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閑話 国際会議

 彼ら、キリエス以外の各国全てがジャッジによって投影されていた映像に釘付けになった。今後の未来を大きく左右する戦いなのだから誰もがその戦いに注目するのは当然の事だ。老若男女問わず家から出て、その戦いの映像を見ながら祈る。

 その祈りはまさに全人類の祈り、キリエスから離れたキリエス温厚派や中立派も自信が信仰する神が直接地上に降り、大罪人と言われる真祖を束ねる存在を倒そうとするのだから期待する。

 キリエス教徒ではない一般人達も神だろうが何だろうが、脅威を排除してくれるのであれば誰だろうと倒してくれるのであればそれで良かった。

 タツキが何も出来ずに斬り刻まれたり風穴が空くたびに彼らは歓声を上げた。もしかしたらもうすぐ人類の脅威がこの世から居なくなるのではないかと期待し続ける。


 この映像では会話までも明確にとらえていた。なのでジャッジが時間を一時停止させているっと言う人類には到底至る事の出来ない様な魔法を使っていると知った時、流石の大罪人もこれには勝てないだろうと誰もがそう思った。

 だが、元々異常なタツキはそんな魔法にもすぐに対応し始めた。

 ジャッジはろくに戦った事がない素人だとタツキが言い始めた辺りから他の者達も不信感を高めていく。

 最初あれだけ優位だったのになぜ今は攻撃がろくに当たらない。あの鎧を着こんだだけで何故攻撃が通らない。

 そんな疑問と不安がジャッジを祈る力が減っていく。

 そしてタツキが言った。


『期待と言う名の信仰も薄れるだろうさ』


 それを聞いたキリエス教徒達は慌てて更に祈りを捧げるが、他の人達は期待に裏切られたと感じ祈る事をやめる。

 これがジャッジの力の低下を呼び、むしろジャッジの方が不利な状況になった。

 更に突然現れた女性がジャッジの時間停止をダメにした事であっさりと負けた。

 人々は大きな絶望感を感じた。特にキリエス教徒達は自身が崇める神がタツキに殺された事により周囲の国民よりも深く絶望した。

 それを見たユウガたち勇者パーティーと前法王は信者達に言葉をかける前にタツキと法王の会話が耳に届いた。


『そうだな。お陰でまだ俺の群であるアセナ達を、封印だ何だって手段で倒そうと考えているバカ共に知らしめることが出来たろ。もしそいつらが攻めて来たら……どうせ人間より数は少ないだろうから、いっその事その種を絶滅させるのもいいかもな』


 まだ、脅威は過ぎ去っていないと誰もが知った。

 これにより1部の国が大恐慌に陥った。これから先も大罪人と真祖に怯え続けないといけない。かと言って誰があの神をも殺す化物に勝てると言うのか!


 大罪人と法王の会話が終わった後に映像は切れた。

 その後人類は即座に全ての国を代表者を集めて会議を行う事になる。


 ――


 それはこの世界初の国際会議であり、大国だけが会議する物とは違い小国や公国など一切関係なく参加した。

 もちろんこれには大国であるドワーフ王や、エルフの女王、ノーマ国王、コン代表フシミとガロウ、そしてセフィロのドンも当然参加した。

 会議場は各国のしがらみがないようにアヴァロン本部の最も広い会議室を使って行われる。元々各国の支部長達を交えた会議の時のために創られた部屋なので、各国の国王が来ても全員が座れるほどの大きさと席数である。

 席順などに関して色々と問題が起きないかどうか懸念されたが、それに対しては円卓だからみな平等であるっと言う事にして、ただ不仲な国同士が隣同士にならない様にしたり、対面するような形にならない様にだけ調整された。


 キリエスと大罪人の戦いから1週間。すでに各国の首脳陣は集まり、会議を開始していた。

 この会議にいない首脳はいない。もちろん今回の原因である法王セイヤも参加していた。


「ではまず、キリエス代表法王セイヤ様からお願いします」


 司会進行はアヴァロン本部ギルドマスター、ゲン・シシゴウが務める。

 法王は立ち上がりあの戦争の後とは思えないほど穏やかな顔で言う。


「まずはこの度の戦争、敗北して申し訳ない。戦死した者達は確かにキリエス教徒ではあったが、各国の国民でもあった。なのでこの場を借りて謝罪する。そしてのちに正式に謝罪の場を設けさせていただきたい」


