない様にするのがあいつの特技だ。最も硬い男だよ」
色々聞いてみたが……本当に難しそうだな。硬い城壁を崩すには一体どうするべきか……
そう思っているとギルドマスターは悪そうな笑みを浮かべる。
どうやらアイアンヘッドにも弱点があるらしい。
「あいつは結婚後子宝に恵まれなくてな、ようやく子供が出来たのは30を超えてからだ」
元の世界じゃ十分普通だと思いますけど。
「遅く生まれた娘でかなり溺愛している。漬け込むとすればそこだ。確かあいつの娘もここに通っていましたよね」
「はい。ティア・ヘッド、去年入学して今も通っています。彼女は父君と母君の力をどちらも引き継いでおり、魔法防御が得意な生徒です」
校長先生がそう言って細くしてくれる。
防御魔法が得意な子か。どんな子なんだろうと思いながらも俺は言う。
「でも俺が先生になるために生徒を利用すると言うのはちょっと……情けなくありません?」
「情けなくなどない。こういう交渉事には使える物は何でも使う、それが交渉だ。貴様の様に武力を振りかざすだけでは交渉にならん」
それ言われると辛いな~。でも子供使うのも何だかな~。
そう思っていると校長先生が何だか気まずそうに言う。
「それでも1度ティアさんに会ってもらえませんか?大人の事情など関係なく」
「まぁ会うだけならいいですけど、怖がられませんかね」
「ティアさん自身の希望です。なんでもタツキ先生にお礼が言いたいとか」
お礼?子供からお礼を言われる様な事をした覚えなどない。
一体どんな子なんだろう。