 かつての傲慢な姿からは想像もできない程に彼は穏やかになっている。文字通りジャッジと言う神と言う憑き物が落ちたからなのか、その表情は好々爺の様に包み込むような慈悲深い表情を見せる。

 まだ1週間前の戦いの傷がいえていないのか、ゆっくりではあるが丁寧に頭を下げ、各国に謝罪した。

 それを見てガロウは言う。


「ふん。貴様のしてきた事、我々獣人は忘れない。本当に謝罪をすると言うのであれば今後二度と獣人を人間の出来損ないなどと一切口にするな。それが出来ぬのであれば我が国は謝罪を受け取らない」


 キリエスの過激派によって虐げられてきた獣人の代表としてそのような事を言った。

 周りの人間の国の代表者たちは、気持ちは理解できるがこの場では口に出すなっと雰囲気を出す。

 しかしこれに乗っかったのがドン・セフィロである。


「そうだな。それは我々人魚族にも言える事。なので後日正式に今後我々を迫害するような事はしないと後日提出してもらおうか」

「承知しました。ではドワーフ族、エルフ族、人魚族、獣人族に送りましょう」


 そう言ってこの場は終わった。

 各国の弱い首脳たちは心の中でホッとする。大国同士の争いに火種が移ってはとても困る。

 だが彼らも弱くても首脳、そう簡単に表情に出す事はない。

 一段落した事を見定めたシシゴウは次に進む。


「では本日の議題についてお話ししましょう。タツキと真祖について」


 その議題が上がった事で各国それぞれの反応を示した。

 反応は大きく分けて5つ。


 1つ目は完全な降伏。今後タツキとその真祖達に降伏し、せめてこちらにあの力が向かない様にしようとするもの。

 正直に言えばこれだけは避けたい。そうなった場合タツキや真祖達が降伏した国で何をしようが何の文句も言えなくなってしまうからだ。


 2つ目は一切かかわらないと言う物。タツキと真祖達は一種の自然災害の様な物であると定義し、ただ適切にその脅威が立ち去る事を待つとするもの。

 これなら完全な降伏よりはマシだが一切の関わりを断つと言う事は相手側からも何の情報も得られず、突然現れて何をしでかすか分からないと言う事に繋がる。

 これはかなり危険なのではないかと思う。


 3つ目は強気に同等の存在として扱う。もちろん同等と言うのは平民などではなく、大国の王と同等の権力を持つと言う事だ。

 その代わりこちらが作ったルール、有体に言えば国際条約を守ってもらうっと言う事にしてあの森の土地の権利を認め、王として扱う。

 ただこれは交渉力が相当重要となる。相手はキリエスと言う最高戦力を潰した相手なのだ。気に入らないと言ってルールに従うつもりはないと言われればそれまでだ。最悪機嫌を損ねて滅ぼしに来るかもしれない。


 4つ目は神として扱う。これはフシミが暴走して言い出したのだが、悪くもないのではないかと言う意見もあった。

 もういっその事タツキと真祖達の事を神として扱い、毎年何か貢ぎ物などをして敵意はない事をアピールし続ける。

 だがタツキと真祖が満足する物は何だっと聞かれると分からないし、仮にいけにえの様な物を要求されても困るので保留となった。


 5つ目は最後の手段として人類全員でタツキと真祖に立ち向かう。大反対が起きたが一応と言う事で出た案だがやる気は全くない。

 キリエスだけではなく大国も小国も人類すべてが総力を挙げてタツキに挑むと言う案である。

 だがこれはジャッジが中継していた映像をみな見ていたのであんなことになってたまるかと全員が猛反対。そんな事をすれば本当に人類が絶滅させられるのではないかと危惧する声が多い。


 他にも細やかな意見は出たが大きく分類するとすればこの5つだ。

 まず反対なのは5つ目と1つ目、立ち向かうと言った所でタツキと真祖を相手にする事など無謀でしかないと言って誰も賛同しない。だからと言って完全に降伏してしまえば何も出来ない。

 2つ目ははっきりと言うと運に頼る部分がとても大きい。触れず騒がずと言うが本人を前にした時本当にそう大人しく出来るだろうか?それに元々国への攻撃が目的であれば逃げる事すら出来ない。

 4つ目はあまりにもタツキと真祖の事を知らないのにそれは早計ではないかと声が上がる。それにあの危険な森に棲んでいる事は判明してるが、どうやって貢物を持ってくればいいと言うのか、好みは何なのかも分からないのだから今すぐと言うのはどうだろうと話す。


 結果的に3つ目がもっとまともな案ではないかと意見が集まる。

 問題はその話にうまく乗るか、そして今タツキに話しかけても問題ないのか、様々な思考が複雑に絡まり方向性は決まったがその次に繋がらない。

 そうしている間にフシミが手を上げる。


「では我々がタツキ様にお伺いして来ましょう。タツキ様は我々獣人に対して好意的であると自負しております。ですので大国である我が国が行いましょう」


 フシミはそう言って直接交渉できる身であり、それ程親しいと言い放つ。

 それに待ったをかけるのがノーマ国王である。


「いえ、直接お声がけするのであれば私が。私なら円滑に話しを進める事が出来ます。まずは誠意として我が国の宝石を山の様に用意して参りましょう」


 静かに大国同士が自分が先に声をかけると言う話で自分達も負けられないと声を上げる。

 失敗すれば国が亡ぶかもしれないあまりにも大きな話だが、何もしなくても滅ぶ可能性の方が高いのであれば一か八かで少しでも良い印象を与える方がいいだろうと他国も声を上げた。

 先程までと打って変わり、自分の方が交渉が上手い、我が国の特産の方が優れているなどと言い争う。


 それを静かにバカらしいと思っているのがエルフの女王である。

 彼女はエルフの上位種、ハイエルフだ。既に1000年以上生きており、普通のエルフよりも長命、さらに魔力量も使える魔法も普通のエルフと比べれば天と地ほどの差があった。

 その長命な寿命により彼女は封印される前のアセナ達の行動を実際に目にし、その恐怖を肌で感じている。


 真祖の侵略とはまさに悪夢。この世の終わりその物を言う。

 ただの自然災害であれば諦めも付く、魔法ではどうする事も出来ないエルフの先祖であると言う大地母神の意思であればどうしようもない。

 だがあれは意思があり、肉体がある。意思があるのであればそれは自然災害ではない。ただの悪意である。

 特にカラスの真祖が自分達の棲み処であった世界樹に勝手に住み着き、エルフ達を追い出した事件の事は昨日の事のように思い出す。

 突然現れたカラスの真祖とその群れがハイエルフを殺し、追い出した恨みは今も消えない。その時に死んだ姉妹達や娘たちの死を思い出すだけで今すぐにでも殺したくて仕方がない。


 それがエルフの女王が実際に感じた経験談だ。

 そんな真祖達に我が身可愛さからくる弱い人間に冷ややかに視線を向ける。


 そして話がまとまらなくなっていると、シシゴウが手を叩いた。


「では、明日そのタツキをお呼びしましょう。その時みなでタツキを説得するっと言う事でどうでしょう」


 そうシシゴウが言うと「本当にできるか?」っと言う当然の疑問が出る。

 シシゴウは自信を持って言う。


「私ではありませんが私の知り合いにタツキと知り合いが居ます。その者に連絡を取り、明日この地に来るよう説得しましょう」

「ちなみにその知り合いとは?」

「申し訳ありませんが、それはこちらの極秘事項とさせていただきます。タツキと交渉できる者はこの状況でとても価値のある者ですから」


 こうしてシシゴウがその知り合いに連絡し、そしてすぐに連絡は帰ってきた。


「明日の午後1時からなら、タツキは参られるようです」


 こうして明日、世界の王達とタツキが出会う。

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